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第一章 開店
おとなり
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あぁお煎餅が美味しい。
まだ温かくて、コシが無くなりかけた生地に塗りたてのお醤油。それにパラパラとかけた七味が効いてるな。
「唐辛子って初めて食べましたけど、刺激的ですねえ。こんな辛い辛いは。」
「玉の時代には、辛いものって山椒や生姜くらいしかなかったのかな。」
「です。」
「ですか。」
「です。」
「………。」
ふひぃ。
「………との?」
「今はなんにも考えたくありません。」
「だからといって、お茶を飲んでてもねぇ。」
未来から来た青い猫型ロボットの漫画で、栗饅頭が無限増殖しちゃって宇宙に棄てる話があったけど、聖域で無限増殖している宋銭はどうなるんだろう。
「でもでも、建物の外に溢れている様子はありませんねぇ。」
水晶玉をしげしげと玉が覗き込んでいる。
反対側から僕も見てみよう。岩壁から水が跳ねている景色や、茶店とお社の間、池がある辺りを中心に、一輪草の花が風に揺れている姿は見えるけれど(ふーん。中は風吹いてんだ…どこから?)溢れた宋銭が壁を突き破って聖域を埋め尽くす様子は伺えない。
「止まったのかな?です?」
「多分、僕が必要とする分だけ増えたからだと思うよ。」
「必要とする分?ですか?殿はお金が必要です?」
お金を要らない人は滅多に居ないけどね。
「僕は自分の力を全て制御出来ている訳では無いけど、少なくとも僕の力は僕を困らせる事はしないんだよ。」
「……何故、そんな事がわかるんですか?」
「前にも話したけれど、この力って、いずれ何かをする為に何者かから授けられてるらしい。だとするならば僕に敵対するとかは考え難い。」
(今頃は、宋銭の増殖も止まって、然るべき部屋に収まっているだろう。例えば、青木さんが閉じ込められていた、あの空間とか。)
「んじゃ、なんで逃げたんですか?」
「なんか面倒くさくなったから。」
「酷い言い草ですねぇ。」
★ ★ ★
さて、今晩も出かけよう。
こちらも実験の一環です。実際には殆ど確認なんだけれども。僕の考えは大体正解だとわかって来ているので。
「花火は持って行っても?」
「んん、する場所、多分無いよ。」
「分かりましたです。少し残念。」
うちの巫女さんは聞き分けの良い子で助かります。
車に乗って20分ちょい。市の西端を南北に走る痩せ尾根が尽きる辺り。ここから台地は東に向きを変えて広大な下総台地に吸収されていく、その曲がり角。
地図で古い社寺をピックアップする中で、バス通りを挟む2本の古道が浮かび上がって来たのよ。
おそらく、そのどちらかが東海道なのだろう。
その内、台地端となると東側の細い道で車を止める。
この先は、昭和の宅地開発で消えているけれど、その先の台地端に今でもずっと道は続き、二つ北の市まで途切れ途切れではあるけど辿る事が出来る。
ここまで来ると、もう隣の市だ。その地名は平安時代の日記文学、更科日記に記述がある。
更科日記に記されているその「まつさと」と言う地名は、それは「うまつさと」からの変化だと思われる。
うまつさと、つまり馬の津(湊)の里。
律令制下の駅で、厩舎もしくは牧場があった場所、と地名から読み取れるので、東海道は内陸ではなく、JRの駅がある川沿いのそっちに伸びていた可能性も高い。が、何しろ1,300年も前の話だ。
直ぐそばの川向こうは東京だ。そりゃ道だって消えるよね。
「こんなとこで何をすんですか?」
「直ぐ終わるよ。」
玉には、僕の袖でもベルトでも好きなところに掴まる様に言うと、大きく深呼吸。
玉がぎゅっと左手の袖口を掴んだ感触を得て、フッと息を吐きだす。別にこんな儀式は要らないのだけど、玉の為だね。
変に玉が僕から離れて、時間の迷子になったりしたら困るからね。
形だけでもなんらかの儀式をして、お互いの呼吸を合わせた方がいい。
だって、令和の今は、僕らは手を繋ぐ事が出来ないから。
★ ★ ★
時を超えて、今は昼間ウロチョロしていた日の“夜“の筈。場所は、後に渡し舟と演歌で有名になる辺りの台地上。
対岸に、日本で一番長い映画シリーズで有名な帝釈天様が後に出来る。(まだただの湿地帯の筈だな)
でもその地名は、後に後北条氏と里見氏がここで戦国時代中、関東最大の野戦が行われた事績によってついたもの。
今はまだただの田舎でしか無い。字名すらわからない。月明かりだけが唯一の光源の、本当にただの農村だ。
この時代に来れば、玉は僕に触れる事が出来るので、僕の袖口を握っていた手は、僕の手をしっかり握っている。
今、暗闇中で僕らが立つ道は里道に見える。
しかも、令和時代の道幅と大して変わっている様には見えない。
そして道の形は1,000年先と一緒だった。台地の崖線に沿って緩やかな弧を描いて北に消えていく。
南は古寺の境内を避けるためか、谷を一つ超えている様子が、道の高低差で伺う事が出来た。
そして道の脇には松が植えられているのか、勝手に生えているのか。
僕らはそのまま西へ向かった。
畑らしき開かれた赤土には畝もなく、ただ青葉が植えられているだけだ。
「蕪と大根ですね。」
葉の形を見るだけで、玉は植えられている野菜がわかるようだ。
「でも、丸々太った殿の美味しい大根を食べたら、もうこんな痩せ大根は食べられませんよ。」
「1,000年も経てば、品種だって改良されていきますよ。」
「そういえば、殿の蕪は食べた事ないですねぇ。」
「食べ方がわからないから、用意してないだけですね。」
実際、蕪ってどんな料理に使えるの?
「分かり易いのはお漬物ですよ。用意して頂ければ、玉がいくらでも糠漬けにします。」
茄子と胡瓜ばかりだったし、糠漬けの野菜を増やして見てもいいかもね。
特に玉の糠漬けは美味しいからね。
東の道は広く、やはり3間位はあるな。
既に火は落ちているけど、数軒の集落があり、川(この当時は太日川って利根川の下流域になるらしい)に降っていく道の追分には道祖神が何体も立っている。
この時代のメインストリートはこっちらしい。
これが東海道かどうか、まだわからないけど。
時間的にはまだ20時くらい、しかし外に人影は全く無く、その代わりと言ってはなんだけれども獣の姿をよく見かける。
狸やイタチといった獣が平気で僕らの前を横切り、或いは直ぐそばまで寄って来て僕らをお座りして眺めている。
「……農家の人は、狸を捕まえて食べるそうですけれど、何故この仔たちはこんなに人懐っこいんですかね。」
玉の方が警戒しているみたいで、僕の背中にぎゅっと隠れているよ。
「僕らは神様とオトモダチだからじゃないかな。全く警戒心がないのは野生のケモノとしてどうかと思うけど。」
「なんかちょっと怖いです。」
「大丈夫そうだよ。」
なっ?
狸に話しかけてみたり。
「ワン。」
狸ってワンて鳴くんだ。(犬科だしなぁ)
時間移動した元の場所までついて来た(というか、少し前を歩いていたので護衛のつもりかなぁ)たぬきちと別れてさっさと現代に戻りました。
「たぬきちって誰ですか!」
「たぬきちって呼んだらあの仔、ワンて返事したよ。」
「殿は神様から狸までなつかせますね。」
「食い意地の張った巫女さんとかね。」
「食い意地張ってるから玉はお腹空きましたよ。」
「あれだけお煎餅食べたのに?」
「あれはあれ。それはそれ。これはこれ。」
★ ★ ★
車に戻り、そのまま車通りが多い道に出たところ、その角に20年位前にタリバンに破壊された磨崖仏の名前がついた中華系チェーン店があったので、餃子好き巫女のリクエストでそのまま駐車場に車を入れまして。
「さぁ、今日も玉がぱくぱく食べますね。」
あーあ。
僕がこのチェーン店でよく食べる炒飯と麻婆豆腐が半分食べられるしまった事をご報告致します。
「お豆腐の新たな可能性ですよ!」
そういえば、大豆系料理は和食中心だったね。
まだ玉が来たばかりの頃なので、和食しか出さなかったんだ。まだほんの数日前なんだけどな。
「で、殿。そろそろ玉にも教えて下さい。殿は何を始めようとしてるんですか?」
「ん?考えてみなさいよ。僕らは店を持ってる。お茶を沸かせる。お茶菓子も作れる。お釣りになるお金も沢山持ってる。」
「……まさかさっきのは…。お店開く場所を探してたんですか?」
「あまり人が多いとトラブルが増えそうだから、少し集落から離れた街道筋がいいなぁと思ったんだけどね。この辺はちょっと人が多そうでダメだね。」
「前に殿が言っていた、昔の人を料理で驚かそうってやつですか?それは玉じゃもう物足りませんって事ですか?まだまだ沢山驚きたいんですよ玉は!」
「んにゃ。玉が来たのはイレギュラーだったけど、どっちにしろやる予定は変わらかったから。」
「あの、一つ聞いていいですか?」
「どうぞ。」
「殿はこの時間で生きていくんですよね。」
「側から聞いたら、エラく頭の悪い話だけど、答えはウン、だよ。」
「だったら、昔に行く必要なんか無くないですか?別にこの時間でも、殿の力ならお料理屋を開けると思います。」
「うーん。僕がこれを思いついたのは玉に出逢うずっと前からなんだけど、何故か僕にはこれが必要な事だと知っていたから、って言うのが一つ。」
「浅葱の力で何かをしなくちゃならないって奴ですね。」
「それと、あともう一つ。さっき増えた。」
僕はカバンから“新しい水晶玉“を取り出した。
「これはさっき、たぬきちがくれたものなんだ。水晶の中に入っているものはまだわからない。けど、ここに来てあの時間に行くって言う意味は、少なくともたぬきちと僕にはあった様なんだ。」
まだお皿を下げていないテーブルに、僕は都合3つ目となる水晶玉をコロンと転がした。
まだ温かくて、コシが無くなりかけた生地に塗りたてのお醤油。それにパラパラとかけた七味が効いてるな。
「唐辛子って初めて食べましたけど、刺激的ですねえ。こんな辛い辛いは。」
「玉の時代には、辛いものって山椒や生姜くらいしかなかったのかな。」
「です。」
「ですか。」
「です。」
「………。」
ふひぃ。
「………との?」
「今はなんにも考えたくありません。」
「だからといって、お茶を飲んでてもねぇ。」
未来から来た青い猫型ロボットの漫画で、栗饅頭が無限増殖しちゃって宇宙に棄てる話があったけど、聖域で無限増殖している宋銭はどうなるんだろう。
「でもでも、建物の外に溢れている様子はありませんねぇ。」
水晶玉をしげしげと玉が覗き込んでいる。
反対側から僕も見てみよう。岩壁から水が跳ねている景色や、茶店とお社の間、池がある辺りを中心に、一輪草の花が風に揺れている姿は見えるけれど(ふーん。中は風吹いてんだ…どこから?)溢れた宋銭が壁を突き破って聖域を埋め尽くす様子は伺えない。
「止まったのかな?です?」
「多分、僕が必要とする分だけ増えたからだと思うよ。」
「必要とする分?ですか?殿はお金が必要です?」
お金を要らない人は滅多に居ないけどね。
「僕は自分の力を全て制御出来ている訳では無いけど、少なくとも僕の力は僕を困らせる事はしないんだよ。」
「……何故、そんな事がわかるんですか?」
「前にも話したけれど、この力って、いずれ何かをする為に何者かから授けられてるらしい。だとするならば僕に敵対するとかは考え難い。」
(今頃は、宋銭の増殖も止まって、然るべき部屋に収まっているだろう。例えば、青木さんが閉じ込められていた、あの空間とか。)
「んじゃ、なんで逃げたんですか?」
「なんか面倒くさくなったから。」
「酷い言い草ですねぇ。」
★ ★ ★
さて、今晩も出かけよう。
こちらも実験の一環です。実際には殆ど確認なんだけれども。僕の考えは大体正解だとわかって来ているので。
「花火は持って行っても?」
「んん、する場所、多分無いよ。」
「分かりましたです。少し残念。」
うちの巫女さんは聞き分けの良い子で助かります。
車に乗って20分ちょい。市の西端を南北に走る痩せ尾根が尽きる辺り。ここから台地は東に向きを変えて広大な下総台地に吸収されていく、その曲がり角。
地図で古い社寺をピックアップする中で、バス通りを挟む2本の古道が浮かび上がって来たのよ。
おそらく、そのどちらかが東海道なのだろう。
その内、台地端となると東側の細い道で車を止める。
この先は、昭和の宅地開発で消えているけれど、その先の台地端に今でもずっと道は続き、二つ北の市まで途切れ途切れではあるけど辿る事が出来る。
ここまで来ると、もう隣の市だ。その地名は平安時代の日記文学、更科日記に記述がある。
更科日記に記されているその「まつさと」と言う地名は、それは「うまつさと」からの変化だと思われる。
うまつさと、つまり馬の津(湊)の里。
律令制下の駅で、厩舎もしくは牧場があった場所、と地名から読み取れるので、東海道は内陸ではなく、JRの駅がある川沿いのそっちに伸びていた可能性も高い。が、何しろ1,300年も前の話だ。
直ぐそばの川向こうは東京だ。そりゃ道だって消えるよね。
「こんなとこで何をすんですか?」
「直ぐ終わるよ。」
玉には、僕の袖でもベルトでも好きなところに掴まる様に言うと、大きく深呼吸。
玉がぎゅっと左手の袖口を掴んだ感触を得て、フッと息を吐きだす。別にこんな儀式は要らないのだけど、玉の為だね。
変に玉が僕から離れて、時間の迷子になったりしたら困るからね。
形だけでもなんらかの儀式をして、お互いの呼吸を合わせた方がいい。
だって、令和の今は、僕らは手を繋ぐ事が出来ないから。
★ ★ ★
時を超えて、今は昼間ウロチョロしていた日の“夜“の筈。場所は、後に渡し舟と演歌で有名になる辺りの台地上。
対岸に、日本で一番長い映画シリーズで有名な帝釈天様が後に出来る。(まだただの湿地帯の筈だな)
でもその地名は、後に後北条氏と里見氏がここで戦国時代中、関東最大の野戦が行われた事績によってついたもの。
今はまだただの田舎でしか無い。字名すらわからない。月明かりだけが唯一の光源の、本当にただの農村だ。
この時代に来れば、玉は僕に触れる事が出来るので、僕の袖口を握っていた手は、僕の手をしっかり握っている。
今、暗闇中で僕らが立つ道は里道に見える。
しかも、令和時代の道幅と大して変わっている様には見えない。
そして道の形は1,000年先と一緒だった。台地の崖線に沿って緩やかな弧を描いて北に消えていく。
南は古寺の境内を避けるためか、谷を一つ超えている様子が、道の高低差で伺う事が出来た。
そして道の脇には松が植えられているのか、勝手に生えているのか。
僕らはそのまま西へ向かった。
畑らしき開かれた赤土には畝もなく、ただ青葉が植えられているだけだ。
「蕪と大根ですね。」
葉の形を見るだけで、玉は植えられている野菜がわかるようだ。
「でも、丸々太った殿の美味しい大根を食べたら、もうこんな痩せ大根は食べられませんよ。」
「1,000年も経てば、品種だって改良されていきますよ。」
「そういえば、殿の蕪は食べた事ないですねぇ。」
「食べ方がわからないから、用意してないだけですね。」
実際、蕪ってどんな料理に使えるの?
「分かり易いのはお漬物ですよ。用意して頂ければ、玉がいくらでも糠漬けにします。」
茄子と胡瓜ばかりだったし、糠漬けの野菜を増やして見てもいいかもね。
特に玉の糠漬けは美味しいからね。
東の道は広く、やはり3間位はあるな。
既に火は落ちているけど、数軒の集落があり、川(この当時は太日川って利根川の下流域になるらしい)に降っていく道の追分には道祖神が何体も立っている。
この時代のメインストリートはこっちらしい。
これが東海道かどうか、まだわからないけど。
時間的にはまだ20時くらい、しかし外に人影は全く無く、その代わりと言ってはなんだけれども獣の姿をよく見かける。
狸やイタチといった獣が平気で僕らの前を横切り、或いは直ぐそばまで寄って来て僕らをお座りして眺めている。
「……農家の人は、狸を捕まえて食べるそうですけれど、何故この仔たちはこんなに人懐っこいんですかね。」
玉の方が警戒しているみたいで、僕の背中にぎゅっと隠れているよ。
「僕らは神様とオトモダチだからじゃないかな。全く警戒心がないのは野生のケモノとしてどうかと思うけど。」
「なんかちょっと怖いです。」
「大丈夫そうだよ。」
なっ?
狸に話しかけてみたり。
「ワン。」
狸ってワンて鳴くんだ。(犬科だしなぁ)
時間移動した元の場所までついて来た(というか、少し前を歩いていたので護衛のつもりかなぁ)たぬきちと別れてさっさと現代に戻りました。
「たぬきちって誰ですか!」
「たぬきちって呼んだらあの仔、ワンて返事したよ。」
「殿は神様から狸までなつかせますね。」
「食い意地の張った巫女さんとかね。」
「食い意地張ってるから玉はお腹空きましたよ。」
「あれだけお煎餅食べたのに?」
「あれはあれ。それはそれ。これはこれ。」
★ ★ ★
車に戻り、そのまま車通りが多い道に出たところ、その角に20年位前にタリバンに破壊された磨崖仏の名前がついた中華系チェーン店があったので、餃子好き巫女のリクエストでそのまま駐車場に車を入れまして。
「さぁ、今日も玉がぱくぱく食べますね。」
あーあ。
僕がこのチェーン店でよく食べる炒飯と麻婆豆腐が半分食べられるしまった事をご報告致します。
「お豆腐の新たな可能性ですよ!」
そういえば、大豆系料理は和食中心だったね。
まだ玉が来たばかりの頃なので、和食しか出さなかったんだ。まだほんの数日前なんだけどな。
「で、殿。そろそろ玉にも教えて下さい。殿は何を始めようとしてるんですか?」
「ん?考えてみなさいよ。僕らは店を持ってる。お茶を沸かせる。お茶菓子も作れる。お釣りになるお金も沢山持ってる。」
「……まさかさっきのは…。お店開く場所を探してたんですか?」
「あまり人が多いとトラブルが増えそうだから、少し集落から離れた街道筋がいいなぁと思ったんだけどね。この辺はちょっと人が多そうでダメだね。」
「前に殿が言っていた、昔の人を料理で驚かそうってやつですか?それは玉じゃもう物足りませんって事ですか?まだまだ沢山驚きたいんですよ玉は!」
「んにゃ。玉が来たのはイレギュラーだったけど、どっちにしろやる予定は変わらかったから。」
「あの、一つ聞いていいですか?」
「どうぞ。」
「殿はこの時間で生きていくんですよね。」
「側から聞いたら、エラく頭の悪い話だけど、答えはウン、だよ。」
「だったら、昔に行く必要なんか無くないですか?別にこの時間でも、殿の力ならお料理屋を開けると思います。」
「うーん。僕がこれを思いついたのは玉に出逢うずっと前からなんだけど、何故か僕にはこれが必要な事だと知っていたから、って言うのが一つ。」
「浅葱の力で何かをしなくちゃならないって奴ですね。」
「それと、あともう一つ。さっき増えた。」
僕はカバンから“新しい水晶玉“を取り出した。
「これはさっき、たぬきちがくれたものなんだ。水晶の中に入っているものはまだわからない。けど、ここに来てあの時間に行くって言う意味は、少なくともたぬきちと僕にはあった様なんだ。」
まだお皿を下げていないテーブルに、僕は都合3つ目となる水晶玉をコロンと転がした。
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