ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

合体!出来ない?

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ガス口二つに鉄板、それに七輪(備長炭)。
それに全部調理器具や食材が乗り、3畳のキッチンを僕と青木さんが、あっちこっちに右往左往。
まるで炊き出しの様な光景だよ。

こっちで茹でたパスタをフライパンで炒めて
包丁で切り分けた具材を鉄板焼き(バター炒め)しながら、七輪で牛乳とクリームを塩の調整をしながら煮込んで、こっちはこっちでキャベツをざく切りにする。

「何何、なんなの?菊地さんちって毎食こうなの?」
青木さんが悲鳴を上げている。足元では割烹着姿の玉が糠床を掻き回してる訳で。
「大体、合ってる。」  
「うむ、です。」
「ひえぇぇ。」 
そんなに毎日大変だとは思ってなかったけどなぁ。
だって「殿のお料理は美味しくてほっぺ落ちます。」って言ってくれる人がいるから。

★  ★  ★

という訳で、出来上がり。

・ナポリタン
・カルボナーラ
・ペペロンチーノ
・ミートソース
・明太子スパ
の5種パスタを小分けにして、お好きなパスタをお好きなだけバイキング形式で頂こうという趣向です。
…いや、別にこんなに凝る必要なんか、普通は無いんだよ。ただ僕の食経験値の積み上げと、玉がちゃっかりCookなPadを調べちゃったので。
こうなってしまいました。
「ただ晩御飯作るだけのに、こんなんなるとは。」
「玉と暮らすという事は、こういう事なんだよ。」
「えっへん。」
「威張られてもなぁ。」

因みに汁物は、刻みベーコンと聖域産(朝、成田に行く前に収穫しておいた。玉も掃除の日課があるし)ざく切りキャベツのコンソメスープ。
サラダはキャベツとコーンと刻み蒲鉾にフレンチドレッシングを掻き回しただけの手抜き。これに粉チーズをかけたインチキシーザーサラダ。

あと、何故か、玉特製茄子と胡瓜の糠漬け。
(似非洋食のナポリタンを除けば)一つだけ純和食なのだけど、これが美味しいから困る、いや、困らない。
貧乏舌の僕には、最高のご馳走だからね。

★  ★  ★

「……………本当に美味しいし…何これ?お漬物ってこんなに美味しいの?お茶といいお漬物といい、この家でご馳走になるものってどうしてこんな美味しいの?」
「ふひひ。」
糠漬けを混乱気味に貪り始めた青木お姉ちゃんの姿に、玉がまぁ悪い顔をしてるしてる。
聖域産のキャベツはどうかと、食べたら甘い。あま~い(古い)。日曜19時に放送しているテレビ番組ならば糖度を測り出すくらいの甘さだ。
酸っぱめのフレンチドレッシングとの兼ね合いが最高だよ。あと、いつもはカニカマを使うところを、試しに使った小田原名産のお高い蒲鉾(でもロハ)とキャベツの歯応えが面白い!
成功成功。

「こんなに色々な種類のスパゲッティを一度に味わうって初めてだし。どうしよう。なんか食卓が幸せなの。」
「それが殿なのです。殿のご飯を一度食べると、玉も神様も平伏すしかないのです。」
「…昼は特上の鰻重をご馳走になったし、夜はパスタバイキング。どうしよう。私、餌付けられてる?」
「嫁に来るですか?」
「簡単に玉ちゃんは言うけどさぁ。旦那様に毎食こんなご飯を作られたら、お嫁さんの立場無いのよねぇ。」


少し作り過ぎたかなぁ。茹でたパスタって長持ちしないしなぁ。

「……ねぇ、その旦那様候補は余所見して、何かぶつぶつ言ってんだけど。」
「そこを突破するのが、女の矜持です!」
「…見た目歳下の玉ちゃんに恋愛で叱咤される私、22歳……。」

★  ★  ★

作り過ぎたパスタは勿論、玉が完食しましたよ。
えぇえぇ。
いつもの通り、玉は玉になってます。どすこい。
「ねぇ、玉ちゃん大丈夫なの?」
「ほっときゃ治る。いや、字面的には直る。」
「玉は道具か何かですか?」
「おや、自覚ない?」
「むむむ。殿は玉の布団越しフライングボディアタックを味わいたいですか?」
「…玉にプロレスを教えたのは、何処のどいつだ?」
「菅原さん。殿に襲われた時用にと。」
「あの人は多分、面白がってるだけです。」
「…菊地さんと戯れてる間に玉ちゃんが縮んできたんだけど。」
あぁそう言えば。僕と青木さんにはトンチキな力が有ると前に言ったけど、玉にもトンチキというかトンマな能力があったんだなぁ。みつお。

★  ★  ★

さて、青木さんを送る前に一仕事。
床の間から二つの水晶玉を持ってくる、そして昼間持ち歩いていたカバンからは、玉の家で手に入れた水晶玉を取り出す。

「あれ?水晶増えてませんか?」
「さっき、玉んちで拾った。」
「は?」
あの時、玉は青木さんと外に居たからね。

「覗いてみなさい。」
水晶玉の中には、色々なものが入っている。
お社だったり、茶店だったり。
こないだ矢切で手に入れた水晶玉には、浅葱家の本家が入っていたし、さっき手に入れた水晶玉には。

「…玉の家、ですね…。」 
おや、思ったより冷静でした。
「さっきまた沢山泣いたから、しばらく大丈夫です。」
「玉ちゃん、人の感情ってそんな便利じゃないから、辛くなったらすぐ連絡ちょうだいな。」
「一応、殿が居るから平気です。」
一応呼ばわりされる僕。

「こちらの水晶玉は昨日中に入ったよね。変化があるから覗いてごらん。」
姉妹2人が、仲良く顔をくっつけて覗き込む。
「あぁ昨日行った所ね。途中で神様が出て来ちゃったから私が閉じ込められてた茶店の方は殆ど見てないなぁ。」
「ねぇ殿?たぬきが居ませんか?」
「へっ?」
「ほら、ここ。お座りしてこっち見てます。」
「あ、ほんとだ。これって実際に中にいるって事でしょ。可愛い!」

今朝、いなかったから、いつか何かの拍子に入ったのか、巻き込まれたのか。
多分、本人の意思で入ったんだろうなぁ。
「ねぇ殿。この仔もしかして?」
「たぬきちだろうね。」 
「たぬきち?」

僕達が先日、青木さんちのご近所の矢切(ただし1,000年前)を訪れた事。
その時に出会ったたぬきに、たぬきちと名前をつけた事などを説明した。

「つまり、1,000年前に菊地さんが誑かしたと。」
「神様もたぬきも誑かす殿、素敵です。」
「玉ちゃん。巫女さんとしてそれはどうなの?」 
「大丈夫です。玉も誑かされてますから。」
「だから玉ちゃん。女として、それはどうなの?」
「ふっふっふ。開き直った女は強いのですよ。」

青木さんが来てからの玉は少し言動が変なのでほっとくとして。
「ほっとかれました。」
「玉ちゃん、よくほっとかれるわね。」
「それにめげずにお仕えする価値のある殿方なのですよ。」
「強いわぁ。」

一つの実験をしてみよう。
実は既に一つ試して失敗している。
お社と茶店の合体は成功した。というか、確か落として二つの水晶玉が触れたら勝手にくっついた。
それぞれの水晶に入って居た建物は一つの水晶の中で隣り合って建っていた。 

でも、3つ目の水晶玉は付かなかった。

何かの意味があるのだろうか。

そして今回手にいれた4つ目の水晶玉。
玉の家が封入された水晶玉。
これはどれかに合体するのだろうか。

「ねぇ、私達ごとほっとかれ出したわよ。」
「考え事がまとまったら、また相手してくれますよ。びっくりさせられる事と引き換えにね、です。」
「昨日無理矢理押しかけて、驚かなかった時間てないわね。」

1と2→付かない
1と3→付かない
ふむ、やはり聖域水晶と後から手に入れた水晶は付かない様だ。
ならば2と3。

ついた。

「ねぇねぇ!今水晶玉と水晶玉がくっついて一つにならなかった?」
「殿?これは?」
水晶玉を覗いてみると、浅葱の実家と玉の家が並んでいた。
そういう事か。ってどういう事だ?

★  ★  ★

夜も20時を回ったので、青木さんを送る事にした。
無職の僕とは違って、彼女には明日から仕事が待っているし。
「働け。」
玉、うるさい。

玄関の鍵を閉めていると、大家さんに声をかけられた。
「随分と女性の出入りが激しいみたいですね。」
あなたもですか。

玉が慕っている人で、玉の先輩に当たる人です。
という設定を即座に玉が考えて説明してくれた。
玉は僕の従姉妹とかいう設定があって、それに乗っかってくれたらしい。
「まぁまぁ。玉ちゃんがお世話になってまして。」
「いえいえこちらこそ。玉ちゃんは私に元気をくれる大切な友達、というかもう妹みたいなものですから。」
「あらあら、玉ちゃんは私の孫みたいなものなんですよ。」
「えへへ。」
何これ?
えぇと、まぁ。考えてみれば、玉も大家さんも青木さんもコミュニケーションお化けだったな。
僅か3分で、祖母・母・娘みたいな雰囲気を醸し出し始めたので、僕はとりあえず車を取りに行く事にします。
なんかいづらいので。

★  ★  ★

「そこの部屋だったら、来週リフォームが入るので、そのあとなら大丈夫よ。」
「お隣さんですね。お庭も広がります。」
「うーん。駅までは5分くらい歩く時間は増えるけど、この間取りでこの家賃は魅力的だなぁ。」

車を取ってきたら、なんか変な事を言い出し始めてました。

…なんか、僕の周りに堀が掘られ始めました?
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