ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

金キャン△

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「ふぅむむむむむ。」
出発したのは良いけれど、具体的な場所は?と尋ねたら、運転席の真後ろから珍妙な返事が返ってきた。
ルームミラーをちょっと動かして様子を伺ってみたら、青木さんは頭を抱えている。何故?いったい何がどうした?

玉はよく意味のないオノマトペを口にするけど、本人曰く、「自分の動作に拍子をつけているんです。」だそうだ。
鼻歌にするような歌を知らないかららしい。だから、むいむい?
それに似てか知らずか、青木さん普段からはオーバーアクションが過ぎるなぁ。

「外国人か!」

と、機嫌の良さそうな時を見計らって(歳下の女の子に、我ながら情け無い)、いずれはツッコミを入れたいものだ。

「ふぅむむむむむむむむむむむ。」 

“む“が多い。

南へ行けと言うのなら、房総半島のキャンプ場だろう。
だとしたら、木更津から館山の内房地域だろうと適当に見当を付けておく。
この間、笠森観音に行った時も、後ろの2人が「飽きたぁ。」とぶぅ垂れていたけど、僕はキャンプ場の看板を幾つか確認しているんだよね。

あぁ、キャンプも良いなぁ、そのうち行こうかなぁ。などと漠然と思ってはいたんだよ。

「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ。」

おやおや、“む“しか聞こえなくなったぞ。

玉の声が聞こえないのは、地図と実風景の見比べに夢中になっているからだろう。
車や公共交通機関で遠距離高速移動が当たり前の僕らと違って、徒歩移動・死ぬまで村から出ないとかが当たり前の時代に生きてきた玉からすると、普段の何気ない移動で自分の知らない景色を見れる事が何よりも楽しいらしい。

★  ★  ★

「殿ぉ、あれなんですか?」
「これは、なんですか?」

毎日の生活の中で、テレビやタブレット画面や、僕が読み散らかした雑誌のグラビアを覗いた玉が興味を持ったものは、近場ならば出かけて行って、買う買わないや、場所なら入る入らないは別に「実物を見に行く」事を僕らはよくやっているんです。
玉の見識を広める為にもね。

「欲しいか?」
「何なのかわかったからいいです。それより駐車場に今川焼きの屋台が出てましたよ。玉にはあっちの方が遥かに魅惑的ですよ。」
「また変な言葉を覚えられちゃった。」

なんて会話がいつもの僕らです。

★  ★  ★

「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ。」
さて、後ろの“むむむ''さんはほっといて、京葉道路から館山道に移ろうかね。

★  ★  ★

「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ。」
むむむ魔人のむむむがいつまで経っても終わらないので、木更津辺りで適当に高速を降りてみよう。この先、大きな繁華街って無さそうだし。

ある程度のキャンプ用品は、浅葱の力で取り寄せられるとはいえ、何せ正式なキャンプ経験が僕には無い。
季節は初冬だし、半端な装備では掛け値無しに死んじゃうから。
テントと寝袋、あとマットレスくらいは本格的なものをきちんと買って行かないと。

「と言う事で、玉さんや。青木さんが役に立ちそうにないから、大きなホームセンターかスポーツ用品店を探しなさい。ほら、こないだ行ったハンバーグ屋と一緒にあった様なの。」

流山の洋服店で、玉が女子高生にお持ち帰りされそうになった日の帰りに、うまはし?まばし?の店を見つけてましたな。

「むむむ。」  
「はい!玉にお任せください。」
「むむむ。」

「ええと、3つくらい大きいの、ありました。」
僕なんかより、よっぽどデバイスを使いこなしている1,000年前の巫女さんの案内で、巨大アウトレットパークに有名登山店が入っている事を発見しナビ入力。ついでに食材も買えそうだし。
ここで全部揃いそうだ。

「むむむ。」

…あとは、泊まるとこですな。

★  ★  ★

「高あぁぁぁぁぁい!」
スマホと雑誌を見比べて、1時間くらいむむむとしか言っていなかった22歳が、雑誌を放り投げたのは、アウトレットパークの駐車場の中だった。

「あぁしまった。買った雑誌が後ろ行っちゃった。」
うちの車のラゲッジルームはすっからかんだから、外からハッチバックを開けないと取れないよ。
座席の後ろに乗り出して、あたふたしてるけど。
あと、尻が邪魔でバックミラーが見づらい。駐車しにくい。

