相馬さんは今日も竹刀を振る 

compo

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なんでこうなるの?

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「まぁだぁ?瑞穂ちゃん。」
「アト7分ダヨ。」
「瑞穂ちゃん、意外と細かいよね。キッチンタイマーなんか持ってるし。」
「リョウリがヘタなヒトは、マニュアルレシピを無視して自分のヤリタイホウダイする人だよ?」
「うっ。」


台所からは、16歳無職に瞬殺される阿部さんの声がする。


「襦袢が着れたら、衣紋を抜いて。1人で出来る?」
「や、やってみます…。」
「後ろ襟は本人じゃないと1番楽な具合がわからないからね。着崩れてないかは私達が判断するから。」
「瑞穂の部屋に姿見がありましたね。あれをお借りしましょう。」
「あ、私が持ってきます。」


外に面していない部屋(どれだけあるんだよ、この家)からは、「明日の結婚式」に備えて引き振袖を着付ている声が聞こえる。

花嫁さんは、勿論、水野さん。
結婚式はいよいよ明日です。
籍のどうこうはわからないけど、明日から後藤さんです……。

明日から何て呼べば良いんだろ。

着付けてるのは、祖母と何故かお隣さん。

着物は法事で着る事が多いので、免状を持っているそうだ。
ええと、僕はそもそも誰かの葬式に出た事が殆どないので(母方の祖父母も元気で健在だし)わからないんだけど。
お寺さんのお嬢さんって着物の喪服を着るんだ。
僕が見た事あるのは、父は黒のスーツだし、母は黒いドレスだった。
…宗教によって、色々あるんだなぁ。


「師匠って、ひょっとして着付け出来るの?」
「まぁ、一応。」
「ピーチャン」

ピーちゃんのほっぺをクリクリ掻いているのは、やる事ない田中さん。
珍しく台所を阿部さんに占拠されたので、今でお煎餅を齧っているわけ。

………

つまりは、ですね。
水野さんが着物にしようか、ドレスにしようか、あれこれ悩んでいるのを見た祖父が。

「着物なら、ウチに山ほどあるぞ。婆さんの外出着は着物だからな。ウチの婆さんは着道楽だから、皆悪くない品ばかりだ。着物だったらレンタルする必要ないからな。」

と言ったみたいで、僕は今朝早くから車を出して、祖母を迎えに行く羽目になりました。

祖父は祖父で、新郎ゴリラと打ち合わせがあるからと、古女房を置いてさっさと出て行ってしまったとか。

新郎ゴリラの家は、祖父母の家から行くと我が家が通り道なんだから一緒に来れば良いのに。

と思ったら、大量の着物と大量の段ボールが祖母と一緒に待ってまして。

レクサスにギリギリ詰めました。

瑞穂くんを留守番させといて良かった。
彼女を助手席に乗せていたら、1回じゃ間に合わなかった。

まぁ瑞穂くんは、日課の稽古と家事を優先してくれたんですけどね。

「だってバァバがクルノニ、ウチん中キタナインダよ。」
「そうなの?」
「ダメ嫁ってイワレタクナイです。」
「そうですか。」

廊下だの居間だの僕のベッドだの、ところ構わず昼寝しては、帰宅した僕に寂しがり屋のピーちゃんが玄関まで報告に来るくらい、働き者の駄目嫁ですか。

男の僕から見ると、ピーちゃんの羽根や餌が床に溢れているくらいで綺麗にしてると思うけど、なぁ。
そこは普段残念な面をいっぱい見せつけられているけど、女子なりの「けじめ」があるみたい。

僕が家を出る時には、彼女は庭に面した廊下を雑巾掛けしていた。
モップがあるのに。
和室では、3台のロボット掃除機がウロチョロしている。

「じゃあ、行ってくるね。」
「バァバにヨロシク!」
「いや、婆ちゃんはウチに来るんだよ。」

………

で、僕が祖母を迎えに行っている間、たまたまやって来て、着付と聞いたお隣のイキオクレさんが。

「着付けのお手伝いなら、私も出来るよ。」

って参加して来た訳です。

あと、阿部さんと田中さんが日曜の午前中から何故居るのかというと。
僕が小麦粉からバゲットを作ったと瑞穂くんから聞いて、食べに(一応、料理を習いに)来た訳ですよ。
パンは自分で焼ける田中さんは立ち会わないで、料理が下手くそな阿部さんだけ。
自動にパンが焼けるポップアップ式オーブントースターで、何故か真っ黒焦げなトーストを作る名人だとかで、田中さんから台所出入り禁止を食らっている女子なんだとか。

