ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

指輪 指輪?

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僕には何故かわかっていた。

この二つの小さな水晶。
これは、さっき2人に渡した銀杏の実が変わったと言う事が。
そして、彼女達が今何処に居るのかも。

だから僕は心配していない。

念のため、玉に御神刀を持たせて正解だった。
御神刀が有れば、荼枳尼天は玉を護ってくれる。
御神刀を持つ玉は、青木さんを守ってくれる。 

まぁもっとも、“あそこ“に居る限り、あの2人に危険が迫ることも無いだろう。

★  ★  ★

「で、君は何者だい?ただのフクロウ君じゃないだろ?」
「ひぅ?」
「あれま。本当に君はただのフクロウ君なんだ。」
「ひぅ」

「…でしたか。」
「ひぅ」

ええと。さっきコンビニで買ったサラミ食べるかな。
「ひぅ!」
あははは。可愛いな、君。
「ひぅ♪」

あっちをほっといてフクロウ君と遊んでたら、怒るだろうなぁ。
とっとと行くか。
「ひぅ」
ん?君も来るか?
「ひぅ!」

さて、どっちに居るかな。

★  ★  ★

「わふ?」
「ひぅ?」

ああごめんたぬきち。昼寝してましたか。
「わふ?」
ああ、この仔かい?千葉の山の中で友達になったんだ。

「ひぅひぅ」
「わふわふ」

あはは、フクロウ君とたぬきちが挨拶してるよ。見てるだけで楽しいな。
「わふ?」
あぁ玉かい?玉はこっちに来てないんだ。じゃ、あっちかな。
「わふ?」
大丈夫だよ。玉は僕から離れている様に見えて、実は僕のそばにいるから。
「わん!」
ああ、明日の朝にまた来るよ。青木さんは会社だから、僕と玉だけだね。
「はふ」
あははは。ブラシを咥えて来たよ。
大丈夫。多分、玉がブラッシングしてくれるかな。まあ、今は僕で我慢してくれ。

「わふふわふふわふふ」

妹の犬もブラッシングされるのは好きだったけど、こんな気持ち良さそうに鳴かなかったけどなぁ。

★  ★  ★

そう。
彼女達は水晶玉の中にいる。

僕と玉と荼枳尼天を繋ぐ「物」は玉が長いこと支えて居る社がある聖域か、玉の家と浅葱の家が並ぶ水晶か、どちらかに居るであろう事は予測していた。
だから僕は、いつもは床間に鎮座している重たい水晶玉を持って来た。

どちらも、僕らの縁(えにし)を結んでいる物だから。
聖域の方には、それこそ荼枳尼天が祭神として居るし、家の方には浅葱を守る土地神がいる。

よっぽどタチの悪い化け物が出てこられたら面倒だけど、祠に巣食うモノは人の念であり、神格が高い荼枳尼天、また要らないものを堕としたばかりの土地神に対処出来ない訳がない。

という事で、もう一つの水晶に移動。

面白い変化が一つあった。
本来なら水晶玉から水晶玉への移動は、今までは一度水晶玉の外に出る必要があったのに、今は直接移動が出来る。

なので、ブラッシングの果てに腰が抜けたたぬきちに別れを告げて、浅葱の家の長屋門を潜った。
こちらも聖域ほどでは無いにせよ、大分空気が澄んできたな。
ただ、生命の息吹が少ない。
ポカポカした日差しの中で、たぬきちがわふわふ走り回り、水場で水棲生物が泳いだり飛び跳ねたりしているあっちとは比べちゃいけないのかもしれないけど。
あそこまで、こちらも育てないといけないのかなぁ?

相変わらず歩き辛い大きな玉砂利を蹴飛ばしながら、いつも美味しく頂いている柿の木の下あたりを通り掛かった頃、前方から白いものが突っ込んで来た。

体当たりではなく。
留守番を待ちかねた子供が親の胸に我慢出来なく飛び込んで行く。 
そんな感じで、巫女装束姿の玉が僕に抱きついて来たんだ。 
“ここ“ならば、僕と玉は触れ合えるから。

何も言わず、ただ肩を小刻みに震わせる小さな巫女さんを、僕は優しく抱きしめた。

「遅い。」
大した不満も詰め込んでいない口調で、青木さんが事務的に感想を述べた。
信頼はしてくれていたんだろう。
後ろから、玉の髪を優しく撫でてくれる。そこら辺は玉のお姉さんだ。

「玉ちゃんは、ずっと緊張して私を守ってくれてだんだよ。そりゃ貴方の顔を見たら、こうなるわよ。小さな身体で頑張ってくれてたんだから。」
「悪い。どっちに居るかまでは確定出来なかったから、とりあえず荼枳尼天の神社がある方に行ってだんだ。」

たぬきちをブラッシングしてたのは内緒。
 
「それで、ここなのね。」
「君達が消えた跡、足元にこれが落ちていた。」
直径1センチ程度の小さな水晶玉の一つを青木さんに渡した。
「……どういうこと?」
「簡単に言えば、この水晶玉は、この空間に入る為の鍵だ。浅葱の力で自由に出入り出来る僕とは違い、君達が1人で入るにはこの水晶玉が必要になる。」
「入るだけ?」
「君達は祠に閉じ籠められた過去を持つ。でも、1人で出れた過去はない。そう言う事だ。」
「つまり、自由に出入りが出来る訳では無い、か。」  

相変わらず頭の回転が早くて助かる。

「今後、君達が1人で何処かタチの悪い祠に飲み込まれようとも、その水晶を身につけて入れは、ここに逃げ込める。」
「……。」  
「僕としても、何があった時はここを探せば良い。今でもちょくちょく来てるし。」
「ここが安全だと言う保証はあるの?」
「あるよ。」  
軽々と飄々と僕は言う。

「ここにも神様は居る。君も見ただろ。穢れを玉と一緒に祓った神様を。」
荼枳尼天が言うには、土地神なんかしてる神格じゃないそうだけど。
「そっちの屋敷に入れば布団も有るし、休息くらいは出来るよ。」 
食べ物は柿くらいしか無いけど。
「2人で逃げて来た時は、玉んちに行けば、玉なりのもてなしをしてくれるだろ。」
調度品はさすがに1,000年の差があるけど、実家・自宅だからこそ伸び伸びとする玉を見ていると、何とも微笑ましい。
ホストとして少し背伸びをして、客を迎えてくれるんだ。

★  ★  ★

こうして、僕らは直近の心配事を解消した。

神様に心配されて、神様にそのヒントを貰うとか、どれだけ神様に甘やかされてるんだって話だけどねぇ。
2人に気が付かれない様に、ほんの少し苦笑を漏らした。 

しばらくして、漸く顔を上げた玉にも小さな水晶玉をあげる。
目が真っ赤になっているけど、何も言わない。
泣きながらでも話に耳を傾けていた玉は、いつもの様に、水晶を覗き込む。 

けど、何も見えない。
いつもの水晶玉とは違って小さ過ぎるわなぁ。

「無くさない様に、ペンダントトップにするなり、指輪にするなりしなさい。」

「ゆ、指輪?」

何故か2人の声が重なった。

「はい?」

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