ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

逢いたい

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「青木佳奈、さん。」
スマホの写真を見て、妹が名前を繰り返す。
「はい、佳奈さんも殿がお助けした方です。前向きで明るくて賑やかで細やかな方ですよ。」
  
玉のスマホには、いつ撮影したのか僕も知らない写真が沢山納められていた。
そろそろパソコンにデータ移管しないといけないかもしれない。
玉がこんなに写真好きとは知らなかったなぁ。
今度デジカメも買ってあげよう。
紙焼きの写真でアルバムを作ってあげれば、いつか玉が元の時代に帰った時、いつでも、僕らとの思い出を振り返る事が出来るし、しずさんと見ながら語り合う事も出来る。

あーぶっちゃけ、オーパーツもいいとこだけど、紙ならば時の経過と共に自然に帰るだろうし。

ところで、青木さんって細やかなんだ。
「殿?殿は佳奈さんへの評価が、いつも低くはないですか?」
「そうだよ。明らかに兄さんよりずっと歳下の子じゃないの。兄さんの理想は高いのかも知れないけど、子供の精一杯を受け止めるのも、歳上の男性の甲斐性だぞ。」
「妹に“だぞ“とか言われても、可愛くないなぁ。」
「ななななななんですと!」
''な“が多い。

「佳奈さんが時々言ってますよ。自分は菊地さんに助けられて、菊地さんに色々お世話になっているから、何か菊地さんにご恩を返したいのに、私には何も出来ないし、そもそも男性とお付き合いをした事がないから、菊地さんみたいな大人の人にどう接したらいいのかわからないって。」
「それは玉だから溢した愚痴であって、僕に漏らしちゃいけない話ではないのかな?」
「大丈夫ですよ。それとなく言ってって空気を満々に出してましたから。」
「彼女は玉に何を求めているんだよ。」 
なんだか微妙に頭痛が痛い。

★  ★  ★

「青木佳奈さんっていうの。逢いたいなぁ。」
なんか逢わせたくないなぁ。
「連絡してみますね。」
して欲しくないなぁ。
とは言えないので。

「時間的に外回りの最中だから、メールにしなさい。」
多分、営業車で動いているから。
「わかりました。」
玉が積極的になった時は、一切反抗出来ない僕。
「…ねぇ、兄さん。ひょっとして玉ちゃんの尻に敷かれているの?」
「…僕はいつだって誰からも尻に敷かれてますよ。玉にだって、お前にだって。」

チロリン。
テーブルに置き放しになっている玉のスマホがなった。
玉は電話やメールを受けるのが大好き。
誰かと話すことが大好き。

「今晩、お屋敷の方に仕事終わりに直行するから、18時に迎えに来て欲しいそうです。」
「何故18時?なんなら業務終了後、女子トイレから移動出来るでしょうに。」
「兄さん?何言ってるの?」

妹が変な顔してるけど、そりゃねぇ。
不思議な指輪で、不思議な水晶玉の世界に瞬間移動出来るとか、誰が信じようか。
ましてや、それを通勤に使おうとか。
…あの野郎、隣に越して来たら、毎日水晶に帰宅するんじゃないだろうな。

「殿のご家族とお会いするので、お土産の一つも用意します。だそうですよ。」
「食い物でうちに勝てるもの、売ってないだろ。」
「ですよねぇ。」
「逆に妹が持って来た辛子蓮根をお見舞いしてやるか。」
「殿、辛子蓮根ってなんですか?」
「人の土産物を爆弾みたいに言うなぁ!」

あ、今わかった。
変に青木さんの扱いがぞんざいな理由が。
青木さんて、妹と中身一緒だ。

あれ?昔、青木さんをデカい玉と形容した事がある様な。
あれれれれ?

★  ★  ★

「こんばんは。はじめまして。」
「こんばんは。はじめまして。」

時間になったので、妹と玉を連れて浅葱の屋敷に潜ってみたら。
畑の用水路に両足をつけて、途方に暮れている22歳がいた。
その姿で妹と挨拶をし合っている。
なんだこりゃ。
ぽん子や兎や鶉がわざわざ見物に来ているところを見ると、例によって奇声を上げたと見える。

『抱っこ』
はいはい。
ぽん子を抱き上げて、目的の人に話しかけた。

「何してんの?」
「あのね。ピンヒールがずぶ濡れなの。」
見りゃわかります。
「こんばんは、佳奈さん。」 
「こんばんは、玉ちゃん。…なんで私いつも庭やお屋敷じゃなくて、畑に出るの?菊地さんだと、庭や外の道に出るのに。いつかやらかすと思っていたけど、よりによって、まさか今日かあ。」
そこら辺は、長年浅葱の力を制御する訓練をして来た賜物としか言えませんな。

「とほほほほ。」
用水路から上がる時にも足を滑らせて
スラックスの腿までずぶ濡れにしてるんだけど。
とほほほほって言う人、初めて見ました。 
「私も初めて言いました。」

ああ、まあ、なんだ。
「一度部屋に戻ってお風呂に入りなさい。」 
「…そうします。」 
「ええと。お洗濯して、乾燥機に入れて、アイロンをかければ大丈夫ですか?」
「…玉ちゃん、ありがとう。なんで私っていつも格好つかないんだろう。」
初対面の時から、割とずっこけさんですけどね。

という事だから、またねぽん子。
「わん」

★  ★  ★

「と言う感じな人です。」
結局、直ぐに部屋に引き返して、玉が青木さんを洗面所に追い立てて、剥ぎに掛かった。

「待って、玉ちゃん。ちゃんと脱ぐから、1人で脱げるからぁ。」
「ぱんつが黒って佳奈さん、お下劣です!しかもぶらじゃあは白じゃないですかぁ!下着は合わせなさい!」
「今朝は寝坊して時間が無かったの!どうして玉ちゃんは、的確にホックを外せるのよぉ!」

「………。わかった?」
「おおよそ警戒心が皆無な、危なっかしい人なのはわかった。」

やがて洗濯機を回す音がし始めて、玉が手を拭き拭き戻って来た。
「やれやれです。」
そう言うと、ハンガーに掛けたスーツの上衣にスチームアイロンをかけ始める。
スチームアイロンとか、買ったのはいいけど、そもそも使う機会が全くなかったのにな。
何故、玉は何事もなくスイスイと使いこなしているんだろう。
今、目の前で新品の箱を開けてたよな。

「玉ちゃんって、本当にいい奥さんになるよねぇ。兄さん、エッチな事出来ないのはともかく、お嫁さんにしちゃいなよ。」
「あのね。」
「玉はそうつもりなんですけどねぇ。」  
「あのね。」

「でもさ。佳奈さんって綺麗な人じゃない。何が不満なの?」
「お前は自分で何を言っているかわかっているのか?片方の女の子の前で、もう片方と二股かけろって言ってんだぞ。」 
「玉は、構わないんですがねぇ。」 
「あのね。」
「黒髪ロングで二重瞼って兄さんの好みにドンピシャなのに。」 
「あのね。」  
「良い事聞きました。最近髪が邪魔だなぁと思っていたけど、伸ばしましょう。」 
「あのね。」 

実際の所、玉には結構お高いトリートメントを(黙って通販で)買っているから、その髪は綺麗だ。
石鹸すらない時代の子だから、お湯に入れて、自らを泡だらけに出来る玉さんはいつも長風呂。髪の先から爪先まで隅から隅まで(ついでに風呂場も)ピカピカにして上がってくる。
青木さんにしても、僕が見ている限り随分テキトーな洗い方(とりあえず水に漬ける)してるけど、凄く艶々しているので、普段はきちんと手入れしてんだろう。

迂闊な事言うと、照れるか怒るか、どっちにしても面倒な事になるから黙ってるけど。

★  ★  ★

さてと。

「玉?青木さんのこったから、迂闊な格好で風呂から出て来てもおかしくないから、僕のジーンズとトレーナーでも出しておきなさい。ベルトを思い切り締めれば大丈夫でしょう。帰りは車で送るから。」
「了解しました。」

玉はさっさと箪笥の引き出しに取り掛かる。 

僕は、と言うと。
そろそろ19時。晩御飯の準備に取り掛からないと、青木さんは明日も仕事だ。
あした、明日?アレ? 

「おい、お前はどうすんだ?」
「んん?」
ぱりんこ。すっかりリラックスして煎餅を齧り出したぞ。我が妹。

「駅前のビジネスホテルでも取るわよ。玉ちゃんとの夜は邪魔しないから。」
「別に泊まっても構わんぞ、布団なら余って…
「お世話になります。」 
食い気味だ。

「と言うか、青木さんの事、もう少し教えてくださいな。なんであんなとこで水に浸かってたの?」
それは彼女の運命です。
日頃の行いです。
というか、何故か結構間抜けな目に遭う人です。

「あと、晩御飯は私も作ります。ちゃんとご家庭の主婦してるとこを認めさせます。兄さんが知らない辛子蓮根の美味しさを教えてあげます。」
「ん?マヨネーズをつける以外に何かあるの?」
「なんで一番美味しい食べ方を兄さんが知ってるの。」
ジタバタ。
大家さんには言えないけど、家賃からして多分安普請なアパートだから、暴れないの。辛子蓮根を振り回さない。

「ん。玉も勿論参戦しますよ。」
洗面所に着替えを置いて、乾燥機を動かしてた玉が割烹着に着替えてやってくる。

「わ、私も!」

青木さん。白い下着(乳当て)姿が磨りガラスに透けてるから、きちんと着替えてから洗面所を出て来なさい。
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