まぁ休みの日に、彼女達が稽古がてら僕の家でダラダラしている姿もすっかり日常になってますけど。


「それって、羽織袴ですか?明日見れますか?」
「新郎新婦の親族でもない僕が、羽織袴でどうすんの。普通に入学式用に買ったスーツで出席しますよ。」
「あ、そうそう。師匠って女性用着物は着付けられますか。」
「一応。祖父に叩き込まれましたから。」
「そっか。だったら私達の卒業式の着付けはお願い出来ますね。」

おい。

「きぃみぃたぁちぃは、おぉんんなぁのぉこぉ。」

両手を筒にして反論します。
男の僕に着付させようとか、何考えてんねん。
大体、卒業式で着る着物なんか袴なんだから、道着と大差ないぞ。

「ピーチャン」
だよな、ピーちゃん。
君は唯一の味方だ。

「大体、僕らの卒業式っていつよ?まだ1年生の6月だよ。」
「いやさ。水野さんを見てると、やっぱり白無垢とかウェディングドレスって憧れなんですよ。だから和服って1回着てみたいなぁって。」

どうも聞いた話だと、水野さんはどちらも着ないらしいけど。
お色直しは、違う和服を着るんだって。
…白無垢を着ないでいいの?



というわけで、僕の家は知り合いの女性に占拠されました。
一応、法的には僕の家の筈です。
謄本とか確認してないし、固定資産税がどうなっているのか知らないけど。
そもそも、まだ18歳の僕が不動産を贈与して貰って所得出来るんだか知りません。
あ、これって贈与税の課税対象になるんじゃない?
僕って、消費税以外に課税対象者になるの?
アルバイトひとつしてない(する時間も必要もない)けど。

「じゅり?」

僕が考え込んでいたら、ピーちゃんが心配そうに寄ってきた。

「大丈夫だよ。ピーちゃん。」
「ピーチャン?」
「なんか師匠の気持ちを1番わかっているの、そのオカメインコみたいですね。」
「ピーチャン?」
「多分、それ正解。」
「師匠の周りをウロウロしている女の1人としては、なんか悔しいです!」
「いや、そんな般若みたいな顔して言われても。」
「あれ?通じなかった?」
「わかるけど。女の子がやるギャグじゃ無いと思う。」
「引いた?」
「若干。」

というか、インターハイコンビの真面目な方って田中さんの評価を、変えないといけないのかな。
…ツッコミだと思ってたら、2人ともボケだったと。

★  ★  ★

「出来ました。」
「着れました。」

台所からは、レタスとローストビーフを別添えに、長い長いバゲットをアルミ箔で包んで運んできたよあ。
僕的にはバゲットじゃなくてフランスパン。もしくは川越で売ってる麩菓子。
瑞穂くんは、何やらスープカップをお盆に乗せている。

和室からは、赤を基調にした扇と菊花模様の着物を着た花嫁さん。
いつものシンプルな紬の祖母。
同じくシンプルな鮫模様小紋のお隣さん。
和室に足袋がなんか引き立って良いね。

あ、瑞穂くんと田中さんが、口を開きっぱなしにしてる。

「どうかしら。」

僕の前で水野さんがくるっと回ったけど、これどう褒めりゃいいんだ?
いや、元々お美人さんだし、普段はざっくりしたパンツとカットソーが多い飾らない人なので、単純に、あぁ、化けたなぁ?
見違えた?
いや、全部失礼に当たるよね。

かと言って、明日人妻(ゴリラ妻)になる人をやたら褒めたら、ゴリラにヤキモチ妬かれそうだし。

「そして、私はどうでしょう。」

お隣さんは、ジャージでいる事が多い残念さんなので、普通に「誰だお前」って感じ。

「あぁ…。」

あ、瑞穂くんが睨んでる。

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