ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

内装工事と畑

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ここまで来たら、内装も凝りたいなぁ。
ええと、過去に僕が暮らしていた部屋の壁紙はと、…あ、そうだ。アレは出せるかなぁ。

それは今まで住んだ事のある僕の部屋のものではない。
昔の彼女さんが「空間デザイン」という、何をやっているんだか、顧客が誰なのか、そもそも需要があるのか、僕にはさっぱり意味不明な仕事をしていて、
その彼女がコンセプトとして作ったモデルルームを思い浮かべている。

「面白いでしょ。面白い方に全振りしてみたの。」
彼女は、どうだ!と胸を張って戯けてみせた。
「…つまり実用性は無視したと。」
「空間デザインは道具じゃないもん。こんな中で過ごしてみたいなと思わせる、自由な発想が大切なわけ。というか、私はこんなに発想が豊かですよって言う宣伝ね。」
「なるほど。普段数字が正しいかどうかしか気にしていない僕には出来そうにないぞ。」
「参ったか!」
「参りました。」
「よし!カレーを食べに行こう!」
「なんでカレー?」
「私が食べたい!」
彼女は僕の手を取り、その手を神保町まで離さなかった。

発想どころか感情や欲望まで自由な人だったなぁ。
その彼女の発想をそのまま貰う事にしようか。

「わわわわわわわわぁ!」
「わが多い。」
「壁が海になりましたぁ。」
「天井を見上げてみなさい。」
「天井が空になりましたぁ。」

という事です。
元の彼女さんがデザインした空間は、壁紙に海岸(入道雲付き)天井が青空という、落ち着かないサーフショップの更衣室みたいな謎空間だったので、逆に古びた時代物の茶店との違和感を持ち込んでみましたよと。
コンセプトは南の小島だそうだけど。
 
★  ★  ★

「ほぇぇ。」
壁紙の景色に見惚れているほえほえ娘はほっといて
「またほっとかれた…。」
僕は竈に火を起こそう。
あ、天井を塞いじゃったから煙の逃げ場がないや。
煙突立てよっと。
これは小学生の頃、まだエアコン導入前の我が校は暖房にガスストーブを使っていた。その頃の記憶か、それとも図書室とか別施設の記憶か、ステンレス製のパイプを使った管がにょきにょき壁まで伸びていたあの風景を思い出す。
あ、あと。とあるアイドルがとある番組で古家を再生させていたけど、あの番組で竈を一から作成していた記憶をプラス。
にょ。
壁がそばにあったので、にょきにょきの4分の1で済みましたとさ。

先ずはお湯を沸かす。何よりこれ。
お茶はこの間玉と一緒に買った茶葉をしよう。(というか、こんな美味しい茶葉も、この茶店が存在するであろう時代にはあり得まい)。

ーバタークッキーー
材料:小麦粉、バター、砂糖、抹茶、卵
小麦粉・砂糖・抹茶をボウルにあけて、卵黄を加えて菜箸でカラカラ掻き回すだけ。仕上げに溶かしバターを落として、型に入れて焼きましょう。
重曹を入れるとふっくら仕上がりますが、今回は紅茶じゃなくて緑茶なので、硬めの和風クッキーです。


「いただきます。」
焼き上がるそばから、玉に食べられる訳ですが、
んーんー言いながら半分涙目になっているから良しとしよう。
この甘さは一般庶民には味わえない筈だから。
あ、部屋に戻ったら、餅つき機を用意しないと。

茶店はお茶菓子だけでなく、軽食も提供できないとな。
「銀シャリの塩むすびだけでご馳走ですよ。あとお香ことか。」 
「なんなら、お香こは糠味噌姫に任せようかな。」
「誰が糠味噌ですか?誰が!」
「玉。」
「またもや即答です!」
とはいえ、我が家の糠床を管理しているのは玉な訳で。僕が毎朝ご飯を作っている脇で、割烹着姿で壺を掻き回す姿はすっかり見慣れたものになってます。

ところで今回は、いつもの野菜だけでなく、新しい野菜料理にチャレンジしてみるつもりでしてね。
「玉は畑仕事って出来ますか?」
「聖域だと作れなかったので。でもお庭でやっている園芸と基本は一緒です?」
「何故疑問形?」
「というか、殿は何を企んでいるんですか?」
失礼な。

僕は玉を茶店の外に促した。おや、雑草が結構抜かれて綺麗になっている。 
「えへへへ。玉も少しはやるんですよ。」 
「うむ。頑張った。えらいえらい。」
「うむ。玉は殿に褒められるのが一番嬉しいです。」
「うむ。時々褒めてあげよう。」 
「うむ。」

僕と玉はそのまま裏に回る。
裏には刈り取った雑草が積み上げられていた。 
あの短時間に1人っきりで作業した割には、雑草の山は堆い。
えらいぞ玉。
「寝転がってて、お菓子を独り占めした事を許して欲しいのです。」
気にしてたんだ。僕は玉らしいなぁと感心していたのに。
「殿は玉を食いしん坊としか思っていないみたいです。」
「…否定はしません。」
「しろよ。」

僕は表から見えない部分を、靴でざっと線引きします。
「この辺を耕しましょ。雑草が生えていた事から見ても、土はそれなりに悪くはないでしょう。この玉が刈った雑草は踏んで肥料に出来ます。」 
よっと。
鍬くらいなら親父の田舎で振るった事がある。なので聖域にいくらでも引き寄せられる訳で。
取り敢えず1本だけ用意すると振りかぶってみる。
柔らかい。
というか、この鍬変だ。ひと掻きでとんでもない深さが掘り起こせる。
プリンにスプーンを刺しているとでも言う感覚か。
「玉はプリンが食べたいです。」
「あとで買いに行きましょう。」
「やた!」
「ところで玉はプリンがなんだか知ってるの?」
「佳奈さんから教わりました。」
君らのメールは、さぞかし食べ物で埋まっているんでしょうね。

などと益体も無い事を考えていたら、キャベツ畑の耕し完了。
その間、玉はのしのしと抜いた雑草の山を踏んでいたので
「女の子の足音をのしのしとか、失礼です!」
「んじゃ、玉が球体になるまで食べるの禁止にしましょう。」
「…どーん。どーん。」 
GODZILLAですか?
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