相馬さんは今日も竹刀を振る 

compo

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外堀が埋められつつある件

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「相馬瑞穂さんは、相馬さんのご婚約者さんだそうですね。」

あぁもう。
こんな面倒くさい人にまで伝わってるよ。
何が面倒くさいかって、この人は僕が知る限り「四角四面の超理系生真面目」人間。
この歳で警視正に居る事でわかる様に、この人はキャリアだ。
東京大学法学部卒。剣道5段、柔道4段。
どうやったら、こんな男が出来上がるんだよ。
僕の人生で出会った優秀な友達の、優秀な部分だけ集めて濃縮したキメラを作っても、まったく勝てそうにない。

それでいてメガネでも掛けて怜悧な顔立ちをしてるかと思いきや、少し垂れ目で優しい面立ちしてるから若い頃はさぞモテただろうに。

僕は年度ごとに女を変えていたと石川は言うけれど、要はお試し彼氏だったんだろ?
クラス変わったら、クーリングオフされてたんだろ?


「婚約者と言いましても、僕以外の親族が勝手に言ってるだけです。僕はただ状況に流されてポカンとしてるだけです。」

「おや、身ひとつで来た婚約者さんを見捨てちゃいますか?」

「僕はつい3月までは実家から大学に通うつもりだった18歳ですよ?それなのに、知らないうちに何やら不動産とお嫁さんを押し付けられましたけど。その瑞穂くんに至っては僕の家に来た時は15歳。スペインの学制は知りませんけど、日本なら中学3年生です。」
「おやおや、ペドフィリアですか?逮捕案件ですか?」
「………僕の家に来たその日に、食べるものがないからコンビニ行ったら瑞穂くんは生理用品を買ってましたから。それには当てはまりませんね。」


僕はクソ真面目に何を言っているんだよ。


「本当に彼女は身ひとつで来ましたから。おまけに飛行機の都合と待ち合わせの予定がずれて、本来なら祖父が成田に迎える予定が、彼女1人で成田から来たんですよ。住所の書いた紙1枚で。そんな歳下の女の子を無碍な扱い出来ませんよ。」
「うふふ。優しい方ですね、貴方は。」

そうかな?当たり前の事だと思うけど。


「実は私達夫婦が結婚した時も、仲人は警視監にお願いしたんですよ。」
「それは何と無謀な事をなさったんですか?」
「ええ、その仕返しで警視監のお孫さんの仲人になろうと企んでいるんです。」

つまりはコレも、祖父のせいか。

「貴方の仲人を狙っている人は多いですよ。」
「僕はただの学生で、そんなに大人に知り合いはいない筈ですが…。」

授業を取っている大学の教授や助教に顔馴染みはいるけど、まだゼミも始まっていない1年時じゃ先生達はまだ他人だし。

「1番の候補に後藤警部補がいるじゃないですか。警部補ももうすぐ来る式で警視監を仲人にしてますよ。私としては、現役上司の私じゃない事に少々向っ腹が立ちますが、敵が警視監じゃ勝てません。」
「そんなに気にしなくとも…。」

 
「貴方の大学の学長も狙ってますよ。」

「入学式で挨拶している姿を見た以外、あった事もないんですが。」

「大学期待の剣士、阿部さん田中さんの師匠という事もありますし、貴方の意向はともかく、貴方の周りが貴方を勝手に押し立ててますから。警察との縁を太くしたいのが大学側の意向でしょう。」

あぁ、彼女達の処遇は大学も警察も様子見してんだっけ。
あれも僕が巻き込まれているでいいんだよな。

あと、毎日大学に通っているけど、そんな空気無いけどなぁ。 
やだよ、変に注目されて面倒な事になったら。
 
「あと、試験が近づくにつれて、変なレジュメが増えてませんか?」
「…増えてます。過去問とか、何だかマーカーが引かれたノートだったり。」
「大学側も、貴方達には留年して欲しくないみたいですよ。」

そういう事かよ。
どうりで面識すらない剣道部の先輩が、なんでコピーをくれるのか不思議に思ってたんだ。
阿部さん田中さんの入学入試の件といい、ウチの大学は大丈夫なの?


「それで、貴方は警察に来てくれますか?」

わぁ、直に言われたのは初めてかな?

「一応、進路希望は公務員です。けどどこで何やるかとか何にも決めてません。とりあえずは教員免許を取ろうと思っていますけど。」
「是非来て頂きたいですねぇ。警視監ほどではないですが、一応私にもそれなりに権力はありますよ。」
 
うわぁ。
大人が悪い顔してる。

「ただ問題がひとつ。」
「なんですか?」 
「後藤さんと正式な序列を作ったら、後藤さんの正式な部下になったら、僕、余裕で死ぬる自信があります。」

祖父の孫って事で、大目に見てもらっている事、たくさんありそうだし。

「あっはっはっはっ。彼は貴方を買ってますよ。彼が貴方がたの話をする時は嬉しそうな顔してます。彼女達が引越しをした時に、保証人になってくれたそうですよ。」
「後藤さんが真面目で有能で優しい人なのは知ってます。」

ついでに容赦ない事も。
あのゴリラを調教してる水野さんて、どれだけ有能な調教師なんだろ。

★  ★  ★

「ヒカリ!」
「こんにちは、あの、私までご馳走になって本当に宜しいんですか?」  
「いえね。コイツがいつまでもガレージを作らなかったものですから。我々がコイツの家に行くのに駐車場をいつも借りてましたから。いつか御礼をしなくちゃって思ってました。ちょうど嫁と一緒だと言うものですから、ご招待しちゃいました。」

出た。
外面ゴリラ。
あと、瑞穂くんを嫁で片付けるな。
…僕の考えを読んで蹴るな。

………

「よう相馬、俺と一丁やらんか。」
「お前、大学に合格したんだろ。早く道場に戻ってこいよ。」
「お前が卒業するまで4年かぁ、俺たち勝ち続けていけるかな。」
「やらないか?」
「退け退け!俺はコイツらに飯奢る名目で連れて来てんだよ!」

都築さんの稽古が終わったので帰ろうとしたら、警官の山に囲まれた。
弓岡さんは、巻き込まれる前にさっさと逃げ出していた。
何やら封筒を僕に押し付けて。

変なのが1人混じっていたけど、後藤ゴリラが竹刀を振り回して追っ払ってくれた。 
さすがにこのゴリラと正面切って争う警官はいないみたい、と思ったけどゴリラごと揉みくちゃにされました。
役立たず!

ゴリラ達にゴリラ塗れにされている間に、婦警と女子大生はシャワーを浴びて着替え終わってました。
見た事のある後藤さん私用のミニバンの前で、やっと逃げ出した僕らを待ってました。

どうやらお昼ごはんには、都築さんも来るみたいです。
あれ。もう1人、婦警さんが居たような。

そうして、ミニバンにぱんぱんに乗ってついたステーキハウスには、何故か瑞穂くんとお隣のお姉さんが待ってました。

警察官が2人。
大学生が3人。
家事手伝い(無職)が2人。
なんだろ、この組み合わせは。

「お前達は好きなメニューを頼みなさい。サイドメニューもデザートも構わない。」
「はい。頂きます。」

ええと、女子5人が同じテーブルでメニューを見ながらガヤガヤやってるのに、座りきれずに別テーブルな男2人のコッチじゃ、ゴリラがメニューを見せてくれません。何故だ?

「やっと食えるぜ。漫画肉ステーキセット2つ。」
「漫画肉?」
「おう。相馬お前、ギャートルズって知ってるか?」

はて?
首を傾げる僕に失望した後藤さんは

「知らないか…。」
と一言。
「なんですか?」
「くりゃわかる。」

そう言ってテーブルに備え付いているタブレットで勝手に注文しました。
あの、僕の意思は?

「そんなもん無え。」
「でしょうね。」

弓岡警視正様。
まかり間違えて僕が警察にお世話になる時は総務部でお願いします。
間違えても現場に出る刑事課とか交通課とかはご遠慮します。
(交番勤務とかを丸っ切り考えてない)

あ、弓岡警視正と言えば、さっき預かった封筒。
あれ、なんだろう。
ええと。

「スペイン遠征に関する随行員の選考について」

へ?
ああああ、今の外務大臣となんか警視総監って書いてある署名がある。
しかも外務大臣のは花押付き?
あとこのサインってなに?

Embajada del Japón en España

???
あの警視正野郎。
僕に何をさせる気だよう。
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