ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

推測

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「狸が落ちて来ました?」
いきなり山から小僧、じゃなくて狸が降って来た事には、玉さんも混乱気味で、語尾が疑問系になってる。

玉の声に気がついたぽん子が、玉にも挨拶と愛想を振りまこうと、僕の腕の中でジタバタするけど、ちょっと待ちなさい。
下は川だよ。

僕の呼び掛けにピタリと動作を止めて、ぽん子はそうっと下をみる。
さすがは温室(3食昼寝付きの動物園)育ちのぽん子は、濡れるのが嫌みたいで僕にがっしりしがみついた。
「くふぅ」
痛いよ。

ジャブジャブ。
川を渡って狸を玉に渡す。

「へ?なんですか?」
「この仔はぽん子だよ。玉に挨拶したがっている。」
「わん!」
「へ?なんでぽん子ちゃんがここにいるの?」
「わんわん」
「ええっと。何が何だかわからないけど、こんにちは、ぽん子ちゃん?」
「わん」

さて、筍を何本か収穫しておこうかな。
夜は筍とワカメのお味噌汁にしようっと。

★  ★  ★

筍は皮を剥いて、茹でて灰汁抜きをしておく。
何も無いところからいきなり鍋やら焚き火台やら出したので、ぽん子はビックリしてるけど、これは最初に荼枳尼天にご馳走した時の道具をそのまま流用。

その間に、と。
玉が描いた線に沿って、指をこう空中でなぞると、その軌道に沿って地面が陥没していく。  

ぽん子は白目を剥いているけど。

「殿のする事を気にしちゃいけませんよ。」 
って、玉の謎アドバイスに気を取り直してくれた様だ。
って言うか、あれだけ僕にべったりだったぽん子が、もう玉にべったりになっている辺りは、さすが仲良しお化け巫女。
笑っちゃうね。

丸い池と棒の川という、ペロペロキャンディみたいな雛形が出来たので、池の中心部に向けて、指をぐるぐる回す。
ぐるぐるに合わせて地面もぐるぐる掘れて行き、ぐるぐる水が湧き出した。
ぐるぐる。

井戸とかだと水が溜まるのに一昼夜とかかかるけど、なんでもありな水晶の中で、土地神の祝福がある土地で、なんでもありな僕が好き放題してる訳で。

はい、水があっという間に溜まりました。池から溢れた水は、川(用水路)を伝い、川へは1メートルほどの高さで滝になり落ちてます。
聖域の方は、荼枳尼天が勝手に数十センチの滝に改造してたけど(「せせらぎ的にはこっちが好みじゃ。」という理由で)、こっちは水量が少ない分、それはそれで水音が心地良い。

★  ★  ★

「あのねあのね。貴方が。ううん、貴方達が、今日は来ないのかなぁ、雨うるさいなぁ、治ったら治ったで兄さん鬱陶しいなぁとか、不貞腐れてたら、なんか足元がなくなって、目をぐるぐる回していたら、貴方のとこいたの。」

とりあえず、筍の灰汁抜きも終わり緋毛氈を池のほとりに敷いてぽん子の話を聞いてみたら、大体こんな感じだった。

「でもね、兄さんのそばに私まだいるの。貴方のそばにも私いるの。わかるの。私、2人いるの。」

何言ってるんだかわからない。
そのまま伝えたら、玉の表情が消えて顔に大きなクエスチョンマークを浮かび上げた。器用だね。

ふむ。
僕はと言うと、実はぽん子の証言で一つ思いついた事がある。
なので、検証してみようかね。

「玉。後ろに見えている家は、玉の家に間違いないね?」
「はい。間違いなく玉がお母さんと暮らしてた家です。」
「実際に玉が住んでいた家のまんまかい?何か違いはあるかな?」
「ええと。お父さんのお仏壇が違います。玉が知っているのは、棚に置いた小さな石をお父さんのお墓って言って拝んでました。でも今は立派なお仏壇もお位牌もあります。」

