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第一章 開店
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あそこに行くのも2年振りくらいかな。
あの頃は、まだ妹が独身だったな。
突然、相続話が内容証明付きで弁護士から便りが来たもんだから、わざわざ熊本から上京して、実物を見に来たなぁ。
で。
「色々面倒くさそうだから、兄さんに全部任せました。なんなら私、相続放棄しま~す。」
って、全部僕に押し付けて、そのまま羽田から帰って行ったっけ。
相続登記やら相続税やら、本当に全部押し付けやがった。あの野郎。
車は房総の田舎道を走っている。
高さが数十メートルしかないとはいえ、里山が葛折に重なり続ける山道がずっと続いている。
途中から単線の線路が付かず離れず並走し、たまにクリーム色の車両が走っているのを見かけると、玉と青木さんから歓声が上がった。
そんなこんなで、上総中野と言う山あいの駅に到着。
ここからは元国鉄だった別線に連絡するので、別の黄色いディーゼル車がホームに止まっていた。
僕らは、駅前に備えつけられた、巨大な筍を模したトイレで出す物出して、一休み。
「千葉にもこんなとこ有るのねぇ。風情があって良いなぁ。」
「埼玉だと、秩父とか長瀞にあたるのかねぇ。」
「うぅんと、あっちより谷が狭いから。それに、ここよりは栄えてるし。ほら秩父は立派な市だしね。でも、低くても山が身近にある県って良いなぁ。春日部からだと、冬場は山がよく見えるけど、遠いもん。」
この方さっき、千葉県を罵倒していた覚えがありますが。
「ねぇ殿。この黒いのなんですか?」
車中で飲み終わったコーヒーの空き缶をゴミ箱に捨てていると、自販機のそばで開いていた露店の商品に玉が食いついた。
「あぁ、伽羅蕗だな。里山に生えている蕗を出汁と味醂醤油で煮付けた物だよ。味が濃くてご飯が進むんだ。」
「お兄さん。よくご存知だな。」
店番のお婆ちゃんが話しかけてきた。
今時モンペと綿入れという、絵に描いた様な農家のお婆ちゃんだ。
「ただ知ってるだけですよ。それよりこの娘は漬物に興味がある人なんですが、そっちの漬物も美味しそうですね。」
「んか?オラの畑で取れすぎた白菜を、味の素と鷹の爪と一緒にビニール袋で揉んだだけだぁ。でも美味えぞぅ。」
抵抗出来る訳がない玉の目がキラキラしてきたよ。
という訳で。
伽羅蕗・白菜漬け・地元の筍を使った手製メンマをお買い上げ。
車からノートを取ってきた玉は、素早くお婆ちゃん漬のレシピをメモりだす。
友達お化けはたちまちお婆ちゃんの孫になり、「おまけだぁ。」と、自家製鰹梅を貰っていた。
あー何というか。ごめんね、お婆ちゃん。そして、ありがとうございます。
「良いんだ。可愛いい娘は大好きだ。うちの孫もこれだけ懐いてくれたらなぁ。」
話が長くなりそうなのと、玉がじっくり聞く体制に入りかけてるので退散。
「ねぇ殿。ぽん子ちゃんとこに梅の木ありましたよね。あれで作りましょう。」
「普通の鰹節でいいのかなぁ。なまり節や胡瓜の漬物が入ってる奴もあったし。」
「なまり節!こちらにもなまり節ってあるんですか?」
「あるけど?」
あらら、玉に火が付いた。
何でも“市“で時々出品されたなまり節は、玉の家ではご馳走だったそうだ。
海に面している市川で開かれていた“市“は、当然海産物も並ぶ事があり、なまり節をはじめとする海産物加工品は、当時市川の民にとっては大人気だったんだってさ。
「帰りに買ってくか。遠回りして勝浦辺りの湊町に出れば手に入るだろう。一度食えば、家で自由に作れるし。」
「はい!です!」
という事で新プロジェクト、「鰹梅を作ろう」が、玉をリーダーに開始です。
「貴方達何やってるのよ。」
おや、青木さん。何処行ってたの?
「そこに酒屋があったから、ちょっと中覗いてたの。でも、考えてみたら、お酒も調味料もなんとでもなるのよね。という訳で、お菓子と手作り干し芋を買って来ました。干し芋は温めると美味しいの。川越名物!」
「そうなの?」
今朝掘った芋で、干し芋を作る予定なのは内緒にしとくか。
「ちょっと目を離したら、新しい三世代家族が出来上がってるし。まったくもうまったくもう。」
「良いじゃないの。仲良き事は美しき哉。」
「私も混ぜて下さい!」
ただの寂しん坊でしたか。
★ ★ ★
上総中野の駅から、南下する脇道に入って10分ほど。
この道路は勝浦や天津小湊に続く主要県道なのだけど、川が刻んだ谷に沿って、道はぐにゃぐにゃ蛇行して、川の堆積で谷が広がった所には、それぞれ家がある。
川・農家・田んぼ・里山の四点セットが続く長閑な田舎道が急に狭くなり、路面が交通量減少により整備が後回しになったままになる、そのギリギリ手前に僕が相続した土地はある。
昭和の昔は路線バスが通い、小学校があり、ヨロズヤまであったそうだけど、今じゃとっくに限界集落化してしまった谷間。
長いブロック屏と半ば錆びついた門だけが残る、その門前に僕は車を停めた。
敷地の中には、大正時代に建てられたという屋敷があったけど、解体して今はただの更地だ。昔は向かいにも、隣にも、斜向かいにも農家があったそうだけど、今は全て更地。後継も絶えて、今の所有者は県だか町だか。僕も寄付しようとして断られた。そういう辺鄙な土地だ。
切り札は切り札な訳で。
使いたくはなかったけど、念の為という事で。
持ってきた鍵と、利用中を示す木札を門にかける。
「鶴に丸」
浅葱家の家紋が彫られた木札で、少なくとも浅葱の関係者がここにいる事は、集落で人間にはわかるだろう。
いや、別に挨拶に行っても良いんだけど。ご近所様みんな絶えちゃったから、残ってるお隣さんが遠いのよ。距離も、高低差も。
まぁ、なんかあるなら、向こうから来るでしょ。
って事で、まずは荷物を運び入れる事にする。
★ ★ ★
門の先は、歩き難い大きな玉砂利の道が右に大きく傾き、広場に広がるその境には、既に実を鳥達に食べ尽くされた柿の木が立っている。
「ヲイ!」
元は庭だった広がりには、手入れは一切していないのに、芝生がまだ色を残していた。雑草が生えていないな。
「コラ?」
芝の真ん中にテントと寝袋を落とす。
昔の土間や屋敷跡はそのままだ。
焚き火は土間でしようか。
薪はそこら辺にいくらでもあるし。
「ねぇ殿?」
何だい?僕は荷物の運搬で忙しい。
「ここ、ぽん子ちゃんが居る方のお屋敷にそっくりです。」
★ ★ ★
「そりゃそうだよ。ここは浅葱家の分家だった所だ。紀州に居た本家は九州に逃げて、分家が千葉に逃げた。そういう歴史がある。」
「え?」
「はぁ。」
「元は、紀州にあった浅葱家が神主を務めていた神社を模っていたそうだ。だから、九州の浅葱家も、千葉の浅葱家も、建物は建て替えていても屋敷構えや平面図は遥か昔のままなんだってさ。」
これは墓仕舞いした時に、この集落にあった無住の菩提寺も存続が厳しくなったので、廃寺としてご本尊や過去帳などをもっと大きな寺(まぁ、日蓮宗の本拠地もいい何処だから、本山を含めて引き取り手には苦労しなかった。宗派内の政治的争いとかは知らない)に移した時に、地元国大に調査して貰ってわかったんだ。
一族的にはともかく、個人的には縁も所縁も無い土地を押し付けられたので、金になるものは金にしてもバチは当たらないだろう、という事で。
結果、金にはならないけれど、文化財的に貴重なものがゴロゴロ出てきたので、全部寄付した。持ってても始末に困るもん。
丸々寄付したので、二足三文の美術品や武具・鎧などを大学側が特別に予算を組んで買ってくれたほど。
…国立大学の予算消化は非常に厳しい筈だけれど、そこはそこ。それっぽい額をくれた。
「因みに、この家は石工さん。この集落も全部、苗字は石工さん。」
「何故石工さん?石屋さんでもしてたの?」
「アサギを50音で一文字ずつずらしたんだと。明治の頭の頃らしい。」
「何で?」
「さぁ?」
★ ★ ★
テント張りは女性陣に任せて、僕は料理係。元の花壇跡やら行けば、薪になる小枝は沢山落ちているので、あっちからこっちから集めて回る。
たちまち山になる。けど、まだ足りない。もっともっと集めよう。
元の畑の方に足を伸ばせば、枯れた芒やセイタカアワダチソウで向こう側も見えなくなっているので、鎌で根元から刈り集めてくる。
うわぁ、服が毛ボコリみたいにぐちゃぐちゃに色々ついてくる。
「役割が男女違うと思うのよね。」
「でも、殿のご飯は美味しいですから。」
「悔しいなぁ。私達、女としてのスキルが殆ど菊地さんに負けてないかなぁ。」
「玉は玉に出来る事をして、殿のお手伝いが出来れば良いので。」
「私は菊地さんとお付き合いしているわけではないので、そこまで甘える気にはなれないのよね。むしろ、一人の女として、私の女性スキルをアピールする段階だと思うのよ。でも私の無能っぷりを晒しているだけなんだもん。」
なんか、あっちで得体の知れない独白を始めているけど、ちゃんと女性でも組み立てやすいテントを買ったぞ。頑張ってテントを張りなさい。
さて、芒やセイタカアワダチソウを着火剤にして焚き火の火種を作る。
僕は別に本格キャンパーをする気は無いので、チャッカマンでお手軽火付盗賊改。
乾いた薪はたちまち燃え上がってくれた。これは面白い。もっと太い薪を集めよう。
★ ★ ★
缶ビールや缶チューハイは、水に付けて置くだけで充分冷える。
標高自体は大した事ないけど、ここは山の中。谷の中。
浅葱の屋敷と同じく、土地の西には川が流れているので、沢風が通り抜けて行くし、更には海風も登ってくる。
まだ16時過ぎだけど、日はぐんぐんと落ちて、気温もぐんぐん落ちてくる。
LEDランタンは3つと大盛りで買ってある。
キャンプストーブは本格的灯油ストーブ。10リットル携行缶一杯に灯油を用意したので、一晩付けっぱなしにしても大丈夫。
焚き火もあるしね。凍え死ぬことはないでしょ。
では、晩御飯の準備だ。
ありとあらゆる料理の基本。
まずはお湯を沸かす。
フライパンで玉葱を炒める。
さて、今日は何を作ろうか。
あの頃は、まだ妹が独身だったな。
突然、相続話が内容証明付きで弁護士から便りが来たもんだから、わざわざ熊本から上京して、実物を見に来たなぁ。
で。
「色々面倒くさそうだから、兄さんに全部任せました。なんなら私、相続放棄しま~す。」
って、全部僕に押し付けて、そのまま羽田から帰って行ったっけ。
相続登記やら相続税やら、本当に全部押し付けやがった。あの野郎。
車は房総の田舎道を走っている。
高さが数十メートルしかないとはいえ、里山が葛折に重なり続ける山道がずっと続いている。
途中から単線の線路が付かず離れず並走し、たまにクリーム色の車両が走っているのを見かけると、玉と青木さんから歓声が上がった。
そんなこんなで、上総中野と言う山あいの駅に到着。
ここからは元国鉄だった別線に連絡するので、別の黄色いディーゼル車がホームに止まっていた。
僕らは、駅前に備えつけられた、巨大な筍を模したトイレで出す物出して、一休み。
「千葉にもこんなとこ有るのねぇ。風情があって良いなぁ。」
「埼玉だと、秩父とか長瀞にあたるのかねぇ。」
「うぅんと、あっちより谷が狭いから。それに、ここよりは栄えてるし。ほら秩父は立派な市だしね。でも、低くても山が身近にある県って良いなぁ。春日部からだと、冬場は山がよく見えるけど、遠いもん。」
この方さっき、千葉県を罵倒していた覚えがありますが。
「ねぇ殿。この黒いのなんですか?」
車中で飲み終わったコーヒーの空き缶をゴミ箱に捨てていると、自販機のそばで開いていた露店の商品に玉が食いついた。
「あぁ、伽羅蕗だな。里山に生えている蕗を出汁と味醂醤油で煮付けた物だよ。味が濃くてご飯が進むんだ。」
「お兄さん。よくご存知だな。」
店番のお婆ちゃんが話しかけてきた。
今時モンペと綿入れという、絵に描いた様な農家のお婆ちゃんだ。
「ただ知ってるだけですよ。それよりこの娘は漬物に興味がある人なんですが、そっちの漬物も美味しそうですね。」
「んか?オラの畑で取れすぎた白菜を、味の素と鷹の爪と一緒にビニール袋で揉んだだけだぁ。でも美味えぞぅ。」
抵抗出来る訳がない玉の目がキラキラしてきたよ。
という訳で。
伽羅蕗・白菜漬け・地元の筍を使った手製メンマをお買い上げ。
車からノートを取ってきた玉は、素早くお婆ちゃん漬のレシピをメモりだす。
友達お化けはたちまちお婆ちゃんの孫になり、「おまけだぁ。」と、自家製鰹梅を貰っていた。
あー何というか。ごめんね、お婆ちゃん。そして、ありがとうございます。
「良いんだ。可愛いい娘は大好きだ。うちの孫もこれだけ懐いてくれたらなぁ。」
話が長くなりそうなのと、玉がじっくり聞く体制に入りかけてるので退散。
「ねぇ殿。ぽん子ちゃんとこに梅の木ありましたよね。あれで作りましょう。」
「普通の鰹節でいいのかなぁ。なまり節や胡瓜の漬物が入ってる奴もあったし。」
「なまり節!こちらにもなまり節ってあるんですか?」
「あるけど?」
あらら、玉に火が付いた。
何でも“市“で時々出品されたなまり節は、玉の家ではご馳走だったそうだ。
海に面している市川で開かれていた“市“は、当然海産物も並ぶ事があり、なまり節をはじめとする海産物加工品は、当時市川の民にとっては大人気だったんだってさ。
「帰りに買ってくか。遠回りして勝浦辺りの湊町に出れば手に入るだろう。一度食えば、家で自由に作れるし。」
「はい!です!」
という事で新プロジェクト、「鰹梅を作ろう」が、玉をリーダーに開始です。
「貴方達何やってるのよ。」
おや、青木さん。何処行ってたの?
「そこに酒屋があったから、ちょっと中覗いてたの。でも、考えてみたら、お酒も調味料もなんとでもなるのよね。という訳で、お菓子と手作り干し芋を買って来ました。干し芋は温めると美味しいの。川越名物!」
「そうなの?」
今朝掘った芋で、干し芋を作る予定なのは内緒にしとくか。
「ちょっと目を離したら、新しい三世代家族が出来上がってるし。まったくもうまったくもう。」
「良いじゃないの。仲良き事は美しき哉。」
「私も混ぜて下さい!」
ただの寂しん坊でしたか。
★ ★ ★
上総中野の駅から、南下する脇道に入って10分ほど。
この道路は勝浦や天津小湊に続く主要県道なのだけど、川が刻んだ谷に沿って、道はぐにゃぐにゃ蛇行して、川の堆積で谷が広がった所には、それぞれ家がある。
川・農家・田んぼ・里山の四点セットが続く長閑な田舎道が急に狭くなり、路面が交通量減少により整備が後回しになったままになる、そのギリギリ手前に僕が相続した土地はある。
昭和の昔は路線バスが通い、小学校があり、ヨロズヤまであったそうだけど、今じゃとっくに限界集落化してしまった谷間。
長いブロック屏と半ば錆びついた門だけが残る、その門前に僕は車を停めた。
敷地の中には、大正時代に建てられたという屋敷があったけど、解体して今はただの更地だ。昔は向かいにも、隣にも、斜向かいにも農家があったそうだけど、今は全て更地。後継も絶えて、今の所有者は県だか町だか。僕も寄付しようとして断られた。そういう辺鄙な土地だ。
切り札は切り札な訳で。
使いたくはなかったけど、念の為という事で。
持ってきた鍵と、利用中を示す木札を門にかける。
「鶴に丸」
浅葱家の家紋が彫られた木札で、少なくとも浅葱の関係者がここにいる事は、集落で人間にはわかるだろう。
いや、別に挨拶に行っても良いんだけど。ご近所様みんな絶えちゃったから、残ってるお隣さんが遠いのよ。距離も、高低差も。
まぁ、なんかあるなら、向こうから来るでしょ。
って事で、まずは荷物を運び入れる事にする。
★ ★ ★
門の先は、歩き難い大きな玉砂利の道が右に大きく傾き、広場に広がるその境には、既に実を鳥達に食べ尽くされた柿の木が立っている。
「ヲイ!」
元は庭だった広がりには、手入れは一切していないのに、芝生がまだ色を残していた。雑草が生えていないな。
「コラ?」
芝の真ん中にテントと寝袋を落とす。
昔の土間や屋敷跡はそのままだ。
焚き火は土間でしようか。
薪はそこら辺にいくらでもあるし。
「ねぇ殿?」
何だい?僕は荷物の運搬で忙しい。
「ここ、ぽん子ちゃんが居る方のお屋敷にそっくりです。」
★ ★ ★
「そりゃそうだよ。ここは浅葱家の分家だった所だ。紀州に居た本家は九州に逃げて、分家が千葉に逃げた。そういう歴史がある。」
「え?」
「はぁ。」
「元は、紀州にあった浅葱家が神主を務めていた神社を模っていたそうだ。だから、九州の浅葱家も、千葉の浅葱家も、建物は建て替えていても屋敷構えや平面図は遥か昔のままなんだってさ。」
これは墓仕舞いした時に、この集落にあった無住の菩提寺も存続が厳しくなったので、廃寺としてご本尊や過去帳などをもっと大きな寺(まぁ、日蓮宗の本拠地もいい何処だから、本山を含めて引き取り手には苦労しなかった。宗派内の政治的争いとかは知らない)に移した時に、地元国大に調査して貰ってわかったんだ。
一族的にはともかく、個人的には縁も所縁も無い土地を押し付けられたので、金になるものは金にしてもバチは当たらないだろう、という事で。
結果、金にはならないけれど、文化財的に貴重なものがゴロゴロ出てきたので、全部寄付した。持ってても始末に困るもん。
丸々寄付したので、二足三文の美術品や武具・鎧などを大学側が特別に予算を組んで買ってくれたほど。
…国立大学の予算消化は非常に厳しい筈だけれど、そこはそこ。それっぽい額をくれた。
「因みに、この家は石工さん。この集落も全部、苗字は石工さん。」
「何故石工さん?石屋さんでもしてたの?」
「アサギを50音で一文字ずつずらしたんだと。明治の頭の頃らしい。」
「何で?」
「さぁ?」
★ ★ ★
テント張りは女性陣に任せて、僕は料理係。元の花壇跡やら行けば、薪になる小枝は沢山落ちているので、あっちからこっちから集めて回る。
たちまち山になる。けど、まだ足りない。もっともっと集めよう。
元の畑の方に足を伸ばせば、枯れた芒やセイタカアワダチソウで向こう側も見えなくなっているので、鎌で根元から刈り集めてくる。
うわぁ、服が毛ボコリみたいにぐちゃぐちゃに色々ついてくる。
「役割が男女違うと思うのよね。」
「でも、殿のご飯は美味しいですから。」
「悔しいなぁ。私達、女としてのスキルが殆ど菊地さんに負けてないかなぁ。」
「玉は玉に出来る事をして、殿のお手伝いが出来れば良いので。」
「私は菊地さんとお付き合いしているわけではないので、そこまで甘える気にはなれないのよね。むしろ、一人の女として、私の女性スキルをアピールする段階だと思うのよ。でも私の無能っぷりを晒しているだけなんだもん。」
なんか、あっちで得体の知れない独白を始めているけど、ちゃんと女性でも組み立てやすいテントを買ったぞ。頑張ってテントを張りなさい。
さて、芒やセイタカアワダチソウを着火剤にして焚き火の火種を作る。
僕は別に本格キャンパーをする気は無いので、チャッカマンでお手軽火付盗賊改。
乾いた薪はたちまち燃え上がってくれた。これは面白い。もっと太い薪を集めよう。
★ ★ ★
缶ビールや缶チューハイは、水に付けて置くだけで充分冷える。
標高自体は大した事ないけど、ここは山の中。谷の中。
浅葱の屋敷と同じく、土地の西には川が流れているので、沢風が通り抜けて行くし、更には海風も登ってくる。
まだ16時過ぎだけど、日はぐんぐんと落ちて、気温もぐんぐん落ちてくる。
LEDランタンは3つと大盛りで買ってある。
キャンプストーブは本格的灯油ストーブ。10リットル携行缶一杯に灯油を用意したので、一晩付けっぱなしにしても大丈夫。
焚き火もあるしね。凍え死ぬことはないでしょ。
では、晩御飯の準備だ。
ありとあらゆる料理の基本。
まずはお湯を沸かす。
フライパンで玉葱を炒める。
さて、今日は何を作ろうか。
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