ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

リフォームというよりリビルド

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「むいむい。」
庭の植栽の手入れをして(色々いじっているけど、僕が出て行ったあと、大家さんはどうするんだろう。うちの庭スペースだけ賑やかだぞ。敷金から復旧代金を取られないよね?)、何やら菅原さんに一言物申してご機嫌なうちの玉っコロは
「人をワンコみたいに言わないで下さい。」
…玉は、相変わらず謎のオノマトペを発しながらスマホをポチポチいじっている。
多分相手にさせられているであろう青木さんも困るだろうに。
「大丈夫。青木さんには、お茶店の写真とお庭の写真を送っていますから。」
…なんで玉には、僕の考えている事が丸々伝わるんだろう?
「私と殿とのお付き合いですから。」
そんな事を言われて、怖い様な、嬉しい様な。


★  ★  ★   

「どらいぶどらいぶどっらいぶ!殿とお出かけです!」
朝から大騒ぎした後、僕らはまた買い出しに出ている。玉は今日もご機嫌で謎の歌を口ずさんでいる。
「ずるずる。」
ストローでコーヒー牛乳をずるずる言いながら、そんな不作法な事はしないで、静かにチューっと啜っている。
「ずるずる。」

今日もまたホームセンターに向かってまして。
「ずるずる。」
前は近くて駐車場がそれなりに広い、だけを目当てに行ったのだけど、今回はちょっとプロ仕様の商品が必要になるので、遠くの無駄に馬鹿っ広いホームセンターを目指しているわけですが。
「ずるずるええと。殿、なびげえしょんの地図を見ると、目的地の近所に餃子屋がありまして。」
「まだ10時ですよ。」
「お買い物が終われば丁度良いかも。」
お馴染みのチェーン店なので味はわかっているけど、玉には餃子は初めてだったか。
「中華料理はまだ作ってなかったね。」
「スマホやテレビでは見てたんですけどね。何しろ名前もわかんない料理も多いから、殿にどうお願いしたいか困ってました。でも、外に出て実物があるならいくらでもおねだり出来ます。うむ。」
「うむ。」
僕は餃子じゃ無くて、謎の粉をつけた唐揚げの方が好きだけどね。
「それも食べますから。」
「だから、僕が考えた事を、しかも横から持って行かないで下さい。」

★  ★  ★

まずは、エクステリアコーナーへ。目的はサイディングボードを一枚。木製・金属製・樹脂製と並んでいる見本から、選んだのはこれ。
木を模したアルミ製サイディングボード。
理由は下見板に見えるから。
玉には、何がなんだか理解不能みたいで
「ふわぁ。」
と言いながら、時々ボードをつついている。
「変に触ると怪我するから、気をつけなさいよ。」
「ふわぁ。」
返事なんだか、感想なんだか、オノマトペなんだか。

インテリアコーナーに移動して、まず買うは畳。
「畳?殿のお屋敷、畳足りてませんでしたっけ?」
「内緒です。」
「むむ。玉に隠し事は通用しませんよ。」
「内緒です。」
「むむむむむ。」
畳ったって、このサイズなんなんだろ。
半畳を二回り小さくした、オモチャみたいな畳。
「店員さん、この畳ってちいちゃくて可愛いですね。」
「茶室の茶釜を置く場所用です。風炉って言います。」
相変わらずのコミュニケーションお化け。知らないうちに店員さんと仲良くなってる玉でした。
…というか、この店なんでも売ってんな。

次は置き台をば。高さ膝くらい長さ畳一畳分。
こんなものは不器用な僕でもDIYで作れるんだけど(脚を含めて材料は材木から組立キットまで売ってるし)、今回は時間優先効率優先。脚だけネジで差し込む既製品で済ませました。
「よいしょ。」
「玉?無理に台車を押す係しなくても。」
「大丈夫です。軽い軽い軽い軽い。」
台車というか、この店にあるものはカートを超えてリヤカーなんだけど。
あ、蛇口だ。うん。一つ試してみよう。

お次は電気製品売場。僕はギアというものに拘らないタチなので(あと、台所製品ならば家電でも家具でも小物でも、また過去の所有歴に関わらず僕のイメージが確立していれば無料でポイポイ出てくる事がわかったので)居間と寝室がテレビ以外すっからかん。
あれま、好奇心旺盛過ぎる玉の目がキラキラ輝き出したよ。
助かるのは、僕の懐具合を察してくれるから、あれ買ってこれ買ってと言い出さない件。
「だったら働け。」
僕の懐具合どころか、全てを察するうちの玉母ちゃんが怖い。

ここで買うのはLEDライト。
あ、ついでに太陽光パネルを買っておこう。
一番安いタイプでも構わない筈だ。
ケーブル、ライト付きのキットを台車に乗せて…乗せて…玉の姿が見当たらない。玉はどこ行った?

店内をキョロキョロ見回すと、いたいた。
遥か彼方から何やら抱えて早足で近づいてくる。
生真面目にも走らないあたりは、いかにも玉だ。 「花火。」
ついて早々一言言うと台車に花火を詰め込む巫女さん。
「買うとは一言も言ってませんが。」
「花火。…。」
誰だ。玉に上目遣いなんか教えた奴は。
…今、僕の周りには玉以外に女性が3人程ウロウロしている訳ですが、うん、全員疑わしい。
「買いますよ。実は最初から予定に入ってましたから。」
「!!。」
にっこりニコニコなお玉さんの百面相を楽しみながら、実は季節的にそろそろ売ってなかったらどうしようと思っていた商品だったりする。
使い道は内緒という事で。
「玉、花火売場に僕を案内して下さい。」 
「任されました!」
僕から台車を奪いとると、鼻歌混じりで先導してくれる。
「ぱんぱんぱぱん。」
…相変わらず謎の擬音だらけの鼻歌を。
あと、この娘は僕の役に立てる事が嬉しくて堪らないらしい。
いい歳して、普通に照れるぞ。
「玉の後ろじゃ無くて、玉の正面で照れて下さい。」
また玉に読まれた。

玉はいじらしくも一番安いパックものを買っていましたが、その玉が慌て出して、仕舞いには呆れ返る程、たっぷりと花火補充。
「殿って、花火好きだったんですか?」
「そういう訳でもないけどね。まぁ大切な人と花火をする時間は好きですよ。」
おしっ。玉が照れた。
「………なんか狡いです。」 
「たまには玉に勝ちたいからね。」
「また交通事故です。」

その他、必要とする食器類は纏めて100円ショップで買って、餃子屋でお昼を済ませて帰りました。
…唐揚げの美味さがバレてしまい、スープとキムチだけで唐揚げ定食を食べる僕がいました。
普段はやたらと気ィつかいしーのくせして、うちの掃除担当は食べ物が絡むと人でなしになりますな。
当の本人は、お腹いっぱいになって、くぅくぅ寝息立ててるけど。
寝息までオノマトペ。

★  ★  ★

帰宅早々、水晶玉へお出かけします。
「ほーむせんたーへ行くのなら、あれとこれと。」
と玉が買い込んできたのは除草剤と鎌。
茶店の周りの雑草の処理をせっせと処理してます。 いつの間にやらきちんとジャージに着替えているし。
「いつまでも同じ間違いをする玉ではありませんよ。雑草を抜き終わったら、花壇も作ります。」 
何気に偉大なる野望を持ってた。

僕はというと。
サイディングボードを壁に当てて。

イメージしろ。
お社は何故直った。荼枳尼天の功徳か? 
いや、違う。
僕が直したからだ。
何故茶店の壁が直った?
“僕が直したい“と思ったからだ。
ならば、この水晶玉、この聖域の中では、僕の力は十全に働く筈だ。

「働け。」
「それはあとで検討します。」

「いけ」
それだけで良かった。真壁の外壁にパタタタタターっとサイディングが貼られて行った。
よしよし。 
「…今更、殿が何を始めようと驚きませんけどね。」
今、凄い事をしたのに。せっせと鎌を振るうジャージ巫女には通用しませんでした。

ようし、だったら好き放題してやるわい。
中に入って土間に置き台を置こう置こう。
一個しか買ってない筈の置き台を隙間なく置くと、身動き取り辛いので、適切に隙間を開けて並べる。
台の上には畳を置いて緋毛氈を被せる。
屋内は土足厳禁。これはこれで良いかも。
行燈の代わりに室内灯はLEDライト。街灯にはソーラーパネル付き自動灯を4隅に設置。我が店に死角なし。

茶箪笥代わりにカラーボックスを並べてお茶碗やグラスをこう並べて。
どれどれ蛇口は、と。 
…蛇口を捻ると、冷たい水が流れ出した。自分でやっていてなんだけど、この蛇口、水道管に繋がってないし。
まぁいいか。

という訳で、出来ました。僕特製未来茶屋!
外壁は木を模したアルミサイディングで、下見板張り風に。
内外には太陽光で充電するライトをつけて(水が出るならソケットつけとけば電気使えるんじゃね?)、
僕が前に使っていたカラーボックスには、100円ショップで買った茶器が並び、並び…。
内装を考えてなかったな。  
あと窓も。障子か何か貼ろうかなぁ。
青木さんが閉じ込められていた頃からはまるっきり別の建物になっているけど。これはまだ始まりの準備。
面白くなるのは、これからだ!

「ういうい。」
…玉が緋毛氈の上で寝転がってる姿が気になりますが。
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