77 / 231
第一章 開店
遊ぼう
しおりを挟む
その晩は、7時過ぎに呼び鈴が鳴った時から動き始めた。
「こんばんは。」
「いらっしゃいませ、佳奈さん。」
あのガチャガチャした日の、ほんの翌日の事です。
んーと。まぁ、僕らは毎日大体ガチャガチャしてんだけど、今日は今日でカオスな夜になる事は目に見えてますな。
★ ★ ★
「僕はしずさんに、玉が心から笑える日を作って欲しいと頼まれているのに、何故か逆に玉の心に負担をかけてばかりだなぁ。」
と、しずさんと逢ったあの後ポツンと呟いた事が発端だった。
「そうだった!菊地さんから相談受けてたよね!」
「………え?玉はほら、この通り元気ですよ?」
「駄目だよ玉ちゃん。玉ちゃんを泣かしたり悲しませたりは絶対にさせないって、私と菊地さんとで決めたの!」
「わん!」
「ひぅ!」
「はぁ?」
まぁそれでも、すっかり感情を失っていた(本人とお母さん申告。今思うと、初対面の時からぎゃあぎゃあ賑やかに驚いてた様な)事を考えると、悲しめる様になったのも一つの成長と言う事で。
★ ★ ★
つうわけで、明後日からの土日を有効利用する為に金曜の夜に集まろうって話になりました。
普段は北総線を使って帰宅するOLさんが、京成線で帰って来た?訳です。
★ ★ ★
「なんなら泊まって行きませんか?そうすれば時間を有効に使えます!」
「えっと玉ちゃん。それはちょっと。菊地さんちだよ。男性の部屋だよ!」
「んん?僕なら別に構わんぞ。」
何しろ僕には、謎の不思議別荘があるから。
「…何故この男は、うら若き女性が泊まりに行く事を躊躇する女心を蔑ろにするんだろ。今ちょっとドキドキした私のときめきを返せ!」
「そうは言っても、年相応にそれなりに経験を積んだおじさんなので。僕がドキドキするかって言うと正直それはそれで。既に同居してる女の子がいるから。時々、その女の子がお風呂上がりに下着姿でそこら辺をウロウロしてるし。」
「た~ま~ちゃ~ん?」
「別に玉は殿の嫁なので、今更見られたところで減らないので。それにほら、殿のドキドキ指数も全く上がらないし。」
「布団なら来客用を出せばいいから。玉と一緒に寝るもよし、別々に寝るもよし。」
「菊地さんはどうするのよ?」
「僕は浅葱の屋敷にでも行って寝てるよ。客間の押入に布団あったし。」
「そういやそうか。いやいや、主人を追い出して客が寝室を占領するとか無いでしょ。」
★ ★ ★
なんて会話を昨日と今日を行ったり来たり。
で、なし崩しにお泊り会になりました。
「一応、下着とか買って来たから。」
そんな報告を、真っ赤になった顔でされても、僕はどうしたらいいのよ。
「あとこれ!人参と大根の種!玉葱の種はスーパーに売ってなかった!」
そりゃ玉葱は苗だし。
て言うか、なんか一瞬で機嫌損ねてない?
「殿。佳奈さんは女性ですよ。」
「???。玉も女性だよ?」
「ダメだこりゃ。です。」
「はぁ?」
「確かにこの人はもう…。」
なんで僕が責められてるの?
★ ★ ★
「ねぇ玉ちゃん。この大学芋ナニ?」
台所のテーブルに置いてあるタッパーをパタパタ持ってます。
「殿お手製です。たぬきち君の畑で育ったお芋さんで作りました。玉もお手伝いしました。今夜は佳奈さんが晩御飯を作ってくれるって言うので、いつもより遅くなるので、ちょっと摘みました。」
「大学芋をおやつに作っちゃうご家庭を私は初めて見ました。」
まぁ、僕だし。
「まったく、こんなご家庭で、どんな晩御飯を作ったらいいのよ。」
「肉なり野菜なり魚なりは冷蔵庫に適当に入っているから、自由に使っていいよ。欲しい食材があるなら取り寄せるから(浅葱の力で)。」
「菊地さんて一家に一つあると便利よね。」
「だから殿は買い物に行かないんです。」
「まったくこの家は…ぶつぶつ。うわぁ何このお肉。分厚いし、サシがたっぷり入っているし。…金目鯛やうなぎがチルド室に転がってるし…何これ?ルッコラ?こんな野菜何に使えばいいのよ。」
「それは、“てれび“を見た玉のお願いで殿が買って来てくれました。」
「買って来たんだ…。」
「買った事も食った事もない食材は、まず買って味合わないと、浅葱の力でも取り寄せられないよ。」
★ ★ ★
とか、なんとか言いながら。
実は昼間のうちに、青木さんとはメールで打ち合わせてたんです。
『玉ちゃんの好き嫌い教えて。』
『玉が嫌いなものは、大葉と茗荷。家の裏や社の隅に勝手に生えるから、1人でそればかり食べてたからだって。』
『そんな悲しいバックエピソードは要らないよう。デスクで泣いちゃいそう。』
『玉の好きなものは、野菜の甘みと塩気かな。人参やとうもろこしのソテーは、玉が僕から料理を習い始めて一番最初に覚えた料理だし。漬物の塩加減は毎日微調整してるし、聖域で獲ったヤマメの塩焼きを、その場で美味しそうに食べてる。ワタも普通に食べてるよ。』
『何その、洋風さと和風さとワイルドさは。』
なんやかんや、なんやかんや。
『決めた。これとこれ。玉ちゃんに食べさせた事、ありますか?』
『無いな。言い方換えるとインスタントと脂ものだから、うちじゃあまり作らない。玉は煮物や脂を落とした炭火焼きが好きだし。』
『炭火焼きってそれ、もう家庭料理じゃないよう。あのね。私は一人暮らし初めてまだ1年ちょっとなの。万能さんな菊地さんちの物差しで測らないで。』
『はいはい。楽しみにしてますよ。』
てなわけで、野菜の種と一緒に青木さんが持ってきたのは、白と青がデザインされた箱。
「これ、貰うね。あと、人参と玉葱とじゃがいもと。」
今日種を持って来た野菜ばかりですが、僕がとっくに聖域で育てている野菜ばかりですな。
「うるさい。私は私の畑で育てたいの!」
はいはい。
あと僕が提供したのは厚切りベーコン。
しっかり塩気の効いた逸品です。
いや、単に昔、お歳暮で貰った80g1,000円相当の超高級ハム・ベーコン・ソーセージセット(一応、有名企業で渉外やってたおかげで、取引先から送られて来ました)の記憶を流用してます。
値段を聞いたら多分白眼剥くから内緒。
と言う訳で。
玉葱は炒めるだけで、人参とじゃがいもは煮るだけで甘く甘~くなる聖域品を使って、お馴染み白青パッケージのルーを使ったクリームシチュー。
ざく切りのキャベツ、聖域産とうもろこし・人参・木耳を厚切りベーコンの塩気で味わう野菜炒め。
浅葱の山で採ってきた真竹の筍の味噌汁は僕が作り、玉特製糠漬けも付けた、何がなんだか統一感の無いご飯の出来上がり。
なんだかよくわからないけど、青木さんは鼻息をむふーっと荒くし出したのと、玉が大喜びしてるからいいか。
★ ★ ★
明日の予定を、ああでも無いこうでも無いと話始めた2人をよそに、僕は水晶に潜ります。
「玉は9時10時には寝るから、あまり夜更かしさせないように。お風呂は明日洗濯に使うから湯はそのままで。タオルをしまってある場所は玉が管理してるので。」
「はーい。」
「佳奈さん、多分、玉は寝ちゃうので。」
「じゃ、ベッド行こうベッド。ベッドの中で考えようよ。」
えぇと。観光ガイドを青木さんが山ほど鞄から出したよ。
まぁいいや。
「青木さん?どこかでしずさんが見てるからね。玉に無理させないでね。」
「は、はーい…。」
★ ★ ★
水晶の中は基本的に日は暮れない。みたい。いつ行っても昼間。
「わん?」
いつもと違う時間に1人で現れた僕の姿に、ぽん子が小さな尻尾を振りながら、ついでに首を傾げながら迎えてくれた。
「あぁぽん子か。いや、今日はこっちで寝ようかと。…一緒に来るかい?」
「わふ」
首を振って否定されちゃった。
私、女の子だよ?
いや、女の子だよって言われても。
人間が住むエリアの屋敷には上がらないってのが、彼女のポリシーらしい。
仕方ない。1人で寝るか。
じゃあね。おやすみ、ぽん子。
「わふふ」
客間に上がって押入から、なんだか妙に立派で厚いけど重たい綿布団と、やたらと大きな蕎麦殻枕を取り出した。
襖を閉めれば欄間から溢れる明かりがいい常夜灯代わりにちょうどいい。
天井が高い分、影になる体積?容積?が多くて夜でなくとも寝るのに邪魔にならない。
うんうん。悪くない。
その言えば、1人で寝るのも久しぶりだなぁ。
市川に来てからは、ずっと玉が一緒だったし。
玉を心から楽しませようと言う事で、差し当たって青木さんが紹介してくれた動物園であんなになって。
同じく青木さんのリクエストで、佐倉に行ったらこんなになって。
荼枳尼天の指示で笠森観音に行ったらそうなった。
ほんとに僕はただ流されてるな。
などと思っている間に、全く違う寝所だと言うのに、僕は割と直ぐに眠りに堕ちた。ぐう。
★ ★ ★
「わんわん!」
うるさいなぁ。犬なんか飼ってたっけ。
あぁこの甲高さは犬じゃないか、狸か。
たぬきちか、ぽん子か。
ぐう。
「お~きろ~!」
二度寝しようとしたら青木さんに起こされた。
布団を剥がれた。僕が裸で寝る習慣があったらどうすんの?
「う~ん。もっと彼女みたいに起こしてくれ。」
「なななななななななな、何言ってるのかな?大人しく起きなさい!」
なが多い。
「う~ん。玉はもっと穏やかに起こしてくれるのになぁ。」
「実質奥さんな玉ちゃんと違って、私は恥ずかしいの!」
「だったら玉が起こしてくれれば良いのに。」
「玉ちゃんなら外で、ぽん子ちゃん達と遊んでるよ。」
「あの娘は時々、平気で僕を蔑ろにする事があるなぁ。」
などと、寝惚け眼で布団を片付けて外に出た。
……なんだろう。茶色い塊が3つ庭を走り回っている。
庭に降りると、茶色い塊が此方に走り寄って来た。
1つはぽん子だけど、残り2つは鶉に見えるなぁ。
「わん」
さっき山から降りてきた新しい住人なの。
そうですか。まだ頭がはっきりしませんが、まぁこれから宜しく。
2羽の鶉はピョコンと頭を下げると、また元気に芝生を駆け出した。
抱っこをねだるぽん子を抱き上げると、やっと周りを見渡す余裕が出来た。
さて、玉は?
「きゃはははは。」
うさぎが増えてるなぁ。
うさぎに埋もれてる玉がいるなぁ。
しかもうさぎは、動物園にいたミニうさぎじゃなくて、フルサイズの茶うさぎだなぁ。つまりは野うさぎかぁ。
「あ!殿!おはようございます。あと動けませ~ん。」
なんだかなぁ。
「こんばんは。」
「いらっしゃいませ、佳奈さん。」
あのガチャガチャした日の、ほんの翌日の事です。
んーと。まぁ、僕らは毎日大体ガチャガチャしてんだけど、今日は今日でカオスな夜になる事は目に見えてますな。
★ ★ ★
「僕はしずさんに、玉が心から笑える日を作って欲しいと頼まれているのに、何故か逆に玉の心に負担をかけてばかりだなぁ。」
と、しずさんと逢ったあの後ポツンと呟いた事が発端だった。
「そうだった!菊地さんから相談受けてたよね!」
「………え?玉はほら、この通り元気ですよ?」
「駄目だよ玉ちゃん。玉ちゃんを泣かしたり悲しませたりは絶対にさせないって、私と菊地さんとで決めたの!」
「わん!」
「ひぅ!」
「はぁ?」
まぁそれでも、すっかり感情を失っていた(本人とお母さん申告。今思うと、初対面の時からぎゃあぎゃあ賑やかに驚いてた様な)事を考えると、悲しめる様になったのも一つの成長と言う事で。
★ ★ ★
つうわけで、明後日からの土日を有効利用する為に金曜の夜に集まろうって話になりました。
普段は北総線を使って帰宅するOLさんが、京成線で帰って来た?訳です。
★ ★ ★
「なんなら泊まって行きませんか?そうすれば時間を有効に使えます!」
「えっと玉ちゃん。それはちょっと。菊地さんちだよ。男性の部屋だよ!」
「んん?僕なら別に構わんぞ。」
何しろ僕には、謎の不思議別荘があるから。
「…何故この男は、うら若き女性が泊まりに行く事を躊躇する女心を蔑ろにするんだろ。今ちょっとドキドキした私のときめきを返せ!」
「そうは言っても、年相応にそれなりに経験を積んだおじさんなので。僕がドキドキするかって言うと正直それはそれで。既に同居してる女の子がいるから。時々、その女の子がお風呂上がりに下着姿でそこら辺をウロウロしてるし。」
「た~ま~ちゃ~ん?」
「別に玉は殿の嫁なので、今更見られたところで減らないので。それにほら、殿のドキドキ指数も全く上がらないし。」
「布団なら来客用を出せばいいから。玉と一緒に寝るもよし、別々に寝るもよし。」
「菊地さんはどうするのよ?」
「僕は浅葱の屋敷にでも行って寝てるよ。客間の押入に布団あったし。」
「そういやそうか。いやいや、主人を追い出して客が寝室を占領するとか無いでしょ。」
★ ★ ★
なんて会話を昨日と今日を行ったり来たり。
で、なし崩しにお泊り会になりました。
「一応、下着とか買って来たから。」
そんな報告を、真っ赤になった顔でされても、僕はどうしたらいいのよ。
「あとこれ!人参と大根の種!玉葱の種はスーパーに売ってなかった!」
そりゃ玉葱は苗だし。
て言うか、なんか一瞬で機嫌損ねてない?
「殿。佳奈さんは女性ですよ。」
「???。玉も女性だよ?」
「ダメだこりゃ。です。」
「はぁ?」
「確かにこの人はもう…。」
なんで僕が責められてるの?
★ ★ ★
「ねぇ玉ちゃん。この大学芋ナニ?」
台所のテーブルに置いてあるタッパーをパタパタ持ってます。
「殿お手製です。たぬきち君の畑で育ったお芋さんで作りました。玉もお手伝いしました。今夜は佳奈さんが晩御飯を作ってくれるって言うので、いつもより遅くなるので、ちょっと摘みました。」
「大学芋をおやつに作っちゃうご家庭を私は初めて見ました。」
まぁ、僕だし。
「まったく、こんなご家庭で、どんな晩御飯を作ったらいいのよ。」
「肉なり野菜なり魚なりは冷蔵庫に適当に入っているから、自由に使っていいよ。欲しい食材があるなら取り寄せるから(浅葱の力で)。」
「菊地さんて一家に一つあると便利よね。」
「だから殿は買い物に行かないんです。」
「まったくこの家は…ぶつぶつ。うわぁ何このお肉。分厚いし、サシがたっぷり入っているし。…金目鯛やうなぎがチルド室に転がってるし…何これ?ルッコラ?こんな野菜何に使えばいいのよ。」
「それは、“てれび“を見た玉のお願いで殿が買って来てくれました。」
「買って来たんだ…。」
「買った事も食った事もない食材は、まず買って味合わないと、浅葱の力でも取り寄せられないよ。」
★ ★ ★
とか、なんとか言いながら。
実は昼間のうちに、青木さんとはメールで打ち合わせてたんです。
『玉ちゃんの好き嫌い教えて。』
『玉が嫌いなものは、大葉と茗荷。家の裏や社の隅に勝手に生えるから、1人でそればかり食べてたからだって。』
『そんな悲しいバックエピソードは要らないよう。デスクで泣いちゃいそう。』
『玉の好きなものは、野菜の甘みと塩気かな。人参やとうもろこしのソテーは、玉が僕から料理を習い始めて一番最初に覚えた料理だし。漬物の塩加減は毎日微調整してるし、聖域で獲ったヤマメの塩焼きを、その場で美味しそうに食べてる。ワタも普通に食べてるよ。』
『何その、洋風さと和風さとワイルドさは。』
なんやかんや、なんやかんや。
『決めた。これとこれ。玉ちゃんに食べさせた事、ありますか?』
『無いな。言い方換えるとインスタントと脂ものだから、うちじゃあまり作らない。玉は煮物や脂を落とした炭火焼きが好きだし。』
『炭火焼きってそれ、もう家庭料理じゃないよう。あのね。私は一人暮らし初めてまだ1年ちょっとなの。万能さんな菊地さんちの物差しで測らないで。』
『はいはい。楽しみにしてますよ。』
てなわけで、野菜の種と一緒に青木さんが持ってきたのは、白と青がデザインされた箱。
「これ、貰うね。あと、人参と玉葱とじゃがいもと。」
今日種を持って来た野菜ばかりですが、僕がとっくに聖域で育てている野菜ばかりですな。
「うるさい。私は私の畑で育てたいの!」
はいはい。
あと僕が提供したのは厚切りベーコン。
しっかり塩気の効いた逸品です。
いや、単に昔、お歳暮で貰った80g1,000円相当の超高級ハム・ベーコン・ソーセージセット(一応、有名企業で渉外やってたおかげで、取引先から送られて来ました)の記憶を流用してます。
値段を聞いたら多分白眼剥くから内緒。
と言う訳で。
玉葱は炒めるだけで、人参とじゃがいもは煮るだけで甘く甘~くなる聖域品を使って、お馴染み白青パッケージのルーを使ったクリームシチュー。
ざく切りのキャベツ、聖域産とうもろこし・人参・木耳を厚切りベーコンの塩気で味わう野菜炒め。
浅葱の山で採ってきた真竹の筍の味噌汁は僕が作り、玉特製糠漬けも付けた、何がなんだか統一感の無いご飯の出来上がり。
なんだかよくわからないけど、青木さんは鼻息をむふーっと荒くし出したのと、玉が大喜びしてるからいいか。
★ ★ ★
明日の予定を、ああでも無いこうでも無いと話始めた2人をよそに、僕は水晶に潜ります。
「玉は9時10時には寝るから、あまり夜更かしさせないように。お風呂は明日洗濯に使うから湯はそのままで。タオルをしまってある場所は玉が管理してるので。」
「はーい。」
「佳奈さん、多分、玉は寝ちゃうので。」
「じゃ、ベッド行こうベッド。ベッドの中で考えようよ。」
えぇと。観光ガイドを青木さんが山ほど鞄から出したよ。
まぁいいや。
「青木さん?どこかでしずさんが見てるからね。玉に無理させないでね。」
「は、はーい…。」
★ ★ ★
水晶の中は基本的に日は暮れない。みたい。いつ行っても昼間。
「わん?」
いつもと違う時間に1人で現れた僕の姿に、ぽん子が小さな尻尾を振りながら、ついでに首を傾げながら迎えてくれた。
「あぁぽん子か。いや、今日はこっちで寝ようかと。…一緒に来るかい?」
「わふ」
首を振って否定されちゃった。
私、女の子だよ?
いや、女の子だよって言われても。
人間が住むエリアの屋敷には上がらないってのが、彼女のポリシーらしい。
仕方ない。1人で寝るか。
じゃあね。おやすみ、ぽん子。
「わふふ」
客間に上がって押入から、なんだか妙に立派で厚いけど重たい綿布団と、やたらと大きな蕎麦殻枕を取り出した。
襖を閉めれば欄間から溢れる明かりがいい常夜灯代わりにちょうどいい。
天井が高い分、影になる体積?容積?が多くて夜でなくとも寝るのに邪魔にならない。
うんうん。悪くない。
その言えば、1人で寝るのも久しぶりだなぁ。
市川に来てからは、ずっと玉が一緒だったし。
玉を心から楽しませようと言う事で、差し当たって青木さんが紹介してくれた動物園であんなになって。
同じく青木さんのリクエストで、佐倉に行ったらこんなになって。
荼枳尼天の指示で笠森観音に行ったらそうなった。
ほんとに僕はただ流されてるな。
などと思っている間に、全く違う寝所だと言うのに、僕は割と直ぐに眠りに堕ちた。ぐう。
★ ★ ★
「わんわん!」
うるさいなぁ。犬なんか飼ってたっけ。
あぁこの甲高さは犬じゃないか、狸か。
たぬきちか、ぽん子か。
ぐう。
「お~きろ~!」
二度寝しようとしたら青木さんに起こされた。
布団を剥がれた。僕が裸で寝る習慣があったらどうすんの?
「う~ん。もっと彼女みたいに起こしてくれ。」
「なななななななななな、何言ってるのかな?大人しく起きなさい!」
なが多い。
「う~ん。玉はもっと穏やかに起こしてくれるのになぁ。」
「実質奥さんな玉ちゃんと違って、私は恥ずかしいの!」
「だったら玉が起こしてくれれば良いのに。」
「玉ちゃんなら外で、ぽん子ちゃん達と遊んでるよ。」
「あの娘は時々、平気で僕を蔑ろにする事があるなぁ。」
などと、寝惚け眼で布団を片付けて外に出た。
……なんだろう。茶色い塊が3つ庭を走り回っている。
庭に降りると、茶色い塊が此方に走り寄って来た。
1つはぽん子だけど、残り2つは鶉に見えるなぁ。
「わん」
さっき山から降りてきた新しい住人なの。
そうですか。まだ頭がはっきりしませんが、まぁこれから宜しく。
2羽の鶉はピョコンと頭を下げると、また元気に芝生を駆け出した。
抱っこをねだるぽん子を抱き上げると、やっと周りを見渡す余裕が出来た。
さて、玉は?
「きゃはははは。」
うさぎが増えてるなぁ。
うさぎに埋もれてる玉がいるなぁ。
しかもうさぎは、動物園にいたミニうさぎじゃなくて、フルサイズの茶うさぎだなぁ。つまりは野うさぎかぁ。
「あ!殿!おはようございます。あと動けませ~ん。」
なんだかなぁ。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる