ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

餃子の作り方(ただし食材栽培から)

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「はいはいはい。」
なんか玉にお説教されて悔しいので、多めに返事してみた。

「とぉのぉ?」
「わぁごめんなさい。」
「まぁ、玉は婿殿をもう尻に敷いてるのね。」
「と言うか、玉ちゃんは周りの人みんなを尻に敷いてるような。…実は私も…。」
「かぁなぁさん?」
「わぁごめんなさい。」
「まぁ、くすくす。」

2人して玉に頭を下げる図の巻。
まぁ、玉は皆んなに好かれているから。
玉に叱られるのを楽しんでる気配もある。

「プンプンです。」

仲良しお化けは、自分がどれだけ周囲に大切にされてるか、いまいち理解していないみたいだけど。

時計は11時を少し回ったところ。
あれ?
もう2軒回ったのに、意外と時間が経ってないな。

「菊地さんて、結構効率良く回るから、次から次へと用事が済むのよ。」
「え?買う物あらかた決まってるから、その通りに売り場行けば良いじゃん。」
「殿は無駄な事をしないので、てきぱき物事が進んじゃうんですよ。」
「仕切らせると便利な人よね。」
「殿は人の上に立つ人だと、玉は思います。」
「あらあら。」
…多分、この4人の中で、一番立場低いの僕だと思うけどなぁ。


という訳で、玉の希望通りに餃子の◯将に車を走らせました。

最初はいつだったかなぁ。
玉がナビか地図で、この店を見つけたんだよなぁ。

あの頃は食い意地が張っていて、大量に食べちゃあ丸々太って、数時間後に元に戻ると言う意味不明な生態を見せていたけど、何故か今はそんな事も無く。

「ぱん!ご馳走様でした。」

と適度に食べたら手を合わせて挨拶をして、食べ終わった食器を自分でシンクに運んで、食休みのドリンクを冷蔵庫から選んで、自分の座椅子で液体化し始める。

「ふひぃ。」

…適度と言ったけど、まだ食べ過ぎかもしれない。

僕はよく噛んで、割とゆっくり食べる方なので、自分が食べ終わったら、かたことと食卓を片付け始める。
その音が聞こえ始めると、固体化した玉がしゅたっと台所に飛び込んで洗い物を始める。
「お湯とままれもんは最強たっぐなのです。」
そんな役割分担が、毎食の僕ら。

丸々太って、居間で寝転がるどすこい玉とはしばらく逢ってない。

どすこいさんは中華料理が大好き。
普段の食生活は、本人の希望で和食メインなんだけど。

「たまに食べるから刺激的で美味しいんです。」
「と、玉が言った。」
「しまった。しまりました。自分で交通事故駄洒落を言っちゃいました。」
「そう言うのを、自爆と言います。」

てな感じで、玉のリクエストはあくまでも食べ慣れた和食。
肉より魚。
スープよりお味噌汁。
煮野菜をたくさん。
お漬物は丁寧に。

★  ★  ★

「この店って縁がなかったから、私は入ったこと無いのよね。」
「あれ?佳奈さんちの周りになかったんですか?」 
「春日部にあるけど、ちょっと八木橋より大宮寄りだし駅から離れてたからちょっとね。私の行動範囲は伊勢崎線だったから。それに、中華料理屋に若い女って入りにくいのよ。お安いイタリアンのファミレスの方が良く行ったし。」
「??」
具体的な地名や路線名を出しても、玉に分かるわけないでしょ。

僕が(余程お洒落な店で無ければ)予算に関係なくわりかし何処でも行くから、いつも僕と一緒の玉には年頃の女性が入り難い店種の存在が理解出来ないらしい。

ここでの僕と玉の定番は、炒飯・餃子・唐揚げ(謎粉付き)の3品。
付け合わせは搾菜が多いかな。
2人でシェアする一品料理は、カニ玉かレバー野菜炒めが多い。
…まぁたしかに、女性と外食するには気取らなさ過ぎなメニューだね。

