瑞稀の季節

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奥州街道

やっと鷲宮神社

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ついた。
やっと着きましたよ、鷲宮神社。

週末って事のせいか、前回と同じく東武線とJRを超えて新幹線を潜る陸橋は大渋滞。
何故なら、混んでなければ車で10分とかからない幸手と比較すると久喜にはセブン&アイの大型店舗が2店もあるから。
周辺から集まってくるのだろう。



そういえば、鉄ちゃんなの?馬鹿なの?死ぬの?で私達だけにお馴染みの社長から、

「首都圏って放射線状に鉄道網が密に敷かれているけど、環状線状には凄くスカスカなんだよ。特に千葉と埼玉は。山手線、武蔵野線で終わり。あと一応東武線・川越線・高崎線・横浜線の大回りルートもあるけど、何しろ人が住んでない。」

って聞いた事がありましたね。

「ええと、沿線に大宮とか川越があるけど?」
「1番必要な都内が何にもないだろ。例えば葛西から北千住に行くとか。バスで行くか1度都心に出る必要がある。」

葛西から北千住に行く用事って、知り合いが居たり勤務先がそこだったり、かなりレアでは?

「そうか。山手線の西側は東急とか、結構私鉄が充実してるか。」
「その為に幾つか計画はあるんだけどね。大昔から。」
「へぇ。どんなのがあるんですか?」

「環七と環八の下に地下鉄を通す。」
「なるほど。」

それなら土地買収の予算がかからない。

「でも、肝心の工事費が国には無い。地下鉄工事は金がかかるからねぇ。」
「駄目じゃん。」

「既にある線路を利用するって計画もある。」
「線路?そんなの、ありましたっけ?」

「貨物線だね。貨物線なら常磐線の金町付近から京葉線の潮見付近までバッチリ繋がっている。」
「おお!それなら直ぐに出来るじゃないですか。」
「たださ、国道6号に踏切があるんだ。ただでさえ渋滞するから京成を越える為に陸橋を作ったのに、旅客化すると踏切が閉まる回数が増えて渋滞するから、もう1個陸橋を作らないと。」
「駄目じゃん。」



「後藤新平って昔の都知事が関東大震災で焼け野原になった時に、復興計画としてデカい公園と広い道路を沢山作ろうとしたら、伊東巳代治って銀座の土地持ち議員が猛反対したって話がある。
「今では伊東巳代治の反対ってあったのかどうかはわからないらしい。でも後藤新平の嫌味は残ってんだよね。
「子供達に危ない道を通学させろなんて、ミミっちい事恥ずかしげもなく言える江戸っ子はいないだろって。」

「面白い政治家が、昔はいたんですね。」
「まぁこの人は''後藤の大風呂敷''と言われて、奥さんに''あまりにも大雑把''と言われたほど、後先をあまり考えなかったから。復興予算の事も考えていなかったらしい。」
「あらまぁ。」

「因みに、東京大空襲でまた東京が焼け野原になった時に昭和天皇が''後藤の計画が完成してたら、人死にはもっと減っただろう''って言葉を残している。ある意味で現実主義者であり、ある意味で''理想主義者''だったんだろう。政治家としては正しい人だよ。」

社長が政治を語る事は珍しい。
多分、「歴史」になってくる政治家だからだろう。




さて、やっと着きましたよ。
1ヶ月ぶりの鷲宮神社。
途中ブックオフに寄ろうとする社長を、

「もう3時ですよ!」

って正気に戻して久喜から直行したのだ。
社長の言う事について行こうと、「TV見仏記」を暇な時(大学生なのに暇な時間が少ないのはおかしかないか?私)に見ていたら、みうらじゅんが

「最近の寺は4時で閉まる」

って言ってたのを覚えていたのさ。

寺じゃなくて神社だけど。
後で調べたら24時間営業って書いてあったけど。

良いんだい、良いんだい!
だって社務所は夕方で閉まるだろ? 
私とお姉ちゃんには目的があるんだい!


