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第一章 開店
巫女さん
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T字路直進すると、普通ならば崖下に作られたという固定資産的な評価はどうなの?って家の門に入って行く訳だけれども。
僕は知っている。
この先に何が待っているのか。
僕は知っている。
何故、僕が自らの意思に逆らって左に曲がらす直進したのか。
他人様の家の門柱ではなく
空気の、大気の、そして次元の断層がある事を
他人様の家のご家族ではなく
そこには、僕を待つ、僕を必要とする誰かが待つ
という事を。
そこにあるものは、「祠」。
僕は、時の祠と呼ぶ、時の澱みが沈滞する場所だ。
澱みって何だ?
一言で言うと「負」の何かだ。
何かって何だ?そりゃ分からん。
僕は何度か、祠に飲み込まれ、澱みを解消したり、出来ずに逃げ出したりして来た。
土地の記憶とは、そんな得体の知れないものが吹き溜まる事でもある。
何度かの体験を検証した結果、そこには法則性も必然性もなく、ただ昔から人が住んだ、棲んだ場所に起こる(巻き込まれる)事だけはわかった。
ここには国府が置かれ、国分寺が置かれたと言うのだから、律令からの人々の記憶が吹き溜まるのも当然。
北に隣接する市も、平安時代の日記文学に古い地名が記されているほど、こちらも古い土地であるが、内陸部の開墾が明治期に始まっている事からすると、僕が住み始めたこの地よりは、「薄い」のだろう。
そんな「濃い」地に僕は引越して来た。
僕の亡き母のご先祖、浅葱国麻呂さんの「企み」があったにせよ、僕がこの地に住み、早々に祠に「招待された」事にも意味があるのだろう。
まったく。僕の意思は二の次なのがけしからん。
別に怒っている訳では無いけどね。
せめて、せめて予告の一つもして欲しいな。
厚切りベーコンステーキのお昼ご飯が後回しになりそうじゃないか。
蕎麦屋が閉まっているのを見てから、塩味の口になっていたのにさ。
ぶつぶつぶつぶつ。
おやおや、頭の中で雅楽が鳴り響き出しましたよ。
洞窟をぶつぶつ言いながら潜り抜けると、そこは雪国…ではなく、汚い神社があった。
鎌倉の銭洗い弁天を彷彿とさせる岩、ではなく剥き出しの赤土に囲まれた隠れ家的な空間。
屋根が抜け、柱が傾き、扉の一枚が外れかけている、まさに崩壊寸前の社。
拝殿は無く、本殿だけの小さな社。
柱の間隔からすると、内部は4×6間程度の空間はあるらしい。
賽銭箱はなく(お賽銭文化は近代のものと聞いたな)、鈴は掛かってはいるが、金色は既に剥げ落ち、鳴らすべく紅白の紐布は擦り切れて持つ事が出来ない。
そういえば、と振り向くと。鳥居は足元の石土台だけが残されている。
「熊野の森に戻ってしまった」
浅葱氏が宮司を務めていた古社は、歴史の中で自然に戻って行った。と、国麻呂さんは言っていた。
そんな事を思い出す。
神は人間が信仰してくれるから存在出来る。
では人間に捨てられた神はどうなるんだ。
神道系の小説で、主人公がそんな問いを誰ともになく投げかけるシーンがあったなぁ。
そんな事を思いながら、僕はこの古社を一回りした。
建物自体は崩壊寸前でも、空間はとても清浄で、ゴミ一つ、雑草一つなく、少しだけ湿った土と、数本の老松が岩に隠されたこの空間を形成している。
その片隅に何かがまとめてある。
見に行った。
それは、石造りの狐だった。
そういえば、この神社には狛犬が見当たらないな。
そして、お狐様がここに座すって言う事は、ここはお稲荷さんなのか。
まぁ、確かに何の解説板もないから、祭神が誰とかわからないしね。
「戻して下さい。」
お狐様が喋りました。
別に驚きゃしませんよ。ここはそう言う空間ですから。
「戻して下さい。」
それは構いませんが、「並び」を僕は知りませんよ。
口の開いている方がどちらか、確か決まりがあった筈ですが。
「とにかく、戻して下さい。」
とにかく、なんだ。なんか急いでんのかな?
僕は体調40センチくらいはある、白いお狐様像を鳥居があったであろう台の内側まで一体ずつ運ぶと、なんとなくここっぽいと判断した場所に並べてみた。
途端に空気の塊が落ちて来た。
上を見上げると、昼下がりの明るい空が見える。
そして、落ちて来た空気の塊が僕には見えた。
風では無い。空気の塊だ。
その塊は僕の直上に落ちて来たので、折角シャワーを浴びて整えた髪が乱れるなぁ、でも何か気持ちいいなぁなどと思いつつ。ふと背後に何かを感じた。
本殿に振り返ると、そこには純白の上着と朱袴を纏い紙垂を付けた玉串を抱く、何処からどう見ても「巫女さん」が立っていた。
★ ★ ★
「浅葱が方の殿とお見受け致します。」
僕が時の祠を訪れた(引き寄せられた)事は何度もあるけれど、人が居て、浅葱の名前を出された事は初めてだった。
「私はこの社を母より賜った巫女、名を玉と申します。」
玉串を持った、お玉さんが、神社を賜った。
たま尽くしだね。
「…………。やっとお会い出来た殿の第一声がツッコミでございます?」
お玉さんに半疑問系で、ツッコミ返されました。
……殿?
殿って。浅葱さんは、あなたと同じ神職でして。ついでに僕はぼっちの無職でして、男という事以外に「殿要素」はカケラもないんですが。
「それでも、私にとっては、浅葱様は殿でございます。」
……。先ずはきちんと話を聞いた方がいいですかね。
「この神社を創設された方は、平時は農業に勤しみながら、有事の時は刀を握る、平姓を持つ方でした。」
ちょっと解説。源平合戦でお馴染みの平氏。それは桓武天皇の孫・高望王が平姓を宇多天皇より賜り、臣籍降下の上旧隣国・上総国に介として任官、当地にて勢力を蓄えた一門。これが後の桓武平氏となる。
平姓は「源平藤橘」とひとまとめにされた程、当時の朝廷からも名門と認められて天皇家とも姻戚関係である家門で、平氏も別系統の皇族臣籍降下平氏はいるけど、桓武平氏が一番有名なのは言うまでもなく、子孫に著名な武将を産出するからだ。
つまり、平将門。平清盛。
「その将門さまに使えていたのが、当社の創始者行秀さまにございます。行秀さまは平を名乗ってはいましたが、武威武功により名乗りを許された者でございまして、別に血の繋がりがあったわけではございません。いずれは将門さまの女を貰う約定もあった様ですが、恐らくは適当な女を養女にして、将門さまの娘さまを充てがう算段だったのでしょう。」
よくあった政略結婚だね。
「しかし、将門さまは俵藤太さまとの戦に敗れました。行秀さまも参軍しておりましたが、敗軍の兵として、この地に帰って参りました。この地は将門さまより行秀さまが下賜された土地だったのです。」
今でこそこの辺は高級と名のつく住宅街になっているけど…確か、当時は縄文海進の影響が残る湿地帯ではなかったかな。
「台地の上は、今も昔も良好な農地が広がっていますよ。この県は日本一貝塚の多い県です。豊かな県な事は今でも変わりませんよ。」
…ご当地地理や国勢調査に詳しそうな巫女さんでした。
「将門さまを慈しみ、敵将俵藤太を憎み抜いた結果、行秀さまは一つの行動を起こしました。自らの所領にあるこの地の、この崖地に穴を穿ち、隠し間を拵え、一つの社を建立しました。それがここ。そして、ここの祭神様は、荼枳尼天様となります。」
…またまぁ、厄介な神名が出て来たよ。
荼枳尼天とはインド原産で、日本に流れるうちに稲荷信仰と合致して出来上がった、「祟り神」だ。
お稲荷さんはお稲荷さんでも、一度信仰の対象としたからには死ぬまで信仰を、いや死んでも信仰を強要する面倒くさいお稲荷さんで、多大な現世利益を齎す代わりに、信仰が薄いと容赦なく祟るツンデレの元祖みたいな神様やんけ。確かこの辺だと、成田山に祀られていた筈だけど。
「そうです。成田山は将門さま討伐を祈念して建てられた御堂が祖になります。だから逆に成田山の力を利用して俵藤太さまを滅そうとお考えになり、この社が出来ました。けれど大望を果たす前に行秀さまは病死なされ、この社は正式には未完成のまま朽ち、やがて強度計算もせずに無理に穿った洞は地ごと崩壊し、今に至っております。だから。」
そこまで話ていた巫女さんは、突然グイと顔を僕に近づける。というか、近い近い。近すぎます。
「殿には、荼枳尼天様をお救い願いたいのです。」
ほら出た。
と言いましてもね。僕が出来る事は時間旅行であって、霊能力とか超能力とか陰陽道とか、そんな器用な事は出来ませんよ。
「殿にお願いしたい事は二つございます。荼枳尼天様は本殿の神鏡で今もお眠りになられていますが、何しろ分祀されてから一度も供物の提供が無いもので、神力も全く使えない状況にございます。」
あぁ、さっきの“信仰を忘れ去られた神“の具現化か。
「それと、石鹸を御一つ、供物として頂けませんでしょうか?」
石鹸?何故に石鹸?
「この通りこの社は崩れ落ちようとしています。その運命は抗う事は出来ません。ですから、その前に、当社最後の巫女として、一度も掃除出来なかった社を清浄に送りたいのです。境内は手入れを欠かさなかったつもりではありますが、水も雑巾も箒もないここではお掃除をしたくとも出来ませんでしたから。」
…まぁ、そのくらいならね。
狂った荼枳尼天を調伏しろとか言われたら、速攻で逃げ帰るつもりだったよ。
僕は知っている。
この先に何が待っているのか。
僕は知っている。
何故、僕が自らの意思に逆らって左に曲がらす直進したのか。
他人様の家の門柱ではなく
空気の、大気の、そして次元の断層がある事を
他人様の家のご家族ではなく
そこには、僕を待つ、僕を必要とする誰かが待つ
という事を。
そこにあるものは、「祠」。
僕は、時の祠と呼ぶ、時の澱みが沈滞する場所だ。
澱みって何だ?
一言で言うと「負」の何かだ。
何かって何だ?そりゃ分からん。
僕は何度か、祠に飲み込まれ、澱みを解消したり、出来ずに逃げ出したりして来た。
土地の記憶とは、そんな得体の知れないものが吹き溜まる事でもある。
何度かの体験を検証した結果、そこには法則性も必然性もなく、ただ昔から人が住んだ、棲んだ場所に起こる(巻き込まれる)事だけはわかった。
ここには国府が置かれ、国分寺が置かれたと言うのだから、律令からの人々の記憶が吹き溜まるのも当然。
北に隣接する市も、平安時代の日記文学に古い地名が記されているほど、こちらも古い土地であるが、内陸部の開墾が明治期に始まっている事からすると、僕が住み始めたこの地よりは、「薄い」のだろう。
そんな「濃い」地に僕は引越して来た。
僕の亡き母のご先祖、浅葱国麻呂さんの「企み」があったにせよ、僕がこの地に住み、早々に祠に「招待された」事にも意味があるのだろう。
まったく。僕の意思は二の次なのがけしからん。
別に怒っている訳では無いけどね。
せめて、せめて予告の一つもして欲しいな。
厚切りベーコンステーキのお昼ご飯が後回しになりそうじゃないか。
蕎麦屋が閉まっているのを見てから、塩味の口になっていたのにさ。
ぶつぶつぶつぶつ。
おやおや、頭の中で雅楽が鳴り響き出しましたよ。
洞窟をぶつぶつ言いながら潜り抜けると、そこは雪国…ではなく、汚い神社があった。
鎌倉の銭洗い弁天を彷彿とさせる岩、ではなく剥き出しの赤土に囲まれた隠れ家的な空間。
屋根が抜け、柱が傾き、扉の一枚が外れかけている、まさに崩壊寸前の社。
拝殿は無く、本殿だけの小さな社。
柱の間隔からすると、内部は4×6間程度の空間はあるらしい。
賽銭箱はなく(お賽銭文化は近代のものと聞いたな)、鈴は掛かってはいるが、金色は既に剥げ落ち、鳴らすべく紅白の紐布は擦り切れて持つ事が出来ない。
そういえば、と振り向くと。鳥居は足元の石土台だけが残されている。
「熊野の森に戻ってしまった」
浅葱氏が宮司を務めていた古社は、歴史の中で自然に戻って行った。と、国麻呂さんは言っていた。
そんな事を思い出す。
神は人間が信仰してくれるから存在出来る。
では人間に捨てられた神はどうなるんだ。
神道系の小説で、主人公がそんな問いを誰ともになく投げかけるシーンがあったなぁ。
そんな事を思いながら、僕はこの古社を一回りした。
建物自体は崩壊寸前でも、空間はとても清浄で、ゴミ一つ、雑草一つなく、少しだけ湿った土と、数本の老松が岩に隠されたこの空間を形成している。
その片隅に何かがまとめてある。
見に行った。
それは、石造りの狐だった。
そういえば、この神社には狛犬が見当たらないな。
そして、お狐様がここに座すって言う事は、ここはお稲荷さんなのか。
まぁ、確かに何の解説板もないから、祭神が誰とかわからないしね。
「戻して下さい。」
お狐様が喋りました。
別に驚きゃしませんよ。ここはそう言う空間ですから。
「戻して下さい。」
それは構いませんが、「並び」を僕は知りませんよ。
口の開いている方がどちらか、確か決まりがあった筈ですが。
「とにかく、戻して下さい。」
とにかく、なんだ。なんか急いでんのかな?
僕は体調40センチくらいはある、白いお狐様像を鳥居があったであろう台の内側まで一体ずつ運ぶと、なんとなくここっぽいと判断した場所に並べてみた。
途端に空気の塊が落ちて来た。
上を見上げると、昼下がりの明るい空が見える。
そして、落ちて来た空気の塊が僕には見えた。
風では無い。空気の塊だ。
その塊は僕の直上に落ちて来たので、折角シャワーを浴びて整えた髪が乱れるなぁ、でも何か気持ちいいなぁなどと思いつつ。ふと背後に何かを感じた。
本殿に振り返ると、そこには純白の上着と朱袴を纏い紙垂を付けた玉串を抱く、何処からどう見ても「巫女さん」が立っていた。
★ ★ ★
「浅葱が方の殿とお見受け致します。」
僕が時の祠を訪れた(引き寄せられた)事は何度もあるけれど、人が居て、浅葱の名前を出された事は初めてだった。
「私はこの社を母より賜った巫女、名を玉と申します。」
玉串を持った、お玉さんが、神社を賜った。
たま尽くしだね。
「…………。やっとお会い出来た殿の第一声がツッコミでございます?」
お玉さんに半疑問系で、ツッコミ返されました。
……殿?
殿って。浅葱さんは、あなたと同じ神職でして。ついでに僕はぼっちの無職でして、男という事以外に「殿要素」はカケラもないんですが。
「それでも、私にとっては、浅葱様は殿でございます。」
……。先ずはきちんと話を聞いた方がいいですかね。
「この神社を創設された方は、平時は農業に勤しみながら、有事の時は刀を握る、平姓を持つ方でした。」
ちょっと解説。源平合戦でお馴染みの平氏。それは桓武天皇の孫・高望王が平姓を宇多天皇より賜り、臣籍降下の上旧隣国・上総国に介として任官、当地にて勢力を蓄えた一門。これが後の桓武平氏となる。
平姓は「源平藤橘」とひとまとめにされた程、当時の朝廷からも名門と認められて天皇家とも姻戚関係である家門で、平氏も別系統の皇族臣籍降下平氏はいるけど、桓武平氏が一番有名なのは言うまでもなく、子孫に著名な武将を産出するからだ。
つまり、平将門。平清盛。
「その将門さまに使えていたのが、当社の創始者行秀さまにございます。行秀さまは平を名乗ってはいましたが、武威武功により名乗りを許された者でございまして、別に血の繋がりがあったわけではございません。いずれは将門さまの女を貰う約定もあった様ですが、恐らくは適当な女を養女にして、将門さまの娘さまを充てがう算段だったのでしょう。」
よくあった政略結婚だね。
「しかし、将門さまは俵藤太さまとの戦に敗れました。行秀さまも参軍しておりましたが、敗軍の兵として、この地に帰って参りました。この地は将門さまより行秀さまが下賜された土地だったのです。」
今でこそこの辺は高級と名のつく住宅街になっているけど…確か、当時は縄文海進の影響が残る湿地帯ではなかったかな。
「台地の上は、今も昔も良好な農地が広がっていますよ。この県は日本一貝塚の多い県です。豊かな県な事は今でも変わりませんよ。」
…ご当地地理や国勢調査に詳しそうな巫女さんでした。
「将門さまを慈しみ、敵将俵藤太を憎み抜いた結果、行秀さまは一つの行動を起こしました。自らの所領にあるこの地の、この崖地に穴を穿ち、隠し間を拵え、一つの社を建立しました。それがここ。そして、ここの祭神様は、荼枳尼天様となります。」
…またまぁ、厄介な神名が出て来たよ。
荼枳尼天とはインド原産で、日本に流れるうちに稲荷信仰と合致して出来上がった、「祟り神」だ。
お稲荷さんはお稲荷さんでも、一度信仰の対象としたからには死ぬまで信仰を、いや死んでも信仰を強要する面倒くさいお稲荷さんで、多大な現世利益を齎す代わりに、信仰が薄いと容赦なく祟るツンデレの元祖みたいな神様やんけ。確かこの辺だと、成田山に祀られていた筈だけど。
「そうです。成田山は将門さま討伐を祈念して建てられた御堂が祖になります。だから逆に成田山の力を利用して俵藤太さまを滅そうとお考えになり、この社が出来ました。けれど大望を果たす前に行秀さまは病死なされ、この社は正式には未完成のまま朽ち、やがて強度計算もせずに無理に穿った洞は地ごと崩壊し、今に至っております。だから。」
そこまで話ていた巫女さんは、突然グイと顔を僕に近づける。というか、近い近い。近すぎます。
「殿には、荼枳尼天様をお救い願いたいのです。」
ほら出た。
と言いましてもね。僕が出来る事は時間旅行であって、霊能力とか超能力とか陰陽道とか、そんな器用な事は出来ませんよ。
「殿にお願いしたい事は二つございます。荼枳尼天様は本殿の神鏡で今もお眠りになられていますが、何しろ分祀されてから一度も供物の提供が無いもので、神力も全く使えない状況にございます。」
あぁ、さっきの“信仰を忘れ去られた神“の具現化か。
「それと、石鹸を御一つ、供物として頂けませんでしょうか?」
石鹸?何故に石鹸?
「この通りこの社は崩れ落ちようとしています。その運命は抗う事は出来ません。ですから、その前に、当社最後の巫女として、一度も掃除出来なかった社を清浄に送りたいのです。境内は手入れを欠かさなかったつもりではありますが、水も雑巾も箒もないここではお掃除をしたくとも出来ませんでしたから。」
…まぁ、そのくらいならね。
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