25 / 231
第一章 開店
内装工事と畑
しおりを挟む
ここまで来たら、内装も凝りたいなぁ。
ええと、過去に僕が暮らしていた部屋の壁紙はと、…あ、そうだ。アレは出せるかなぁ。
それは今まで住んだ事のある僕の部屋のものではない。
昔の彼女さんが「空間デザイン」という、何をやっているんだか、顧客が誰なのか、そもそも需要があるのか、僕にはさっぱり意味不明な仕事をしていて、
その彼女がコンセプトとして作ったモデルルームを思い浮かべている。
「面白いでしょ。面白い方に全振りしてみたの。」
彼女は、どうだ!と胸を張って戯けてみせた。
「…つまり実用性は無視したと。」
「空間デザインは道具じゃないもん。こんな中で過ごしてみたいなと思わせる、自由な発想が大切なわけ。というか、私はこんなに発想が豊かですよって言う宣伝ね。」
「なるほど。普段数字が正しいかどうかしか気にしていない僕には出来そうにないぞ。」
「参ったか!」
「参りました。」
「よし!カレーを食べに行こう!」
「なんでカレー?」
「私が食べたい!」
彼女は僕の手を取り、その手を神保町まで離さなかった。
発想どころか感情や欲望まで自由な人だったなぁ。
その彼女の発想をそのまま貰う事にしようか。
「わわわわわわわわぁ!」
「わが多い。」
「壁が海になりましたぁ。」
「天井を見上げてみなさい。」
「天井が空になりましたぁ。」
という事です。
元の彼女さんがデザインした空間は、壁紙に海岸(入道雲付き)天井が青空という、落ち着かないサーフショップの更衣室みたいな謎空間だったので、逆に古びた時代物の茶店との違和感を持ち込んでみましたよと。
コンセプトは南の小島だそうだけど。
★ ★ ★
「ほぇぇ。」
壁紙の景色に見惚れているほえほえ娘はほっといて
「またほっとかれた…。」
僕は竈に火を起こそう。
あ、天井を塞いじゃったから煙の逃げ場がないや。
煙突立てよっと。
これは小学生の頃、まだエアコン導入前の我が校は暖房にガスストーブを使っていた。その頃の記憶か、それとも図書室とか別施設の記憶か、ステンレス製のパイプを使った管がにょきにょき壁まで伸びていたあの風景を思い出す。
あ、あと。とあるアイドルがとある番組で古家を再生させていたけど、あの番組で竈を一から作成していた記憶をプラス。
にょ。
壁がそばにあったので、にょきにょきの4分の1で済みましたとさ。
先ずはお湯を沸かす。何よりこれ。
お茶はこの間玉と一緒に買った茶葉をしよう。(というか、こんな美味しい茶葉も、この茶店が存在するであろう時代にはあり得まい)。
ーバタークッキーー
材料:小麦粉、バター、砂糖、抹茶、卵
小麦粉・砂糖・抹茶をボウルにあけて、卵黄を加えて菜箸でカラカラ掻き回すだけ。仕上げに溶かしバターを落として、型に入れて焼きましょう。
重曹を入れるとふっくら仕上がりますが、今回は紅茶じゃなくて緑茶なので、硬めの和風クッキーです。
「いただきます。」
焼き上がるそばから、玉に食べられる訳ですが、
んーんー言いながら半分涙目になっているから良しとしよう。
この甘さは一般庶民には味わえない筈だから。
あ、部屋に戻ったら、餅つき機を用意しないと。
茶店はお茶菓子だけでなく、軽食も提供できないとな。
「銀シャリの塩むすびだけでご馳走ですよ。あとお香ことか。」
「なんなら、お香こは糠味噌姫に任せようかな。」
「誰が糠味噌ですか?誰が!」
「玉。」
「またもや即答です!」
とはいえ、我が家の糠床を管理しているのは玉な訳で。僕が毎朝ご飯を作っている脇で、割烹着姿で壺を掻き回す姿はすっかり見慣れたものになってます。
ところで今回は、いつもの野菜だけでなく、新しい野菜料理にチャレンジしてみるつもりでしてね。
「玉は畑仕事って出来ますか?」
「聖域だと作れなかったので。でもお庭でやっている園芸と基本は一緒です?」
「何故疑問形?」
「というか、殿は何を企んでいるんですか?」
失礼な。
僕は玉を茶店の外に促した。おや、雑草が結構抜かれて綺麗になっている。
「えへへへ。玉も少しはやるんですよ。」
「うむ。頑張った。えらいえらい。」
「うむ。玉は殿に褒められるのが一番嬉しいです。」
「うむ。時々褒めてあげよう。」
「うむ。」
僕と玉はそのまま裏に回る。
裏には刈り取った雑草が積み上げられていた。
あの短時間に1人っきりで作業した割には、雑草の山は堆い。
えらいぞ玉。
「寝転がってて、お菓子を独り占めした事を許して欲しいのです。」
気にしてたんだ。僕は玉らしいなぁと感心していたのに。
「殿は玉を食いしん坊としか思っていないみたいです。」
「…否定はしません。」
「しろよ。」
僕は表から見えない部分を、靴でざっと線引きします。
「この辺を耕しましょ。雑草が生えていた事から見ても、土はそれなりに悪くはないでしょう。この玉が刈った雑草は踏んで肥料に出来ます。」
よっと。
鍬くらいなら親父の田舎で振るった事がある。なので聖域にいくらでも引き寄せられる訳で。
取り敢えず1本だけ用意すると振りかぶってみる。
柔らかい。
というか、この鍬変だ。ひと掻きでとんでもない深さが掘り起こせる。
プリンにスプーンを刺しているとでも言う感覚か。
「玉はプリンが食べたいです。」
「あとで買いに行きましょう。」
「やた!」
「ところで玉はプリンがなんだか知ってるの?」
「佳奈さんから教わりました。」
君らのメールは、さぞかし食べ物で埋まっているんでしょうね。
などと益体も無い事を考えていたら、キャベツ畑の耕し完了。
その間、玉はのしのしと抜いた雑草の山を踏んでいたので
「女の子の足音をのしのしとか、失礼です!」
「んじゃ、玉が球体になるまで食べるの禁止にしましょう。」
「…どーん。どーん。」
GODZILLAですか?
ええと、過去に僕が暮らしていた部屋の壁紙はと、…あ、そうだ。アレは出せるかなぁ。
それは今まで住んだ事のある僕の部屋のものではない。
昔の彼女さんが「空間デザイン」という、何をやっているんだか、顧客が誰なのか、そもそも需要があるのか、僕にはさっぱり意味不明な仕事をしていて、
その彼女がコンセプトとして作ったモデルルームを思い浮かべている。
「面白いでしょ。面白い方に全振りしてみたの。」
彼女は、どうだ!と胸を張って戯けてみせた。
「…つまり実用性は無視したと。」
「空間デザインは道具じゃないもん。こんな中で過ごしてみたいなと思わせる、自由な発想が大切なわけ。というか、私はこんなに発想が豊かですよって言う宣伝ね。」
「なるほど。普段数字が正しいかどうかしか気にしていない僕には出来そうにないぞ。」
「参ったか!」
「参りました。」
「よし!カレーを食べに行こう!」
「なんでカレー?」
「私が食べたい!」
彼女は僕の手を取り、その手を神保町まで離さなかった。
発想どころか感情や欲望まで自由な人だったなぁ。
その彼女の発想をそのまま貰う事にしようか。
「わわわわわわわわぁ!」
「わが多い。」
「壁が海になりましたぁ。」
「天井を見上げてみなさい。」
「天井が空になりましたぁ。」
という事です。
元の彼女さんがデザインした空間は、壁紙に海岸(入道雲付き)天井が青空という、落ち着かないサーフショップの更衣室みたいな謎空間だったので、逆に古びた時代物の茶店との違和感を持ち込んでみましたよと。
コンセプトは南の小島だそうだけど。
★ ★ ★
「ほぇぇ。」
壁紙の景色に見惚れているほえほえ娘はほっといて
「またほっとかれた…。」
僕は竈に火を起こそう。
あ、天井を塞いじゃったから煙の逃げ場がないや。
煙突立てよっと。
これは小学生の頃、まだエアコン導入前の我が校は暖房にガスストーブを使っていた。その頃の記憶か、それとも図書室とか別施設の記憶か、ステンレス製のパイプを使った管がにょきにょき壁まで伸びていたあの風景を思い出す。
あ、あと。とあるアイドルがとある番組で古家を再生させていたけど、あの番組で竈を一から作成していた記憶をプラス。
にょ。
壁がそばにあったので、にょきにょきの4分の1で済みましたとさ。
先ずはお湯を沸かす。何よりこれ。
お茶はこの間玉と一緒に買った茶葉をしよう。(というか、こんな美味しい茶葉も、この茶店が存在するであろう時代にはあり得まい)。