この時間でも、割と駐車場は混みがち。
南さんはトイレに直行したけど、私達は駐車場をぐるっと回って、きちんと鳥居から神社にはいる。


と言う訳で、2礼2拍手1礼。
ぱんぱん。

参拝を済ませると、くるりと振り返って社務所に向かう。

そこには御朱印の見本がずらりと並んでいた。

「あら、沢山あるのね。」
「でも、御朱印帳に貰える御朱印は、これだけで、あとは全部御朱印紙だって。」
「理沙、御朱印紙って何?」

早稲田大卒のお姉ちゃんがわからないものを、私にわかるわけないだろ。
こう言うときに、私達には便利な奴がいるだろ。

「社長?」
「B5くらいの和紙に書いた朱印だよ。大抵イラストが描いてあるから。御朱印帳に龍だの刀剣だののイラストまで描いてられないでしょ。」

社長が見本を指差して解説してくれた。
なるほど。
龍と刀とタツノオトシゴと と、なんか着物を着た男女の姿と。
それぞれ別々に、色々描いてある。

「あと、前原の御嶽神社には、新京成の朱印があるよ。あのデザインした人を小一時間説教したくなる新京成が描いてある。」

前原御嶽神社の事かな?
あそこは結構由緒正しい神社みたいで、船橋の郷土史には詳しく紹介される事が多い神社ですな。

でだ。
個人的な感想を述べるとこうなる。

な、なるほど。
あのピンクの電車の御朱印ですか。
…やべぇ。欲しくなってきた。
なんか別の意味で。


………


私達が御朱印紙を全部買って、鷲宮神社の御朱印を頂いて御朱印帳を買っている頃(船橋大神宮で初めて買ってから、私達姉妹の趣味に御朱印集めが増えたのだよ、明智くん)、南さんは何処かに行ってしまった。

「この神社は、鎮守の杜の中に末社が沢山あるからね。南さんは、そんな末社にもお参りするんだって。」

何故、社長が南さんの生態?をご存知なんですかね?
浮気ですか。
浮気ですね。
結婚する前から浮気ですね?
私こそ後で小一時間説教ですね。


「おや、こんにちは先生。」
「宮司さん、こんにちは。この間ぶりですね。」
「三丸は今日は音大ですよ。川越に行ってます。」
「今日は取材ですよ。本業です。」
「おやおや、また当社を取り上げていただけますか。ありがとうございます。」
「いや、こちらは参拝者に困らないでしょ。」
「アニメから20年経ちますしねぇ。どんな形でも取り上げられるって事は、いつでも光栄な事ですよ。あ、三丸から聞いております。多額の寄進ありがとうございます。」

は?
タガクノキシン?
何のことかな?
秘書の私が聞いてないぞ。

「お時間です。」
「わかりました。では、先生。また。」
「ええ。またお参りに来ます。」


神主さんと呼べば良いのか、宮司さんと呼べば良いのか。
白衣に何やら紋章の入った袴を履いた神主さんは、巫女さんに呼ばれて建物に戻って行った。
ここでは日常なんだろうけど、俗世でヤマトだみうらじゅんだ言っている私達からすると、何かを超越した光景を見た様な気がする。

………

南さんが戻って来ました。

「何か神社ぁって感じですね。凄く爽やかな感覚になりました。」

煩悩満載の姉妹が御朱印を買い漁っていたのとはエラい違いです。

あ、社長は、あの時子供達が神楽を舞った神楽殿をずっと眺めてます。
額と言うのか、絵馬と言うのか。

「大絵馬って言う事が多いね。」

だから社長は何故知ってんの?
何故私の心が読めるの?

「さて、南さんは何かお守り買いますか?」
「御神籤を引いたからいいですよ。うちからだと来年納めに来るのが大変ですから。」

え?
南さんって、1年経ったお守りやお札をきちんとお返しする人なんだ。
私は社長やお義母さんから聞いていたけど、ぶっちゃけ面倒くさいなぁって思ってた。

というか、知らない葛城家が駄目家族なのかな。


大鳥居を出て1礼。
前はべつに信者でない、ただの観光客だから照れ臭いと思っていたけど、うちの社長は神社仏閣教会のどこに行っても、宗派流派に即した礼を取れる人なので、いつも隣にいる私も極自然に社長に倣う様になった。

お姉ちゃんと社長が私の分も御朱印とお守りを車に運んで行ったので、その間待機。

大西茶屋だか大酉茶屋だか(看板がクセがあって読み取れない)の前で

『らきすたの石碑』

なる珍妙な物体を眺めていると、南さんが私を突っついてきた。

「ねぇ理沙さん。ここって関東最古の神社なのよね。」
「案内板にはそう書いてありますね。」

神社の記録って、何だっけ。
延喜式とかあるんだっけ。

「こんな時にしか役に立たないうちの宿十五くらいが帰って来ましたよ。聞いてみますか?」
「…普通は家に10分の6しか居付かないから宿六よね。何その過分数は。」
「実家と仕事場を行ったり来たりしてるからです。どっちに泊まるかわからない。」
「…実家は出て行かないのね。」
「ちびが社長のうちにずっと居る事になっちゃいますから。ご両親が寂しがるそうですよ。」
「…息子じゃなくて、ワンちゃんなのね…。」

………

「ん?どうかしたのかい?」

余程不思議そうな、或いは間抜けな顔をしていたのだろう。
時々、あのデリカシーの欠片どころか全部どこかに置いてくる社長が心配そうに駆け寄ってきた。

亭主にあんな顔をさせちゃ駄目だろ、私。


「先生、質問がありまして。」
「なんですか?南さん。」
「ここって関東最古の神社なんですよね。」
「あぁ、そう言う事になってるね。」
「そう言う事?とは?」

「そりゃこの神社が文献に出てくるのは、吾妻鏡からだもん。平安時代に作られた延喜式神名帳には載ってない。」
「つまり、騙りですか?」
「そうは言えないさ。境内に遺跡があったって石碑があったろ。」
「…トイレの隣にありました。」

エラい所に立ってる石碑ですね

「この裏には後北条時代の鷲宮城もあったんだ。今は何の痕跡も残ってないけどね。つまりここは太古から人が集う場所だったって事。神社とされなくとも、信仰の場所があったとしてもおかしくないだろ。」
「なるほど。歴史は柔軟に対応すべき。前に先生が仰いましだね。」
「歴史って言うものは、文献と実物が現存するものでも、その行間に本物の真実が隠れていたりする。僕らは厳格な歴史学者じゃないんだから、そう言った小さな推測を拾い上げて行く事も大切な使命なんだよ。僕はそう思ってる。」


やっと帰ってきたお姉ちゃんが私の耳に失礼な内緒話をしやがった。

「ねぇ、やっぱり先生って大きくない?」
「お姉ちゃんの対人関係って知らないし、私が平伏してる大人は家族と社長しか知らないけど、悪い選択じゃない事はわかった?」
「うん。」

あと、他の男は知らないけど、社長の社長は多分小さくないぞ(下ネタ)。

「道理で。」
「どうかしましたか?」
「いやですね。鳥居が新しいなって思って。塗り直したんですかね。」
「あぁ、新しいですよ。まだ数年しか経ってないんじゃないかな。」
「はい?」
「数年前に、確か軽トラだったかな?衝突して倒れちゃった。」
「はいぃ?」
「その前は、倉庫か何かが火事で全焼してます。」
「はいいぃ?」

なんか物騒な話になって来たぞ、おい!

「伊勢神宮の遷宮で譲渡される木材を待っているって噂もあったけど、次は2033年だから喜捨を集めて建て替えたんですよ。」
「はぁ。」

「社長、それで寄付だっけ?寄進だっけ?したの?」
「拝殿と本殿がそろそろ修繕が必要なんだってさ。三丸さんに頼まれたから、ウン百万ほど。」
「あぁのぉねぇ。」
「寄付金は非課税で控除が受けられるよ。」
「なら、ヨシ!」

女だてらに、鼻息ずばぁ。
ならば良かろう。

「いいんだ。」

「理沙、貴女どうしちゃったの?」

内緒だけど結婚が決まった以上、税金だってそりゃ気にしますよ。

「領収書を集めまくるお姉ちゃん達と一緒です!」
「理沙さん。なんかしっかりして来てる?」
「社長の薫陶のおかげです。」




僕は何にも言ってないけどなぁ。

って、隅っこで言ってる社長の声は聞こえません。
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