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奥州街道
宇宙戦艦ヤマト考
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さてさて。
杉戸に近づいたのでコインパーキングを探そうとスマホを開いて、開いて、…開く前に社長は4号線沿いにあるブックオフにモコを停めちゃった。
なるほど。
ここは駐車場も広い。
少しくらいなら、駐車しても大丈夫かな。
って社長はいち早く降りる準備をしてるし。
「社長?」
「いつぞやみたいに山ほど買えば、1時間くらいの駐車は許してくれると思う。駐車場もかなり空いているし。」
「はぁ」
この人は馬鹿丁寧と言うか。馬鹿正直と言うか。
多少は黙っていてもわからないと思うけど、そこが社長だしお義父さんの息子なのよね。
私が身一つで、というか身体を全部投げ出して、この人に、この家族について行こうと決めた理由でもある。
何って言うかね、コンプライアンスとか他人の感情を害さない事を、細心の注意を払って行動するくせに、そのストイックな言動を他人に強要しないんだ。
その節々が、一緒にいて凄く気持ちいい。
私が腹を立てるような事ないもん。
って言うか、私が腹を立ててる時は、私が我儘言ってる時だ。
こう言う時は、私のガキぶりが嫌んなる。
そして、社長もお義父さんもお義母さんも、私を疑う事なく全力で信用してくれる。
「それだけ父親に虐め抜かれた父だから、逆に僕は他人を信用する教育を受けて来たんだよ。騙すより騙される人間になれ。騙されないだけの教養を身につけろ。騙されても救ってくれる知り合いがいてくれる人間性を磨けって。」
実際、社長はその教えを忠実に守っているから、仕事に、友人に恵まれている。
私はこの人に相応しい「お嫁さん」にならないとならない(重複)ので、日夜努力にいとまがない。
で。
社長曰く、
「ここはたまに来ると掘り出し物が見つかる穴場」
だ、そうで。
国道に面した穴場ってなんだよ。
って、たちまち大量のDVDとプラモデルをゲットしてるぞ、この男。
あと、ゲームコーナーからアダルトゲームの攻略本まで見つけ出したぞ。
「下級生」?
うわぁ、中を見せてもらったら、裸の女子高生のイラストだらけだ。
多分、なんかの資料に使うんだろうなぁ。
だって去年まで「女子''校''生」だった私を自由に出来るのに、ゲームで1人エッチする必要ないもんな。
男の人曰く、アレは別腹と言うけど、危険日以外は私の方から押し倒しているんだから、そんな気が起きるわけない。
多分。
前にも「鬼畜王ランス」ってアダルトゲーム(なんて題名だよ)の攻略本を手に入れて、その1冊だけで急遽差し込まれたサブカル系ゲーム雑誌の原稿をでっち上げてたし。
題名はソフトバンクとアダルトゲーム。
孫正義さん、今更ほじくり返されて、迷惑だろうなぁ。
「先生?そのプラモデルって。」
「うん?宇宙戦艦ヤマトとアンドロメダだね。しかもこれ旧タイプだ。」
「あの、値札にゼロが4つ付いてますよ。」
「1978年の映画だからねぇ。半世紀前だもん。プレミアくらい付いてるさ。」
お姉ちゃんたら、呆れ顔。
だって、ブックオフで、普通に棚売りしているプラモデルが、2つで10万円超えてるんだぜ。
そりゃ万引き防止タグが付いてるとはいえ、不用心だなぁ。
「そりゃ、こんなデカい箱を万引きする方が難しいでしょ。ガラスケースだって大きさが限られているから、プレミア付きゲームを入れるので手一杯だよ。」
「なんか色々変じゃないですか?」
「知らんがな。」
………
本日の釣果。
DVD 稲川淳二「恐怖の現場」全巻
DVD ほんとにあった呪いのビデオ1~50
プラモデル・バンダイ製
宇宙戦艦ヤマト
宇宙戦艦アンドロメダ
(さらば宇宙戦艦ヤマトバージョン)
プラモデル・アオシマ製
魔鏡伝説アクロバンチ
亜空大作戦スラングル
………
社長はホクホクでクレカを差し出したけど、女ので私達には何が何だかわかりませぇん。
「先生。因みにそれを原稿に載せますか?」
「載せるわけないでしょ。一応歴史目線の脇街道紀行に宇宙戦艦アンドロメダが飛ぶって、どんな原稿ですか。」
「じゃあ、領収書下さい。理沙の方に書かせるので。」
はい?
私が書くの?
ヤマトとかスラングルを?
「別に構わないけど、こんなおもちゃの領収書なんか落ちるの?」
「お品代で貰いますよ。」
収入印紙の貼られた領収書ですか。
ブックオフの?
領収書の奪い合いも、かなりトンチキなレベルに落ち込みましたよ。
この取材チーム。
因みに南さん。
黙ってると思ったら、なんかフィギュアを買ってました。
…オタクなんですね。
で、社長です。
ちゃんと駐車許可を店長さんから頂いてました。
まあ、1人で20万も買い物する人も珍しかろう…
「良かったらサインを頂けますか?」
「これ。先月出たばかりの新刊じゃないですか。もう売られて来たんですか?」
「いえ、私が今読んでいるんです。私物です。」
…なんか知らないけど、店長さんと社長は知り合いみたいです。
だったらこんな無駄遣いする必要…単に社長が欲しかったんだろうなぁ。
DVDなんか配信サイト行けば見れるもん。
★ ★ ★
「社長、一応ですね。私はここは杉戸に残された史跡を丹念に辿る予定でした。」
「うん。」
「でも、お姉ちゃんのせいでヤマトに触れるハメになりました。助けてください。」
で、今回はヤマトです。
あらかた語られ尽くしているメジャー作品ですが、まだ言える事あるのかなぁ。
「僕が今日、高いお金を出して買ったのはね、父への贈り物なんだ。」
「父の日って、6月ですよ。」
「あぁ違う違う。売ってたから買っただけ。せっかく買ったからあげようと決めただけ。」
「お義父さん、確か55歳くらいですよね。」
なのに、アニメのプラモデル?
「さらば宇宙戦艦ヤマトが劇場公開されたのは、父が小学校の3~4年の頃なんだ。」
今55歳で、1978年公開なら、そんなものですかね。
「でまぁ、例によって、映画なんか観せてくれない祖父だったんだ。ましてやアニメだしね。」
「あぁ。」
「友達はみんな観に行ったのに、自分だけ観れない。なら父はどうしたかって言うと、当時月600円のお小遣いで小説とプラモデルを買ったんだ。」
「小説?ですか?」
はて。
「当時、何社から出てたんだよ。」
「競作ですか?」
「まぁ、大ヒットしたし、プロデューサーは亡くなって久しいんだけど、いまでも''悪口''満載の評伝が出版されるクセのある人だったから、オカネモウケに積極的だったのかもね。」
「はぁ。」
まぁ、いつの時代もそんな人いるよね。
「で、父はコバルト文庫の若桜木虔版を買った。」
「うわぁ!コバルト文庫、懐かしい!」
「コバルト文庫?なんですか?」
「集英社から出てたのよ。新井素子とか氷室冴子は、この文庫で読んだもん。」
「はぁ。」
南さんが興奮してるけど、お姉ちゃんがすかさず相手になってくれた。
さすがは私の担当編集者!偉い!
「コバルト文庫自体はまだ刊行されてるけどね。まぁジュブナイルがメインだから。大人は卒業しちゃうかな。」
「編集者がそれで良いんでしょうか?」
「余程の書痴じゃないと、自分が担当する以外のレーベルは把握してないかもね。」
「ジュブナイルって、ラノベとは違うんですか?」
「理沙くん。それはビブリアの厄介議題の一つだから、迂闊に触れない方が良いよ。」
「はい。」
南さんやお姉ちゃんの、そこら辺のロジック合戦は厄介そうなのは、側で見ててわかります。
社長が素早く他人のふりするし。
「で、父は小説を読みながら、当時100円で売ってた小さなプラモデルを組み立ててたんだよ。そのプラモデルで小説に書かれた場面を1人で再現してだんだな。だから大きいヤマトは父の憧れだった。」
「社長、寂し過ぎます。お義母さんは何してたんですか?」
「小学生時代だもん。違う小学校でキャンディキャンディを読んでたみたい。」
あ、そうだった。
お義母さんがお義父さんと知り合って、お付き合い始めたのは中学に入ってからだった。
「社長。」
「なんだい?」
モコのラゲットルームを開けようとしているので、藍色のビニール袋を預かりながら訴えます。
「もっと明るい話題をお願いします。次会った時に顔が見れません。」
「そしたらね。」
ビニール袋からヤマトのプラモデルの箱を取り出して見せてくれます。
「ほら、この有名なヤマトのイラスト、波動砲が大きく描いてあるだろう。」
有名かどうかは、私が(社長も)生まれる前の作品だし、知りませんよ。
ついでに私、女子だし。
「このイラストって凄いパースがついてるんだ。だからヤマトのプラモデルを完成させても、このポーズは取れない。」
「よくあるディフォルメって技法ですね。」
「で、ヤマトのプラモデルを作っていたバンダイが、立体化した事がある。最初からディフォルメしてあるから、前から見たらそのまんまのヤマトになる。」
「前から見たら?」
「横から見たら、船首デッカチのカッコ悪いヤマトになる。」
誰がそんなの買ったんだろう。
バタン。
鍵をかけて、やっとこさっとこ杉戸探索に出かけます。
「あと、アンドロメダだけど。」
「あぁ、なんか銃口が2つ付いてる奴。」
「波動砲ね。」
だから、私は女の子。
そろそろ還暦を迎えるお義父さんみたいな男の子じゃないの。
「アレは拡散波動砲って言って、わかりやすく言えば凄い強力なビームが拡散して敵艦隊を壊滅させる兵器なんだ。」
「なるほど。」
いかにも男の子が考えそうな兵器です。
「実際、映画版じゃ敵艦隊を一撃で葬り去った。」
「おう。」
私が男の子だったら燃えるかも。
「ただ敵は白色彗星でね、別行動してたヤマトが掴んだ情報だと彗星の中心核に波動砲を打ち込めば勝てるって事だったから、地球艦隊が並んで拡散波動砲を撃ってもなんの役にも立たずに全滅した。」
「なんだそりゃ。」
「だからヤマトがたった1隻で地球を背後に立ち向かう羽目になる。」
「なんだそりゃそりゃ。」(出川哲朗風)
「最後地球は勝つんだけど、ヤマトは爆発するし主要メンバーの殆どが戦死する。」
なるほど、だから「さらば」か。
「ただね。ヤマトを爆発させて乗組員を殺しまくった映画版を若いスタッフが気に入らなくて、そのやる気を買ったプロデューサーが作らせたテレビ版がある。」
「はい。」
「そっちじゃヤマトも乗組員も生き残って地球が勝利するんだけど、だったら映画版はなんだって話になってね。」
あぁ、人が死ぬって事は泣けるシーンだよね。
「で、テレビ版も高視聴率だったから、映画版は番外編になった。」
「なんだそりゃそりゃそりゃ。」
「テレビ版じゃ地球艦隊が弱くてねぇ。全然勝てないんだ。で、映画版で辣腕艦長ぶりを見せつけて、途中戦死するヤマト2代目艦長をアンドロメダの艦長にすげ変えた。」
「はぁ。」
「結果、やっぱりアンドロメダは爆発して艦長も戦死するんだけど、戦略的に既に負けてるポンコツ艦隊を率いて、戦術的に大健闘を見せた。それはヤマトの戦い方のヒントになった。」
「あの?」
「なんだい?」
「どちらもヤマトは何してんですか?主役が参戦すれば勝てそうなのに。」
「映画版だと、デスラーって敵に奇襲されて、なんとか勝ったものの修理中。」
「なるほど。」
「テレビ版だと、衝突事故を起こして修理中。」
「宇宙で?」
「宇宙で。」
杉戸に近づいたのでコインパーキングを探そうとスマホを開いて、開いて、…開く前に社長は4号線沿いにあるブックオフにモコを停めちゃった。
なるほど。
ここは駐車場も広い。
少しくらいなら、駐車しても大丈夫かな。
って社長はいち早く降りる準備をしてるし。
「社長?」
「いつぞやみたいに山ほど買えば、1時間くらいの駐車は許してくれると思う。駐車場もかなり空いているし。」
「はぁ」
この人は馬鹿丁寧と言うか。馬鹿正直と言うか。
多少は黙っていてもわからないと思うけど、そこが社長だしお義父さんの息子なのよね。
私が身一つで、というか身体を全部投げ出して、この人に、この家族について行こうと決めた理由でもある。
何って言うかね、コンプライアンスとか他人の感情を害さない事を、細心の注意を払って行動するくせに、そのストイックな言動を他人に強要しないんだ。
その節々が、一緒にいて凄く気持ちいい。
私が腹を立てるような事ないもん。
って言うか、私が腹を立ててる時は、私が我儘言ってる時だ。
こう言う時は、私のガキぶりが嫌んなる。
そして、社長もお義父さんもお義母さんも、私を疑う事なく全力で信用してくれる。
「それだけ父親に虐め抜かれた父だから、逆に僕は他人を信用する教育を受けて来たんだよ。騙すより騙される人間になれ。騙されないだけの教養を身につけろ。騙されても救ってくれる知り合いがいてくれる人間性を磨けって。」
実際、社長はその教えを忠実に守っているから、仕事に、友人に恵まれている。
私はこの人に相応しい「お嫁さん」にならないとならない(重複)ので、日夜努力にいとまがない。
で。
社長曰く、
「ここはたまに来ると掘り出し物が見つかる穴場」
だ、そうで。
国道に面した穴場ってなんだよ。
って、たちまち大量のDVDとプラモデルをゲットしてるぞ、この男。
あと、ゲームコーナーからアダルトゲームの攻略本まで見つけ出したぞ。
「下級生」?
うわぁ、中を見せてもらったら、裸の女子高生のイラストだらけだ。
多分、なんかの資料に使うんだろうなぁ。
だって去年まで「女子''校''生」だった私を自由に出来るのに、ゲームで1人エッチする必要ないもんな。
男の人曰く、アレは別腹と言うけど、危険日以外は私の方から押し倒しているんだから、そんな気が起きるわけない。
多分。
前にも「鬼畜王ランス」ってアダルトゲーム(なんて題名だよ)の攻略本を手に入れて、その1冊だけで急遽差し込まれたサブカル系ゲーム雑誌の原稿をでっち上げてたし。
題名はソフトバンクとアダルトゲーム。
孫正義さん、今更ほじくり返されて、迷惑だろうなぁ。
「先生?そのプラモデルって。」
「うん?宇宙戦艦ヤマトとアンドロメダだね。しかもこれ旧タイプだ。」
「あの、値札にゼロが4つ付いてますよ。」
「1978年の映画だからねぇ。半世紀前だもん。プレミアくらい付いてるさ。」
お姉ちゃんたら、呆れ顔。
だって、ブックオフで、普通に棚売りしているプラモデルが、2つで10万円超えてるんだぜ。
そりゃ万引き防止タグが付いてるとはいえ、不用心だなぁ。
「そりゃ、こんなデカい箱を万引きする方が難しいでしょ。ガラスケースだって大きさが限られているから、プレミア付きゲームを入れるので手一杯だよ。」
「なんか色々変じゃないですか?」
「知らんがな。」
………
本日の釣果。
DVD 稲川淳二「恐怖の現場」全巻
DVD ほんとにあった呪いのビデオ1~50
プラモデル・バンダイ製
宇宙戦艦ヤマト
宇宙戦艦アンドロメダ
(さらば宇宙戦艦ヤマトバージョン)
プラモデル・アオシマ製
魔鏡伝説アクロバンチ
亜空大作戦スラングル
………
社長はホクホクでクレカを差し出したけど、女ので私達には何が何だかわかりませぇん。
「先生。因みにそれを原稿に載せますか?」
「載せるわけないでしょ。一応歴史目線の脇街道紀行に宇宙戦艦アンドロメダが飛ぶって、どんな原稿ですか。」
「じゃあ、領収書下さい。理沙の方に書かせるので。」
はい?
