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第一章 開店
寝起きドッキリ
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ボソボソボソボソ
「ねぇ大丈夫?男の人って朝さぁ。」
ボソボソボソボソ
「殿は目立たない固めの室内着ですよ。わざと。」
ボソボソボソボソ
「それって寝難く無いのかな?」
ボソボソボソボソ
「玉が時々寝ぼけて触っちゃたりしても、服の感触以外分かりません。殿には直接触れなくても、服の上からとかならわかるのに。」
ボソボソボソボソ
「玉ちゃん、それ、ほんとに寝ぼけてる?」
ボソボソボソボソ
あーもー、うっさいなぁ。
誰だ朝っぱらから枕元でゴソゴソしてるの?
また玉が大家さんを引っ張り上げたかな。ムニャムニャ。
★ ★ ★
「おーきろー!」
わぁ、毛布ひっぺがえされたぁ。見ないでぇ!すっぴんなのぉ。
てな冗談が頭を、脳味噌を通り過ぎて行った。ふむ、寝起きの頭脳は思考回路が無駄遣いするから面白いな。
「こんにちは、おはよう。」
「おはようございます、殿。」
「えぇと、僕が寝ぼけて無いんだとしたら、なんで青木さんがいるの?」
「玉が呼びました。」
「玉ちゃんに呼ばれました。」
「はぁ。」
なんでも昨日あれから、たぬきちの話で盛り上がってしまい、今日は聖域で畑仕事をすると聞いて朝っぱらからタクシーを飛ばして来たらしい。
お前、仕事は?
「有給取った!」
えっへんと腰に手を当てて胸を張る22歳OLさん。
昨日の今日だけど、それは大丈夫なのかね。
「もう、今月のノルマは達成しているし、半期に1日必ず取らないといけないファミリーデー有給消化なので、スダレ課長ごときでは私に文句言えないのだよ。」
「はぁ。」
何故かスダレ課長に、そこはかと無い同情を感じた。
それにしても、時計を見るとまだ6時半じゃ無いか。
青木さんは何時に家を出て来たんだ?
「聖域に行くのは朝のうちって玉ちゃんに聞いたので。」
「言ったので。」
「それに、朝はお婆ちゃんと庭いじりもするんでしょ。それも楽しそうなので、夕べは眠れませんでした。」
「それなら、これからはこの部屋で寝ませんか?自然が呼ばない限り、朝まで本当にぐっすり眠れますよ。多分、殿のお力で。」
何もした覚えは無いんだけど、まぁ僕の事だから、そんな事も有り得そうだなぁ。家族の健康管理ってお題目で。
「ねぇ奥様?今のって結構際どい発言でしたのに、考え事始めちゃいましたわよ。」
「奥様、それがうちの殿なんですの。最初はドキドキしてましたけど、もうそんな事どうでも良くなりました。お嫁入り前なのに倦怠期ですわ。」
「玉ちゃんも苦労が絶えないわねぇ。」
「だから一緒に同じ苦労するです。」
「…隣の部屋のリフォームが終わるまで、考えさせて。」
「殿!殿!!と~の!」
「朝から大きな声出すと、お隣の菅原さんに迷惑ですよ。」
「折角、佳奈さんが起こしに来てくれたんですよ。少しはこう、ドキドキするとか。ないんですか?」
「うーん、隣の幼なじみが起こしに来てくれるとかは、学生時代に読んだマンガでドキドキしたシチュエーションだけど、なんだろう。青木さんにはすっかり慣れちゃって家族的な親しみが勝っちゃうんだよ。」
「それは、1人の女として喜んでいいんだか、光栄に思っていいんだか、女として見られてないんだか。」
「玉をお化けという殿も、そういう仲良しお化けなのです。恋愛の先に家族になるのではなく、恋愛の前に家族になっちゃうんです。」
「それは俗に言う、(便利で)いい人ではないかしらね。」
その自覚はあるなぁ。
「というか、私は別にお付き合いをしているわけではない男性の家に勝手に入って行って、寝ている毛布を剥ぎ取って無理矢理起こすって何してんの?これ、菊地さんじゃなかったら犯罪よね。」
いや、僕でも多分犯罪になりますよ。
「ところで玉ちゃんは、まだ布団出さないの?」
「玉と殿、2人分の体温でお布団被ると暑いのです。」
「…なんかそういう、所帯染みたところって、なんかいいわね。まだ体験する気はないけど。多分。」
★ ★ ★
「あらあら、今日は朝からですか?」
「おはようございます。なんでも大家さんと玉ちゃんが毎朝庭仕事をしていると聞いて、いいなぁって思ってたら招待してくれました。」
「してあげました。」
「今日だけですけど、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。玉ちゃんとお姉ちゃんと一緒に土いじり出来るのも良いわね。お父さんはまだ寝てるね?」
「さっき叩き起こしたので、今は朝ご飯の支度をしているかと。」
「まぁまぁ。」
誰がお父さんですか?誰が。
とはいえ、あれは朝ご飯の催促だろうし、少し多めに作っておくかな。
ー今日の朝ご飯ー
冷蔵庫を覗くと、いくつか見慣れない食材が見つかった。何この黒いの。ヒジキ?
