ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

お父さん

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「ねぇ兄さん。」
「駄目です!」
「……まだ私、何も言ってません!」
「何も言わなくてもなくてわかります。」
「おお!さすがは兄妹です。」
「スマホをこちらに向けていて、わからない人はいません。」

妹さんは、聖域の中で写メを撮ろうとしてるわけですよ。

まぁ確かに、この聖域内は、写したくなる材料に溢れているのは認めます。

…特殊過ぎる空間に成長してしまったので、まともに写るかどうか、今じゃわからないけど。

僕が昔、とある山(確か奥多摩の御嶽山だったと思う)で登山口にカメラを向けたら、どうしてもシャッターが降りなかったって経験があってね。
他を向いたら普通にシャッター降りるのでなんだろうと。
で、シャッターが降りなかった方をよく見たら、小さな石仏が苔むしていたって事がある。写されたくなかったのかなぁ。

ある種の不可思議体験なのだけど、「そのくらい大して不可思議とは思えない」人生を送っていた僕からすると、「そうですか」な程度なので。

謎の石仏相手にそうなんだから、謎の荼枳尼天が宿るここだと、何がどうなるのやら。
…神様の心霊写真とか撮れそう。
…それはもう、心霊写真の定義を考え直さないと。

「だってさ、お仏壇に飾ってある兄さんの写真、大学生の頃のまんまなんだよ。大人になった今の兄さんを、お父さんとお母さんに見せたいよ。」
「外に出てからね。」

謎の岩壁に囲まれて、謎の神社と謎の小川が流れて、川のほとりでは蜜柑と柿と枇杷が枝を折らんばかりに満開になり、謎のサイディングが貼られた謎の茶店には、干し柿が沢山ぶら下がる。
って、客観的に冷静に見ると、どこよここ。季節が滅茶苦茶だよ。

おまけに、たぬきちとフクロウ君とテンが戯れあっている訳で。
「森の賢者」と呼ばれる程、通常は大人しく物静かなフクロウが、テンの子供の肉球チョンチョンを突いて遊んでる姿なんか、世に出たらケッタイな事になるぞう?
僕は何処に住んでいるのか、説明つかないぞう?

「そっかあ。如何にも兄さんらしいし、お父さんはともかく、お母さんはニコニコ笑いそうなんだけどなぁ。」
「お袋は全部知ってた人だからいいけど、義弟君にどう説明するんだ?」

あの人は、ごく普通の、凄く真面目な人だぞ。

「兄さんだから、で通用しそうだけどねぇ。」
「割と怖いから、やめなさい」」
「はいはい。」

…………

「ね、玉ちゃん。私、ここの写真を玉ちゃんに送って貰った事あるけど。変に流出させなくて良かったよ。」
こそこそ。
「玉もたぬきち君達の写真、いっぱい撮ってます。あれ、どうにかした方がいいのかなぁ?」
こそこそ。

2人とも、聞こえてますよ。
あぁまぁ、玉も青木さんもiPhon◯使いだから、クラウドに出さなきゃ問題ないでしょ。玉のパソコンもスタンドアロン領域を設定しないと。
……そう言えば、玉のデバイスは殆ど弄った事無かったな。
アレで好奇心旺盛過ぎる人だから、変なことしてないと思うけど、大丈夫かな?

『私が知る限り、婿殿の寝顔を撮ってる事くらいですよ。』

それだけ言うと、突然現れたしずさんは姿を現さないまま消えていった。
…何この日本語?
あと、玉は僕が寝てるところで何してんの?
撮ったじゃなくて、撮ってるの?
現在進行形?


★  ★  ★

おほっ!
良い具合に凍ってるよ。

聖域の梅は、梅花と実が共存してる変態梅になっているので(浅葱の梅林は梅花だけ、でも白い花が綺麗で鶉がよく寝転んでる)、昨日収穫しておいた生梅を冷凍させておきました。

この冷凍梅を凍ったまま砂糖と一緒に、種とアクを取りながら30分も煮込めば、簡単梅ジャムの出来上がり。

玉達は、庭で大家さんと庭いじりの最中なのだけど。

「この防火仕切り、外しちゃいましょう。そうすれば、この土間も使えます。」
「佳奈ちゃんが越してくること前提だけど。良いの?」
「今更ですよ。私も玉ちゃん達に深入りしていて、抜け出せそうに無い事わかります。覚悟してます。」
「そう言えば、菅原さんも使って良いよって、仰ってましたよ。」
「あの娘もいずれ、お父さんの仲間になるのかしらねぇ。」

大家さんがとんでもない事を言い始めたけど、聴こえません。
聴こえませんたら、聴こえません。
さぁ、梅ジャムを冷やしたら、パンを焼こう。
柿の山も、早く片付けないと。
玉さんがすっかりジャム職人になってくれたので、自分が言い出した「柿ジャム」は、今日・明日には作り始めるだろうから、あとは柿を使ったメニューを考えてあげようかね。
えーと。

・ドライフルーツ
・カナッペ
・柿パン
・柿ヨーグルト

あれ?意外とぽんぽん思い浮かぶな。
柿って割と、間口・窓口広かった?

★  ★  ★

そのうち、聖域蜜柑や聖域枇杷もジャムなどやお菓子にしないとな。
とか思っていると、庭いじりを終えた女性陣がドヤドヤ上がってきて、朝ご飯になりました。

浅葱の力で瞬間冷却した梅ジャムトーストは、大好評でしたよ。 
梅ジャムって言ったら、駄菓子屋の赤くて酸っぱいのだもんね。
無添加無香料、酸っぱ甘いの威力を思い知れ!

因みに妹は、既に大家さんと昨日のうちに義理の親娘の契りを交わしたらしく、妹まで僕をお父さんと言い出しました。

熊本には、本物のお父さんが眠っているし、自分がお母さんなんだから、配偶者もお父さんな訳で。
「お前、お父さんを増やし過ぎだ。」
「大丈夫よ。そろそろ旦那様も呼び方をお父さんに変える予定だったし。ほら、浮気相手を間違え無いように、敢えて名前を呼ばないテクニックみたいに、全部お父さんで統一するから。」
「僕はお前が冗談で言っている事がわかるけど、玉と青木さんの顔が引き攣ってるぞ。」

当初は下ネタを自分から言っていた玉さんも、我が家で自分の居場所が確立し始めてからは言わなくなってるし。
多分、玉なりに僕に無理におべっかを使うよりは、素直に自分をそのまま曝け出した方が良いとこ判断したんだろうし。

酸いも甘いも嗅ぎ分けてる大家さんは、さすがにニコニコ(ニヤニヤ)笑ってるけど。

「あらら。刺激が強すぎたか。」
「お父さんと妹さんて、本当に仲良いのねぇ。」
「そりゃもう。ずっと2人きりで生きて来ましたから。そこら辺の夫婦よりわかり合ってますよ。私も自分の旦那様を、ここまで分かり合える自信ないもん。」
「ないもんじゃないだろう。自分の亭主なら分かり合いなさい。」
「そっちは一生掛けてね。今際の際までに分かればいいかなって。だって、うちのお父さんだって、多分お母さんの事、沢山知らないで、理解しきらないで逝っちゃったでしょ。だからその続きを兄さんがしてんでしょ。」
……コイツは本当に、僕の最高の理解者なんだよなぁ。
まったく。

★  ★  ★

で、本日、妹は帰郷することになった。
突然過ぎる。
来るのも突然だったけど、帰るのも突然過ぎる。

「私は、だから、兄さんに逢いに来ただけなんだってば。体験が濃過ぎてテンションの行き場が分からなかったけど。でもね。兄さんの周りには素敵な人が沢山居るし、“浅葱と石工と菊地“の家を1人ぼっちで繋いでいるんじゃ無いんだなって確認出来たから。そしたら、私は安心して熊本で主婦業に励めるのです。そろそろ赤ちゃんにも逢いたいし。」

…コイツはまだ乳幼児をほったらかしてまで、うちに来てくれたんだよな。
そこまで想われると、いくら兄でも結構重たいぞ。

「…お前は帰る家がちゃんとあるんだから、まずだね…。」
「聴こえませ~ん。」

とは言っても、成田から午後便で帰ると言う事なので、妹を車で送りながら、半日遊ぶ事になった。
で、食事を終えて帰宅する大家さんを捕まえて、みんなで玄関前で記念写真。
親孝行、親孝行。

「何なに?なんなの?私は…」
「良いから一緒に写るです!」

…何故かたまたまゴミ捨てに出てきた菅原さんも。
それにしても、菅原さんにまで強いか、玉さん。
玉に逆らえないか、菅原さん。
あとこの写真、僕の周り、全員女性…。

★  ★  ★

市川市動物園。

なんやかんやと、玉達から聞いて興味を持ったみたいで、妹がリクエストした行先です。
まぁ、成田への通り道だから良いけど。
高速ルートはこれで消えました。はい。

「また、増えた…。」
園内で会った飼育員さんは、妹・玉・青木さんをぶら下げた僕に呆れてる様だけど、発想が菅原さんと一緒だぞ。
大丈夫か、市川市職員。

飼育員さんに会釈だけすると、玉と青木さんは小動物コーナーへ一直線。
…コピーは浅葱屋敷の庭で毎日会っているけど、目の前に居るならば、コピー・オリジナル関係なく目をハートマークにして突撃します。
勿論、モルモットやミニ豚やミニ兎も2人を大歓迎している訳で。
多分、大変な事になって居るだろうけど、僕が行ったらカオスを助長するだけなので行きませんよ。ええ。ええ。

ぽん太とぽん子はどうなって居るかな?って。
物理的に妹を左腕にぶら下げたまま歩いていたら見つかったのさ。
…そりゃ別に変装とかしてないけど。

「貴方は来るたびに違う女性が増えますねぇって、え?」

ぱちゃ。

妹がすかさず飼育員さんをデジカメで撮影する。
敵もさるもの、さすがはサービス業公務員。
すかさずニッコリ笑ってVサイン。

「じゃなくて!」
「兄さんの周りってほんと、女の子ばかりね。早く1人に決めればいいのに。」
「に、兄さん?」
「菊地の妹です。はじめまして。」
「は、はじめまして。」
「因みに兄のハーレムコレクションがこちらになります。」
「……。何故、菅原が写ってるの?」
「お隣りさんなんだって。朝、ゴミ捨てに行くところを捕まえた。」
「おのれ菅原、男に興味ない振りしやがって。今度会ったら、首を刎ねる。」


ひゃんひゃん
ひゃんひゃん

「やあ、ぽん太にぽん子、元気そうだね。」

わんわん
わんわん

「あははは、おいで、ほら。」

わんわん
わんわん

「…貴女は先ず、狸達に勝たないとならないって思うの。」
「…勝ち目が無さそうな私の女性としての価値ってなんなんだろう。」

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