ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

キャベツ

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「それで。」
踏み潰した雑草を畝に沿って並べ敷いていると、新たに草刈りをして集めた雑草をどーん!どーん!(本人がそう形容しなさいと)踏み潰し始めた玉が話しかけてくる。
前回はそれなりに生えていたハコベやたんぽぽは殆ど刈り取られて地面がはっきり見えてるよ。
この短時間で大したものだね。玉さん。

「畑を作って何を植えるおつもりですか?」
「とりあえず、キャベツかな。」
「きゃべつ?」
「分かり易く言うのなら、菜葉(なっぱ)です。」
「お野菜は大体菜葉ですが?」
「これ以上菜葉じゃないくらい菜葉です。」
「??。」
あれ?玉にはキャベツってわからないのか。
玉の時代には伝来してきている筈だけど。

後で調べたら、キャベツ自体は早くから世界中に広まっていたけれど、日本への伝来は、江戸時代初期の日蘭貿易でだった。失敗失敗。


★  ★  ★

という訳で、一度部屋に戻りました。
玉に理解してもらうにはやはり、実際に食してもらうのが一番だからね。
「だから玉は食いしん坊じゃありません!てば。」
じぃー。僕は玉を見つめます。
「た、多分。」
じぃー。まだまだ見つめます。
「お、おそらく。」
じぃー。たっぷり見つめます。
「ほ、ほら。さっき殿が作ってお煎餅を食べちゃいましたから。」
じぃー。
あれ、お煎餅じゃないんだけどなぁ。

「じゃあ、これから作る料理の味見は無しって事で。」
「ごめんなさい。玉が悪かったです。玉は食いしん坊です。玉は悪い娘です。」
瞬殺。玉がガバッと土下座を始めちゃった。
あと、…最後の悪い娘って何?


ーキャベツ料理諸々ー

・千切り
単純な千切りです。キャベツの半玉に包丁を入れるだけ。ただし僕は料理の経験が少なく、当然包丁捌きも怪しい物なので、左手は猫で。一本一本の太さが細く均等になる様に、ゆっくり慎重に切ります。
変に太いキャベツが有ると、口の中が変に不快になるので。
味付けは、揚げ物のお供ならばソース!
ただし揚げ物に醤油をかけている時は、胡麻ドレッシング。
サラダの主張になる時も胡麻ドレッシング。
…生キャベツは柔らかくなっている方が好きなので。

・回鍋肉
材料:キャベツ、豚コマ、ピーマン
1.キャベツとピーマンは食べ易い大きさにざく切りにする
2.フライパンで豚コマを炒め、火が通ったらキャベツとピーマンを加える
3.タレをかける
 タレは醤油、甜麺醤、酒、すりおろしニンニク、
 豆板醤を混ぜてもの
4.全体的にタレが絡まったら、水溶き片栗粉で
 トロミをつけて出来上がり

・ロールキャベツ
材料:キャベツ、豚挽肉、玉葱、パン粉、干瓢
1.キャベツは固い芯を落としておく
2.玉葱を微塵切りにして炒めておく
3.干瓢は麺つゆで煮込んでおく
4.豚挽肉に炒めた玉葱とパン粉で種を作る
5.種をキャベツで巻き、味の染みた干瓢で結ぶ 
6.圧力鍋でコンソメ煮にして出来上がり

意外と楽に出来るキャベツ料理3品でした。
あ、あと圧力鍋は欲しいと思ったら、シンクの下に当たり前の様に入ってました。相変わらずだな、浅葱の力。

「いただきました。」
「ました?」
あらまぁ。テーブルの上が綺麗になってる。
…きちんと僕が“試食“する分だけ、お皿に取り分けられているあたりが玉らしいけど。
丸々に膨れ上がった相変わらずのどすこい玉はふらふらと居間に戻り、自分の定位置と決めた座椅子にどすこいと座る。 
「どすこい言い過ぎです。」
でもどすこい。

りん。
おや、メールだ。
『玉ちゃんが、玉ちゃんが、………太った?』
あぁ青木さんか。なんか久しぶりだなぁ。
玉からメールが行ったのかな。そりゃ、驚くよね。
『沢山食べると肥るけど、ほっとけば数時間で元に戻ります。玉の体質です。』
「だから玉をほっとかないで!』
「他人のメールの中身まで推察しないでください。」合ってるけど。
『…玉ちゃんって人間なのかしら?』
『玉の正体は分かりませんけど、僕も貴女も物理法則から些かズレている人間な事を忘れないで。』
『うわーそうだったー。私ってば普通の女じゃなかったー。』
なんだろう。このメールから浮き上がってくる、自身のプレミアム感を微妙に自慢したそうな感じ。
「特別な女は、誰かさんにとっても特別な女になりがちなのですよ。」
玉は何か青木さんを立てようとしているみたいだけど、自分でも何言ってんだかわからないみたいで
自分の言った事に首を傾げている。
…まぁ、言いたい事はなんとなくわかった。

キャベツの種は、さっき買っておいたので、これを後で撒きに行こう。
肥料は玉が買っていたから、あれを利用っと。
何しろ部屋に一欠片でも残っていれば、聖域では無限に使える事が、サイディングボードの件で確認出来たので、これはこれでヨシ。
「ヨシ!」
「…ヨシ。」
玉の僕の思考を読む特殊能力の方は、まぁいいや。 
あと、あの聖域をどうしよう。この部屋で食べ物に関する限り、僕は万能な訳で。
聖域では、この部屋で使える浅葱の力が、あの狭い空間に限り更に強力になる訳だ。
そして僕は、水晶玉を“何処にでも持っていける“。
あ、一つ実験してみようか。
ついでに野菜の種を何種類か買い出しておこう。

「玉?少し悪巧みを考えたのだけど、行きますか?」
「殿が行く所には必ず玉も居ますよ。悪事を働くなら全力で止めるですけど。」
僕の言う事を全く信用してくれない玉でした。

★  ★  ★

と言いましても、なるべく人目につかない場所じゃないと不味いので、晩御飯を適当に片付けたあと。
「むうう。ご飯はちゃんと食べないといけません。殿の健康を守る事は、玉の大切な使命なのです。」
「じゃあ、玉がご飯を作って下さい。」
「2人とも食あたりで死にますよ。」
「何を僕に食べさせるつもりですか?」
と言うやりとりがあったので、お手軽に冷凍炒飯と冷凍唐揚げという手抜き料理で済ませました。
「………。どうしよう。殿の手料理より美味しいです。これは殿への、殿方への裏切りになるのではないでしょうか。」
悪うございましたね。というべきか、
日本の冷凍食品は世界一ィィ。と誇りに思うべきか。

という訳で、車に乗ってやって来たのは今住んでいる市の北の果て、谷の向こうは隣の市。
この辺は台地の痩せ尾根では有るのだけど、谷間からは湧水が豊富なので古くから果樹栽培(梨)が盛んな土地であり、その分一つ裏に入れば人通りが一切無くなるドが付く田舎になる。
鉄道が一本走っていて、上野や羽田や成田に行ける利便性はあるんだけどね。
九州の田舎者が言うのはアレだけど、都心から30分で、途轍も無いド田舎が存在するのも面白い。

「この辺でいいかな?」
道端に車を停める。道を一つずれれば有名なアミューズメントスポットや、動物園があって道も整備されている。
ここは梨畑のど真ん中、ほんの少しだけ道が広がる路肩に車を停めますよ。
「これこれ。これをしましょう。」
玉が抱えているのは、花火セット。
とは言っても、道端でするようなものでもないし。
あ、そうだ。

「玉、ちょっと退きなさい。」
「?はい。」
僕はカバンから水晶玉を取り出す。
ここだと狭いから、そばにある古くて小さな神社に入ろう。祭神様、ちょっとお邪魔しますよ。
お稲荷さんだから、うちの神様とはオトモダチの筈だろう。
「よいっと。」
「わわわわわ。」
相変わらずわが多い。
「殿殿?聖域が外に出て来ました?なんで?」
そう。聖域が水晶玉になる意味を、そして2つの水晶玉が1つになった意味を僕は考えていた。
それがこれだ。
聖域は持ち歩ける。
そして聖域はいつでも何処でも展開出来る。

そして僕は、「時を旅する事」が出来る。
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