ヒジキだね。僕の頭に食材としてカケラもなかったなぁ。玉のリクエストかな。
ヒジキは醤油・味醂・砂糖で煮込む。油揚げと人参を細切りに、竹輪を輪切りにして全部ざっくりと圧力鍋行き。
ヒジキがあるなら、海方面でまとめるかな。お味噌汁は昆布と、あと聖域キャベツが山ほどあるので、出汁を取った昆布をそのまま切って、ちぎったキャベツと一緒に具にしよう。
魚は何があるかなぁ。
んーと。ししゃも(本物)、鰤の切身、鰆の切身、金目鯛の干物……。
朝だったらさぁ、もっと単純に焼いたりすれば良い鮭とか鰯とか。
なんで我が家の冷蔵庫と浅葱の力は、微妙にお高くて、調理が大変な魚ばかり詰めて(詰まって)いるんだろう。
仕方ないな。鰆を西京味噌で煮ている間に七輪を用意。
備長炭に着火剤で火を着けて。
こちらで炭火西京焼きに。
塩気が少し足りないから、七輪にタラコを乗せて、敢えて半生で焼き入れ。
あ、ヒジキが煮上がった。これは炊飯器に入れて炊き込みご飯にしよう。
・ヒジキご飯
・昆布とキャベツのお味噌汁
・鰆の西京焼き
・半生タラコ
これに玉の糠漬けと、美味しいお茶を淹れて、はい本日の朝ご飯の出来上がり。
…出来ればもう少し「山のもの」があった方がいいな。とうもろこしのバター炒めでも。いやいや、聖域トマトがあったな、これで行こうか。
玉葱を微塵切りにして水に晒す。トマトはざく切りにして、辛味を抜いた玉葱を乗せ、サラダ油・酢・塩胡椒で作ったドレッシングをかけたら、簡単トマトサラダの出来上がり。
★ ★ ★
「凄いわねぇお父さん。朝からこんなに美味しいお魚焼くのね。しかも七輪で。」
「僕はお父さんで固定ですか…。」
「で、玉ちゃんと佳奈ちゃんがお母さんね。」
「えへへへ。」
「玉ちゃん、嬉しそうねぇ。」
「別にお父さんでもいいですし、ご飯ならいつでもご馳走しますけど、旦那さんはどうするんですか、朝ご飯?」
「あぁ、あの宿六ならどうせまだ寝てるわよ。それにね、年寄りになると朝ご飯なんか別に要らないの。お茶とお香こでもあれば充分。でもここは、お香こもお味噌汁もお茶も美味しくて、時々恋しくなっちゃうのよね。」
「…大家さんもそうだったんですね。私も、玉ちゃんも、なんかご飯に釣られて菊地さんの周りをうろちょろしてる気がするの。」
「うふふ。菊地さんたら、引越し蕎麦からとっても美味しかったんですよ。」
という訳で、今日も大家さんは僕の家で朝ご飯を食べていきました。
聖域トマトを2~3個お土産に。
「これはひょっとして、大家さんも菊地さんに懐いているって事ではないかしら。」
「殿のご飯は無敵ですねぇ。」
「先に言っとくけど、大家さんは人妻だからね。」
「ですよ。お母さんの玉が許しません。」
あのね。君らね。
★ ★ ★
「わふ?」
聖域にやって来ると、新参者の姿にたぬきちがクビをかしげている。
僕の同行者で、玉を後ろから抱き抱えているので、敵対しない仲間だとは判断しているようだ。
僕の足元にきて、右前脚で僕の膝をつついている。紹介しろという事だろう。
「たぬきち君、この人は佳奈さんって言って、殿のお妾さんです。」
「こら、お妾違う。勝手に私を妾にしないで。」
「んじゃ、玉と同じく奥さんで。」
「なんかちょっとドキってしたけど、それも違う!たぬきに言葉が通じないと思って適当な事言わないで。」
「たぬきち、人の言葉わかるよ。」
「へ?」
「わん!」
どうやら青木さんを仲間と判断したらしく、青木さんの足元までトコトコ歩いて、青木さんのスニーカーに猫パンチ(たぬきパンチ)を御見舞いする。
「~~~~。」
「あ、佳奈さんが壊れました。」
「ね、ね、たぬきち君。抱っこしていい抱っこ。」
構わんが自己紹介させろと、僕と玉の顔を交互に見るたぬきち。
彼の意志を汲み取った僕が、青木さんに促すと。
「青木佳奈と申します。菊地さんと玉ちゃんとは、お友達付き合いさせて頂いてます。」
何故か社会人モードで深々と頭を下げて来た。
「わん、わん。」
たぬきちも丁寧に頭を上下させて応えている。その内、年頃の女性とたぬきが名刺交換しかねない不思議な光景です事。
「さて、玉はまずお掃除です。たぬきち君、ちょっと待っててね。」
「わふ。」
「あ、ちょっと待ちなさい。」
巫女装束を抱えた玉が、社に行こうとするのを引き留める。
「荼枳尼天からの伝言です。祝詞の力を上げなさい。」
「って、昨日も言われましたけど…。」
「御神刀を懐中に、気合いを込めて祝詞を上げなさい。」
そのくらいしか、僕にも検討つかないよ。
「はい。」
「私はどうしよう。」
たぬきちを抱っこして、ほっぺをくっつけて幸せそうな顔をしている青木さんが、そういえば私何してたらいいの?って表情をしていた。
「出来たら、玉を見守ってやってくれないか?多分、玉には大事な時間になるから。」
「でも、玉ちゃんにプレッシャーにならない?」
「玉には明確な目標がありますから、むしろ佳奈さんがそばに居てくれたら頑張れますよ。」
「…どうしよう。玉ちゃんが良い子過ぎて、たぬきちとどっちも可愛がりたいの。」
「わふ?」
「たぬきちは2人を護れ。後で美味しいご飯を作ってあげるから。」
「わんわん!」
「本当に護ってくれそうねぇ。」
「たぬきち君は殿仕様なので、そのくらいオチャノコサイサイですよ。多分。」
「わんわんわん」
「ねぇ大丈夫?男の人って朝さぁ。」
ボソボソボソボソ
「殿は目立たない固めの室内着ですよ。わざと。」
ボソボソボソボソ
「それって寝難く無いのかな?」
ボソボソボソボソ
「玉が時々寝ぼけて触っちゃたりしても、服の感触以外分かりません。殿には直接触れなくても、服の上からとかならわかるのに。」
ボソボソボソボソ
「玉ちゃん、それ、ほんとに寝ぼけてる?」
ボソボソボソボソ
あーもー、うっさいなぁ。
誰だ朝っぱらから枕元でゴソゴソしてるの?
また玉が大家さんを引っ張り上げたかな。ムニャムニャ。
★ ★ ★
「おーきろー!」
わぁ、毛布ひっぺがえされたぁ。見ないでぇ!すっぴんなのぉ。
てな冗談が頭を、脳味噌を通り過ぎて行った。ふむ、寝起きの頭脳は思考回路が無駄遣いするから面白いな。
「こんにちは、おはよう。」
「おはようございます、殿。」
「えぇと、僕が寝ぼけて無いんだとしたら、なんで青木さんがいるの?」
「玉が呼びました。」
「玉ちゃんに呼ばれました。」
「はぁ。」
なんでも昨日あれから、たぬきちの話で盛り上がってしまい、今日は聖域で畑仕事をすると聞いて朝っぱらからタクシーを飛ばして来たらしい。
お前、仕事は?
「有給取った!」
えっへんと腰に手を当てて胸を張る22歳OLさん。
昨日の今日だけど、それは大丈夫なのかね。
「もう、今月のノルマは達成しているし、半期に1日必ず取らないといけないファミリーデー有給消化なので、スダレ課長ごときでは私に文句言えないのだよ。」
「はぁ。」
何故かスダレ課長に、そこはかと無い同情を感じた。
それにしても、時計を見るとまだ6時半じゃ無いか。
青木さんは何時に家を出て来たんだ?
