ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

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「うふふふふ。」 

今日のドライブ先は、玉には未踏の茨城県になるので、僕から新しい地図を貰って、朝からご機嫌です。
乗車早々、いそいそと千葉県の地図と並べてマーキングの準備。
玉用に、マーカーを入れるシザーズバッグがあちこちに掛かっている僕の車です。
玉の為に、違う道を探さないといけない僕に妙なプレッシャーがなんとなくあったりなかったり。

玉がその体制になると相手にしてもらえなくなる事を覚えた青木さんも、(無理矢理寄らされた)途中のコンビニで山の様にお菓子とドリンク類を買って、もしゃもしゃ食べている。
もしゃもしゃ。ごくり。

「なんか菊地さんの前で着飾っても無意味な気がしたので。もういいかなって。」 
一応さ、年頃の女性なんだから、もう少し隠そうや。色々。
玉だって、最近何故か急に猫を被り出したんだよ。にゃあ。
「何故かじゃなくて、玉は女の子ですよ。にゃあ。」

外環から常磐道に回るつもりだったけど
高速に乗ると料金が掛かる事を知った玉に叱られるので(わからないようにETCゲート使ってたのに、誰だ教えた奴は)下道でのんびりと。

とは言っても市川から北に向かう事はしょっちゅうなので道にバリエーションなんかもうないぞ。
なので、ぐりっちゃらぐりっちゃら本当に狭っ苦しい裏道をくねくね走る事になる。ついでに、台地を降りたり登ったり、右に左に旧カーブを描いたり。
軽自動車でよかった。
くねくね。

………

柏市北部にある、あけぼの山公園脇の弁天様が、この辺の名刹らしいので、そこら辺だけ初詣客で車も混んだけれども、入り口の交差点を越えると、一気に流れ始めた。
利根川を越える橋まで来て、真正面に筑波山の双耳峰が広がると、後ろから歓声が上がった。

「綺麗な山ですねぇ!」
「結構距離がある筈だけど、ずっと平野だから全部見えるね。冬晴れで空気が澄んでいるから尚更ね。」
「殿!今度行きましょう!」

玉の積極性(かわいい我儘)は無条件で採用なので、そのうち、暑くならないうちに行きますかね。
行きは高速バスで行って、帰りは水晶に戻ってくるとか、反則技も使えるし。

「この川も大きいですよ。」
「利根川って言うの。坂東太郎って渾名が付いててね。日本でも有数の川だよ。」 
「へぇ、佳奈さんはよくご存知です。」
「関東の子供は学校で習うの。」
「なるほど。」

そこからおよそ30分。
茨城県南のわざとらしく区画整理された住宅街と、田畑というよりは耕作を放棄されて久しい原野な田舎を交互に走り抜けると、突然道端に謎の安っぽいアーチが現れた。

そのアーチの下を左折しろと、ナビお姉さんがうるさい。
その先が目的地周辺だとうるさい。
ええと。これでも神社だよな。
うん。錆びついたアーチには一言主神社入り口って書いてある。
しかしこの、場末の観光地みたいなお出迎えは何?
しかも車が結構出入りしているし。

「観光寺院って奴かしらね。ほら、この辺て鉄道とかない辺鄙なとこだし。参拝者用に目立たせるとか?」
「確かに。ここまで来る途中も、神社の看板が沢山立ってましたし。」

「………僕が昔、友人と一緒にお伊勢さんにナビ無し車で行った時に途中で道に迷ってね。青看板見ても、知らない三重県の地名・字名ばかりだし。何より困ったのは、ありとあらゆる看板が◯福だった事だった。…空を見上げると街灯に下がった看板に、はるか向こうまでひたすら赤◯赤◯赤◯赤◯。畑にも◯福。山の中腹にも◯福。」
「あぁ、想像がつくわぁ。」
「?」
「玉もお伊勢さんに連れてってあげるよ。そしてひたすら続く◯福に絶望すると良い。」
「???」

こうして、僕と玉の、日々の予定が埋まっていきます。筑波山と伊勢神宮行き決定。

さて、玉の顔がでっかいクエスチョンマークが浮かび上がっているけど放置して、漸く車を駐車場に入れる事が出来た。

玉は(僕が)お気に入りの赤いダッフルコートにジーンズ、コ◯ンバースのハイカットと、玉ちゃん可愛いおでかけ仕様。
僕はさすがに大島紬で車を運転をするわけにもいかないので、足首まである茶色のロングピーコート。
会社員時代、多少スーツがよれても誤魔化せてた奴。

「私ももう少し気張れば良かった…。」
うん。
スタジャンにジーンズって、ちょっと組み合わせが高校生だし。
君、確か見せる相手が僕しか居なくても、それなりにお洒落はするって言ったよね。
「そんな昔のことは忘れたわぁ。」
「駄目ですよ。佳奈さん!女を捨てるには早すぎます。」
「そんな未来の事も考えられないの。」
君はハンフリー・ボガードか?
女だけど。

★  ★  ★

と、ガヤガヤ賑やかにやって来たのは、茨城県常総市にある一言主神社。

由来を調べると、それなりに由緒ある神社では有るらしい。
その割に敷地こそそれなりに広いけど、肝心の境内はそれ程広くはない。
横に広がった境内の左(南?)半分に社殿があり、拝殿に向かう参道は石製の鳥居が二つ並んでいるものの、参道の長さは100メートルもない。

市川に来てから、何故かやたらと神様仏様と逢う縁が出来て(不思議な日本語だよ、これ)あちこちの神社仏閣を玉と参拝する機会が増えたけど、その歴史の割にここは狭い方だ。
右半分のRCの建物は、信徒会館かな?
本殿より立派な気がするけど、気にしちゃダメなんだろう。

田舎の神社とはいえ、なかなか人気はあるみたいで、列に並ぶ事数分。
やっと最初の鳥居をくぐる事が出来た。

★  ★  ★

こんなこったろうと思ってだけどさぁ。
ここの祭神に、正月早々呼びつけられたから、なんかあるだろうとは覚悟してたよ。うん。

はい、僕らが鳥居をくぐったら、そのまま鳥居の中が光り輝いて何やら別世界に来ましたよ。
参拝者でごった返す中、3人できちんと並んでいたわけだけど、前後のカップルさんにバレないだろうね。
そのくらい、期待すんぞ神様。

今回は、玉も青木さんも逸れなくて済みました。
人混みが嫌いな玉が逸れないように、青木さんがしっかり手を繋いでいたし。
(迷子になるほど広くないし、いざとなれば道を挟んだ先の駐車場に停めた車に戻れば良いんだけど)


『浅葱』
「はいはい。」
面識の無い人に呼び捨てにされる謂れはないので、返事もおざなりです。
僕の姓は、菊地だし。
『よく来た』
「神様からあれこれ指図されるのも慣れましたから。」

棒坂の時みたいに、よくわからないままアドリブで対処しないで済む分、今回は楽だ。
あの時、背後に居たっぽい「馬頭観音」とは、未だにコミュニケーションが取れないし。

「ほいほい神様とコミュニケーション取れる方がおかしいって。」
「巫女の玉でさえ、荼枳尼天様とは、殿がいないと、何をお考えになっているのかわからないのに。」
「玉ちゃん。この人誰かな?」
「神様だから人じゃないけど、一言主様、でいいのかな?」
青木さんにぎゅっと手を握られながら、反対側の人差し指を唇に当てる。
玉の思考ポーズだ。

「君らはこの神様に逢っているよ。」
『うむ。今朝方奉納された節句料理は美味であった』
………
「えっと。土地神様?ですか?」
「そういえば、菊地さんと玉ちゃんが穢れを祓った……って認識でいいのかな。浅葱屋敷で見た黒い人だよね。」
『うむ。その折は世話になった』
「という事は、土地神様は一言主さ、ま………えぇ!!?」

さすがは巫女だけあって、日本神話には造詣が深い様だ。

「菊地さん。玉ちゃんが固まっちゃったから説明をして。」
玉が固まる。
うん、久しぶりの交通事故駄洒落だ。
「それはいいから。」

「一言主。別名・事代主。大国主の子供。素戔嗚の孫。更に別名、恵比寿さん。」
「………えぇと。ごめんなさい。また理解が追いつかないの。何その日本神話オールスター。」

事の次第を知ってる玉は、そりゃ固まるわなぁ。
国津神でも、相当高位な神様だ。
…後に何故か役行者に使役されてるけど。

『今も大差ないがな。古の契約に基づき、私は今も浅葱に支えておるから』
「あぁ、うちのご先祖がすみません。」
「軽!」
『良い良い。所詮は分祠じゃ。中には情け無い奴も居ろうぞ』
「神様も、なんか軽!いいのかな。私、今相当失礼な事言った。」
『構わん。私が守護する土地に植物と動物を慈しみ育てているのは、お前とそこの巫女だ。お前たちは、紀州で時の果てに崩壊した社も再建してくれた。ならば、その社の神鏡は私がてづから与えるのは、私の義務だ。浅葱の血を引く者が2人。浅葱の巫女が1人。私にしては、充分過ぎる相手を国麻呂は授けてくれた』

つまりは、国麻呂さんの企みか。
1,500年くらい伏線張ってやがったか。

『巫女よ。受け取れ』
「は、はい!」
玉の固まりは、一言主に話しかけられて、慌てて玉に戻った。
途端にいつもの巫女装束になり、頭からには金の冠を被る姿に変化した。
…玉にそんな芸当出来たっけ?

『恵比寿の巫女の正装だ。これより浅葱の社は一言主と恵比寿の合祀となる。巫女よ。一言主は土地を鎮め治め、恵比寿は豊穣を約束する。……お前の祝詞は心地よい。だから私についた穢れが落ちた。畑はよく実る。今後とも、浅葱の者に良く支え、努力を怠るな。さすれば、お前の望みは叶う。お前が叶える。」
「はい!」

玉は、一言主から、半紙に包まれた鏡を授かった。

『また会おう。明日、な』

★  ★  ★

どうやら、いつものように、僕らがこの世から消えていたのは、ほんの一瞬だったらしい。
周りの人も、何も不審がらずに初詣に並んでいた。

でも、玉のコートのポケットは膨らんで重くなっているのが、見て分かる。

慣れたもんで、玉も青木さんも慌てる事も無く、お参りを済ませ、おみくじを引き、御守り(あと、僕がちゃんとお札と御朱印も)を買い。

…口がムズムズして来たので、さっさと離れる事にした。
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