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第二章 戦
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「サンスケさんて、誰?」
甘味が入って、その糖分でようやく頭がまともに回り始めた青木さんが当然の質問をして来た。
というか、当人に実際に会った玉も忘れているっぽいんだけど。
だって口元は微笑んでいるけど、あからさまに僕の視線を逸らしたから。
「妹が来ていた時に、しずさんの依頼で房総の、とある廃道というか廃峠に行った事がある。その時に、巻き込まれた祠から助け出した人達がいるんだ。その人達は祠に捕り込まれた時代も場所もバラバラで、戻すには大変だなぁと思っていたら、新しく村を立ち上げようと、指揮を取ってくれたのがサンスケさんなんだ。」
「あぁ、私が仲間はずれにされたって駄々捏ねた時の。」
「あぁ、お素麺を作った時の。」
一応、しずさんがしばらく会わせる顔が無いって、僕らの前から隠れていたほど危険な案件だった筈なのに、なんだろう、この2人の気の抜けた返事は。
「つまり、いつもの貴方の面倒くさいが出たと。」
失礼な。
あちらさんはみんな混乱していたし、直前まで闇堕ちしてたんだ。
大体、今みたいに誰もが暦と住所を認識しているわけじゃ無いんだ。
正確な場所と時間がわからないならば、送っていきようがないじゃないか。
「無理なの?」
「無理だな。」
僕は言葉と話題を少し改めた。
「祠には僕が知る限り2種類ある。その場に定着し続けるタイプと、時間と空間を自由に移動するタイプだ。」
ホットミルクは、これはこれで美味しいな。お茶やコーヒーはカフェインが含まれるから、夜飲むなら、これからミルクで良いかな。でも太るかな。
「定着型は玉が閉じ籠められていたタイプだ。玉の家と祠が直ぐ近くだった事からもわかる。僕が板橋から、全く土地勘のなかった市川に何故か越して来た理由は多分これ。玉を助ける為に、誰かに呼ばれたんだろうけどね。」
その誰かは、浅葱の国麻呂さんか、荼枳尼天か。或いは、僕の無意識自身か。
「移動型が青木さんが閉じ籠められていたタイプだ。北春日部を歩いていたら捕まって、4年後の松戸で救い出されただろ。」
「うん。」
「サンスケさん達は、典型的な移動タイプの祠に囚われた人達だ。祠の正体は僕にもわからない。あの時だって、たまたま僕が居て玉が居たから、囚われた人を助ける事が出来た。
「だけど、それが正しい選択だったのか、僕にはわからない。だって助けられた人は、その後を幸せに生きられたのか、最後まで故郷を想い続けてい悩み続けていたのか、僕には判断つかないからね。
「玉を助けた事も、はっきり言って成り行きだった。青木さん、君の時もそうだ。言い方はあれだけど、僕は君ら2人を背負うだけで精一杯なんだ。あ、しずさんを含めると3人か。だから、サンスケさん達まで面倒見切れないって言うのが、正直なとこだよ。」
「少し正直過ぎるわね。」
「それも殿なのです。」
「玉ちゃん。あまり甘やかしたら良くないと思うの。」
「玉は殿の御付きの者なので、殿のする事なら全肯定します。」
「玉ちゃん、それは男を駄目にするわ。」
「そっちは佳奈さんにお任せします。玉は殿をたっぷり甘やかしますから。」
「君達は何の話をしているんだ?」
お店の人に聞かれたら、恥ずかしいじゃないか。
「で、それがさっきの雲の中での話なの?私には何が何だかさっぱりわからなかったけど。」
「玉もです。さっきの何だったのですか。」
「そのまんまだよ。サンスケさんは妻子と離れ離れになって祠に巻き込まれた。別にサンスケさんだけを特別扱いするわけではないけど、たまたまそれが、伊弉諾・伊奘冉の願いと重なる事件が起こるんだろう。正確に言えば、既に起きて1,000年くらい経過している。ただ、助けると、どうやら何かに繋がるらしい。」
「何かって?」
「わからない。というか、僕はいつだってわからないよ。毎回ただ流されて、刹那的に対応するだけだ。」
「玉はそんな殿のお手伝いをするだけです。」
「……強いなぁ玉ちゃは………。…………。うん、決めた!」
青木さんがまた厄介な事を言い出しそうな、何か嫌な予感がするから、あんみつのおかわりをし
「なくて良いです。その神様の依頼。私も最後まで付き添います。」
あぁやっぱり。
正直、玉だって連れて行く気ないのになぁ。
あと、人の思考に被せて話をするな。
「さぁ!早速行きましょう。」
「行かないよ。」
「なんでよ。」
立ち上がりかけた青木さんが、思わず崩れ落ちた。
相変わらずオーバーアクションが楽しい人だ。
「正解な年代も場所もわかんないもん。棒坂の時だって、ネットから、手に入る郷土史から何から、調べて調べて、それでも全然わからなくて、たまたま手掛かりを見つけたからたどり着いたんだよ。それに、僕も玉にも準備がいる。この時も何の準備もなく、現地にロケハンのつもりで行ったらいきなり本番が始まったんだ。」
僕では触れない玉を、無力で非力な妹がずっと支えて峠を登って行った事を、実はずっと後悔している。
雨上がりで足元が悪かったあの時、なんかの拍子には誰かが転んだら、大怪我に繋がっただろう。
「何が起こるかわからない事に対処しに行く訳ですから、当然念入りな調査と準備が必要になります。だいたい、僕や玉と違って、青木さんはただの青木さんなんだから、本当に付いてくるなら相応の準備が必要になります。」
「(佳奈さん、これ殿、怒ってますよ。妹さんの時と同じです。)」
「(わかってる、そう言う人だもん。ここは任せて)」
何か2人でコソコソ話し出した。
女性陣に纏まられると、僕に勝ち目が無くなるじゃないか。
「実は私、武道を少々嗜んでおります。」
「あれ?陸上じゃなかったの?」
「陸上は中学の時に、アキレス腱を切ってから、無理は出来なくなりました。」
また重い話を簡単に言っちゃう人だね。
だから、時々ちょっと足を引きずり気味なのか。
「高校時代にね。貴方に助けられてから、私にもなんか出来ること無いかなって思って。」
それで普通武道を始める?
女の子が?
「………因みに何を始めたの?」
マーシャルアーツとか、グレイシー柔術とか言い出さないだろうな。
「弓道と薙刀を。」
斜め上過ぎる回答を貰いました。
部活にしても、町道場にしても、そんじょそこらに教えてくれる場所ないだろう。その競技。
しかも2種目、遠距離と中近距離ですと?
「なお、弓道は弐段です。」
相変わらず、斜め上に有能な人だ。
★ ★ ★
とりあえず、この話は終わり。
過去に起こった事件だし、後は僕が跳ぶ時間を調整すれば、いくらでも後出しジャンケンが出来るから。
ならば、せっかくレジャーに来たのだから、ちゃんと遊ぼう。
という訳で、焼きとうもろこしを齧ったり、味噌蒟蒻を頬張ったり(食べてばかりだな)しながらお土産を物色し、エッチなキーホルダーに(嫁入り前の娘さん2人が)ゲラゲラ笑い、展望台から冬晴れの関東平野を見下ろして、霞ヶ浦や巨大な大仏や、この山と違って、すっかり雪を被った富士山を心行くまで堪能した。
特に玉にとっては、市川の台地よりもはるかに高い所から望む下界の景色が、本当に新鮮なのだろう。
ロープウェイの中と同じく、声をかけるまで、いつまでも展望台から離れようとしなかった。
「…お母さんと、また来たいな…」
ポツンと漏らした独り言は、いずれ叶えてあげないとならないんだろうなぁ。
あと、僕の手も離してくれなかった。
……しずさんとこでは、毎朝触っているのに。(誤解ので無いように言っておくと、手をだよ)
帰りはケーブルカーで下山した。
「歩かなくて良い登山、サイコー!」
…貴女、毎日駅までちゃんと歩いて通勤しているよね?
★ ★ ★
で、だ。
ロケハンとして龍ヶ崎に寄ってもらう事にした。
龍ヶ崎がサンスケさんの故郷だった事は覚えていたから。
一応、今の龍ヶ崎の街並みや地形を知っておいた方が良いからね。
少し遠回りになるけど、帰り道だし。
巨大大仏の足元を抜けて、女性陣がカイジューだカイジューと叫んだり。
罰当たりな。
ナビがそろそろ龍ヶ崎の市街地を告げた頃、詳しい行き先を教えていなかったので、青木さんが信号待ちの合間に振り返った。
「どこ行くの?」
「あぁそうだね。この先、坂を降りたら左に曲がってくれれば、◯ックオフと◯コイチがあるな。とりあえずそこで休憩しよう。」
「あ、古本屋さんですね。」
「玉の好きなカレー屋もあるぞ。」
「さすがは殿!玉の一番大切な方です。」
「はいはい。」
「むうむう。」
こんなやりとりも何時もの事。
車を駐車場に停めた青木さんが、大きく伸びをしている。
ずっと下道だったし、疲れるよね。
ご苦労様。
あと活字中毒患者の玉は、僕らを放っていち早く店内に飛び込んで行った事を付け加えておこう。
書店規模としては小さめなので、玉も根を張る事なく、数冊の歴史本と料理と園芸のムック本を抱えて、さっさとレジに並んでいる。
僕は、スマホのメモアプリから、しずさんに頼まれているマンガ本と、◯さまと◯でしょうで、平安女性にもわかりやすそうな回のDVDを選ぶ。
そんな僕らを見て、呆れたのか青木さんが声をかけて来た。
「貴方達、なんなのかしらね。」
「しずさんを連れて、たまにあちこちに買いに来るんだよ。だってしずさんはいつも1人だし、その暇つぶしにね。あと、新刊を買うと親娘で叱られる。」
「…お母さんって、どんな娯楽が好きなの?」
「現代文化や常識の知識が乏しいから、わかりやすいものだな。だから、ドリフやコミックを楽しんでる。こう言ったもので、学習しているんだよ。」
「…後で行って、聞いてみよっと。私の方が外をウロウロしてるから、引きこもり気味の貴方達より色々見つかるでしょ。」
「玉達は引きこもりですか?」
「やたら活動的な引きこもりもいたもんですな。あちこち行って畑を耕して。」
「毎日汗かいて温泉に入りますしね。」
納得したら、人一倍優しくなるOLさんもいたもんだ。さすがにこの店にはもうないけど、新刊書店やレコード店(?)CDショップ(?)どれもそぐわないな、をちゃっちゃと検索し始めていた。
さて、本を買ったら次はカレーだ。
「わあわぁわあわあ。」
CoCo◯のトッピングの多さに頭がおかしくなった玉は、青木さんに任せてっと。
野菜チーズカレー、量と辛さ普通という、自分的定番を適当に食べながら、僕はスマホの地形図アプリを立ち上げていた。
ふみ。
この街は北が台地、南が低地という、市川によく似た地形をしている。
台地上にかつてこの地を治めていた地頭の古城があり、低地には古い寺社が並ぶ、おそらくかつては宿場町であろう通りが東西に走り、その数百メートル以外は東も南も全部田んぼだ。
南の果てにまた台地が広がっているけど、それまでずっと田んぼ。果てしなく田んぼ。
ならば舞台となるべきは、その宿場町か古城のどちらかだろう。
調べて見ると、江戸時代に今の水戸街道がずっと西の牛久沼沿いに開通するまでは、古代東海道はこの地を通っていた事がわかった。
更にここの当時の地頭が、源義経の姻戚だった事も。
なるほど。なんとなくわかって来たぞ。
「殿!納豆かつかれぇが美味しいです。」
「私は納豆もカツもカレーも好きだけど、この組み合わせはないなぁ。」
………玉は結局、定番?に落ち着いたのかなぁ?
ご飯500グラムって聞こえたけど、聞こえませんからね。
その後、昭和の香りを残すしもたやだらけの宿場町だった商店街を車で走り抜け、建物がすっかり減った田んぼと台地のまさに境目。
目の前を走る非電化単線のローカル線を昔走っていたという、小型の蒸気機関車が静態保存される博物館に到着。
博物館マニアの玉が展示物に齧りつく中、僕は外でのんびりと缶コーヒーを飲むのだった。
さて、今夜からどうしよう。
甘味が入って、その糖分でようやく頭がまともに回り始めた青木さんが当然の質問をして来た。
というか、当人に実際に会った玉も忘れているっぽいんだけど。
だって口元は微笑んでいるけど、あからさまに僕の視線を逸らしたから。
「妹が来ていた時に、しずさんの依頼で房総の、とある廃道というか廃峠に行った事がある。その時に、巻き込まれた祠から助け出した人達がいるんだ。その人達は祠に捕り込まれた時代も場所もバラバラで、戻すには大変だなぁと思っていたら、新しく村を立ち上げようと、指揮を取ってくれたのがサンスケさんなんだ。」
「あぁ、私が仲間はずれにされたって駄々捏ねた時の。」
「あぁ、お素麺を作った時の。」
一応、しずさんがしばらく会わせる顔が無いって、僕らの前から隠れていたほど危険な案件だった筈なのに、なんだろう、この2人の気の抜けた返事は。
「つまり、いつもの貴方の面倒くさいが出たと。」
失礼な。
あちらさんはみんな混乱していたし、直前まで闇堕ちしてたんだ。
大体、今みたいに誰もが暦と住所を認識しているわけじゃ無いんだ。
正確な場所と時間がわからないならば、送っていきようがないじゃないか。
「無理なの?」
「無理だな。」
僕は言葉と話題を少し改めた。
「祠には僕が知る限り2種類ある。その場に定着し続けるタイプと、時間と空間を自由に移動するタイプだ。」
ホットミルクは、これはこれで美味しいな。お茶やコーヒーはカフェインが含まれるから、夜飲むなら、これからミルクで良いかな。でも太るかな。
「定着型は玉が閉じ籠められていたタイプだ。玉の家と祠が直ぐ近くだった事からもわかる。僕が板橋から、全く土地勘のなかった市川に何故か越して来た理由は多分これ。玉を助ける為に、誰かに呼ばれたんだろうけどね。」
その誰かは、浅葱の国麻呂さんか、荼枳尼天か。或いは、僕の無意識自身か。
「移動型が青木さんが閉じ籠められていたタイプだ。北春日部を歩いていたら捕まって、4年後の松戸で救い出されただろ。」
「うん。」
「サンスケさん達は、典型的な移動タイプの祠に囚われた人達だ。祠の正体は僕にもわからない。あの時だって、たまたま僕が居て玉が居たから、囚われた人を助ける事が出来た。
「だけど、それが正しい選択だったのか、僕にはわからない。だって助けられた人は、その後を幸せに生きられたのか、最後まで故郷を想い続けてい悩み続けていたのか、僕には判断つかないからね。
「玉を助けた事も、はっきり言って成り行きだった。青木さん、君の時もそうだ。言い方はあれだけど、僕は君ら2人を背負うだけで精一杯なんだ。あ、しずさんを含めると3人か。だから、サンスケさん達まで面倒見切れないって言うのが、正直なとこだよ。」
「少し正直過ぎるわね。」
「それも殿なのです。」
「玉ちゃん。あまり甘やかしたら良くないと思うの。」
「玉は殿の御付きの者なので、殿のする事なら全肯定します。」
「玉ちゃん、それは男を駄目にするわ。」
「そっちは佳奈さんにお任せします。玉は殿をたっぷり甘やかしますから。」
「君達は何の話をしているんだ?」
お店の人に聞かれたら、恥ずかしいじゃないか。
「で、それがさっきの雲の中での話なの?私には何が何だかさっぱりわからなかったけど。」
「玉もです。さっきの何だったのですか。」
「そのまんまだよ。サンスケさんは妻子と離れ離れになって祠に巻き込まれた。別にサンスケさんだけを特別扱いするわけではないけど、たまたまそれが、伊弉諾・伊奘冉の願いと重なる事件が起こるんだろう。正確に言えば、既に起きて1,000年くらい経過している。ただ、助けると、どうやら何かに繋がるらしい。」
「何かって?」
「わからない。というか、僕はいつだってわからないよ。毎回ただ流されて、刹那的に対応するだけだ。」
「玉はそんな殿のお手伝いをするだけです。」
「……強いなぁ玉ちゃは………。…………。うん、決めた!」
青木さんがまた厄介な事を言い出しそうな、何か嫌な予感がするから、あんみつのおかわりをし
「なくて良いです。その神様の依頼。私も最後まで付き添います。」
あぁやっぱり。
正直、玉だって連れて行く気ないのになぁ。
あと、人の思考に被せて話をするな。
「さぁ!早速行きましょう。」
「行かないよ。」
「なんでよ。」
立ち上がりかけた青木さんが、思わず崩れ落ちた。
相変わらずオーバーアクションが楽しい人だ。
「正解な年代も場所もわかんないもん。棒坂の時だって、ネットから、手に入る郷土史から何から、調べて調べて、それでも全然わからなくて、たまたま手掛かりを見つけたからたどり着いたんだよ。それに、僕も玉にも準備がいる。この時も何の準備もなく、現地にロケハンのつもりで行ったらいきなり本番が始まったんだ。」
僕では触れない玉を、無力で非力な妹がずっと支えて峠を登って行った事を、実はずっと後悔している。
雨上がりで足元が悪かったあの時、なんかの拍子には誰かが転んだら、大怪我に繋がっただろう。
「何が起こるかわからない事に対処しに行く訳ですから、当然念入りな調査と準備が必要になります。だいたい、僕や玉と違って、青木さんはただの青木さんなんだから、本当に付いてくるなら相応の準備が必要になります。」
「(佳奈さん、これ殿、怒ってますよ。妹さんの時と同じです。)」
「(わかってる、そう言う人だもん。ここは任せて)」
何か2人でコソコソ話し出した。
女性陣に纏まられると、僕に勝ち目が無くなるじゃないか。
「実は私、武道を少々嗜んでおります。」
「あれ?陸上じゃなかったの?」
「陸上は中学の時に、アキレス腱を切ってから、無理は出来なくなりました。」
また重い話を簡単に言っちゃう人だね。
だから、時々ちょっと足を引きずり気味なのか。
「高校時代にね。貴方に助けられてから、私にもなんか出来ること無いかなって思って。」
それで普通武道を始める?
女の子が?
「………因みに何を始めたの?」
マーシャルアーツとか、グレイシー柔術とか言い出さないだろうな。
「弓道と薙刀を。」
斜め上過ぎる回答を貰いました。
部活にしても、町道場にしても、そんじょそこらに教えてくれる場所ないだろう。その競技。
しかも2種目、遠距離と中近距離ですと?
「なお、弓道は弐段です。」
相変わらず、斜め上に有能な人だ。
★ ★ ★
とりあえず、この話は終わり。
過去に起こった事件だし、後は僕が跳ぶ時間を調整すれば、いくらでも後出しジャンケンが出来るから。
ならば、せっかくレジャーに来たのだから、ちゃんと遊ぼう。
という訳で、焼きとうもろこしを齧ったり、味噌蒟蒻を頬張ったり(食べてばかりだな)しながらお土産を物色し、エッチなキーホルダーに(嫁入り前の娘さん2人が)ゲラゲラ笑い、展望台から冬晴れの関東平野を見下ろして、霞ヶ浦や巨大な大仏や、この山と違って、すっかり雪を被った富士山を心行くまで堪能した。
特に玉にとっては、市川の台地よりもはるかに高い所から望む下界の景色が、本当に新鮮なのだろう。
ロープウェイの中と同じく、声をかけるまで、いつまでも展望台から離れようとしなかった。
「…お母さんと、また来たいな…」
ポツンと漏らした独り言は、いずれ叶えてあげないとならないんだろうなぁ。
あと、僕の手も離してくれなかった。
……しずさんとこでは、毎朝触っているのに。(誤解ので無いように言っておくと、手をだよ)
帰りはケーブルカーで下山した。
「歩かなくて良い登山、サイコー!」
…貴女、毎日駅までちゃんと歩いて通勤しているよね?
★ ★ ★
で、だ。
ロケハンとして龍ヶ崎に寄ってもらう事にした。
龍ヶ崎がサンスケさんの故郷だった事は覚えていたから。
一応、今の龍ヶ崎の街並みや地形を知っておいた方が良いからね。
少し遠回りになるけど、帰り道だし。
巨大大仏の足元を抜けて、女性陣がカイジューだカイジューと叫んだり。
罰当たりな。
ナビがそろそろ龍ヶ崎の市街地を告げた頃、詳しい行き先を教えていなかったので、青木さんが信号待ちの合間に振り返った。
「どこ行くの?」
「あぁそうだね。この先、坂を降りたら左に曲がってくれれば、◯ックオフと◯コイチがあるな。とりあえずそこで休憩しよう。」
「あ、古本屋さんですね。」
「玉の好きなカレー屋もあるぞ。」
「さすがは殿!玉の一番大切な方です。」
「はいはい。」
「むうむう。」
こんなやりとりも何時もの事。
車を駐車場に停めた青木さんが、大きく伸びをしている。
ずっと下道だったし、疲れるよね。
ご苦労様。
あと活字中毒患者の玉は、僕らを放っていち早く店内に飛び込んで行った事を付け加えておこう。
書店規模としては小さめなので、玉も根を張る事なく、数冊の歴史本と料理と園芸のムック本を抱えて、さっさとレジに並んでいる。
僕は、スマホのメモアプリから、しずさんに頼まれているマンガ本と、◯さまと◯でしょうで、平安女性にもわかりやすそうな回のDVDを選ぶ。
そんな僕らを見て、呆れたのか青木さんが声をかけて来た。
「貴方達、なんなのかしらね。」
「しずさんを連れて、たまにあちこちに買いに来るんだよ。だってしずさんはいつも1人だし、その暇つぶしにね。あと、新刊を買うと親娘で叱られる。」
「…お母さんって、どんな娯楽が好きなの?」
「現代文化や常識の知識が乏しいから、わかりやすいものだな。だから、ドリフやコミックを楽しんでる。こう言ったもので、学習しているんだよ。」
「…後で行って、聞いてみよっと。私の方が外をウロウロしてるから、引きこもり気味の貴方達より色々見つかるでしょ。」
「玉達は引きこもりですか?」
「やたら活動的な引きこもりもいたもんですな。あちこち行って畑を耕して。」
「毎日汗かいて温泉に入りますしね。」
納得したら、人一倍優しくなるOLさんもいたもんだ。さすがにこの店にはもうないけど、新刊書店やレコード店(?)CDショップ(?)どれもそぐわないな、をちゃっちゃと検索し始めていた。
さて、本を買ったら次はカレーだ。
「わあわぁわあわあ。」
CoCo◯のトッピングの多さに頭がおかしくなった玉は、青木さんに任せてっと。
野菜チーズカレー、量と辛さ普通という、自分的定番を適当に食べながら、僕はスマホの地形図アプリを立ち上げていた。
ふみ。
この街は北が台地、南が低地という、市川によく似た地形をしている。
台地上にかつてこの地を治めていた地頭の古城があり、低地には古い寺社が並ぶ、おそらくかつては宿場町であろう通りが東西に走り、その数百メートル以外は東も南も全部田んぼだ。
南の果てにまた台地が広がっているけど、それまでずっと田んぼ。果てしなく田んぼ。
ならば舞台となるべきは、その宿場町か古城のどちらかだろう。
調べて見ると、江戸時代に今の水戸街道がずっと西の牛久沼沿いに開通するまでは、古代東海道はこの地を通っていた事がわかった。
更にここの当時の地頭が、源義経の姻戚だった事も。
なるほど。なんとなくわかって来たぞ。
「殿!納豆かつかれぇが美味しいです。」
「私は納豆もカツもカレーも好きだけど、この組み合わせはないなぁ。」
………玉は結局、定番?に落ち着いたのかなぁ?
ご飯500グラムって聞こえたけど、聞こえませんからね。
その後、昭和の香りを残すしもたやだらけの宿場町だった商店街を車で走り抜け、建物がすっかり減った田んぼと台地のまさに境目。
目の前を走る非電化単線のローカル線を昔走っていたという、小型の蒸気機関車が静態保存される博物館に到着。
博物館マニアの玉が展示物に齧りつく中、僕は外でのんびりと缶コーヒーを飲むのだった。
さて、今夜からどうしよう。
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