ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

新しい仲間たち

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外は雨。というか豪雨。
早朝に雨音で目が覚めたくらい。 
2階建アパートの階下なのに、屋根に響く音が凄いぞ。大丈夫か、この建物。頑張れアパート(確かまだ築浅)。

時計を見るとまだ6時前。まだ日も上がりきっていない季節です。同衾している珍しく玉はすやすや眠っていた。(あとで聞いたら、雨戸を開けなくても大雨なのがわかったので、二度寝していたそうだ)

昔は彼女さんが泊まりに来る事もよくあったので、我が家の布団はダブルサイズ(ベッドはシングルだけど)なので、僕が起き上がっても、玉の身体からは布団が溢れない。

安物の羽毛布団なんだけど、カチカチの煎餅布団しか知らない玉は、押入れから出した布団の柔らかさに驚いていたなぁ。

「外にお布団干しましょう。お布団!」
「何処に干そうかね。庭は畑で埋もれているし。」
過去に戦中時代に戻った時、とある当時の芸人さんの日記を読んでいて、阿佐ヶ谷近辺の自宅の庭で大根を育てている描写に興味を持って見に行った、あの光景だよ。

「むううう。だったら今日はお洗濯で乾燥機を使うです。」
ってまでして、物干し竿に布団を干していたのです。
布団乾燥機も買った方がいいのかな。
軽い羽毛布団だから、玉でも(踏み台を使っていたけど)1人で掛けられました。
ダブルサイズの布団を引き摺らない様に苦労していたけど、手伝おうとすると、必要以上に恐縮しちゃう娘なので。

まぁ、そこら辺は、お互いの生活の中で自然と身に付いた関係性なんです。 
玉の手に余る時は自分からきちんと助けを呼ぶので、彼女が自分で出来ると判断したものは手を出しません。

それはともかく。

庭弄りどころか、雨が止んだら点検・修繕が必要なほど、自然災害クラスの豪雨なので、今日は大家さんも来ないでしょ。そもそも、家から出れるかどうか。

★  ★  ★

「無職は良いなぁ。私も仕事辞めようかしら。」
ゴミステーションのボックスに燃えるゴミを放り込んでいたら、出勤していく隣の菅原さんに話しかけられました。

まだ若い女性なのに、スーツも傘も黒ですか。ワンポイントやラインが入っていなかったら喪服ですな。

「おはようございます。」
「おはようございます。今日はゴミ捨て玉ちゃんじゃないんだ。」
「玉はまだ寝てますよ。今朝はこの雨じゃ洗濯も庭弄りも出来ないからじゃないかなぁ。」
「あの娘いいなぁ。健気だし真面目だし。1人くれない?」
「あげない。」
「まったく。私はこの雨ん中出勤だ。月曜だってのに。ぶつぶつ。そうだ。私を雇わないか?うちの大家さんも君の部屋に自由に上がり込んでるし、もう1人くらい増えても構わんじゃないか?うちの庭も贈呈するぞ?」
「あそこは僕と玉の家なので。勝手にハーレムとかレストハウスにしないでください。」
「ちぇ。駄目かぁ。」

朝から物騒な事を言い始めるお隣さんを、さっさと市役所行けと追い払いました。

さて、今日の朝ご飯はどうしよう。

夕べは。 
「昼は魚介だったから肉を希望するわ。」
「賛成だわ。」
突然現れた謎のお嬢様達が肉を御所望なされたので、僕の貧しい食経験の中で唯一食べた事のある、A4だかA5だかの大田原牛厚切りステーキをお見舞して、同じく大した物食べた事ない基本貧乏性の玉と青木さんが大いに狼狽した顛末があるのだけど。
それを語るのは、また別の機会に。

久しぶりに玉と2人だけの朝ご飯だし、むしろ質素に健康的に行こうかなぁ。

「あ、お帰りなさいませ、殿。そしておはようございます。」
豪雨の中、ゴミ捨てに行った僕を察してタオルを渡してくれる同居人。

やれやれ。気合い入れて朝ご飯を作らないとな。

★  ★  ★

「わふん」
「ひぅん」
「あははは!」

朝のお勤めを終えた、玉とたぬきちが待っていたのは、山ほどのペット用(減塩)ジャーキーの山。
フクロウ君も社に入って、玉の祝詞に付き添っていたので(どんなフクロウだよ)僕は1人、川沿いの緋毛氈に胡座をかき、あれこれ整理していた。

ペット用ジャーキーは、妹の犬にプレゼントでまとめ買いして行った物を、そのまま流用した。パッケージに付いていた商品案内で、高齢犬用の減塩タイプの方が、自然動物には良いかなぁと思って。

「はい!フクロウさん!」
「ひぅ」
仲良しお化けの玉は、ジャーキーをあげる事で、たちまちフクロウ君とゼロ距離まで近づいてるし。

あー。たぬきちは、今日もブラッシングの果て、腰を抜かしてます。
「わふふ」
なんだろう。この狸は。

★  ★  ★

さて、もう一つの水晶に移りましょう。
いちいち外に出なくても、直接移動できるようになった便利です。

夕べ、分厚く切ったステーキにハフハフしながら、玉と青木さんが大体のレイアウトを図示してくれてました。
と言っても、道・畑・果樹・池と用水路をサインペンで適当に描いただけですけど。

「林檎と梨の木は、お屋敷の生垣沿いに作れば、お日様もよく当たるし、良いかなって。育ったら、生垣を移してお庭から林檎の木が見えたりしたら、美味しそうです。」
多分、防風の役目もある生垣だから、そうそう映すわけにもいかないから、それはまぁ後で考えよう。

「池は東側。端っこに作って、西の川と繋げましょう。道を南北に作って、真ん中で橋を掛けたいです。」 
なんかもう、シミュレーションゲームみたいになってきた。
けどまぁ、聖域に続いて2回目だし。

玉は棒で池の大体の大きさを地面に線で掘ると、そのまま西に線引きながら歩いていきます。
ので、僕もその後について行きます。

休耕地は西の果て、川の手前でグッと高さが低くなります。
ま、普通に川の侵食作用だね。

これはどうしようかな。
側から水を引くには高低差が1メートル以上ある。
川から引くのは、色々理不尽な小細工がいるなぁ。サイフォンとか。或いはいんちき(自覚してます)とか。
だったら、地面から水を湧き出させて池にしたほうがいいかなぁ。

聖域と違って、池から川に流れて行くイメージで。ふむう。

おや?玉が走って池予定に戻っていく。
そして、また線を書きながらこっちにくる。
多分、川幅を決めているんだろう。
…幅50センチくらいに遠慮がちなのは、いかにも玉だ。

どうとても出来るんだから、もっと広い川にすれば、橋だって立派になるだろうに。

あれ?
何とは無しに、川の方を見たら、反対岸に竹が生えている。
確か両側の山も浅葱家の持ち物で、春先には毎年、掘ったばかりの孟宗竹が送られてきた記憶がある。
けど、こんなとこが竹林だったかな。

水仕事もあるので、水晶の中では基本的にサンダル履きなのが功を奏した。
この川の深さも知っている。最深部でも脹脛程度だ。

ジャブジャブと川に入って行くと、小魚達が一斉に逃げ出した。
…逃げ出したら、また寄ってきた。
なんだろうなぁもう。
脛毛だらけの足を突いてどうするの?
この虹色に光る魚影はオイカワかな。
オイカワって、ドクターフィッシュだっけ?

などと、馬鹿な事を考えてくすぐがっている間に川を横断。
流れか山を削っている事もあって崩れやすくなっているけど、目的のものは手を伸ばせば取れる。

竹林で取れるもの。はい、筍です。
親竹も筍も細いので、真竹かな。
これは輪切りで味噌汁にしても美味しいし、メンマにしてもいい。
わざわざ浅葱の力を使わなくとも、自然に生えてる食べ物って、ちょっと嬉しいな。


「殿?どうされましたか?」
地面に設計図を書く事に夢中になっていた玉が、ようやく向こう岸で何やらしてる(足をオイカワに突かれ続けている)僕に気がついた様だ。
「玉。パス!」
とりあえず1本刈り取った筍を玉に向かって投げた。
「わ、わわわわわ!………筍?殿、今外は冬になりかけですよ。」
「ですね。」
まぁ、水晶の中は常識で測っちゃいけない。

「ひゃぁぁぁぁん」
いや、あのね。
常識で測っちゃいけないと言った直後に、何やら聞き覚えのある悲鳴を上げる焦茶が山から転がり落ちてきた。
思わず反射的に受け止める。
「ひゃん」
あのね。なんで狸が山から転げ落ちてくるのよ。
「ひゃんひゃん」
狸は僕の腕の中で、僕の顔を見て騒ぎ始めた。
あれ、お前ひょっとして、

ぽん子か?

「わん!」

ぽん子だった。

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