ーバタークッキーー
材料:小麦粉、バター、砂糖、抹茶、卵
小麦粉・砂糖・抹茶をボウルにあけて、卵黄を加えて菜箸でカラカラ掻き回すだけ。仕上げに溶かしバターを落として、型に入れて焼きましょう。
重曹を入れるとふっくら仕上がりますが、今回は紅茶じゃなくて緑茶なので、硬めの和風クッキーです。
「いただきます。」
焼き上がるそばから、玉に食べられる訳ですが、
んーんー言いながら半分涙目になっているから良しとしよう。
この甘さは一般庶民には味わえない筈だから。
あ、部屋に戻ったら、餅つき機を用意しないと。
茶店はお茶菓子だけでなく、軽食も提供できないとな。
「銀シャリの塩むすびだけでご馳走ですよ。あとお香ことか。」
「なんなら、お香こは糠味噌姫に任せようかな。」
「誰が糠味噌ですか?誰が!」
「玉。」
「またもや即答です!」
とはいえ、我が家の糠床を管理しているのは玉な訳で。僕が毎朝ご飯を作っている脇で、割烹着姿で壺を掻き回す姿はすっかり見慣れたものになってます。
ところで今回は、いつもの野菜だけでなく、新しい野菜料理にチャレンジしてみるつもりでしてね。
「玉は畑仕事って出来ますか?」
「聖域だと作れなかったので。でもお庭でやっている園芸と基本は一緒です?」
「何故疑問形?」
「というか、殿は何を企んでいるんですか?」
失礼な。
僕は玉を茶店の外に促した。おや、雑草が結構抜かれて綺麗になっている。
「えへへへ。玉も少しはやるんですよ。」
「うむ。頑張った。えらいえらい。」
「うむ。玉は殿に褒められるのが一番嬉しいです。」
「うむ。時々褒めてあげよう。」
「うむ。」
僕と玉はそのまま裏に回る。
裏には刈り取った雑草が積み上げられていた。
あの短時間に1人っきりで作業した割には、雑草の山は堆い。
えらいぞ玉。
「寝転がってて、お菓子を独り占めした事を許して欲しいのです。」
気にしてたんだ。僕は玉らしいなぁと感心していたのに。
「殿は玉を食いしん坊としか思っていないみたいです。」
「…否定はしません。」
「しろよ。」
僕は表から見えない部分を、靴でざっと線引きします。
「この辺を耕しましょ。雑草が生えていた事から見ても、土はそれなりに悪くはないでしょう。この玉が刈った雑草は踏んで肥料に出来ます。」
よっと。
鍬くらいなら親父の田舎で振るった事がある。なので聖域にいくらでも引き寄せられる訳で。
取り敢えず1本だけ用意すると振りかぶってみる。
柔らかい。
というか、この鍬変だ。ひと掻きでとんでもない深さが掘り起こせる。
プリンにスプーンを刺しているとでも言う感覚か。
「玉はプリンが食べたいです。」
「あとで買いに行きましょう。」
「やた!」
「ところで玉はプリンがなんだか知ってるの?」
「佳奈さんから教わりました。」
君らのメールは、さぞかし食べ物で埋まっているんでしょうね。
などと益体も無い事を考えていたら、キャベツ畑の耕し完了。
その間、玉はのしのしと抜いた雑草の山を踏んでいたので
「女の子の足音をのしのしとか、失礼です!」
「んじゃ、玉が球体になるまで食べるの禁止にしましょう。」
「…どーん。どーん。」
GODZILLAですか?
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々
饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。
国会議員の重光幸太郎先生の地元である。
そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。
★このお話は、鏡野ゆう様のお話
『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。
★他にコラボしている作品
・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/
・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる