ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

そうですか

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「な、な、な、ななななな。か、かかかか神様?本当?ですか?玉が、玉が?玉が死ぬ?ぬぬぬ?」
「うむ。神は嘘をつかん。」
取り乱したしずさんに、襟元をぶらぶらぐりぐり振り回されても、荼枳尼天は平気で大嘘をつく。

「これこれ菊地。勝手に神を嘘つきにするな。」
声が右に左に振られるから、まるで緊張感がないんですけど?
安っぽいステレオ音声みたいだ。

「変な立体音声より、ぐるぐる回る方が儂は好きじゃ。」
知らんがな。

「荼枳尼天さんはクレタのパラドックスって知ってます?」
「知っとるが?ついでに古事記など各国神話で語られる神が嘘つきでいい加減な事も知っとる。全部知っとる。」
なんだかなぁ。

「くにゃ」
「おや、いらっしゃい。」
御狐様が逃げてきたよ。
「これこれ。主人の首がもげそうになるまで巫女に振り回されているというのに、眷属がさっさと逃げるでない。というか、菊地の腿で寛ぐでない。菊地も狐の尻尾に顔を埋めて幸せそうな顔をするな。」
「婿殿は、何故落ち着いてもふもふしてるんですか?私も少し羨ましいです!」
「しずも落ち着け。お主、何言っとるか儂にはわからん。」

何このコント。(登場人物を変えれば毎日してる様な気がするなぁ)

「婿殿!婿殿と玉が殺されるというんですよ?」
「そうですか。」

あ、梨のピューレが冷蔵庫に残ってたな。食べるかい?
「くにゃ」
「あ、儂も食いたい。」

「だからなんで貴方達は落ち着いているんですか?そうですか?」
「うん。そうですか。だよ」

★  ★  ★

なんかに巻き込まれるっていうのは、浅葱国麻呂さんから予言されていたので、まぁ知ってたし。
玉と青木さんが危ないというなら、浅葱の屋敷に匿って仕舞えば良い。

ぶっちゃけちまえば、おそらく今回、僕に「仇名す敵は人間」だ。
人外のよくわからない存在なら最初から立ち向かう気は無いし、なんなら僕の手に納められてる謎の刀が力になるだろう。
傍観者っぽい荼枳尼天は味方してくれないにしても、浅葱に縁深い土地神はおそらく味方になってくれる。
そうそう、馬頭観音なんてのもいたね。
だから、対人外に関してはむしろ玉達の安全が図れる。

問題は治承4年と、荼枳尼天がはっきり区切った事。だとすると、敵は人間になる。

“どれ''か“それ以外“か。

人外よりも人間が相手になるっていう方が、むしろ僕には厄介だ。
「殺人」と言う二文字があり得るから。
でも、厄介だけど、対策は立てやすい。
だから「そうですか」だ。
肉体労働や謎の力じゃなく、頭脳労働で住むって事だし、膨大な歴史資料を頭に詰め込んどくだけで、どうとでも出来る。
つまり対処法は、

「知恵と勇気」

だ。
もっと言うなら、ものぐさな僕を動かす「やる気」が一番肝要な事項になる。
もう一度言う。

だから「そうですか」だ。

御狐様が僕の膝で寝てしまったのを見て、さすがにしずさんも取り乱すのをやめたらしい。
自分の周りにいる連中が、神様にしても神狐にしても、自分の婿(決めつけないで欲しいなぁ)にしても、ちっとも慌てて無い事に漸く気がついた様だ。

★  ★  ★

「まぁ菊地の事だから、なんとかするのだろう。」
そそくさと僕の側に来て、御狐様を撫で出す荼枳尼天は、ただの飼い主にしか見えないし。
ていうか、梨のピューレをもしゃもしゃ食べながらだし。

「荼枳尼天様は婿殿を信用なさっているのですね。」
「お主こそ菊地を信じんかい。時の狭間に閉じ籠められたお主ら親娘を救ったのは此奴だぞ。お主の娘が絶対の信用を寄せる男が菊地じゃ。狐や狸や、色々な動物達が絶対の信用を寄せる男が菊地じゃ。菊地を娘婿と認めるならば、お主も菊地を信じろ。お主と巫女っ子がもう一度暮らせる生活を、菊地は絶対に取り戻すだろうて。」
「はぁ。」
「………(面倒くさいなぁ)。」
御狐様のもふもふを心往くまで味わいながら、こっそりそんな事を思いました。

★  ★  ★

「と言う事がさっきあった。」

牛蒡と鷹の爪の種が通販で届いたので、2人を誘って浅葱畑に来た。

久しぶりの畑に、その様変わりぶりを「ばたばたとことこ」走り回って確認していた青木さん達を、いつものように放ったらかして、僕は坪田を一枚作ってみた。
何、大したことじゃない。

いつもなら、水底に石を敷いて水の透明度を重視するところを、わざと泥を敷き詰めて泥田にした。
蓮根を育てるならば、清水よりカロリー・ミネラルたっぷりの泥の中の方が良い、と聞いたことがあるから。

あとは、泥田の周りで、牛蒡と人参と鷹の爪を栽培すれば、この一角だけで玉がリクエストした「きんぴら牛蒡」が作れる。
それも2~3日中に。

あと、きんぴらの中の食材か。何があるかな。ううんと。蒟蒻か。
蒟蒻は鷹の爪で炒めるだけでも美味いね。
あれは確か芋だったな。蒟蒻芋だっけ。
種芋を何処かで買ってくるかな。

『蒟蒻芋なら、山にあるよ』
おや、どなた?
…雉?赤いキジ?
『こんにちは、ご飯が沢山あるから来てみたの』
ご飯ねぇ。
まぁ果物は基本的に動物達に解放しているから、畑の野菜以外なら何食べてもいいけど。
『ううん。屋敷の裏でいいよ。あっちにはまだ誰もいないって聞いたから。虫とか沢山いるでしょ』
聞いたって、誰に?
『うずらちゃん』
なるほど。
彼女達は、普段は梅園に居て何故か下草の手入れや、敷いてある藁の交換を勝手に行っている。

『一宿一飯の恩義』

だ、そうだけど、義理堅い野生のうずらってなんなん。
早く婿を世話してやらんとなぁ。

『んじゃ、取ってくるね』
「おう、頼む」
赤い雉こと、山鳥はヨタヨタと飛び立っていった。
なんだかなぁ。

「展開が早すぎて付いてけません。」
おや、青木さんの目玉がぐるぐる回り出した。器用な人だな。
「殿、今の赤い鳥は誰ですか?」
「誰と問うか?」
鳥類に対する代名詞として色々間違えている気がするけど、そもそも鳥が気軽に話かけてくる状況が最初から最後までおかしいので、、まぁいいか。

で、漸く落ち着いて話を切り出す事が出来た。
あと、ぽん子はさっさと玉に抱っこされて頭を擦り付ける仕事に余念がない。
どうやら玉も、ぽん子の居場所に認定されてマーキングの対象になった様だ。

…本当に落ち着かないな。僕ら。

★  ★  ★

「相変わらず、ちょっと会わないうちに有り得ない体験をする人ね。」
「と言うか、玉と佳奈さんが席を外している間に、殿は何してんですか?」
「ん?しずさんに呼び出されたから行ってみたら、荼枳尼天の神託が降っただけだよ。」
「本職の巫女を疎かにして、1人で勝手に御神託を受けないで下さい!」
「待って玉ちゃん。言っている事が訳わからないよ。」

まぁねぇ。

………

「それで、どうするんですか?」
うさぎ達も遊びに来たので、ぽん子を背負いながら、そこら辺に生えているたんぽぽを上げる。
うさぎはたんぽぽが大好きなので、たちまち僕の手はうさぎの海に溺れてしまった。

そんな僕を羨ましそうに見ながら、玉が聞いてくる。よっこらよっこら鍬を振りながらね。

「ん?いつも通りだよ。玉は巫女の修行をする。青木さんは、そうだな。吾妻鏡を読みなさい。出来れば抄訳でなく原書で。」
「あずまかがみぃ?」
「それは玉の家にはありませんねぇ。よし、出来た。」
僕が想定している玉の時代だと、吾妻鏡どころか、平家物語も成立してないんじゃないかな?

浅葱鍬なら直ぐ耕せる。
蔵に篩があったし、あっという間に新しい畑が出来たので、種を植えつつ

「腰痛い。」

早くも腰をトントン叩きおばちゃん化し始める青木さんを眺めつつの会話になる。
きんぴら牛蒡が食べたいと言った張本人の玉は、相変わらず謎のオノマトペをぷいぷい言わせながら、ご機嫌で種を植ている。
で、僕は狸と兎に埋もれている訳です。

あと、内緒だけど。
浅葱屋敷には◯ラレールの色々なセットが山と積んであるので、これはこれで後で玉を招待しよう。

★  ★  ★

「ありがとうね。」
山鳥が山から蒟蒻芋の種芋を貰ったよ。
『そっちは3年ものだから、そのまま蒟蒻に出来ますよ』
「その子はお嫁さんかな?」
『お恥ずかしい』
『こんにちは』
芋をいくつか何回も往復で運んできてくれた山鳥と挨拶してます。

「山鳥のつがいと話しているわよ。」
「殿のやる事ですよ。今更ですよ。ねぇぽん子ちゃん。」
「わふ」
「玉ちゃんもぽん子と普通に話してるし。」

屋敷の裏は、樫の木で出来た生垣の他は、いくつかのモチノキが点在しているほか、特に灌木もなく、適度に陽が当たるけど適度に陰もあり、直ぐ外には池があるから適度に湿気った、山鳥が暮らすにはちょうどいい環境だそうだ。

天敵も居ないし、水も食べ物も豊富にある。そこに住む夫婦ものならば一つ子育てに頑張ってもらいますか。
庭のハクセキレイ達も雛達が少しずつ育ってきて、親鳥じゃなく僕に餌をねだる謎生態を発揮してるし。(因みに親鳥も僕に餌をねだる)

山鳥の巣は、実物を見たことがあるけど、大体枯れ枝をあまりにも適当に組んだ杜撰なものが普通だったので、大きなザルに動物達の毛を集めて敷いてあげる。
というか、動物達は自分でケージや庭や花壇を掃除してゴミをまとめているのです。ゴミは肥料にもなるし、こうやって建材にもなりますので。

「ねぇ玉ちゃん。山鳥の巣を作り出しちゃったよ、アレ。」
「山鳥さん喜んでいるから良いかと。」
「そう言う問題かしらね。」

さてと。
蒟蒻芋問題は、問題化する前に勝手に解決したな。
せっかく来たのだから、懸案のアレを一つ考えようか。

すなわち、土地神の社を。
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