「お母さん。この小皿にね。醤油とお酢とらー油を出して掻き回すの。赤いらー油は辛いし、お酢は酸っぱいから、自分の好みで調整するの。」
「こうかしら。」
「それが餃子のたれになります。」

玉が鼻高々にしずさんを指導していて、僕と青木さんは、思わずニンマリ、もといほっこりだ。

さて、しずさんの初餃子は、と。
言うまでもなかった。

一口食べると途端に目を見開いて、まさにぱくぱくという勢いで二口目、三口目と齧り付いていく。
うん、美味しく食べてるみたい。
一応、おかわりを注文しておくか。

って。

…だから玉は僕の唐揚げを取らないの。
「いつもの事です。」
「そうだけど。」
おかげで唐揚げがいつも食べられない。

「餃子って美味しいですね。畑で作れますか?」 

こらこら、そうすっとんきょうな事は人前で言わないで下さい。
あ、でも材料は育てられるかな?
ええと。

「大雑把に言って、皮は小麦粉。具はニラとキャベツで簡単な野菜餃子は作れるけど、肉類やニンニクが無いとやっぱり味気ないかな。」
小麦粉って言っても強力粉と薄力粉を用意しないといけないみたいだし。
「材料から作り始めちゃうのが、菊地さんちなのよね。それも種から。」
「殿、畑の小麦粉じゃ出来ないんですか?」
「調べてみようか。」

スマホは便利だなぁ。
子供の頃は、図書館とかで本をひっくり返したもんだけど。

「…んと。小麦玉を作る時の水分量の使い分けで、必要な粉が作れるみたいだ。つまり、餃子の皮は畑の小麦で作れる。屋敷の台所に石臼を置きっぱなしにしてあるから、粉にはいつでも轢けるよ。」
「んじゃ、後は中身の餡ですね。
「やっぱり肉は欲しいよね。豚か鶏だな。ミンサーでミンチにすると美味しいし、鶏皮を餃子の皮で包むと食感から美味しいから。」
「でも冷蔵庫が無いです。出来ればお母さんには、いつでも気軽に料理をして欲しいですから。」
「そこだよなぁ。小型発電機でも買うかね。」
「だから殿。無駄遣いはめっです!」


「…お母さん、貴女のお嬢さんとお婿さんは器用の度が過ぎて、自分達に出来る事は皆んなに出来ると思っている様ですよ。(私のスキルじゃ付いてけないよう)」
「うちの玉が、そんな事まで出来るようになりましたか。良い方に嫁げて良かったわ。」
「あ、この人親バカだった。」


食事を終わらせると、もう一度ホームセンターに戻る。
ニラとネギの種とニンニクの種球を買い足しにだ。
それだけあれば、とりあえず野菜餃子は作れる。

「あと、胡瓜とお茄子が欲しいです。」
「あれ?畑になかったっけ?」
「荼枳尼天様のお社の方でしたら、婿殿が栽培されてますけど。」

あ、そうか。
僕は自由にあっちこっち行けるから、必要に応じて、そこら辺からいつも適当に収穫して、玉に渡したり、冷蔵庫の野菜室に泥付きのまま放り込んだりしてたんだ。

「玉に糠床を分けて貰ったんですが、漬けるお野菜がなくて。」
「そういえば今朝は牛蒡を漬けてたね。お母さん。」
「とりあえず聖域の胡瓜と茄子を後で持っていきますけど、しずさんは種から育てたいんですよね。」

ワンピースのスカートの前に手を組んで、しずさんはニコニコ微笑むだけだけど、その笑顔が雄弁に肯定している。

だとすると。
胡瓜、茄子だけでなく。
蕪、人参、大根の種も追加だな。
確か青梅や椎茸、蜜柑や柿の皮も美味かった筈だけど、そっちはもういくらでも生えてる。

「殿、これも欲しいです。」
「あ、私も目をつけてたのよ。」

玉が持って来たのは落花生。
雨が降らないから育てやすいかな。
青木さんはトマト。トマト?

「トマトなかったっけ?」
「たぬちゃんの方にしか無いの。前に食べさせてもらったトマトが美味しかったのと、ミニトマトがあると彩りが豊かになると思うの。」
浅葱の畑は、何故か黄色いからね。
「ミニトマトなら、ぽん子ちゃんでも食べられるでしょ。あの仔甘えん坊だから。大きなトマトは切ってあげないと食べられないのよ。」
「でしたら婿殿。玉が前に食べていたとうもろこしが食べたいですね。」

あぁもう。
判断すんの面倒くさいから、欲しい種や苗を全部持ってこいいい。
僕は聖域の畑しか面倒みんからな。
君らできちんと世話すんなら、何でも買ったるわい。
(どうせ種なんか大した額じゃないから)

★  ★  ★


そのあと、野菜と鮮魚が充実している独立系巨大スーパーに買い出し。

とりあえず干物系は魚と野菜をたっぷりと購入。乾燥野菜は水で戻せば良いし、干物は常温保存出来ないからなぁ。
……水晶の中だから、僕が食べる物では無いけど、浅葱の力が使えるかなぁ。
なんなら、氷室を作ろうかな。
棒坂の新しい村でも、冷たい清水と風通しで天然の氷室(凍ってないけど)を作ったし。

アルミパイプで湧水を小部屋に回せば、クーラーボックスくらいの空間だったら冷やせるか。
うんうん。
これは面白い。
浅葱の力が使えても、作ってみようか。
作物も冷やした方が美味しいものもあるしね。

「ねぇ玉ちゃん。菊地さんがまた悪い顔してるわよ。」
「あの顔は、何かを思い付いたお顔ですよ。大丈夫。良い事でビックリさせられますから。」
「あぁ、いつものかぁ。」

先ず、しずさんの食生活の安定には。
タンパク質の安定が必要だよね。
炭水化物は我が家のお米が、浅葱の屋敷で出せる事がわかっているし、小麦があるから、うどん・素麺は作れる。
塩と味噌、調味料の在庫は玉に毎朝チェックしてもらえばいいし。
あとは脂質か。
脂質は、肉や乳製品で、結局はタンパク質食品に付随するんだよな。

………

ぽいぽい。
ぽいぽい。

「あ、ぴぃなっつくりぃむです。」
「玉ちゃん、ピーナッツ好きなの?」
「殿がこないだぴぃなっつ味噌って言うのを買って来て、それが玉にはじゃすとみいとしました。」
「あぁ、千葉県名物のあれかぁ。」

ぽいぽい。
ぽいぽい。

「玉の言う豚肉ってこれね。」
「このスーパー、鶏皮も売ってますね。脂がキツくて調理が大変だけど、色々な料理は、肉より多いかも。」
「殿が大好きなんですよ、これ。」
「そう聞いたから、料理メニューを増やしたの。」
「まぁ!」
「まぁ!」
「親娘でニヤニヤしないの!…そういえば、お母さんは肉を食べる習慣ってなかったのではありませんか?」
「玉が四つ足を美味しそうに食べていたのをずっと見てましたから。抵抗が皆無と言えば嘘になりますけど、さっきの唐揚げも美味しく頂きましたよ。」
「じゃあこれも。」

ぽいぽい。
ぽいぽい。

………

タンパク質、タンパク質。
勿論、毎朝僕らが持って行けば良いだけの話だけど、ここまで考えるなら、水晶の世界だけで完結させたいな。

方法
1.生簀で魚を育てる
 
聖域の魚は別に養殖してないのに、勝手に増えているから、こちらでも出来る筈だ。

2.家畜を飼う

飼うったって、世話が大変だろう。
小動物と違って、飲む量食べる量は桁外れに多い。家畜小屋は温泉にしちゃったし。
でも、牛だったら政秀さんとこ行けば手に入るし、ちびの言ってた白いメェメェがこの世界にいる筈だ。
何とか(どうとでも)なるか。

あ、そうか。
僕には相談出来るプロフェッショナルが2人も居るじゃん。
後で聞いてみようっと。

知らないうちに、肉と魚とお菓子とペットボトルが山になっている買い物カーゴを押して僕はレジに並んだ。

ぽいぽい。

まだ買うか?
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