ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

餃子

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僕がやらなければならない事の一つ、土地神用の神社建設を無事終えて、正月早々着物姿のままソファにひっくり返っていると、割烹着玉さんに追い立てられた。

「殿、餃子です、殿。餃子。」

あぁ、そんな約束もさっきしたなぁ。
でも時計を見ると、まだ15時だぞ。
朝から、あっち行ってこっち行って、初詣に茨城まで行って、野田でお昼を食べて、帰ってきたらまたあっち行って。
着物も2回着させられて。
さすがに疲れました。
青木さんだって、自分の部屋に帰っちゃったじゃん。

「玉の口はさっきからずっと餃子なのです。早くなんとかしてください。」

さっきまでパンケーキをウマウマと食べてたくせに。
やれやれ。うちの欠食児童は。

「着替えるので、とりあえずキャベツとニラとニンニクを微塵切りにしてて下さい。肉は豚が王道かな。」
「畏まりました!です。」

うちの冷蔵庫は、玉(やしずさん)の希望も聞き入れて、彼女達が食べたい食材を勝手に調達する変態機能付きなのと、玉は微塵切りもミルの使い方もすっかり心得ているので、下拵えは任せて大丈夫。
玉が作ると食あたりでみんな死にますって言ってた死の調理人の頃から比べると、随分進歩したものだ。

★  ★  ★

着替え終わって台所に入ると、いつものピンクとグレーのスウェット姿の青木さんが、テーブルで餃子を包んでいた。
いつ来たのよ。

「餃子くらい私にも作れるのです。…
多分。昔、母親と一緒に、或いは祖母と一緒に作った事があった様ななかった様な?」
「なんで疑問系なの?」
「とにかく、とにかく!餃子を作った事も、臼と杵でついたお餅を丸めて、きな粉をつけたり、お汁粉にした記憶があるんです!…小さい頃…。」
「子供会とかで?」
「お婆ちゃんちで。」
「なんだ。それは幸せな記憶だよ。」
「です。玉はお爺ちゃんもお婆ちゃんも顔を知りません。」
「…割と真面目な話をしたつもりなのに、何故2人はなんか不幸な生い立ちしてるのよ。」
「僕くらいに歳を取れば、順番に死んでいくでしょ。」
「玉の時代は戦がありましたから。みんな死んじゃいました。」
「ああもうああもう!無し。全部無し!私は餃子を作れるし、玉ちゃんは餡を作って!菊地さんはそこで何かやってなさい!」
「?、どうしちゃいました?玉なら殿といつもいつでも一緒だし、お母さんもどこかにいるから、今とっても幸せですよ。」
「君も居るしね。」

「………まったくもう。この人は、この2人は、まったくもう…」
「?」
「?」

ま、まぁ。なんか青木さんが納得した様なのでいっか。

とりあえずガラス蓋付きホットプレートを準備しておこうか。

玉の餡を少し分けて貰って、これに茹でた小エビと、少し歯応えがわかるくらいに刻んだ小松菜を乗せて、餃子皮を点心風にまん丸に絞っておく。
水餃子だね。後で茹でよう。
まだ夕方だし。

………

餃子に合うご飯と言う事で、元日の晩から炒飯かあ。
別に炒飯好きだからいいけど。

温めた中華鍋に玉ねぎのざく切りを入れて、飴色になるまで炒める。
これは料理全ての基本。
具は輪切りで刻んだウインナーだけ。
火の通った玉ねぎとウインナーを鍋からどかすと、生卵を投入。
強火でサッと炒めてギリギリ半熟が無くなったところに、わざわざ冷やしておいたご飯を投入。
冷飯の方が美味しいんだよね。
ご飯に軽くお焦げが出たら、玉ねぎとウインナーを再投入、満遍なく混ざったら、塩・胡椒を振りかけて更に炒める。
最後に刻みネギを加えて、香り付けに醤油をぐるぐる掛け回したら、お手軽本格炒飯の出来上がり。
市販の炒飯の素を使うより美味いぞ。

ホットプレートに乗せた餃子は、少し焦げ目がついたら小麦粉を溶いた水を加えて蒸らせば、はい、羽根付餃子になりました。

コンソメスープで煮ていた水餃子は、玉が丁寧に灰汁取りをしてくれたので、これも多分イケるでしょう。
美味しく食べたいから、率先して面倒な事をしてくれる人です。

「…………。」

青木さんがなんかジト目でこっちを見てます。

「なんですか?」
「私はさ、普通に店で◯谷園を買って来て適当に炒めておしまいなのにさ。なんで本格的なのがポイポイって作れちゃうの?」
「あぁ、これは昔テレビでやってた物そのまんまだよ。実家でも家事をすること長いから。何度も作っていただけ。」
そう、浅草橋◯ング用品店だったかな。周富◯さんが公開したシンプルな卵炒飯に、僕も好きな玉ねぎと、塩気にウインナーの輪切りを足しただけ。
シンプル故に、食べ飽きないのさ。

「こんなんじゃ、私勝てないじゃん…。」

誰に?
とは聞けない(聞いたら薮蛇になりそう)ので聞こえないふりしますか。
炒飯をお玉でサッとまぁるく盛り付けて、レンゲを添えたら出来上がり。
ついでにグリーンピースの塩茹でを何粒か乗せてっと。

玉が丁寧に灰汁を取ってくれたので、水餃子の煮汁はネギと生姜をちょいと足すだけで、海鮮の出汁が出たコンソメスープの出来上がり。  

これにおせちとお赤飯と、あとお餅があるからテーブルに並べて、意味不明な晩御飯になりました。
なんだかなぁ。
まぁ、2人とも喜んで食べてるからいいか。

★  ★  ★

何故か青木さんは、そのまま我が家で寛いでます。
うちはテレビを見るよりも◯マプラとかの動画サイトを見てる事が多いので、大体は僕の登録番組を見てます。

今日は世田谷◯ース。
うちはBSに入っていないので(殆ど見ないのに、手続きが面倒くさい)、系列サイトを登録してますが、ええと、女の子が見て面白いの?
所さんが、自分の車やバイクやモデルガンや工作の解説しているだけの番組だよ?

「わりかし興味深いよ。」
「殿の好みを従者が知らないでどうするんですか?」

玉に叱られました。
いや、映画だって沢山あるし、こんな男くさい番組見てどうすんの?

ゆるゆるな番組を見ながら、お屠蘇と蜜柑(聖域製)と玉特製蜂蜜クロワッサンを適当に頂いて、元日の夜はゆるゆると過ぎて行くのでした。

なんだか濃い1日だったなぁ。

「あのね。私、実家を出てからずっと1人だったから、こうやって夜に友達と一緒に過ごせるだけで楽しいし、嬉しいんだよ。」

そういう告白はですね。
お屠蘇で顔を真っ赤にする前に言ってくれた方が僕も玉も嬉しいですよ。

「こんな小っ恥ずかしい事、素面で言えるわけないじゃん。」
「じゃん。」
「そうですか。」
「そうですよ。」
「よ。」
「玉は眠くなっているなら寝なさい。」
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