ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

えへへうふふえへへうふふ

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「えへへへへ。」
「うふふふふ。」
「えへへへへ。」
「うふふふふ。」

ええと。
2人して、指輪翳してずっと笑ってるんだけど。少し怖いんですが。

「殿に頂いた大切な宝物です!えへへ。」
「例え貴方でも、男性からリングを貰うなんて初めての体験だから、女としてはニヤけるものなの!男の人に指輪貰っちゃった!うふふ。」
有り難がれてんの?これで?

千葉市で見つけたアクセサリー細工の工房に、荼枳尼天から授かった(でいいんだよな)水晶を持ち込んで、指輪に細工して貰ったんだけどね。

台座のリングを選ぶ段階で、何故か2人とも真っ赤になって俯いちゃったので、とりあえずサイズを測らせている間に、プラチナ製でもシンプルな、それなりのものに勝手に決めちゃいました。

お値段は、聞くと2人とも卒倒しかねないから内緒。僕的には、まぁ納得のでいくお値段だったので。はい。

面白い事に、1センチもある水晶を指輪にするのは重たいから、ペンダントトップの方が良かったかなぁとか思ってたら、勝手に水晶の方がちょうどいいサイズに縮んでました。

この水晶の価値は大きさではないので(大体水晶自体、そんなお高い物でも無いし)、小さくなったからと文句を言う2人でなくて良かった。

★  ★  ★

さてと、日もだいぶ傾いて来たので、晩飯の心配をしようかな。
青木さんを家まで送り届ける事を考えると…何処にしようかな………。

「えへへへへ。」 
「うふふふふ。」

そろそろ後部座席がうぜえ。
言わないけど。

「女が喜んでいるのをうぜえとか言うなあ!」
「です!」

………?
何でこの2人には、僕の考える事が筒抜けなのだろう。

「それはともかく、何処かホームセンターに寄りませんか?」
なんですかいきなり。こんな夕方に。
「大きなホームセンターはさっき通過しちゃったなぁ。」
「なんですと!!」
「いや、君が後ろでうふふうふふうふふうふふうふふって笑ってたから。」
「私そんなにうふふうふふ言ってた?」
「隣を見てみい。」

青木さんの隣には、上下デニムの玉が
「えへへへへ。」
って、相変わらず笑っている訳で。

「私も、こうだったの?」
「えへへへへ。」
「ずっとね。」 
「えへへへへ。」
「うん、少し注意する…。」
「えへへへへ。」
まぁ、似た物同士だし、気にするのやめようかな。

「それで、ホームセンターに行きたいの?」 
「うん。さっき、私達がいた玉ちゃんちの方の居心地を良くするんでしょ。」
おや、玉とのやりとりを聞いてましたか。
「そしたら、私に出来る事って何かあるかなって。玉ちゃんちは、玉ちゃんと玉ちゃんのお母さんの持ち物だし、お屋敷は菊地さんの持ち物だよね。」
「うちの本家筋ってだけで、玉と違って所有権があるかどうか、微妙だけどね。」 
「でも、私よりは弄る権利はあるんでしょう?」

まぁ、水晶自体が僕の物だし。

「だから私はお庭を整備しようかなって。花壇の外は生垣で囲まれていたけど、あの先ってどうなってるの?」
「聖域の方はあの通り岩壁に囲まれている。あれはそもそも玉が囚われていた祠がそうだったから。後から、あそこに君が囚われていた祠をくっつけた。」
「…なんと言うか。私が知らないだけで、結構出鱈目してたのね。」
まぁね。そう言う能力だし。

「それで、生垣の外だけど。」
話が逸れかけたので、さての一言で本題に戻す。
「あそこは年代的なズレがあるけど、僕が知っている屋敷と基本的に差は無いようだ。僕が知っている本物のあそこは、南北に伸びる里山に挟まれた谷間が少し広まった空間に出来た集落だった。中央に1.5車線の田舎道が抜けて、西の端には浅い小川が流れている。典型的な山の中の農家だよ。だから、外には畑がある筈だ。柿の木の下から出られるよ。」
「因みに、その田舎道を歩いて行った事は?」
「無いな。いくら無職といっても、玉という同居人が居るからには、生活雑事に追われる訳で。それにほら、どうせ水晶に潜るなら、色々手を加えた聖域の方で、たぬきちと遊びながら、何か食って飲んでる方が楽しいから。」
「…私にも自覚あるから言うけど。あそこって駄目人間養成空間よね。」
「自分もダラダラしたい荼枳尼天が協力してんだから、ああもなる。」
「だったら、その畑を耕しましょう。たぬちゃんが居ないなら、新しい動物も飼いましょう。狭い聖域じゃ出来ない事をしようと思うの。勿論、玉ちゃんにお伺いを立ててからだけど。」

その玉はというと。

「えへへへへ。」 

しばらく使い物になりそうも無いな。

★  ★  ★

いつもの動物園の近所にホームセンターを見つけたので寄る事にする。
 
「えへへへへ。」
「玉ちゃん、そろそろ正気に戻ろうよ。」

畑仕事用と言っても、シャベルや鍬はいくらでも増やせるので(あーそこの松戸市矢切在住の22歳OL、口を閉じなさい)、やはり種と苗木を購入する事にする。

「種の事なら玉にお任せです!」
おやおや、やっとデレデレえへへへ状態から玉の目が覚めましたか。
一応、彼女は元農家の大家さんの弟子なのです。
あと、とある公共放送の園芸番組を欠かさず視聴する種マニアなんですな。

これから冬に入っていくからビニールトンネルが必要だし、庭にそのスペースが無くなったので、隣に青木さんが入居するなら、敷居を取っ払って2部屋分の庭を開墾しようかしら?とか、物騒な相談をしている師弟なんです。

…青木さんが越して来ないで、僕が出て行ったら、どうするつもりだろう。あの庭。


「殿。畑ってどのくらいの広さですか?」
「んんと。子供の目だったからなんとも言えないけど、それでも50メートル四方は充分あったかな。どちらにせよ、広さなんかどうにでも出来るから。」
「ならば、庭でも聖域でも作って無いのです。木ならば林檎とか梨とか。作物ならば白菜が欲しいです。殿がお漬物が好きなのです。」
うん。それは嬉しいね。

「あとは、大豆!枝豆も塩茹でが美味しいですし、お豆腐や油揚げは玉の好物。神様のお供えにも最適です。」
玉さんが何やらプレゼンを始めちゃったぞ。おい。
「豆ならそら豆も大好きです。お母さんも好きで、育ててました。玉の家と言えば、そら豆です!」
あらら、なんか玉が燃え出したぞ。

因みに青木さん。玉の言うままに種や苗木をポイポイ籠に入れてます。
良いけどさ。レイアウトを考えなさいよ。
広さが自由になる分、散漫になったら後で残念だよ。

★  ★  ★

何故か青木さんは僕んちで晩御飯食べていくそうです。
ホームセンターから青木さんちの間に蟹専門レストランがあったから、蟹でも食うべかって思ったんだけどなぁ。

「一度ね。この指輪で潜ってみたいの。」
と言うので。念の為に帰宅して、改めて床間にきちんと据えた水晶に入ってみた訳ですわ。

特にナンタラ儀式が必要な訳でなし。
本人が潜りたいと念ずれば大丈夫みたい。
「これさ、わざわざ朝早くからバスに乗って来なくても、この家に来れるって事?」
「来れるけど、青木さんが来た事を僕らは感知出来ないよ。たぬきちやフクロウ君がいないから、わざわざ毎日来ないし。玉が掃除したくなったらお願いされるって感じ?」
「です!」
「玉ちゃんがお掃除したくなったらって、その動機がわからないんだけど。」
「駄目ですよ佳奈さん。ご家庭の主婦ならば掃除洗濯は毎日です。玉も毎日、殿のパンツを洗ってます。」
「自分ちには毎日コロコロをかけてるよ。掃除機や洗濯機は家に居る時間が時間だから、休みの日にまとめてるし。」
「そうだ!早く隣に越してくるのです。玉が佳奈さんのパンツも洗ったげます。」
「それを菊地さんの下着と一緒に干されたら、私は毎日どんな顔して菊地さんに逢えばいいのよ。」
「玉のパンツもぶらじゃあも、殿のパンツと一緒に洗って干してますよ?」
「菊地さん!前にも聞いたけど、あなた一体何させてるのよ?」
「この調子で毎日毎晩迫ってくる玉を、君は拒絶出来る勇気があるか?」
「………。自信ないです……。」

さて、実際に潜ってみたら、やっぱり柿の木の下で生垣が切れていて、外に出られました。
元が畑の休耕地の様なので、変に踏み固められて固かった聖域よりは耕すの楽かな。
浅葱鍬使えば、例え粘土質でもプリンになるけど。
あとは肥料だな。見渡す限り、雑草が生えてない。買ってくるしかないかなぁ。

「ねぇ殿。堆肥って出来ますか?」
「出来るだろうけど、何せ材料がない。土壌の質もわからないし、今すぐ植えるわけにもいかないかなぁ。」
「だったら、家畜を飼いましょうよ。うんちが堆肥になりますよ。」
あぁ、牛小屋が離れにあったなぁ。
牛かぁ。どっかに野生の牛とかいるかなぁ。
「山羊なんてどうでしょう。ほら、離れ小島に野生の山羊が増えているなんて、てれびで見ましたよ。」
「離れ小島でしょ。どうやって行くの?」
「そこは殿のお力でばーって。」
「僕にそんな万能性なんかカケラもないよ。現地に行って、水晶玉に連れ込まないと。」
「むうむう。ダメですかぁ?」

玉は僕を過大評価し過ぎてだぞ。
そろそろリストラ2ヶ月になるのに、履歴書一枚書こうとしない駄目人間が僕だぞ。

「ねぇ菊地さん。フクロウが向こうからやってきた様に、とりあえず鳥って言うのはどうかしら。合鴨とかを農業に使っているの、ナントカ村で昔見たわ。」
「合鴨は、あれは田んぼの掃除屋なんだよ。米でも作るか?でも川は畑より低いところを流れてるぞ。」
「駄目かぁ。」

ん。ちょっと待てよ。別に田んぼ作る必要もないか。

だって僕は、川と池を作ったことあるじゃん。
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