ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

聖域

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で、改めてこちら。聖域。
こちらも最初の頃から比べると、すっかりと変わっている。
どうせバラすならば、全部教えて仕舞おうと言う事で、水晶から水晶を渡り歩いて来ました。

荼枳尼天を祀った社は、玉の毎日の掃除と手入れで、本殿しかない小さな社だけど森厳さが日に日に深まって行く。
何しろ御祭神が荼枳尼天という、本来なら(現実の歌舞伎世界が畏れるほど)強力な「祟り神」だし。本人(本神)大抵そこらに居るし。

まぁ、毎日の玉の祝詞と供物で、僕らは祟り神と友好な関係を保っているし、何しろここは神自ら「別荘」と既定し、僕が弄った後に勝手に改良を加えているので、僕が知らない改変が次から次へと絶えない。

妹には玉をもっと知って貰う必要があると感じたので、ぽん子達に別れを告げて移動して来たんだ。

うん。社の方は基本的に変わってはいないんだ。
問題は茶店の方。
外壁にサイディング加工は施したよ。
最初は、真壁造りの土壁だったから。(それで閉じ込められていた青木さんを、ハンマー一つで救出出来たっけ)
でも、屋根瓦を葺いた覚えはないなぁ。
実際、さっき毎朝のお勤めに来た時は、板張り屋根だった筈だ。
雨が降る様子、さらさら無いし。ここ。
素人なので強度計算が出来ないから、アルミのサイディングを貼っただけでも、割とヒヤヒヤしてたのに。

僕が首を傾げている間、僕の側にいてくれたのはフクロウ君だけ。あとはみんな、社回りをドヤドヤ歩いている。
玉をガイドに、妹・たぬきち・テン親子と言う、意味不明な御一行様だ。

「ひぅ」

なるほど。白い狐が空を飛び回ってて、そしたら屋根が黒くなったと。
つまり、御狐様の仕業(おかげ)だな。

「ひぅ?」
あぁ大丈夫。隣の神社に住んでる(棲んでる)神の遣いだよ。
最近どうも主人を放置して自由に動いているみたいだけど。

「ひぅ」
「ん。ありがとう。何かあったかな。何か何か。」
お礼に身体をガサゴソ引っ掻き回したけど、何もないかあ。仕方ない。いつものジャーキーをば。
フクロウ君は完成肉食だから、ら、ら。
…何このハツカネズミ。

「ひぅ」

ハイハイ。僕の足元にハツカネズミが(沢山)走っているので、フクロウ君におやつという事で。


★  ★  ★

「ぶわああああ!」
妹うるさい。ほら、たぬきちやテン達が心配してるぞ。怯えたり驚いたりしないで心配し始めるあたり、野生動物として色々おかしいけど。
「だって、だって。玉ちゃん可哀想おおおお!」

玉がバツ悪そうに、とてとて近寄って来た。
「すいません殿。玉がここでずっと何してたか、お話ししただけだったんですが。」
「玉は普段と経験にギャップがあるからなぁ。」
「だばぢゃああああん。」
  
スカッ。

「こっち(聖域)では、玉に触れませんよ。」

スカッ。
スカッスカッ。
妹は玉を抱きしめようとして、空振りを繰り返す。
 
「聞いてない、聞こえてないみたいだぞ。」
「もう玉は大丈夫なんですけどねぇ。殿も佳奈さんも居るし。お母さんもどこかにいるし。」

スカッスカッスカッ。

「まぁ好きにさせとこう。折角だから、僕はちょっとやる事がある。」
「玉は?」
「しばらく妹に付き合ってくれ。泣くだけ泣いたら落ち着くだろう。人の親になったから、ちびっ子の不幸に敏感なんだよ。」
「ええと?」

知らないうちに、玉って精神的に成長しているような気がするなぁ。

★  ★  ★

「わん」
やあ、たぬきち。
新しい仲間とは仲良くやっているかい?
「わん!」
そっか。
一応ね、テンは荼吉尼天の眷属という事なので、川を挟んで社の方に小屋を作ったのだけど。元気そうでなにより。
子供達が枇杷の木に齧りついてるな。
良き良き。

さて、畑仕事は既に終わっているので、茶店の中に。
こちらの中に入るのは久しぶりかも。
大体、川沿いに作った休憩所でみんな(たぬきち達)と一緒にお茶を飲む毎日だから。
玉は箒とコロコロを持って、茶店の中も走り回っているんだけど。

………。
………?
何これ?
干し芋が干してある。
だぁれ?犯人?