「聖域に行くのは朝のうちって玉ちゃんに聞いたので。」
「言ったので。」
「それに、朝はお婆ちゃんと庭いじりもするんでしょ。それも楽しそうなので、夕べは眠れませんでした。」
「それなら、これからはこの部屋で寝ませんか?自然が呼ばない限り、朝まで本当にぐっすり眠れますよ。多分、殿のお力で。」
何もした覚えは無いんだけど、まぁ僕の事だから、そんな事も有り得そうだなぁ。家族の健康管理ってお題目で。
「ねぇ奥様?今のって結構際どい発言でしたのに、考え事始めちゃいましたわよ。」
「奥様、それがうちの殿なんですの。最初はドキドキしてましたけど、もうそんな事どうでも良くなりました。お嫁入り前なのに倦怠期ですわ。」
「玉ちゃんも苦労が絶えないわねぇ。」
「だから一緒に同じ苦労するです。」
「…隣の部屋のリフォームが終わるまで、考えさせて。」
「殿!殿!!と~の!」
「朝から大きな声出すと、お隣の菅原さんに迷惑ですよ。」
「折角、佳奈さんが起こしに来てくれたんですよ。少しはこう、ドキドキするとか。ないんですか?」
「うーん、隣の幼なじみが起こしに来てくれるとかは、学生時代に読んだマンガでドキドキしたシチュエーションだけど、なんだろう。青木さんにはすっかり慣れちゃって家族的な親しみが勝っちゃうんだよ。」
「それは、1人の女として喜んでいいんだか、光栄に思っていいんだか、女として見られてないんだか。」
「玉をお化けという殿も、そういう仲良しお化けなのです。恋愛の先に家族になるのではなく、恋愛の前に家族になっちゃうんです。」
「それは俗に言う、(便利で)いい人ではないかしらね。」
その自覚はあるなぁ。
「というか、私は別にお付き合いをしているわけではない男性の家に勝手に入って行って、寝ている毛布を剥ぎ取って無理矢理起こすって何してんの?これ、菊地さんじゃなかったら犯罪よね。」
いや、僕でも多分犯罪になりますよ。
「ところで玉ちゃんは、まだ布団出さないの?」
「玉と殿、2人分の体温でお布団被ると暑いのです。」
「…なんかそういう、所帯染みたところって、なんかいいわね。まだ体験する気はないけど。多分。」
★ ★ ★
「あらあら、今日は朝からですか?」
「おはようございます。なんでも大家さんと玉ちゃんが毎朝庭仕事をしていると聞いて、いいなぁって思ってたら招待してくれました。」
「してあげました。」
「今日だけですけど、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。玉ちゃんとお姉ちゃんと一緒に土いじり出来るのも良いわね。お父さんはまだ寝てるね?」
「さっき叩き起こしたので、今は朝ご飯の支度をしているかと。」
「まぁまぁ。」
誰がお父さんですか?誰が。
とはいえ、あれは朝ご飯の催促だろうし、少し多めに作っておくかな。
ー今日の朝ご飯ー
冷蔵庫を覗くと、いくつか見慣れない食材が見つかった。何この黒いの。ヒジキ?
ヒジキだね。僕の頭に食材としてカケラもなかったなぁ。玉のリクエストかな。
ヒジキは醤油・味醂・砂糖で煮込む。油揚げと人参を細切りに、竹輪を輪切りにして全部ざっくりと圧力鍋行き。
ヒジキがあるなら、海方面でまとめるかな。お味噌汁は昆布と、あと聖域キャベツが山ほどあるので、出汁を取った昆布をそのまま切って、ちぎったキャベツと一緒に具にしよう。
魚は何があるかなぁ。
んーと。ししゃも(本物)、鰤の切身、鰆の切身、金目鯛の干物……。
朝だったらさぁ、もっと単純に焼いたりすれば良い鮭とか鰯とか。
なんで我が家の冷蔵庫と浅葱の力は、微妙にお高くて、調理が大変な魚ばかり詰めて(詰まって)いるんだろう。
仕方ないな。鰆を西京味噌で煮ている間に七輪を用意。
備長炭に着火剤で火を着けて。
こちらで炭火西京焼きに。
塩気が少し足りないから、七輪にタラコを乗せて、敢えて半生で焼き入れ。
あ、ヒジキが煮上がった。これは炊飯器に入れて炊き込みご飯にしよう。
・ヒジキご飯
・昆布とキャベツのお味噌汁
・鰆の西京焼き
・半生タラコ
これに玉の糠漬けと、美味しいお茶を淹れて、はい本日の朝ご飯の出来上がり。
…出来ればもう少し「山のもの」があった方がいいな。とうもろこしのバター炒めでも。いやいや、聖域トマトがあったな、これで行こうか。
玉葱を微塵切りにして水に晒す。トマトはざく切りにして、辛味を抜いた玉葱を乗せ、サラダ油・酢・塩胡椒で作ったドレッシングをかけたら、簡単トマトサラダの出来上がり。
★ ★ ★
「凄いわねぇお父さん。朝からこんなに美味しいお魚焼くのね。しかも七輪で。」
「僕はお父さんで固定ですか…。」
「で、玉ちゃんと佳奈ちゃんがお母さんね。」
「えへへへ。」
「玉ちゃん、嬉しそうねぇ。」
「別にお父さんでもいいですし、ご飯ならいつでもご馳走しますけど、旦那さんはどうするんですか、朝ご飯?」
「あぁ、あの宿六ならどうせまだ寝てるわよ。それにね、年寄りになると朝ご飯なんか別に要らないの。お茶とお香こでもあれば充分。でもここは、お香こもお味噌汁もお茶も美味しくて、時々恋しくなっちゃうのよね。」
「…大家さんもそうだったんですね。私も、玉ちゃんも、なんかご飯に釣られて菊地さんの周りをうろちょろしてる気がするの。」
「うふふ。菊地さんたら、引越し蕎麦からとっても美味しかったんですよ。」
という訳で、今日も大家さんは僕の家で朝ご飯を食べていきました。
聖域トマトを2~3個お土産に。
「これはひょっとして、大家さんも菊地さんに懐いているって事ではないかしら。」
「殿のご飯は無敵ですねぇ。」
「先に言っとくけど、大家さんは人妻だからね。」
「ですよ。お母さんの玉が許しません。」
あのね。君らね。
★ ★ ★
「わふ?」
聖域にやって来ると、新参者の姿にたぬきちがクビをかしげている。
僕の同行者で、玉を後ろから抱き抱えているので、敵対しない仲間だとは判断しているようだ。
僕の足元にきて、右前脚で僕の膝をつついている。紹介しろという事だろう。
「たぬきち君、この人は佳奈さんって言って、殿のお妾さんです。」
「こら、お妾違う。勝手に私を妾にしないで。」
「んじゃ、玉と同じく奥さんで。」
「なんかちょっとドキってしたけど、それも違う!たぬきに言葉が通じないと思って適当な事言わないで。」
「たぬきち、人の言葉わかるよ。」
「へ?」
「わん!」
どうやら青木さんを仲間と判断したらしく、青木さんの足元までトコトコ歩いて、青木さんのスニーカーに猫パンチ(たぬきパンチ)を御見舞いする。
「~~~~。」
「あ、佳奈さんが壊れました。」
「ね、ね、たぬきち君。抱っこしていい抱っこ。」
構わんが自己紹介させろと、僕と玉の顔を交互に見るたぬきち。
彼の意志を汲み取った僕が、青木さんに促すと。
「青木佳奈と申します。菊地さんと玉ちゃんとは、お友達付き合いさせて頂いてます。」
何故か社会人モードで深々と頭を下げて来た。
「わん、わん。」
たぬきちも丁寧に頭を上下させて応えている。その内、年頃の女性とたぬきが名刺交換しかねない不思議な光景です事。
「さて、玉はまずお掃除です。たぬきち君、ちょっと待っててね。」
「わふ。」
「あ、ちょっと待ちなさい。」
巫女装束を抱えた玉が、社に行こうとするのを引き留める。
「荼枳尼天からの伝言です。祝詞の力を上げなさい。」
「って、昨日も言われましたけど…。」
「御神刀を懐中に、気合いを込めて祝詞を上げなさい。」
そのくらいしか、僕にも検討つかないよ。
「はい。」
「私はどうしよう。」
たぬきちを抱っこして、ほっぺをくっつけて幸せそうな顔をしている青木さんが、そういえば私何してたらいいの?って表情をしていた。
「出来たら、玉を見守ってやってくれないか?多分、玉には大事な時間になるから。」
「でも、玉ちゃんにプレッシャーにならない?」
「玉には明確な目標がありますから、むしろ佳奈さんがそばに居てくれたら頑張れますよ。」
「…どうしよう。玉ちゃんが良い子過ぎて、たぬきちとどっちも可愛がりたいの。」
「わふ?」
「たぬきちは2人を護れ。後で美味しいご飯を作ってあげるから。」
「わんわん!」
「本当に護ってくれそうねぇ。」
「たぬきち君は殿仕様なので、そのくらいオチャノコサイサイですよ。多分。」
「わんわんわん」
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