「佳奈さんおかえりなさい。」
「ただいま玉ちゃん。…ここ何処?」
「君去らずのおっきいお店です。」 
「君去らず?」

玉は日本武尊伝説を知っているようだ。

「君去らず 袖しが浦に立つ波の その面影を見るぞ悲しき 、です。」
「?????。」
なんだろう。玉は職業柄もあるのか、記
紀の知識は現代人より豊富だなぁ。

「降りるぞ。買い物だ買いもん!」
「????あれ?ここ知ってるかも。テレビで見た事ある。」 
「アクアラインと並んで、木更津復興の原動力になったらしいな。」
「木更津?いつの間に木更津に来ちゃったの?」
「佳奈さんがむむむって言ってる間にです。」
「何をそんなに悩んでたんだ?」
「これ見てこれ!」

青木さんにスマホを押し付けられた。
ふむふむ。キャンプサイト利用料金、20,000円。

「温泉旅館に泊まるんじゃないのよ。テント泊で20,000円って何よ!ブームだからってボッてんじゃないわよ。」
「こりゃグランピングか、コテージ利用だなぁ。ほら、お風呂までついてる。」
「そんなんキャンプとは言わない!甘ったれるな!」

おや、青木さん意外と体育会系?

「高いっつうの!私が昔、秩父でキャンプした時は一晩2,000円だったっつうの!舐めんな千葉県!」

地域格差にオカンムリなのかな?

★  ★  ★

「うぎゃあ!」
「うぎゃあ!」
「2人ともうるさい。」

この時期の登山用品店の店頭は、当然冬山登山用のごっついのばかりなので、当然お値段もごっつくなります。
家主の僕が納得して買っているのに、扶養家族とお友達が口を出すんじゃありません。

雪山4人用テントに冬山用寝袋、ふっかふかのマットレスに、キャンプストーブ。

彼女達の安全を考えて、それなりに満足の行くレベルを考えると、まぁこのくらいかなぁ。

「このくらいかなぁじゃない!私はレンタルで済まそうと思ってたのに!」
「昨日ちょうど失業保険が出たんだ。半分くらい残ってるから平気。」
「…失業保険って、現役時代からすると当然目減りしてるわよね。私の給料と大差ない買い物して、代金が半分?つまり、私の給料は菊地さんの半分より遥かに下…。」
「ついでに寮に住んで、三食社食を利用してたから、金が減らない減らない。」
「ムキー!」

ムキーって本当に口に出す人、初めて見ました。

「私も初めていいました。いや、うなぎの時にある程度はわかっていたけど。確かにこりゃ、働け言っても働かないわ。」
「うむ。」
「威張るな!」
「うむ。」
「いや、玉ちゃんは。…まぁいいか…。」

★  ★  ★

「それで、泊まるとこは決めた?」
「ちょっと待って下さい。一番安い所で5,000円なんですけど。」
「あのぅ。玉はあまり無駄遣いしたくないです。」

これはいかん。玉は基本的に貧乏性な事を忘れてた。
玉の心に負担をかけさせちゃいかんな。

「ふむ。」
ならば、切り札をまた一枚切るか。
「大多喜の方に土地を持ってるんだ。そこ行こうか。」
「何だ、当てはあるんじゃな、い?………私の聞き違いじゃなければ、土地を持ってる?」

あ、2人とも固まった。

「こっちに親族が昔居てね。その最後の方が亡くなる時に、相続させられたんだ。田舎過ぎて売れなくて、仕方なく更地にして固定資産税だけ払ってたんだよ。大した額じゃないけど。」
「絶句。絶句って言って絶句するわ。貴方一体何者なのよ。」
「それなりの会社で、それなりの給料貰って、それなりの資格も持っていたからね。少子化で跡取りが居ないご時世、若いってだけで貰っても迷惑な相続させられる事、珍しくもないぞ。」
「私、というか青木一族の庶民ぶりに気後れしちゃう…。」
「うちも普通に一般庶民だよ。親が早逝しちゃって、妹の面倒を見ないとならないし、それなりに努力したから、それなりに見入りがあるだけだよ。」
「ぐうの音も出ません。玉ちゃん、これ逃しちゃ駄目よ。」
「玉は殿から離れる気はありませんよ。」

…いつまで経っても、キャンプが始まらないなぁ。
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