干し芋
1.糖度の高いさつまいもを茹でる
2.両端を切り落とし、皮を剥く
3.食べやすい薄さに切る
4.天日干しにする

いや、作ろうとは思ってだんだよ。
青木さんが上総中野で買った干し芋は、網焼きにしたら美味しかったし。
ただ、天気があまり良くなかったから、蒸かし芋しか作ってなかっただけで。

因みに玉は、紅あずまの蒸かし芋が大好き。じゃがいもも大好き。
聖域の畑でいくらでも採れるので、毎日のように収穫しては、大学芋やフライドポテトにしているのです。
…よく飽きないな?
あと、折角料理を始めたなら、自分で作りなさい。だから、この干し芋の犯人は玉じゃない。

それと、こちらで山になっている饅頭は何?

お饅頭の作り方
1.薄力粉と重曹を篩にかけて粉を揃える
2.牛乳・水・砂糖と1を混ぜて練る
 皮の出来上がり
3.沸騰した湯に小豆を入れ、煮上がるたびに数回差水をする
4.小豆に砂糖を投入し、弱火で更に煮る
5.煮上がったらヘラで練る
 餡の出来上がり
6.2で出来た皮で5の餡を包んで蒸す

出来上がり。

いや、出来上がりじゃなくて。
巫女装束に、ザマス眼鏡(何故?)をかけて、指示棒をふらふらさせる女の人が立ってました。干し芋とお饅頭のレシピを解説してありがとう、いや、ありがとうじゃなくてね。

貴女でしたか、しずさん。

『何しろ、婿殿がさっぱり店を開いてくれませんので、売り物を作ってみました。』
みました。じゃありませんよ。
いや、一応ね。インスピレーションを得る為に、1人で店に入ったんです。
何しろ、毎日誰かしらに邪魔されてばかりで、ちっとも開店準備が進まない。

『その邪魔をする人は、何故女性ばかりなのでしょうね?婿殿?』
怖い怖い。その笑顔怖い。
一応、男性もいますよ。
動物園の一木さんとか、宗次郎さんとか、たぬきちとか。
『狸を男性に混ぜなさんなや。』
あぁ、そういえば、鶉も卵産んで、雄をせびってだなぁ。
『もしもし。婿殿?遠い目をしなさんな。』
何で、こんな毎日になっちゃったかなぁ。  

★  ★  ★

「それで、どこに店を開けば宜しいのですか?」
ぱんぱん。両頬っぺたを自分で叩いて、なんとか気を保ちます。
前は肝心なところで青木さんが乱入して来たので、聞いてないんだよね。
『大多喜街道と言う道をご存知ですか?』

大多喜は先日キャンプに出かけた、市町村で言うなら町に分類される自治体で、江戸時代初期に本多忠勝が治めた事で知られる、いわゆる房総の城下町だ。

本当は見学に行きたかったのだけど、玉が「なまり節」が欲しいと言ったので、寄れなかった。
そのうち、今の大多喜と昔の大多喜を見比べに行こうと思っていたんだ。
大多喜街道と言うと、現在の国道297号線。市原と勝浦を袈裟懸けに貫く房総のメインルートの一つ。
この間は木更津から内陸に入ってから通っていないけど、大多喜の盆地に入る時、正しい「葛籠」はコレですよ!って感じのヘアピンが連続するのが好き。道路が前後だけでなく、左右にまで傾く道はこないだみたいな道は嫌い。大嫌い。

『もーしもーし。婿殿?おーい。』
は。しまった。
脳内で大多喜から小湊まで旅をしていた。
「ただいま。」
『お帰りなさい。どちらへ行かれてました?』
「大多喜城から小湊まで。」
『私の言う大多喜街道は、現代の大多喜街道とは違いますよ。』

ふむ。確かに、しずさんと玉が生きていた時代(いや、今も普通に生きているんだけど)は平安時代最末期の筈だ。低山・丘陵ばかりとはいえ、既に廃道になっている道も多かろう。旧道・廃道ハイクのサイトや著作を読んだ事もある。(僕の場合、その道が現役だった頃を実際に歩けるし、寮の側を通っていた中山道も江戸時代に行って歩いた事もある)

しかし、おそらく房総の街道がきちんと整備されたのは、中世からじゃないかな。大きな勢力は、北総部や内房の古墳がある事から其方には推測されるけど、内陸はそれこそ谷筋の一つ一つに一族が根を張っていた様な感じではないかな。 
石木の集落みたいに。

『いえいえ。そんなに遡る必要は有りません。場所は、棒坂と言います。現在では廃道になっていますが、大多喜街道では難所とされていました、峠超えです。その峠に店を開いて欲しいのです。』
「最初、頼朝がどうとか言ってませんでしたかね?」
『婿殿の力を持ってするならば、優先順位を変えさせて頂きました。何しろ、神様の願いなのですよ。』

また出やがった。
気軽に出過ぎじゃありませんかね、神様。

『儂じゃないぞ』
なんか脳内に聞いた覚えのある声が響きましたけど。
だったら誰よ。

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