私が書くの?
ヤマトとかスラングルを?
「別に構わないけど、こんなおもちゃの領収書なんか落ちるの?」
「お品代で貰いますよ。」
収入印紙の貼られた領収書ですか。
ブックオフの?
領収書の奪い合いも、かなりトンチキなレベルに落ち込みましたよ。
この取材チーム。
因みに南さん。
黙ってると思ったら、なんかフィギュアを買ってました。
…オタクなんですね。
で、社長です。
ちゃんと駐車許可を店長さんから頂いてました。
まあ、1人で20万も買い物する人も珍しかろう…
「良かったらサインを頂けますか?」
「これ。先月出たばかりの新刊じゃないですか。もう売られて来たんですか?」
「いえ、私が今読んでいるんです。私物です。」
…なんか知らないけど、店長さんと社長は知り合いみたいです。
だったらこんな無駄遣いする必要…単に社長が欲しかったんだろうなぁ。
DVDなんか配信サイト行けば見れるもん。
★ ★ ★
「社長、一応ですね。私はここは杉戸に残された史跡を丹念に辿る予定でした。」
「うん。」
「でも、お姉ちゃんのせいでヤマトに触れるハメになりました。助けてください。」
で、今回はヤマトです。
あらかた語られ尽くしているメジャー作品ですが、まだ言える事あるのかなぁ。
「僕が今日、高いお金を出して買ったのはね、父への贈り物なんだ。」
「父の日って、6月ですよ。」
「あぁ違う違う。売ってたから買っただけ。せっかく買ったからあげようと決めただけ。」
「お義父さん、確か55歳くらいですよね。」
なのに、アニメのプラモデル?
「さらば宇宙戦艦ヤマトが劇場公開されたのは、父が小学校の3~4年の頃なんだ。」
今55歳で、1978年公開なら、そんなものですかね。
「でまぁ、例によって、映画なんか観せてくれない祖父だったんだ。ましてやアニメだしね。」
「あぁ。」
「友達はみんな観に行ったのに、自分だけ観れない。なら父はどうしたかって言うと、当時月600円のお小遣いで小説とプラモデルを買ったんだ。」
「小説?ですか?」
はて。
「当時、何社から出てたんだよ。」
「競作ですか?」
「まぁ、大ヒットしたし、プロデューサーは亡くなって久しいんだけど、いまでも''悪口''満載の評伝が出版されるクセのある人だったから、オカネモウケに積極的だったのかもね。」
「はぁ。」
まぁ、いつの時代もそんな人いるよね。
「で、父はコバルト文庫の若桜木虔版を買った。」
「うわぁ!コバルト文庫、懐かしい!」
「コバルト文庫?なんですか?」
「集英社から出てたのよ。新井素子とか氷室冴子は、この文庫で読んだもん。」
「はぁ。」
南さんが興奮してるけど、お姉ちゃんがすかさず相手になってくれた。
さすがは私の担当編集者!偉い!
「コバルト文庫自体はまだ刊行されてるけどね。まぁジュブナイルがメインだから。大人は卒業しちゃうかな。」
「編集者がそれで良いんでしょうか?」
「余程の書痴じゃないと、自分が担当する以外のレーベルは把握してないかもね。」
「ジュブナイルって、ラノベとは違うんですか?」
「理沙くん。それはビブリアの厄介議題の一つだから、迂闊に触れない方が良いよ。」
「はい。」
南さんやお姉ちゃんの、そこら辺のロジック合戦は厄介そうなのは、側で見ててわかります。
社長が素早く他人のふりするし。
「で、父は小説を読みながら、当時100円で売ってた小さなプラモデルを組み立ててたんだよ。そのプラモデルで小説に書かれた場面を1人で再現してだんだな。だから大きいヤマトは父の憧れだった。」
「社長、寂し過ぎます。お義母さんは何してたんですか?」
「小学生時代だもん。違う小学校でキャンディキャンディを読んでたみたい。」
あ、そうだった。
お義母さんがお義父さんと知り合って、お付き合い始めたのは中学に入ってからだった。
「社長。」
「なんだい?」
モコのラゲットルームを開けようとしているので、藍色のビニール袋を預かりながら訴えます。
「もっと明るい話題をお願いします。次会った時に顔が見れません。」
「そしたらね。」
ビニール袋からヤマトのプラモデルの箱を取り出して見せてくれます。
「ほら、この有名なヤマトのイラスト、波動砲が大きく描いてあるだろう。」
有名かどうかは、私が(社長も)生まれる前の作品だし、知りませんよ。
ついでに私、女子だし。
「このイラストって凄いパースがついてるんだ。だからヤマトのプラモデルを完成させても、このポーズは取れない。」
「よくあるディフォルメって技法ですね。」
「で、ヤマトのプラモデルを作っていたバンダイが、立体化した事がある。最初からディフォルメしてあるから、前から見たらそのまんまのヤマトになる。」
「前から見たら?」
「横から見たら、船首デッカチのカッコ悪いヤマトになる。」
誰がそんなの買ったんだろう。
バタン。
鍵をかけて、やっとこさっとこ杉戸探索に出かけます。
「あと、アンドロメダだけど。」
「あぁ、なんか銃口が2つ付いてる奴。」
「波動砲ね。」
だから、私は女の子。
そろそろ還暦を迎えるお義父さんみたいな男の子じゃないの。
「アレは拡散波動砲って言って、わかりやすく言えば凄い強力なビームが拡散して敵艦隊を壊滅させる兵器なんだ。」
「なるほど。」
いかにも男の子が考えそうな兵器です。
「実際、映画版じゃ敵艦隊を一撃で葬り去った。」
「おう。」
私が男の子だったら燃えるかも。
「ただ敵は白色彗星でね、別行動してたヤマトが掴んだ情報だと彗星の中心核に波動砲を打ち込めば勝てるって事だったから、地球艦隊が並んで拡散波動砲を撃ってもなんの役にも立たずに全滅した。」
「なんだそりゃ。」
「だからヤマトがたった1隻で地球を背後に立ち向かう羽目になる。」
「なんだそりゃそりゃ。」(出川哲朗風)
「最後地球は勝つんだけど、ヤマトは爆発するし主要メンバーの殆どが戦死する。」
なるほど、だから「さらば」か。
「ただね。ヤマトを爆発させて乗組員を殺しまくった映画版を若いスタッフが気に入らなくて、そのやる気を買ったプロデューサーが作らせたテレビ版がある。」
「はい。」
「そっちじゃヤマトも乗組員も生き残って地球が勝利するんだけど、だったら映画版はなんだって話になってね。」
あぁ、人が死ぬって事は泣けるシーンだよね。
「で、テレビ版も高視聴率だったから、映画版は番外編になった。」
「なんだそりゃそりゃそりゃ。」
「テレビ版じゃ地球艦隊が弱くてねぇ。全然勝てないんだ。で、映画版で辣腕艦長ぶりを見せつけて、途中戦死するヤマト2代目艦長をアンドロメダの艦長にすげ変えた。」
「はぁ。」
「結果、やっぱりアンドロメダは爆発して艦長も戦死するんだけど、戦略的に既に負けてるポンコツ艦隊を率いて、戦術的に大健闘を見せた。それはヤマトの戦い方のヒントになった。」
「あの?」
「なんだい?」
「どちらもヤマトは何してんですか?主役が参戦すれば勝てそうなのに。」
「映画版だと、デスラーって敵に奇襲されて、なんとか勝ったものの修理中。」
「なるほど。」
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