父親に触れた時、玉の背筋がピッと伸びた。

「僕の方も同じだ。浅葱の屋敷は長屋門以外、外見は僕が覚えているまんまだけど、電気・ガス・水道がない。多分、時代が違うんだと思う。僕が見立てたところだと明治中期、玉にわかりやすく言えば120~30年くらい前だ。つまり、僕が知っている屋敷ではない。浅葱の屋敷は今も熊本、あぁと、肥後の国にある。おそらく、玉の時代に行けば、玉の家は、あの池のほとりにあるだろう。」
「えっと?」
「つまり、この水晶の中にあるものは全部コピー、複製品って事だよ。」

★  ★  ★

前から気になってはいたんだよね。
元は知らないけどオリジナルのものが建っている聖域と違って、こっちのものは元を知っているオリジナルと微妙な差異がある。

そして、二つの水晶玉はくっつかない。
玉の水晶玉と、青木さんの水晶玉は一つになってたのに。

なんなら、聖域に4つの建物が並んでもおかしくないのに。

だとしたら、それぞれの水晶玉にそれぞれ固有の性質なり条件なりが存在するのではないかと。

ぽん子が現れたのも、玉がたぬきちの嫁として願ったり、ぽん子本人が僕らに会いたがったりしたから。
誰が、その願いを汲み取ったのかは知らないけど、結果ぽん子のコピーが僕の胸の中に降ってきた。

色々突き詰めないといけない事も多いけど、今はそれで良いか。

とりあえず、ぽん子と玉が幸せそうだから。


★  ★  ★

「鳥が言ってるの。あの娘来ないかなぁって、ネズミが首を長くして待ってるの。」

鳥というのはハクセキレイだな。
一羽ずっと玉に留まっていたっけ。
ネズミは、モルモットだろうな。
玉と青木さんの話では、もう玉に懐いているのが一匹いるらしいし。

「殿、動物園行きたいです!」
そんなぽん子の伝言を聞いた玉が大人しくしてる訳がなく。でも。
「今日は月曜だから、市の施設は公休日だよ。あと、ここは穏やかに晴れてるけど外は豪雨なの忘れてる?」
「しゅーん。」
「わん?」
あぁそうか。ぽん子はここがどこか、理解してないな。

「ここはちょっと特殊な空間で僕や玉は普段住んでいない別荘みたいなとこなんだよ。」
「わん?」
「あぁ、家はあるけどね。普段は居ないよ。さて、ここで君が取るべき行動は二つだ。ここに住むか、外の世界に住むかだ。因みに、君は野生動物なので、僕らに飼われるという選択は不可能だ。野生の狸として生きていくしかない。」

「わん」
そんなの決まってるじゃないの。
私はここに住みます。
ここが良いです。

だろうね。

という事で、ぽん子は新しい住人になりました。
ミニトマト、フルーツコーンに枇杷の種、苗木を取り寄せて、庭の片隅にぽん子餌ゾーンを作ります。
たぬきちと同じ小屋、マットレスを取り寄せて、たぬきちほど自然に馴染んでいないので、犬猫用の吸水器を設置。たぬきちは川でごくごく飲んでるし、魚狩りもしてるし、泳いでんだけどね。
 
食べ物が成るまでの繋ぎで、ドッグフードもたっぷり用意。
どうせ野菜や果物は2~3日で食べられるようになるから。


あとは自由に過ごしなさい。 
また明日来るから。

「わん!」

浅葱家初代、浅葱国麻呂さんさぁ。
浅葱の力でさせる事ってなんなの?

僕の周りには、狸・狐・梟が集まって来たんだけど。
「あと、玉と佳奈さんと、大家さんと飼育員のお姉さんと…。」
玉さん。指折り数えている人がみんな女性なんですけど。
…ついでに菅原さんも。
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