50 / 233
第一章 開店
実家2
しおりを挟む
僕と青木さんが柿の皮を剥いて、僕が剥いた柿を玉が、青木さんが剥いた柿をたぬきちがぱくぱく食べる、動物園の餌付けの様な光景が始まっていた。
さっきのバナナとまるっきり同じじゃないか。
「たぬちゃん、包丁持ってるから危ないよ。今剥くから、もうちょっと待ってて。」
「わふ」
「うふふ。ちゃんとお座りして待ってくれるんだ。私の言葉もわかるのかな?」
「わふ」
頷くたぬきち。目がハートマークになる青木さんに、
「たぬきちは皮も食べたいんだって、水道を流しっぱなしにしておくから、洗面器に浸けといて。あとはたぬきちが自分で洗って食べるって。」
と注意を与えとく。
「わふん」
「…たぬちゃんはアライグマですか?」
狸とアライグマは、種的にかなり違うけどね。
「ぱくぱく。」
ぱくぱく言いながら、フルーツフォークで種を取り出しては、ぱくぱく食べるうちの巫女さん。
一応、柿を育てる為に取り寄せたって事は覚えていたようで、種を丁寧に取り分けている。種も美味しく頂くたぬきちには(本能的に)出来ない行動なので。
「ぱくぱく。」
「ねぇ菊地さん?私達が食べる分が無くなりそうよ。」
「ぱくぱく。」
「わふわふ」
「…浅葱の力って言うものは、扶養家族の欠食児童にメシを与える為にあるんじゃ無かろうかと思う、今日この頃。」
皆様におかれましては、御健勝のこととうんたらかんたら。
はい。本当に玉とたぬきちに食べきられました。2人?(2匹?)とも丸くなって緋毛氈に転がってます。
まぁ、種が取れたからいいか。この種から苗木を作りますよ。
「黒いビニールの植木鉢!」
ホームセンターなどで、売っている植物の使い捨て用のペラッペラな植木鉢みたいなアレ。名前がわからないから、こんないい加減な名前でイメージしたけど、一応狙いのものは出てきた。
「…ポリポットとかビニールポットとか言われてますよ。なんですか、その連想ゲームみたいなの。」
おや、青木さんが知ってました。
「ガーデニングがちょっとした趣味なのです。と言っても小さな観葉植物やサボテンを、窓際に吊り提げているだけなんだけどね。」
「へぇ。」
「見かけに似合わず女っぽいとか言うなあ。」
「見かけに似合わないとか、思ってませんが?」
女っぽいとは思ったけど。
「それは私の照れ隠しです。」
「はぁ。」
玉といい、青木さんといい、何故か変に素直で開けっぴろげなところがあるなぁ。
「殿のせいなのにねぇ?」
「わん」
何故、僕のせいなの?
「わん」
何故たぬきちは呆れているの?
★ ★ ★
柿の種を、そのなんちゃらポットに蒔いて外に並べときます。店の前や社の外観に、オレンジ色の柿がなる木が立つ風景を想像。
うん、なかなかいいね。
青木さんがジョウロで水をあげている姿を縁台に腰掛けて見ているんだけどね。
この空間て、居るだけで気持ちいいんだよなぁ。心の奥底からリラックス出来る、なんとも贅沢な時間。
彼女曰く、鉢の土や肥料、水のあげ方にも植物が喜ぶコツがあるそうで、観葉植物が育たない人には共通点があるそうだ。
「だから、玉ちゃんが農業経験者のお婆ちゃんと庭仕事しているって聞いて、いいなぁって思ったのよ。今日も少しの時間だったけど、本当に勉強になったんだよ。」
青木さんも満足そう。良かった良かった。
柿の木か、育ったら何処に植えようかなぁ。
『うむ。一本は我が神木とするが良い』
おや、荼枳尼天さん。随分と気軽に顕現しますね。この間は雅楽と奉納舞が有って出てきたのに。
『アレは儂から巫女っ子への贈り物じゃ。見様見真似の祝詞詠みから、今日のは腰の入った本物の祝詞詠みに変わったぞ。』
そうか、玉も変わりつつ(変われつつ)あるんだ。
あぁ、御狐様も可愛いなぁ。うちのたぬきちは甘えん坊の息子っぽいけど、こちらは成人式で着物をプレゼントしたくなるお姉ちゃんだ。
僕の膝に口を乗せて、上目遣いで僕の顔を見ている。
『………やらんぞ。』
''家族“が何やら増えそうな予感がしているので、神狐まで押し掛けられたら部屋が足りなくなります。
とか言いつつ、御狐様の頭を撫でる。
『社も店も順調に育っておるが、もう一つの位相がまるで手付かずじゃ。お主はあっちもなんとかせにゃぁならん。』
言いたいだけ言うと、さっき収穫したトマトを主従1個ずつ掻っ攫って消えていった。
今、なんか言ってたなあ。
やるの?僕が?
しかも、水晶玉でもなく、聖域でも空間でもなく、「位相」?
★ ★ ★
「殿?今、神様来てなかったですか?」
球から元の体型に戻った玉が、たぬきちを抱えて出てきた。
荼枳尼天に仕える巫女さんが、神の顕現をほっぽらかして、腹一杯で寝転がっていたとか、とんでもない不敬なんだろうなぁ。
「見てたけどね。慣れたけどね。」
とは青木さん。
口をあんぐりと開けて、ジョウロが空っぽになるまで傾けてたね。君は。
「何故、巫女である私のところじゃなくて殿のところに現れるのでしょう?」
「玉の巫女能力が足りないからだ。精進せえ。だってさ。でも、今日の祝詞は別人みたいに良かったってさ。」
「むう。それを言われた引き下がらずを得ません。」
「…私が浅葱の人間でなかったら、新興宗教の一つもでっち上げられる事ばかり起こるわね。当たり前の様に受け入れている私も私だし。」
と言う訳で、神様の指示によりもう一つの水晶玉に行きます。
「青木さんも来ますか?」
「置いていかれたら、菊地さんの部屋を家探ししますけど?」
「是非、ご一緒して下さい。」
この人、僕に関しては割となんでもやりかねない感じがあるんだよなぁ。
「殿。たぬきち君は?駄目ですか?」
ふむ。
玉の存在確率が僕から離れると低くなる様に、たぬきちの存在確率の基点はここだ。この聖域だ。
たぬきちは本来、1,000年前に矢切付近で生息していた狸にすぎない。
勿論、その基点が僕である可能性も、或いはたぬきちが持って来てくれた水晶玉の中にあった浅葱の家である可能性もある。
だけど。
「玉。それは可能だろうけど、たぬきちはどう思うんだ?」
それを聞いたたぬきちは、玉の腕の中からポンっと飛び出すと、僕の膝元に座り、自分の犬小屋を右前脚で差した。
「だ、そうだ。たぬきちはここに居るって。」
「わん」
「ですか。水晶玉の中ならいいかなって思ったのですが。」
「わん」
たぬきちは、玉に向かって済まないとでも言う様に、少し申し訳無さそうなトーンで鳴いた。
「ですか。ですね。ではたぬきち君。また明日です。」
「わんわん」
★ ★ ★
一度部屋に戻り、もう一つの水晶玉に入り直す事になる。あぁ面倒くさい。
僕達は長屋門の前に立っていた。
「これが、浅葱の家…」
黒ずんでいるけれど、それなりの歴史を経ているのだろう。現地に現存していれば文化財指定の一つも受けたんだろうなぁ。僕が知っているのは、石造りの門柱に鉄製の少し錆びた門だったし。
「いやいや。滅茶苦茶庶民の私としては、立派な農家だって気後れするよ。実家は建て売りだし、今住んでいる部屋だった1Kだし。むしろ、菊地さんの部屋の広さに驚いたもん。」
僕と玉では住みきれないけどね。
家具も荷物も少ないし。
玉砂利を進むと、実がびっしりと成った柿の木が出迎えてくれる。
「あれ?この柿って?」
「そう言う事。帰りにお土産て持って帰ろう。」
「柿取りなら玉にお任せを。…刺股とかないですかね?」
登れそうだと思ったんだろうなぁ。実際、僕は登っていたし。
でもね玉。今日はこの間買ったマキシスカートなんですよ。破くぞ。
玉も瞬時に気が付いて、スカートをパタパタしている。
「私はデニムだから、大丈夫っちゃあ大丈夫だけど…。」
「柿の木は折れやすいから大人はやめなさい。」
食べ物絡みなら、浅葱の力が作用する範囲は広い。
頭の中をあれこれいじってみたら、高枝剪り鋏が3本出てきた。3人でやれって事だろうか。
「狸って木登り出来たよね。」
「あまり上手く無いですけどね。まぁたぬきち君なら、殿仕様の狸なので、木登りくらい楽勝だと思いますよう。」
「これからこんな木が、あの空間に生えて、たぬちゃんがわんわん言いながら食べている光景が日常になるのね。」
「楽しみです。佳奈さんも当然一緒ですよね。」
「どうしよう。私、菊地さんのところに来る度に、菊地さんちへの深入りが酷くなってくわ。」
「うふふふふふふふふ。」
あぁ、また玉のあの笑いが始まった。
★ ★ ★
黒。
庭に黒がいる。
「玉?」
「何か居ますね。殿にもわかりましたか?」
「あぁ、庭の真ん中に黒が居る。黒としか言えないものが居る。」
「もののけ?いや違う。意思を感じない。敵意も感じない。救いを求めてる?私さっきから1人で何言ってるの?」
僕と玉が、庭に佇む「謎の黒」を警戒して足を止める中、青木さん1人足を止めていない。
慌てて玉が駆け寄り背後に青木さんを隠した。
「大丈夫よ。玉ちゃん。私、意識も意思もはっきりしている。なんか変な言葉が勝手に口から出てきただけ。」
「駄目ですよ、それだけで!」
ふむ。青木さんにも浅葱の血が流れているし、その影響だろう。
荼枳尼天の巫女として覚醒しつつある玉と、国麻呂さんに規格外と言われる程、浅葱の力が強い僕はかえって心底まで踏み込んでしまったらしい。
「御神刀」
軽く呟くと、荼枳尼天から下賜された小刀が僕の手元に現れる。
今の持ち主は玉だ。なので玉に渡す。
「殿。これは?」
「僕の合図と共に地面に刺しなさい。青木さんはそのまま動かないで。」
「わかったけど、何か危険な事はないの?玉ちゃん大丈夫?」
「敵意が無いと言ったのは君だろ。大丈夫。あれは居るだけだ。そして居なきゃいけないモノだ。救いを求めているなら救う。浅葱の力ってのはそういうものなんだ。」
僕はそう言うと、右手を振り出した。
その手には、そこの式台の上、屏風の側に置かれていた「日本刀」が鍔や柄などの拵えが整われて現れていた。
僕は「黒」に近寄って行った。
さっきのバナナとまるっきり同じじゃないか。
「たぬちゃん、包丁持ってるから危ないよ。今剥くから、もうちょっと待ってて。」
「わふ」
「うふふ。ちゃんとお座りして待ってくれるんだ。私の言葉もわかるのかな?」
「わふ」
頷くたぬきち。目がハートマークになる青木さんに、
「たぬきちは皮も食べたいんだって、水道を流しっぱなしにしておくから、洗面器に浸けといて。あとはたぬきちが自分で洗って食べるって。」
と注意を与えとく。
「わふん」
「…たぬちゃんはアライグマですか?」
狸とアライグマは、種的にかなり違うけどね。
「ぱくぱく。」
ぱくぱく言いながら、フルーツフォークで種を取り出しては、ぱくぱく食べるうちの巫女さん。
一応、柿を育てる為に取り寄せたって事は覚えていたようで、種を丁寧に取り分けている。種も美味しく頂くたぬきちには(本能的に)出来ない行動なので。
「ぱくぱく。」
「ねぇ菊地さん?私達が食べる分が無くなりそうよ。」
「ぱくぱく。」
「わふわふ」
「…浅葱の力って言うものは、扶養家族の欠食児童にメシを与える為にあるんじゃ無かろうかと思う、今日この頃。」
皆様におかれましては、御健勝のこととうんたらかんたら。
はい。本当に玉とたぬきちに食べきられました。2人?(2匹?)とも丸くなって緋毛氈に転がってます。
まぁ、種が取れたからいいか。この種から苗木を作りますよ。
「黒いビニールの植木鉢!」
ホームセンターなどで、売っている植物の使い捨て用のペラッペラな植木鉢みたいなアレ。名前がわからないから、こんないい加減な名前でイメージしたけど、一応狙いのものは出てきた。
「…ポリポットとかビニールポットとか言われてますよ。なんですか、その連想ゲームみたいなの。」
おや、青木さんが知ってました。
「ガーデニングがちょっとした趣味なのです。と言っても小さな観葉植物やサボテンを、窓際に吊り提げているだけなんだけどね。」
「へぇ。」
「見かけに似合わず女っぽいとか言うなあ。」
「見かけに似合わないとか、思ってませんが?」
女っぽいとは思ったけど。
「それは私の照れ隠しです。」
「はぁ。」
玉といい、青木さんといい、何故か変に素直で開けっぴろげなところがあるなぁ。
「殿のせいなのにねぇ?」
「わん」
何故、僕のせいなの?
「わん」
何故たぬきちは呆れているの?
★ ★ ★
柿の種を、そのなんちゃらポットに蒔いて外に並べときます。店の前や社の外観に、オレンジ色の柿がなる木が立つ風景を想像。
うん、なかなかいいね。
青木さんがジョウロで水をあげている姿を縁台に腰掛けて見ているんだけどね。
この空間て、居るだけで気持ちいいんだよなぁ。心の奥底からリラックス出来る、なんとも贅沢な時間。
彼女曰く、鉢の土や肥料、水のあげ方にも植物が喜ぶコツがあるそうで、観葉植物が育たない人には共通点があるそうだ。
「だから、玉ちゃんが農業経験者のお婆ちゃんと庭仕事しているって聞いて、いいなぁって思ったのよ。今日も少しの時間だったけど、本当に勉強になったんだよ。」
青木さんも満足そう。良かった良かった。
柿の木か、育ったら何処に植えようかなぁ。
『うむ。一本は我が神木とするが良い』
おや、荼枳尼天さん。随分と気軽に顕現しますね。この間は雅楽と奉納舞が有って出てきたのに。
『アレは儂から巫女っ子への贈り物じゃ。見様見真似の祝詞詠みから、今日のは腰の入った本物の祝詞詠みに変わったぞ。』
そうか、玉も変わりつつ(変われつつ)あるんだ。
あぁ、御狐様も可愛いなぁ。うちのたぬきちは甘えん坊の息子っぽいけど、こちらは成人式で着物をプレゼントしたくなるお姉ちゃんだ。
僕の膝に口を乗せて、上目遣いで僕の顔を見ている。
『………やらんぞ。』
''家族“が何やら増えそうな予感がしているので、神狐まで押し掛けられたら部屋が足りなくなります。
とか言いつつ、御狐様の頭を撫でる。
『社も店も順調に育っておるが、もう一つの位相がまるで手付かずじゃ。お主はあっちもなんとかせにゃぁならん。』
言いたいだけ言うと、さっき収穫したトマトを主従1個ずつ掻っ攫って消えていった。
今、なんか言ってたなあ。
やるの?僕が?
しかも、水晶玉でもなく、聖域でも空間でもなく、「位相」?
★ ★ ★
「殿?今、神様来てなかったですか?」
球から元の体型に戻った玉が、たぬきちを抱えて出てきた。
荼枳尼天に仕える巫女さんが、神の顕現をほっぽらかして、腹一杯で寝転がっていたとか、とんでもない不敬なんだろうなぁ。
「見てたけどね。慣れたけどね。」
とは青木さん。
口をあんぐりと開けて、ジョウロが空っぽになるまで傾けてたね。君は。
「何故、巫女である私のところじゃなくて殿のところに現れるのでしょう?」
「玉の巫女能力が足りないからだ。精進せえ。だってさ。でも、今日の祝詞は別人みたいに良かったってさ。」
「むう。それを言われた引き下がらずを得ません。」
「…私が浅葱の人間でなかったら、新興宗教の一つもでっち上げられる事ばかり起こるわね。当たり前の様に受け入れている私も私だし。」
と言う訳で、神様の指示によりもう一つの水晶玉に行きます。
「青木さんも来ますか?」
「置いていかれたら、菊地さんの部屋を家探ししますけど?」
「是非、ご一緒して下さい。」
この人、僕に関しては割となんでもやりかねない感じがあるんだよなぁ。
「殿。たぬきち君は?駄目ですか?」
ふむ。
玉の存在確率が僕から離れると低くなる様に、たぬきちの存在確率の基点はここだ。この聖域だ。
たぬきちは本来、1,000年前に矢切付近で生息していた狸にすぎない。
勿論、その基点が僕である可能性も、或いはたぬきちが持って来てくれた水晶玉の中にあった浅葱の家である可能性もある。
だけど。
「玉。それは可能だろうけど、たぬきちはどう思うんだ?」
それを聞いたたぬきちは、玉の腕の中からポンっと飛び出すと、僕の膝元に座り、自分の犬小屋を右前脚で差した。
「だ、そうだ。たぬきちはここに居るって。」
「わん」
「ですか。水晶玉の中ならいいかなって思ったのですが。」
「わん」
たぬきちは、玉に向かって済まないとでも言う様に、少し申し訳無さそうなトーンで鳴いた。
「ですか。ですね。ではたぬきち君。また明日です。」
「わんわん」
★ ★ ★
一度部屋に戻り、もう一つの水晶玉に入り直す事になる。あぁ面倒くさい。
僕達は長屋門の前に立っていた。
「これが、浅葱の家…」
黒ずんでいるけれど、それなりの歴史を経ているのだろう。現地に現存していれば文化財指定の一つも受けたんだろうなぁ。僕が知っているのは、石造りの門柱に鉄製の少し錆びた門だったし。
「いやいや。滅茶苦茶庶民の私としては、立派な農家だって気後れするよ。実家は建て売りだし、今住んでいる部屋だった1Kだし。むしろ、菊地さんの部屋の広さに驚いたもん。」
僕と玉では住みきれないけどね。
家具も荷物も少ないし。
玉砂利を進むと、実がびっしりと成った柿の木が出迎えてくれる。
「あれ?この柿って?」
「そう言う事。帰りにお土産て持って帰ろう。」
「柿取りなら玉にお任せを。…刺股とかないですかね?」
登れそうだと思ったんだろうなぁ。実際、僕は登っていたし。
でもね玉。今日はこの間買ったマキシスカートなんですよ。破くぞ。
玉も瞬時に気が付いて、スカートをパタパタしている。
「私はデニムだから、大丈夫っちゃあ大丈夫だけど…。」
「柿の木は折れやすいから大人はやめなさい。」
食べ物絡みなら、浅葱の力が作用する範囲は広い。
頭の中をあれこれいじってみたら、高枝剪り鋏が3本出てきた。3人でやれって事だろうか。
「狸って木登り出来たよね。」
「あまり上手く無いですけどね。まぁたぬきち君なら、殿仕様の狸なので、木登りくらい楽勝だと思いますよう。」
「これからこんな木が、あの空間に生えて、たぬちゃんがわんわん言いながら食べている光景が日常になるのね。」
「楽しみです。佳奈さんも当然一緒ですよね。」
「どうしよう。私、菊地さんのところに来る度に、菊地さんちへの深入りが酷くなってくわ。」
「うふふふふふふふふ。」
あぁ、また玉のあの笑いが始まった。
★ ★ ★
黒。
庭に黒がいる。
「玉?」
「何か居ますね。殿にもわかりましたか?」
「あぁ、庭の真ん中に黒が居る。黒としか言えないものが居る。」
「もののけ?いや違う。意思を感じない。敵意も感じない。救いを求めてる?私さっきから1人で何言ってるの?」
僕と玉が、庭に佇む「謎の黒」を警戒して足を止める中、青木さん1人足を止めていない。
慌てて玉が駆け寄り背後に青木さんを隠した。
「大丈夫よ。玉ちゃん。私、意識も意思もはっきりしている。なんか変な言葉が勝手に口から出てきただけ。」
「駄目ですよ、それだけで!」
ふむ。青木さんにも浅葱の血が流れているし、その影響だろう。
荼枳尼天の巫女として覚醒しつつある玉と、国麻呂さんに規格外と言われる程、浅葱の力が強い僕はかえって心底まで踏み込んでしまったらしい。
「御神刀」
軽く呟くと、荼枳尼天から下賜された小刀が僕の手元に現れる。
今の持ち主は玉だ。なので玉に渡す。
「殿。これは?」
「僕の合図と共に地面に刺しなさい。青木さんはそのまま動かないで。」
「わかったけど、何か危険な事はないの?玉ちゃん大丈夫?」
「敵意が無いと言ったのは君だろ。大丈夫。あれは居るだけだ。そして居なきゃいけないモノだ。救いを求めているなら救う。浅葱の力ってのはそういうものなんだ。」
僕はそう言うと、右手を振り出した。
その手には、そこの式台の上、屏風の側に置かれていた「日本刀」が鍔や柄などの拵えが整われて現れていた。
僕は「黒」に近寄って行った。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
ライト文芸
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。
rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

農民の少年は混沌竜と契約しました
アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた
少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された
これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる