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たまには真面目に
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今朝は朝から雨。
時々、雷まで鳴る本格的な雨。
今日は3コマ講義を入れていたのだけど、大学最寄りのJRが落雷による施設トラブルで始発から運休しているのをいいことに教授達が多分寝起きして直ぐに休みと決めたみたい。
HPやら、SNSやらで休講の通知が来ていた。
因みに運休しているのは快速だけで、各停電車や並走する私鉄は平常運転しているので、本来なら休講の理由にはならない。
研究者として教育者として、それなりに名の知れた我が大学の教授連がそれで良いのかと思いながら(定期的に学会で表彰される人達なので見逃されているのかも。某・女子剣道部の顧問助教とはエライ違いだ)、かと言って自習するほど真面目な僕ではないので、いきなり出来た休みに浮かれると言うものだ。
とは言っても、毎日毎朝のルーティンは決まっているので、朝も早よから道場の掃除をして、神棚も昨日買って水に浸しておいた榊と御神酒を取り換えて。
まぁ、その程度の事でも、何か気分がさっぱりする。
別に信心深い訳でもないけど、そこら辺は僕も日本人だって事で。
僕が寝室を離れた時は、ピーちゃんも寝たまま(起きていれば、布の向こうの鳥籠の中から鳴いて挨拶をしてくれる)、瑞穂くんもくーくー寝息を立てたまま、パジャマが捲れて可愛い臍が丸出しになっているのだけど、困った事に全然色っぽくない。
曲がりなりにも僕は婚約者らしいので、欲情の1つもした方が良いのだろうか?
傘を差して玄関を出ると、犬小屋で大の字になっている穴熊くんが見える。
さすがにこの雨の中、足音を察知して水面ジャンプをしてくるガーもいない。
外はとっくに明るくなっているのに、夜行性昼行性問わずウチの家族達は寝っぱなしだけど、それもいつもの事。
さて、たまには僕も素振りの1つもしますか。
………
軽く300本ほど素振りをこなして、ほんの少しかいた汗を素手で拭うと、神棚の前に正座した。
人によっては神棚の必要性を感じない人もいるけど、僕はやっぱり稽古の前後、試合の前後に、神前に礼をしたいのだ。
何故かと問われても、僕が習った警察道場のしきたりがそうだったから、としか言いようがない。
瑞穂くんや、インターハイコンビがいない時は、実はこのまま正座して瞑想に入る。
これもそのまま祖父の真似。
以前に野狐禅の話が出た事があるけど、僕は人間の精神が身体にもたらす影響と言うものを結構信じているのだ。
それは物理学や脳医学上あり得ない事なのかも知れないけど。
でなければ、僕や祖父の間では「普通」な事を、阿部さんや田中さんがこちらを化け物でも見る様な顔をしながら不思議がったりしないだろう。
剣道の基礎・基本を習って来なかった僕からすれば、僕や祖父が出来る事が全てだし、それが出来ない方が不思議なのだ。
一応、師匠呼ばわりされている(弟子に取った覚えはないんだけど)身なので、瑞穂くんを含めて、彼女達に何かヒントになる事でも教えられれば良いのだけど。
何しろ、僕は何にもわからないし、祖父は何にも教えてくれない。
祖父は基本的に、自分で悩んで自分で解決しろ、ヒントくらいは教えてやるってスタンスの人なのだ。
でも残念ながら、瑞穂くんも阿部さんも田中さんも、祖父が求めるその域に達していない。
スペインチャンプの瑞穂くんや、インターハイ優勝・準優勝コンビは当然段持ちで、公式上では僕より格上の3人なのに、ね。
そんな3人に、実戦・実践以外で教えられる事ってなんだろう。
で、思いついたのが、「野狐禅」だった。
要は、自分自身が内省的になれば、何か思いつくんじゃないか?って言う事だ。
ひと汗かいた、掃除済みの神前で瞑想すれば、何か浮かぶんじゃないかなぁ。
………
「ヒャンヒャン」
うるさいなぁ。
あの声は穴熊くんか?
瑞穂くんに、ご飯でも貰ったのかな?
野生動物だし、建前上は飼っているわけじゃないから、ご飯を大っぴらにあげる事は控えているんだぞ。
警察関係者がウジャウジャ出入りしている家で、今更穴熊が1匹遊んでいるくらいでごちゃごちゃ言う人もいないけどさ。
「ヒカリ!」
あれま。
1番賑やかなのが来た。
「ご飯ダヨ。朝ご飯。」
「はいよ。」
結局今朝も、何も思い付かなかった。
瑞穂くんも瑞穂くんで、この間はあれだけ何やら考えていたのに、数日経ったら元通りに戻っている。
なんだかなぁ。
女の子って、さっぱりわからないや。
………
今日の朝ご飯は、塩鮭の網焼きに人参とガンモドキの煮物。
蕪の味噌汁に卵かけご飯。
おおよそ15歳だか16歳だかの少女が作る朝ご飯じゃないけど、何せ本人が和食が好きで作っているんだから仕方がない。
「いただきます。」
「オソマツサマ」
一応、トースターとかオーブンとはか、自宅で使っていた物や、祖父が買っておいてくれた物などがあり、洋食を作る事にも全く問題はないのだけど。
大学が始まって以降は、忙しい僕に変わって、朝は「花嫁修行中」と自ら瑞穂くんが手を挙げてくれているのだ。
(僕の方が、起きるの早いけど)
因みに瑞穂くんは、お隣さんと一緒に、お隣さんの自動車で買出しに出ているのだけど、生鮮食料品をまとめてたっぷりと買ってくるので、我が家の冷凍庫はいつもパッツンパツンだ。
これに更に、お隣さんが檀家さんから頂く旬の野菜を箱単位で持って来るので、使っていない一部屋は、玉葱やじゃがいもなどが山積みになっている。
これでネズミでも出たらどうしよう。
外に穴熊くん、中にピーちゃんがいるから、猫は飼えないなぁ。
今日は休みなので、皿洗いは僕の仕事にした。
そこは共同生活なので、気がついた方が自分から動く。
家主の僕であろうと、居候の瑞穂くんであろうと、そこは遠慮しない事にしている。
なので、ご飯を作ってくれた瑞穂くんが、優先して食休みを取る権利が生じる。
自分で淹れた冷たい緑茶を飲んで、フヒィとか言っているわけだ。
ピーちゃんの首をコリコリ掻きながら。
「ねぇ、ヒカリ。」
「何?」
「オジイのイウコト、ずっとカンガエテルノ。」
「あぁ、あれかぁ。瑞穂くんは自分で言ってたろ。僕らとは違うルートで行くって。」
「デモネ。ヒカリにメチャクチャにされた後、ワカッタコトがアッタンダヨ」
瑞穂くん。
あまりその言葉を外で使わない様に。
特に、お隣さんとか阿部さんとか阿部さんとか阿部さんの前では。
「スゴイ身体がカルクナッタ。…ううん。ビックリするほど、ウゴキダシがスムーズにナッタノ…デモ、再現デキナイノ…。」
あぁそうかもね。
あれは強制的にゾーンに入った(入れた)ものだから。
通常は、単純作業の繰り返しで思考を麻痺させて無心になったり、逆に名人・達人が好調時に己れの集中力を全開にさせて入る(入れる事がある)感覚だ。
僕と祖父は、それを他動的に他人に施す事が出来る。
つまりは、物が考えられなくなるくらい、一方的に攻め続ける事で、腕に自信のある人ほど、何が何だかわからなくなる。
エスっ気たっぷりに虐め倒して、自ら築いて来た自信を粉々にする。
結果、新しい境地に達する(事が出来る)人もいるって事だ。
勿論、それで本当に潰れてしまう人もいるので、そこら辺は見極めが必要になるけど、僕は祖父の見立てを全面的に信頼しているので。
「アレはヒカリなら、いつでもデキルってコトカナ。」
「瑞穂くん相手なら、ある程度は。」
「アルテイド?」
「あの後、しばらく瑞穂くんはおかしかったからね。誰でも良いって訳じゃ無いんだ。」
「ソンナコト、なんでヒカリにオジイはサセタノ?」
「考えさせるためだよ。それが祖父のやり方だ。」
時々、雷まで鳴る本格的な雨。
今日は3コマ講義を入れていたのだけど、大学最寄りのJRが落雷による施設トラブルで始発から運休しているのをいいことに教授達が多分寝起きして直ぐに休みと決めたみたい。
HPやら、SNSやらで休講の通知が来ていた。
因みに運休しているのは快速だけで、各停電車や並走する私鉄は平常運転しているので、本来なら休講の理由にはならない。
研究者として教育者として、それなりに名の知れた我が大学の教授連がそれで良いのかと思いながら(定期的に学会で表彰される人達なので見逃されているのかも。某・女子剣道部の顧問助教とはエライ違いだ)、かと言って自習するほど真面目な僕ではないので、いきなり出来た休みに浮かれると言うものだ。
とは言っても、毎日毎朝のルーティンは決まっているので、朝も早よから道場の掃除をして、神棚も昨日買って水に浸しておいた榊と御神酒を取り換えて。
まぁ、その程度の事でも、何か気分がさっぱりする。
別に信心深い訳でもないけど、そこら辺は僕も日本人だって事で。
僕が寝室を離れた時は、ピーちゃんも寝たまま(起きていれば、布の向こうの鳥籠の中から鳴いて挨拶をしてくれる)、瑞穂くんもくーくー寝息を立てたまま、パジャマが捲れて可愛い臍が丸出しになっているのだけど、困った事に全然色っぽくない。
曲がりなりにも僕は婚約者らしいので、欲情の1つもした方が良いのだろうか?
傘を差して玄関を出ると、犬小屋で大の字になっている穴熊くんが見える。
さすがにこの雨の中、足音を察知して水面ジャンプをしてくるガーもいない。
外はとっくに明るくなっているのに、夜行性昼行性問わずウチの家族達は寝っぱなしだけど、それもいつもの事。
さて、たまには僕も素振りの1つもしますか。
………
軽く300本ほど素振りをこなして、ほんの少しかいた汗を素手で拭うと、神棚の前に正座した。
人によっては神棚の必要性を感じない人もいるけど、僕はやっぱり稽古の前後、試合の前後に、神前に礼をしたいのだ。
何故かと問われても、僕が習った警察道場のしきたりがそうだったから、としか言いようがない。
瑞穂くんや、インターハイコンビがいない時は、実はこのまま正座して瞑想に入る。
これもそのまま祖父の真似。
以前に野狐禅の話が出た事があるけど、僕は人間の精神が身体にもたらす影響と言うものを結構信じているのだ。
それは物理学や脳医学上あり得ない事なのかも知れないけど。
でなければ、僕や祖父の間では「普通」な事を、阿部さんや田中さんがこちらを化け物でも見る様な顔をしながら不思議がったりしないだろう。
剣道の基礎・基本を習って来なかった僕からすれば、僕や祖父が出来る事が全てだし、それが出来ない方が不思議なのだ。
一応、師匠呼ばわりされている(弟子に取った覚えはないんだけど)身なので、瑞穂くんを含めて、彼女達に何かヒントになる事でも教えられれば良いのだけど。
何しろ、僕は何にもわからないし、祖父は何にも教えてくれない。
祖父は基本的に、自分で悩んで自分で解決しろ、ヒントくらいは教えてやるってスタンスの人なのだ。
でも残念ながら、瑞穂くんも阿部さんも田中さんも、祖父が求めるその域に達していない。
スペインチャンプの瑞穂くんや、インターハイ優勝・準優勝コンビは当然段持ちで、公式上では僕より格上の3人なのに、ね。
そんな3人に、実戦・実践以外で教えられる事ってなんだろう。
で、思いついたのが、「野狐禅」だった。
要は、自分自身が内省的になれば、何か思いつくんじゃないか?って言う事だ。
ひと汗かいた、掃除済みの神前で瞑想すれば、何か浮かぶんじゃないかなぁ。
………
「ヒャンヒャン」
うるさいなぁ。
あの声は穴熊くんか?
瑞穂くんに、ご飯でも貰ったのかな?
野生動物だし、建前上は飼っているわけじゃないから、ご飯を大っぴらにあげる事は控えているんだぞ。
警察関係者がウジャウジャ出入りしている家で、今更穴熊が1匹遊んでいるくらいでごちゃごちゃ言う人もいないけどさ。
「ヒカリ!」
あれま。
1番賑やかなのが来た。
「ご飯ダヨ。朝ご飯。」
「はいよ。」
結局今朝も、何も思い付かなかった。
瑞穂くんも瑞穂くんで、この間はあれだけ何やら考えていたのに、数日経ったら元通りに戻っている。
なんだかなぁ。
女の子って、さっぱりわからないや。
………
今日の朝ご飯は、塩鮭の網焼きに人参とガンモドキの煮物。
蕪の味噌汁に卵かけご飯。
おおよそ15歳だか16歳だかの少女が作る朝ご飯じゃないけど、何せ本人が和食が好きで作っているんだから仕方がない。
「いただきます。」
「オソマツサマ」
一応、トースターとかオーブンとはか、自宅で使っていた物や、祖父が買っておいてくれた物などがあり、洋食を作る事にも全く問題はないのだけど。
大学が始まって以降は、忙しい僕に変わって、朝は「花嫁修行中」と自ら瑞穂くんが手を挙げてくれているのだ。
(僕の方が、起きるの早いけど)
因みに瑞穂くんは、お隣さんと一緒に、お隣さんの自動車で買出しに出ているのだけど、生鮮食料品をまとめてたっぷりと買ってくるので、我が家の冷凍庫はいつもパッツンパツンだ。
これに更に、お隣さんが檀家さんから頂く旬の野菜を箱単位で持って来るので、使っていない一部屋は、玉葱やじゃがいもなどが山積みになっている。
これでネズミでも出たらどうしよう。
外に穴熊くん、中にピーちゃんがいるから、猫は飼えないなぁ。
今日は休みなので、皿洗いは僕の仕事にした。
そこは共同生活なので、気がついた方が自分から動く。
家主の僕であろうと、居候の瑞穂くんであろうと、そこは遠慮しない事にしている。
なので、ご飯を作ってくれた瑞穂くんが、優先して食休みを取る権利が生じる。
自分で淹れた冷たい緑茶を飲んで、フヒィとか言っているわけだ。
ピーちゃんの首をコリコリ掻きながら。
「ねぇ、ヒカリ。」
「何?」
「オジイのイウコト、ずっとカンガエテルノ。」
「あぁ、あれかぁ。瑞穂くんは自分で言ってたろ。僕らとは違うルートで行くって。」
「デモネ。ヒカリにメチャクチャにされた後、ワカッタコトがアッタンダヨ」
瑞穂くん。
あまりその言葉を外で使わない様に。
特に、お隣さんとか阿部さんとか阿部さんとか阿部さんの前では。
「スゴイ身体がカルクナッタ。…ううん。ビックリするほど、ウゴキダシがスムーズにナッタノ…デモ、再現デキナイノ…。」
あぁそうかもね。
あれは強制的にゾーンに入った(入れた)ものだから。
通常は、単純作業の繰り返しで思考を麻痺させて無心になったり、逆に名人・達人が好調時に己れの集中力を全開にさせて入る(入れる事がある)感覚だ。
僕と祖父は、それを他動的に他人に施す事が出来る。
つまりは、物が考えられなくなるくらい、一方的に攻め続ける事で、腕に自信のある人ほど、何が何だかわからなくなる。
エスっ気たっぷりに虐め倒して、自ら築いて来た自信を粉々にする。
結果、新しい境地に達する(事が出来る)人もいるって事だ。
勿論、それで本当に潰れてしまう人もいるので、そこら辺は見極めが必要になるけど、僕は祖父の見立てを全面的に信頼しているので。
「アレはヒカリなら、いつでもデキルってコトカナ。」
「瑞穂くん相手なら、ある程度は。」
「アルテイド?」
「あの後、しばらく瑞穂くんはおかしかったからね。誰でも良いって訳じゃ無いんだ。」
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