瑞稀の季節

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久留里街道

しょ、しょ、しょじょじのお富さん

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◯な◯塀、◯越しの◯に
◯な◯の◯い◯

ここまでやれば、ジャスなんとかも文句を言ってこないだろう。
(多分)


と言う訳で、はるか久留里城まで(ハーフマラソン男子日本記録保持者な1時間で走れる距離だけど)出発を前にして2箇所ほど探索です。
どちらも木更津駅の側にあるので、まずはここから。(いつもここから、悲しい時~)

朝イチでモコを木更津駅前のコインパーキングに止めて出発です。
南さんが調べたところでは、ここJR直営のパーキングが時間制で「1番高い」。
2時間いくら的な料金制。
船橋じゃ20分いくらだったのと比べると、それでもはるかに田舎料金。
先月の幸手はいくらだったかな。
他は1日400円だの500円だの。
いや、消費者としては、そちらの方がありがたいんですよ?
何しろ私達はもう、色々アレな一行なので。

今日は久留里線横田、もしくは東横田駅まで歩きます。
そのまま久留里線に乗って木更津駅に帰りまして、旅行けばホテル三日月(木更津)で一泊!(大泉洋風)

「ここで2名様45,000円くらいかな。」
「あの、南さん?昨日のとこじゃ駄目なの?あっちの方が高いでしょ?」

社長が頭にクエスチョンマークを刺してるよ。

「だって、同じ宿に泊まってもつまらないでしょ。」
「はぁ。」
「…あと、怖いじゃない…。」
「夕べ、何か出ましたか?」
「ストロングゼロをガブ飲みして、さっさと寝ましたよぅ。」

何してんだか。

「でもね。南さんたら、怖い夢を見たって私の布団に潜り込んできたのよ。」
「あら、可愛らしい。」
「葛城さぁん?」
「あれが可愛らしいの?」
「ええと。ええと。ギャップが。」
「葛城姉妹さぁん?」

何してんだかね。私達。


★  ★  ★


先ずは駅前にある「光明寺」さんに向かう。
歌舞伎「与話情浮名横櫛」で有名な、「切られ与三郎」の主人公、与三郎のモデルになった人物の墓があります。

ここは南さんのリクエストです。
ぶっちゃけ、本物の墓は東金にあるんですけどね。
木更津は舞台の1つでしかありません。 
あと、歌舞伎好きなんだ。南さん。

「理沙ちゃんは勧進帳って知ってる?」
「源義経と武蔵坊弁慶が出てくるって事だけは。」
「私ね、良い意味で馬鹿な歌舞伎が好きなの。」

良い意味で、ってつけりゃどんな暴言も許されるわけじゃありませんよ?南さん。

「勧進帳の派生作品で、芋洗い勧進帳ってあってね。大暴れした弁慶が生首を芋を洗うみたいに持っている鉄の棒で掻き回すって話なの。」
「……歌舞伎って、喜劇なんですか?」
「喜劇は狂言があるから。」

しかし芋洗いって。
生首を芋洗いって。

「そう言えば、芋洗坂係長っていたなぁ。」
「誰?それ?」

歌舞伎には私並みの知識しかないお姉ちゃんがぼそっと呟いた。

「R1でなだぎ武に負けて準優勝になった、太ったおじさんよ。」
「……私、流行り物のテレビって見ないからなぁ。」
「女子大生が何言ってるのよ。」 
「社長の世話と、大学に出す課題で忙しいの!」
「僕のせいかい?」
「うん!」
「…秘書さんに爽やかな即答を貰っちゃった。」

後で調べたら、2008年のR1じゃん。
私まだ、幼児じゃん。

「しかし今思うと、芋洗坂って凄い名前よね。どうやったらそんな発想が浮かぶのかしら。」
「地名だから。」
「は?」

あ、呟きを社長に拾われたお姉ちゃんが凄い顔してる。

「芋って別名では疱瘡なんだよ。つまり天然痘だね。ジェンナーがワクチンを作るまでは死病で、治ったとしても身体中に跡が残ったんだ。だから昔はこの病の完治祈願をする疱瘡神が信仰された。芋洗坂は大体、この神様を祀る寺社があったらしい。」
「はぁ。」



「理沙。貴女の社長は、何処からこんな知識を拾ってくるのよ。」
少し引き気味のお姉ちゃんが、私に耳打ちしてきた。
でも。
「私も知っているんだけど。」
「はぁ?」
「社長のKindleは会社のWi-Fiで読み放題だから。ちくま文庫から出てる坂道の解説本に載ってたよ。」
「…理沙がちくまを読むなんて…。」
「失礼な。」

でなけりゃ、作家の秘書とアシスタントと恋人と婚約者なんか務まらないんだよ!
テレビを見てる暇がない理由だよ!

………


「先生なら、玄冶店って別名もご存知では?」
「三木のり平と、八波むと志の方かい?」
「そう、それ。高田文夫とか小林信彦が手放しで絶賛した舞台です。見れないかなぁ。」
「一応、''雲の上団五郎一座''って映画の劇中劇で見れるらしいけど、肝心のその映画が見れない。配信もしてないね。」
「そうですか…」

ん?三木のり平って聞いた事あるな。
あぁ、日曜娯楽版について、物のついでにちょっとだけ書いた時だ。

「先生、南さん。三木のり平はご飯ですよの人で知ってますが、八波むと志って誰ですか?」 

あの場にはお姉ちゃんもいたから、三木のり平は知ってはいたか。

「昔ね、トリオブームってあったんだ。今で言うならパンサーとか東京03みたいな。」
「3人組のお笑い芸人ですね。」
「そのハシリだな。脱線トリオって人達がいた。本当は別のチーム名が付いていたけどテレビデビュー前日にタクシー運転手相手に酔っ払って喧嘩しちゃったから、局の売り方から脱線しやがったって命名された。」
「よくクビになりませんでしたね。」
「だって今と違って、テレビに出てくれるタレントが足りなかったから。」
「はぁ。」

今じゃ考えられない。

「そのメンバーの1人が八波むと志だよ。この人はテレビで売れても基本的に浅草から離れなかった。浅草でアチャラカとか軽演劇をやっていたんだ。」
「アチャラカ?」
「色々な定義はあるけど、あちらからの変化らしいね。要は台詞だけでなく体技でもアドリブを飛ばす喜劇だよ。」

私が言う事じゃないけど、この人は何でこんな事(ばかり)知っているんだろう。

「そしてその浅草の劇場で、真面目で優しい後輩がいた。笑いが大好きで芸人が大好きだったその人は、真面目過ぎる故に芸人としては目が出なかった。そのかわりマネージャーになってくれって声が絶えなかった。その人を口説き落としたのが八波むと志、口説き落とされたのが浅井良二。後の浅井企画の社長だよ。」
 
あれ。
編集者チームがぼうっとしてるぞ。
私はイッチー山中の本で読んだけど。  
事務所の書棚には、こんな得体の知れない本が揃っているんだ。

「ところが、事務所開設の直前に大事件が起こった。事務所唯一のタレント、八波むと志が事故で死んじゃった。」

「………。」
「………。」

「浅井社長が途方に暮れていたところに、不器用過ぎてテレビ番組をクビになった青年を知り合いのディレクターが連れて来た。それが萩本欽一、欽ちゃんだよ。」
  
「わぁ。」
「うわぁ。」

その後の、コント55号の結成秘話もゾクゾクするんだよね。
欽ちゃんが「運」を信じているって言うのもよくわかる。
失敗してばかりの浅井社長、欽ちゃん、二郎さんが成功していく過程は、何か1つ「ズレて」いたらあり得なかった「奇跡」の連続だもん。


光明寺の参拝を終えて、今度は證誠寺へ向かう。
歩いて10分程度だから、土曜日の朝、商店がまだ何処も開いていない、そもそも人が殆ど歩いていない駅前を、私達はのんびりと歩いていく。

「あ、そう言えば、てんぷくトリオってのもいたよね。」
「脱線転覆だからね。脱線トリオの次に売り出しをかけたトリオだよ。」

へぇ。

「売れたんですか?」
「1人まだ現役だよ。」 
「へ?誰?」

おっと、タメ口になった。
自重自重。

「伊東四郎。」
「なんですと?」

自重なんかすっ飛んだ。
私でも知ってる芸人の重鎮じゃん。

「リーダーの三波伸介は、ええと昇太・歌さん・馬円楽の前の笑点の司会者だな。歌丸と小圓遊が仲良く喧嘩をしてて、座布団運びが便所の下駄の裏こと、手を挙げて横断歩道を渡りましょう。松崎真で御座います。未だに語り継がれる笑点の全盛期だ。」
「笑点って落語家だけじゃなかったんだ。」
「その前には、放送作家の前田武彦が司会をしてた。今のテーマ曲を前田武彦が導入して歌詞まで付けている。」
「歌詞?」

あ、こら。社長、歌うな。
最初の方で、お富さんの歌詞を隠しまくった意味がなくなる。
と言うわけで、社長の歌は全カットじゃ。カット!

「ついでだから、笑点の無駄知識ってありますか?」
「そうだなぁ。六代目三遊亭円楽、つまり楽太郎だね。この人も真面目で完璧主義者だったから、五代目の弟子として可愛がられたし、五代目の付き人として局周りもしてたから、ディレクター・プロデューサー・放送作家からも可愛がられていた。」 

ウチの社長みたいだけど、言うと調子に乗るから控え……私は社長が調子に乗っているとこ、見た事ないな。
なんでこの人は、自己評価がこんなに低いんだろう。


「ある時、五代目がもう笑点に出たくないと駄々を捏ねた。これが後に笑点脱退、寄席若竹建設に繋がって行くんだけど、困ったのは収録現場だよ。五代目はリーダー格だったから、居ないとお客さんが納得しない。でも楽太郎が先入りしていたので、そのまま代理として大喜利に出した。これが卒なくこなしたので、三波伸介らの推薦で五代目の後釜に決まったとさ。」

なんか、欽ちゃんのエピソードに似てる箇所があるな。

「たい平はちゃら~んのこん平師匠が病気で復帰が難しいとなって、その後釜として入った。」
「座布団だけ、ずっと置いてありましたね。」

南さんこそ、よく笑点を見ている暇がありましたね。

「なので、メンバーとお客さんが''わかった''上で、オーディション大喜利をやった。こん平師匠の弟子を入れなきゃならない事は、その場にいた人間、オーディションを受ける他の噺家もわかっていた。自分が合格しちゃいけないオーディションだから気楽にやって笑いをガンガン取っていたのに、たい平はプレッシャーでガチガチになって、1番滑っていた。なので、大喜利の最初の挨拶で自分の名前を間違えた。」

いや、社長こそ、あの時間テレビ見てないよね。
鉄腕ダッシュが始まるまで仕事してるよね。

「あと、桂宮治は楽太郎が座布団の取り方を懇切丁寧に教えてくれて、笑点大喜利の参加の仕方を教えてくれたので、山田隆夫に媚売るの辞めたって。」
「なんだそりゃ。」
「楽太郎は先輩としてなんでも教えてくれたのに、まるで話を聞いていなかったのが三平だって。」
「………。」

あぁ、それは、まぁ…
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