ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

家畜

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何だか知らないうちに食料品を山盛りに買い過ぎたせいで、

「殿。えこばっくが足りません。」

玉から運び切れないと、悪びれることなく要求がありました。
僕がよそ見して考え事してると、うちの女性陣は暴走を始める事が段々わかってきたんです。

「ちょっと待ってなさい。」
サッカー台に3人を置いたまま、一度外に出て、玉達との直線距離を意識しながら、ひと気の無い所まで歩いてレジ袋とエコバッグをぽいぽい出した。
売り場も駐車場も広すぎるので。
菊地家名物、超常能力の無駄遣いだ。

にしても、どれだけ買ったんだ?
そういえば何にも見ずに考えずクレカで精算したし、レシートはポケットに丸めて押し込んだままだ。
まぁ良いか。

「殿。いくないですよ。」

お前が言うな。
ていうか、僕の真似ですか?それ。

「…なんだか急に、玉からの当たりが強くなった気がするなぁ。」
「だから言ったでしょ。玉ちゃんは変わったって。」
「殿の家族として、言うべき事は言う事と決めたんです。」
「あらあらまぁまぁ。これから大変ねぇ婿殿。」
あらあらまぁまぁ、どうしよう。

★  ★  ★ 

さて、思いついた物は全部買い揃えたので、帰宅。
そのまま浅葱の水晶にみんなで潜る。
聖域は聖域で統一しているけど、こっちは毎回呼び方がバラバラだなぁ。
その内まとめよう。

僕まで潜ったのは、大量に購入した衣類や家具や種子類が僕を通さないと搬入出来ないから。

「はい、ぽん子とちび、退いて退いて、危ないよ。」
「わふ?」
「わん?」

いち早く僕に飛び付いてくる2匹を玉と青木さんに預けて、どさどさと芝生の上に取り出してました。
(他の仔は寝てる時間)

というか、ちびは最初に飼主の青木さんの方に先ず行きなさいよ。
『お姉ちゃんと一緒が良い』
……そうですか。

どさどさ。
どかどか。

はい、そこの2匹、白眼剥かないの。
僕のやる事には、もう慣れたでしょ。

引き出し付きの衣装ケース(ちゃんとした箪笥を買おうとして親娘に叱られた)を中心に、山となった商品は3人に預けて、僕は直ぐ部屋に戻ります。

配送を頼んだ荷物を受け取らなきゃならない(正月だから直ぐ来るって連絡があった。普通人手不足だから逆じゃない?)のと、石工宗次郎さんに連絡をしないとならないので。

タンパク質タンパク質、牛牛(うしうし)、乳乳(ちちちち)って、あれこれ考えてたら、一つ思い出したんだよね。
前に宗次郎さんに頼まれた近々の解決事。

宗次郎さんが飼っていた牛が妊娠したんだって。
元々は畜産もしていた農家だったけど、自身や家族の加齢、跡取りの不在と共に規模を縮小して、今じゃ残った高齢のつがいを耕やすのを辞めた元畑で、殆ど放し飼いにしてるだけなんだけど、歳を考えれば子供なんか出来る筈ないのが出来ちゃったって。

………なんかさ、僕の“無意識の仕業“の気がするんだよね。
子牛が欲しいとか、どこかで思っていたのかな。
玉がヤギを飼いたいって、言ってたしなぁ。 

今更子牛が産まれても面倒見切れないし、殆ど廃牛の仔だから、売れない(売れる伝はどこも廃業している)って事で相談は受けてた。

でもそれは、あのキャンプした時だし、あちらも愚痴半分だったから、こちらも割と話半分で頷いていたのだけど。

『浅葱の力を持つ者は、無理難題を大抵何とか出来る』

と言う、浅葱を知っている浅葱一族の出鱈目さを共通認識として有るので、僕が引き取っても驚きもしないだろう。
石工さん本家のとこも、相当無意味な力の無駄遣いしてたみたいだし。
では電話(あっ交通事故駄洒落だ)。


『若!それは助かります。…因みにどうなさるんですか?』
「勿論、飼いますよ。」
『……えっと、何処で?』
「浅葱のインチキ空間で。大丈夫。可愛がりますよ。」
『若のやる事に間違いは無いんでしょうけど、相変わらず浅葱のする事は理解不能ですな』
だよねえ。
僕も自分で何を言っているかわからないもん。

まだ出産は先(牛の妊娠期間は大体9ヶ月)だけど、あぁまぁ、ぶっちゃけ出産時に今すぐに行っても良いので。
あれ?浅葱の力って未来行けたかな?
まぁ良いや。
よしよし。牛の手配は出来た。
…浅葱の力が関わっているなら雌牛だろうなぁ。多分。
牛乳が飲める様になるだろう。多分。

★  ★  ★

「只今戻りました。」
青木さんの手を取って、玉が帰って来た時は、ラグやら姿見やら、少し大きめの配送荷物を整理していた最中。
「凄いね。さっきと同じくらい山じゃん。」

いつも通りというか、ダンボールの上に顕現して、ひっくり返った青木さんが、頭に暖簾を引っ掛けたまま起き上がる。
「湯」って書いてある、どちらかというとジョークグッズの類いだけど、まぁ温泉の外観は家畜小屋のままだったし。
…誰が買ったんだろ。面白いけど。

あと、自分の間抜けな姿に全く動じなくなった青木さん、強くなったね。

「菊地さんの前で恥ずかしい姿を晒す事は、慣れました。スカートを履いてなければ良いかと思いました。私の事だから捲れ上がるだけならまだしも、脱げそうだし。考えてみたら、玉ちゃん達との初対面からこうでしたし。」
「わぁごめんなさい佳奈さん!」
「玉ちゃん大丈夫。玉ちゃんの前でも恥ずかしい姿でいるの、すっかり慣れました。」
「あぁと、えぇと。若い独身女性が、慣れましたで済ませていいのかな?」
お父さんに君を、一応頼まれているんだよ。僕は。
「貴方達に着いていくと決めたので、怪我をしなければ私の勝ちです。」

あれれ?開き直っちゃったのかな?
「玉、転移の時は、もっとイメージを強烈に持ちなさい。何かをよすがにするのもいいかな。」

“よすが“も漢字に変換したら縁だな。

「そうですね。これからは和室にしましょう。こっちの方が、家具が少ないですね。」
「あのね、私にはベッドの端っこに現れて、そのまま床に転げ落っこちる未来が見えるの。何でかな?」
この人が予想した未来は多分正しいんだろうなぁ。
僕も対策立てた方がいいか。

んじゃ、この荷物を届けに、僕はもう一回行くけど?君達はどうする?

「玉は晩御飯の準備をしますね。そろそろ4時になります。」
「私は帰ります。明日から仕事だし。」
「あれ?ご飯は食べて行かないんですか?」
「後で呼んで玉ちゃん。ちょっと仕事あるから。」

正月休みだろ。取引先だって同じでしょうに。
「5日から出勤かぁ。今更ながら会社員は大変だなぁ。」
「です。」
青木さんは首をぶんぶん振り回して肯定だか否定だかする。
「でも、かと言って菊地さんは楽だなぁとか言えないのよねぇ。」
「後でお茶を持って行きますね。」
「玉ちゃん。ありがと。」

★  ★  ★

『また?』
『また?』

はい。ぽん子とちびが迎えてくれました。
「はい、退いて退いて。」
『はぁい』
『はぁい』
素直に僕の後ろに隠れてくれます。

どさどさ。
どかどか。

さてと。
先ずは一番下に敷くラグを担いで。
女性の一人暮らしだから、家の外で声をかける。
「しずさん?追加をお持ちしました。」
「あら、婿殿。あら、婿殿だけですか?」
……しずさん、着ている服が、普段見覚えのある、ピンクラインのスエット上下なんですけど。青木さんは◯まむらを愛用しているのかな?
「玉は晩御飯の支度に、青木さんは明日からの出社の準備してますよ。」

家の中は、最初は黒ずんだ漆塗りの板の間だけだったけど、今は畳敷の10畳間になっている。
新しい畳の匂いが良いなぁ。
あれれ、納戸から新しい布団がはみ出しているぞ。

「お恥ずかしいです。まだ片付いて無いんですよ。」
「僕も極力荷物は減らしているんです。今の部屋はもう、玉の荷物の方が多いし、彼女は細かく掃除して、整理整頓してくれますけど、それでもしばらくかかりましたよ。」
この家に(帰って)来たのは昨日だし、
大量の家具や荷物を運び込んだのは、さっきだ。

ラグと言っても3畳敷なので、部屋のど真ん中に敷いた。
起毛タイプなので、直接座るだけで肌触りが気持ちいい。
絨毯じゃないから安かったよ。

ラグの上に、普段玉が使っているのと同じ座椅子を浅葱の力で出して。
こちらにはガラステーブルじゃなくて、ちゃぶ台を買っておいた。
片せば部屋を広く使える様にね。

その他、今日買った物は適当に入り口付近にまとめてと、僕はちょっと外に。

玉のお母さんとは、ここ2~3日ですっかり遠慮の要らない親しさを僕も感じているけど、あくまでも女性だから、男の僕が居る必要はないから。
力仕事があるなら呼ぶだろうし。

さてさて。
タンパク質第二弾。
生簀を作ろうじゃないか。
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