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第一章 開店
素麺
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「と言うわけで、出来た素麺がこちらになります。」
「わぁ。ぱちぱち。」
台所には、いつも通り玉と2人。
ちょっとした時間旅行兼作業で、棒坂の皆さんが作ってくれた白い乾麺を囲んでいた。
ええとね。
あの後、収穫した小麦を石臼で引いて小麦粉にして、塩水で練って小麦玉を作って云々云々。
を、教えちゃ少し未来に跳んで、教えちゃ未来に跳んでを繰り返し。
包丁で細く切ればうどん。
手延器で更に細く伸ばせば素麺。
の、出来上がり。
うどんや素麺の歴史をウィキ先生で調べたら、一応、歴史的にも遣唐使が持ち込んだものという事になっているので。
(諸説あり。ここにもうどん輸入の犯人として弘法大師伝説があるけど、まぁ棒坂・熊野の清水自体が弘法大師伝説の地なので丁度いい。)
歴史的齟齬は最低限で済むだろう。
「大和や山城国では食べられ始めている食事です。味噌や醤油で煮込んで食べてください。夏の暑い頃は、水で冷やして食べるのも美味しいですよ。幸い、この村には清水の冷水がありますし、塩なども近隣から取り寄せられているようですから、この村の新しい産業にするも良し。芋よりは栽培の手間はかかりますが米よりは楽でしょう。来年以降、いつでもお腹いっぱい食べられるといいですね。」
「主食となるものが増えるのは、喜ばしい事です。」
サンスケさんを筆頭に、土下座した瞬間時間移動!
で、手元には乾麺の素麺が何束かあるわけです。
乾麺の仕方まで教えたのは、勿論保存を考えたから。
あぁでも、谷筋に川を引いてあるから、実はあの村毎日きちんと良い風が吹く。
風に晒すだけでも良い乾物が出来るのだけど、おまけで室をこさえて上げた。
熊野の清水は温度が低く一定な清水なので、暗所を作って川を通すだけで、氷室までは行かないにしても、簡単な冷蔵庫程度にはなる。
棒坂の村は、乾物も出来れば、生鮮品の保存も出来るのです。
あとは、現地の人に頑張って貰おう。
こんな楽勝なシ◯シティ、余裕でクリアして貰おうじゃないか。
「素麺だと、茗荷ですか?大葉ですか?」
前は大嫌いだった筈の二つの野菜を、野菜室から取り出してニコニコする玉に、新しい料理を教えますかね。
「大鍋にお湯を沸かして下さい。煮麺にしますから。」
「にうめん?」
………
煮麺
いつもみたいにレシピを並べようとしたけど、単に温かい素麺というだけなので、麺お化け(麺おバカ)玉に茹で係を任せて…
「なんか言いました?或いは、なんか考えました?」
「な~んにも?」
危ない危ない。
ベースとして、温めた市販の麺つゆに、茹でた素麺を乗せるだけの普通の麺料理なので。
後は具の勝負という事になる。
生ラーメンや蕎麦やうどん、ついでにほうれん草とか、玉も茹で具合というものを、菜箸片手に見た目だけで見切る事が出来るようになって来た。
ほうれん草のお浸しが出来れば、ご家庭の主婦として一人前だよ。うん。
冷蔵庫を開ければ、蒲鉾とか煮込んだ椎茸やらあるから、後は玉にお任せしよう。
『出汁?かえし?』
知らぁん。知らないよ。
市販の麺つゆだけで、僕と玉には充分過ぎるご馳走だからね。
さて、副菜はどうしようかしらね。
さっき村で、いすゞさんて女性に山菜を貰ったけど、灰汁抜きがいるから今晩にでも回すとして。
あ、そうそう。これがあった。
サンスケさんに未開拓の叢を案内してもらっていて見つけた花があったんだ。夕顔だ。
朝顔や昼顔と比べ並べられる花だけど、夕顔は瓜科の別の植物。(朝顔と昼顔はヒルガオ科)
ウリ科だから当然、実はウリになる。
現代で栽培されている改良種に比べると、原種のこの実は結構エグ味があるのだけど、丁寧にアクを取り、弱火でじっくり煮込むとなかなかイケる。
このウリの実を薄く剥いて乾燥させたものは、はい。干瓢になります。
干瓢なんか有り難がる食材とは思えなかったけどなぁ、村の人が丁寧に煮込んでくれた、素朴な干瓢は目が覚めるほど美味しくて驚いた。
「献上品で御座います。」
って貰った素の干瓢を、現代の味醂醤油で煮込んで、海苔とご飯でクルクル巻いたら、干瓢巻きの出来上がり。
干瓢巻きって、そうそうテンションが上がる料理じゃないけど、あくまでも煮麺の付け合わせなので、これはこれでいいですよ。
干瓢巻きって、助六寿司でもメインには来ないよね。そんなサブを固めるメニューです。
あとは、冷蔵庫に玉特製ミニ胡瓜の昆布茶漬け(大家さんのアイディア)があるので、芥子醤油で頂きますか。
…ミニ胡瓜は大家さんが持って来てくれた長さ5センチ程の、僕の人差し指みたいな胡瓜。
知らない野菜って、まだまだ沢山あるなぁ。
「つるつるウマウマですよ!殿!あったかい素麺が美味しいとは、新発見です!大発見です!」
「今では虚礼廃止になったけど、昔はお中元に大量の素麺が届いてねぇ。三◯素麺(伏せ字になっていない)が、何箱も何箱も。こっちは食事付きの独身寮に住んでたから、始末に困ったなぁ。」
「つるつる。どうされたんですか?つるつる。」
「さあねぇ。いつのまにか無くなってたなぁ。実家や同僚に送りまくったけど、お返しに五島うどんや◯タイ棒ラーメン(だから伏せ字になってない)が帰ってくる有り様だった。あれはなんだったんだろう。」
「今なら玉が食べ尽くすのに。」
「納戸のカップ麺は食べ過ぎると身体に悪いですよ。」
「干瓢巻きウマウマですよ!ほんの少し、ご飯を酢飯にしたのが正解でしたね。」
「うちの女性陣は、誰も僕の話を聞いてくれないなぁ。」
★ ★ ★
因みに。
匂いに釣られた青木某さんが、僕らの少し早めのお昼ご飯に乱入して、勝手に家族の分の煮麺を茹で始めました。
…別に最初からお裾分けする予定で素麺も干瓢巻きも多めに作ってあるからいいけど。
…素麺を煮る匂いなんか、普通わかる?
「まぁ、佳奈さんですから。」
「その''佳奈さん“とやらは、最近何かの便利なフリーワードかパワーワードになっていませんかね。玉さんや。」
「だって、佳奈さんは殿のお妾さんですから。」
「実のご両親が外にいるんだから、そういう事は冗談でも言わないの!」
「なんなら、玉がお妾さんでもいいですよ。佳奈さんを本妻にどうぞ。」
「あのねぇ。妻の座をぽんぽん簡単に譲り渡さないで下さい。夫の立場という物がありませんから。って誰が夫か!」
まぁ、お茶が美味しいから、いいか。
ずずっ。
「玉から言いだしてなんですけど、良いのかな?こんなお話で締めて?」
ほえほえ。
「ほえほえ。久しぶりですほえほえ。」
★ ★ ★
「あら、このお素麺美味しいわね。」
「温かい素麺というのも良いな。」
「菊地さんとこの素麺だから、どこでどう手に入れたんだかわかりませんけど、市販の素麺より美味しいですよ。」
「……何故、男性が作られた料理を、年頃の娘が絶賛しているのかしら。女性として、それはどうなの?佳奈さん?。」
「茹でたのは私です!………多分、素麺と干瓢を作ったのは菊地さんだと思うけど。」
「あの方は何者なのですか?」
「究極の趣味人。かなぁ。資格も沢山持ってて仕事も出来る人だから、何処行っても引っ張りだこです。…?お父さんだって、…?」
「どうしましたか?お父さん?」
「この干瓢は凄いな。何が凄いのかわからないけど、多分、今はもう世間や市場に無い干瓢だぞこれ。私が子供の頃に、栃木の祖母の家で食べさせて貰った覚えがある。…どうしよう。涙が出て来た。」
「お父さん、ほら、テッシュ。」
「そういえば、私、菊地さんに全くご挨拶出来ていませんね。」
「お隣りは食休みでグッタリしてる頃だから、それは後にして下さい。」
…………
「隣の団欒が、なんだか変な件について。」
「思い切り、殿の仕業ですねぇ。」
「仕業言わない。」
★ ★ ★
「こんにちは。」
時計を見上げると、15時過ぎというところ。
どうやら引越しは終わったらしく、トラックらしいエンジン音が遠ざかっていく。
「はいはい。」
返事だけして、僕はソファでだらけたまんま。
山菜の灰汁抜きって面倒くさそうだなぁ、と鍋に開けた段階で嫌になって、まぁそのまんまだ。
蕎麦やカレーに入れると美味しいのはわかってんだけど、今日は午前中に動き過ぎた。
どうせ、青木さんだから、勝手に上がって来るし。
…だって履いてきた靴は庭に脱ぎっぱなしで、まだ僕のサンダル履いてるし。
「お邪魔しますよ。」
「はいはい。」
「…勝手に上がりますよ?」
「はいはい。」
「………迎える気、有りませんか?」
「はい。」
「はい言うなあ!」
玄関から青木さんが飛び込んで来た。
凄い速さだ。
「玉が昼寝してるから、静かにしなさい。」
「あっ。ごめんなさい。」
素直に謝れるのは、彼女の素直さを表す長所だ。
「玉ちゃんがお昼寝なんて、珍しいね。いつもクルクル働いているのに。」
「さっき食べた素麺を作るのに走り回ったからね。距離じゃなくて時間を。」
「……そんな事だろうと思ったけど。お父さんの反応がおかしかったもん。」
「そのお父さん達をほったらかしている娘さんもおかしかないかい?」
「あ“」
音を立てずに慌てて玄関に戻っていく娘さん。
くすくす。やっぱり残念さんだ。
さて。玉が起きてくる様子も無いけど、少し考えて僕も玄関に向かう事にした。
お迎えしてもいいけど、玉が寝てるのを知ったら遠慮しちゃうだろう。
そんなこんなで、僕と青木ファミリーとのお付き合いは、こんなばたばたしながら始まったわけです。
…後で「なんで起こしてくんなかったんですか!殿!」って、玉には叱られたけどね。
「わぁ。ぱちぱち。」
台所には、いつも通り玉と2人。
ちょっとした時間旅行兼作業で、棒坂の皆さんが作ってくれた白い乾麺を囲んでいた。
ええとね。
あの後、収穫した小麦を石臼で引いて小麦粉にして、塩水で練って小麦玉を作って云々云々。
を、教えちゃ少し未来に跳んで、教えちゃ未来に跳んでを繰り返し。
包丁で細く切ればうどん。
手延器で更に細く伸ばせば素麺。
の、出来上がり。
うどんや素麺の歴史をウィキ先生で調べたら、一応、歴史的にも遣唐使が持ち込んだものという事になっているので。
(諸説あり。ここにもうどん輸入の犯人として弘法大師伝説があるけど、まぁ棒坂・熊野の清水自体が弘法大師伝説の地なので丁度いい。)
歴史的齟齬は最低限で済むだろう。
「大和や山城国では食べられ始めている食事です。味噌や醤油で煮込んで食べてください。夏の暑い頃は、水で冷やして食べるのも美味しいですよ。幸い、この村には清水の冷水がありますし、塩なども近隣から取り寄せられているようですから、この村の新しい産業にするも良し。芋よりは栽培の手間はかかりますが米よりは楽でしょう。来年以降、いつでもお腹いっぱい食べられるといいですね。」
「主食となるものが増えるのは、喜ばしい事です。」
サンスケさんを筆頭に、土下座した瞬間時間移動!
で、手元には乾麺の素麺が何束かあるわけです。
乾麺の仕方まで教えたのは、勿論保存を考えたから。
あぁでも、谷筋に川を引いてあるから、実はあの村毎日きちんと良い風が吹く。
風に晒すだけでも良い乾物が出来るのだけど、おまけで室をこさえて上げた。
熊野の清水は温度が低く一定な清水なので、暗所を作って川を通すだけで、氷室までは行かないにしても、簡単な冷蔵庫程度にはなる。
棒坂の村は、乾物も出来れば、生鮮品の保存も出来るのです。
あとは、現地の人に頑張って貰おう。
こんな楽勝なシ◯シティ、余裕でクリアして貰おうじゃないか。
「素麺だと、茗荷ですか?大葉ですか?」
前は大嫌いだった筈の二つの野菜を、野菜室から取り出してニコニコする玉に、新しい料理を教えますかね。
「大鍋にお湯を沸かして下さい。煮麺にしますから。」
「にうめん?」
………
煮麺
いつもみたいにレシピを並べようとしたけど、単に温かい素麺というだけなので、麺お化け(麺おバカ)玉に茹で係を任せて…
「なんか言いました?或いは、なんか考えました?」
「な~んにも?」
危ない危ない。
ベースとして、温めた市販の麺つゆに、茹でた素麺を乗せるだけの普通の麺料理なので。
後は具の勝負という事になる。
生ラーメンや蕎麦やうどん、ついでにほうれん草とか、玉も茹で具合というものを、菜箸片手に見た目だけで見切る事が出来るようになって来た。
ほうれん草のお浸しが出来れば、ご家庭の主婦として一人前だよ。うん。
冷蔵庫を開ければ、蒲鉾とか煮込んだ椎茸やらあるから、後は玉にお任せしよう。
『出汁?かえし?』
知らぁん。知らないよ。
市販の麺つゆだけで、僕と玉には充分過ぎるご馳走だからね。
さて、副菜はどうしようかしらね。
さっき村で、いすゞさんて女性に山菜を貰ったけど、灰汁抜きがいるから今晩にでも回すとして。
あ、そうそう。これがあった。
サンスケさんに未開拓の叢を案内してもらっていて見つけた花があったんだ。夕顔だ。
朝顔や昼顔と比べ並べられる花だけど、夕顔は瓜科の別の植物。(朝顔と昼顔はヒルガオ科)
ウリ科だから当然、実はウリになる。
現代で栽培されている改良種に比べると、原種のこの実は結構エグ味があるのだけど、丁寧にアクを取り、弱火でじっくり煮込むとなかなかイケる。
このウリの実を薄く剥いて乾燥させたものは、はい。干瓢になります。
干瓢なんか有り難がる食材とは思えなかったけどなぁ、村の人が丁寧に煮込んでくれた、素朴な干瓢は目が覚めるほど美味しくて驚いた。
「献上品で御座います。」
って貰った素の干瓢を、現代の味醂醤油で煮込んで、海苔とご飯でクルクル巻いたら、干瓢巻きの出来上がり。
干瓢巻きって、そうそうテンションが上がる料理じゃないけど、あくまでも煮麺の付け合わせなので、これはこれでいいですよ。
干瓢巻きって、助六寿司でもメインには来ないよね。そんなサブを固めるメニューです。
あとは、冷蔵庫に玉特製ミニ胡瓜の昆布茶漬け(大家さんのアイディア)があるので、芥子醤油で頂きますか。
…ミニ胡瓜は大家さんが持って来てくれた長さ5センチ程の、僕の人差し指みたいな胡瓜。
知らない野菜って、まだまだ沢山あるなぁ。
「つるつるウマウマですよ!殿!あったかい素麺が美味しいとは、新発見です!大発見です!」
「今では虚礼廃止になったけど、昔はお中元に大量の素麺が届いてねぇ。三◯素麺(伏せ字になっていない)が、何箱も何箱も。こっちは食事付きの独身寮に住んでたから、始末に困ったなぁ。」
「つるつる。どうされたんですか?つるつる。」
「さあねぇ。いつのまにか無くなってたなぁ。実家や同僚に送りまくったけど、お返しに五島うどんや◯タイ棒ラーメン(だから伏せ字になってない)が帰ってくる有り様だった。あれはなんだったんだろう。」
「今なら玉が食べ尽くすのに。」
「納戸のカップ麺は食べ過ぎると身体に悪いですよ。」
「干瓢巻きウマウマですよ!ほんの少し、ご飯を酢飯にしたのが正解でしたね。」
「うちの女性陣は、誰も僕の話を聞いてくれないなぁ。」
★ ★ ★
因みに。
匂いに釣られた青木某さんが、僕らの少し早めのお昼ご飯に乱入して、勝手に家族の分の煮麺を茹で始めました。
…別に最初からお裾分けする予定で素麺も干瓢巻きも多めに作ってあるからいいけど。
…素麺を煮る匂いなんか、普通わかる?
「まぁ、佳奈さんですから。」
「その''佳奈さん“とやらは、最近何かの便利なフリーワードかパワーワードになっていませんかね。玉さんや。」
「だって、佳奈さんは殿のお妾さんですから。」
「実のご両親が外にいるんだから、そういう事は冗談でも言わないの!」
「なんなら、玉がお妾さんでもいいですよ。佳奈さんを本妻にどうぞ。」
「あのねぇ。妻の座をぽんぽん簡単に譲り渡さないで下さい。夫の立場という物がありませんから。って誰が夫か!」
まぁ、お茶が美味しいから、いいか。
ずずっ。
「玉から言いだしてなんですけど、良いのかな?こんなお話で締めて?」
ほえほえ。
「ほえほえ。久しぶりですほえほえ。」
★ ★ ★
「あら、このお素麺美味しいわね。」
「温かい素麺というのも良いな。」
「菊地さんとこの素麺だから、どこでどう手に入れたんだかわかりませんけど、市販の素麺より美味しいですよ。」
「……何故、男性が作られた料理を、年頃の娘が絶賛しているのかしら。女性として、それはどうなの?佳奈さん?。」
「茹でたのは私です!………多分、素麺と干瓢を作ったのは菊地さんだと思うけど。」
「あの方は何者なのですか?」
「究極の趣味人。かなぁ。資格も沢山持ってて仕事も出来る人だから、何処行っても引っ張りだこです。…?お父さんだって、…?」
「どうしましたか?お父さん?」
「この干瓢は凄いな。何が凄いのかわからないけど、多分、今はもう世間や市場に無い干瓢だぞこれ。私が子供の頃に、栃木の祖母の家で食べさせて貰った覚えがある。…どうしよう。涙が出て来た。」
「お父さん、ほら、テッシュ。」
「そういえば、私、菊地さんに全くご挨拶出来ていませんね。」
「お隣りは食休みでグッタリしてる頃だから、それは後にして下さい。」
…………
「隣の団欒が、なんだか変な件について。」
「思い切り、殿の仕業ですねぇ。」
「仕業言わない。」
★ ★ ★
「こんにちは。」
時計を見上げると、15時過ぎというところ。
どうやら引越しは終わったらしく、トラックらしいエンジン音が遠ざかっていく。
「はいはい。」
返事だけして、僕はソファでだらけたまんま。
山菜の灰汁抜きって面倒くさそうだなぁ、と鍋に開けた段階で嫌になって、まぁそのまんまだ。
蕎麦やカレーに入れると美味しいのはわかってんだけど、今日は午前中に動き過ぎた。
どうせ、青木さんだから、勝手に上がって来るし。
…だって履いてきた靴は庭に脱ぎっぱなしで、まだ僕のサンダル履いてるし。
「お邪魔しますよ。」
「はいはい。」
「…勝手に上がりますよ?」
「はいはい。」
「………迎える気、有りませんか?」
「はい。」
「はい言うなあ!」
玄関から青木さんが飛び込んで来た。
凄い速さだ。
「玉が昼寝してるから、静かにしなさい。」
「あっ。ごめんなさい。」
素直に謝れるのは、彼女の素直さを表す長所だ。
「玉ちゃんがお昼寝なんて、珍しいね。いつもクルクル働いているのに。」
「さっき食べた素麺を作るのに走り回ったからね。距離じゃなくて時間を。」
「……そんな事だろうと思ったけど。お父さんの反応がおかしかったもん。」
「そのお父さん達をほったらかしている娘さんもおかしかないかい?」
「あ“」
音を立てずに慌てて玄関に戻っていく娘さん。
くすくす。やっぱり残念さんだ。
さて。玉が起きてくる様子も無いけど、少し考えて僕も玄関に向かう事にした。
お迎えしてもいいけど、玉が寝てるのを知ったら遠慮しちゃうだろう。
そんなこんなで、僕と青木ファミリーとのお付き合いは、こんなばたばたしながら始まったわけです。
…後で「なんで起こしてくんなかったんですか!殿!」って、玉には叱られたけどね。
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