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日西戦争その2

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「待って爺ちゃん。何処行くの?」

鳥籠を抱えてオカメインコので雛鳥をニコニコ笑いながら眺めている瑞穂くんと違って、一応神棚だからトランクに放り込んでおくのは違うだろうと、神棚セットを隣に置いている僕が思わず声を出してしまったのは。

東関東自動車道を成田方面に乗り出したから。
確かに今日は特に用事もなかったし、神棚購入を思いついたのもさっきだし、お昼(お隣さんの乱入)も11時過ぎだったから、まだ午後も浅い時間ですよ。
けど、何処行くの?
洗濯物だって干しっぱなしだよ。
(阿部さんと田中さんの下着も干してある事は内緒という事で)

「鏡だ、鏡。」
「鏡?」
「カガミ?」

鏡なんか、何の用があるの?

「神棚の''ガワ''だけ用意してどうすんだ。魂を入れんと意味ないだろう。」
「はぁ、確かにそれもぼんやりと考えてましたが。でもウチには仏壇も神棚もありませんからねぇ。後で検索でもしようかと思ってました。」
「どうせならきちんとやったほうがいいだろ。お前の父親もお前も長男なんだから、ウチにある仏壇はいずれお前の家に置かれる。ついでだから、面倒くさい宗教事、全部体験しておけ。」
「…スペインから帰国して、家にも帰らず何やってんの?」 
「婆さんがうるせえんだよ。あいつは物事の道理を大切にする奴だからな。大丈夫。さっき電話しておいた。ついでだから、お前ら晩飯食いに来い。瑞穂に婆さんが会いたがってる。」
「バァバにアエルノ?ナライク!」

瑞穂くん。
オカメインコを抱えている事を、忘れないようにね。
あと、洗濯物が………。

★  ★  ★

って。

「爺ちゃん?鹿島神宮って書いてあるよ?」

ついた場所は、街中に突如現れた朱塗りの大きな鳥居と、鬱蒼とした巨木の森。
日本三大神宮(って言い方はしないか)の1つ。
鹿島神宮です。

「神様を入れるんだから、武神の神社に頼んだ方が良かろう。」
「良かろうって…。」
なにそれ。

しかし凄いね。
鳥居の外は、普通の商店街として雑踏の世界だったのに、鳥居を潜った瞬間、別世界だよ。
石畳の先に朱塗りの山門が見えるけど、両側は深い森になっていて、直ぐに街の喧騒が聞こえなくなる。
何かを感じたのだろうか?
瑞穂くんがしがみついて来た。
普段口では際どい事を言う彼女だけど、こう言う形での肉体的接触は初めてかも。
ちょっとドキドキしたけど、頼ってくれているものと判断して、手を握ってあげた。 
このくらいなら失礼に当たらないだろう。
セクハラと言われるかもしれないけど、そう言う意味では普段僕の方がセクハラを喰らっているわけだし。

むしろ隣でニヤニヤしている糞爺の顔がセクハラだ。

………

「お待ち致しておりました、警視監。」

山門の直ぐ内側に、紫色の袴と白衣を羽織った年配の神宮さんがお待ち申し上げていました。
ウチの父よりは若いかな。
って?

「警視監?」
「おう、コイツは元・茨城県警の剣道部だよ。俺の弟子だ。」
「それが何故、鹿島神宮の神主に?」
「あははは、私はそんなに偉くはありませんよ。昨年やっと、浅葱を卒業出来ました。」
「はぁ。」

「浅葱色って言っても、コイツらにはわからないよ。あれだ!新撰組の色だ。」
「司馬遼太郎の燃えよ剣は読みましたが、何色かと言われても印象にないですよ。」
僕は映画とかドラマとか、殆ど見ないし。
「ほれ、あの色だ。」

山門の内側は、山門の外とは別世界と化していて、沢山の神職や巫女さんが盛んに動き回っている。
その中に1人、竹箒で落ち葉を履いている人がいて、その人の袴は水色だ。

「武道着の帯みたいなもんだよ。階級によって袴の色が変わる。コイツは警察を辞めて中途入社みたいなもんだからスタートは遅かったが、國學院を首席で卒業したエリートだ。父親が鹿島神宮の神官をやってたが、定年退職するんで跡を継いだ。」

神社に定年なんかあるんだ。
なんか凄いお爺さんがお祓いしているイメージが……あれ?無いな。
あぁ、それはお坊さんの方か。
そっか。割とびっくりだ。

「早速本殿の方まで御足労願います。宮司がお待ちです。」
「おう。」
いや、爺ちゃん。おうって返事はないんじゃないかな。

というわけで、本殿に通された僕達は
何やらよくわからない祝詞を頂いて、紫色の帛紗に納められた「鏡」を渡された。
瑞穂くんは何やら長い箱を渡されているけど、天照皇大神と鹿島神宮(武甕槌)の掛け軸だそうだ。
これを道場に飾れと?

「鹿島神宮は、塚原卜伝で有名ですが古武術で有名なところです。宮内にも剣道場があります。貴方は現代警察最強と言われた警視監よりお強いそうですね。いずれ是非、お手合わせをお願いします。」
「と言われましても。」

僕は大学をはじめ日々の生活が忙しいし、わざわざ鹿島まで来る暇は取れそうにないなぁ。 
誰だよ。
大学は暇があるとか、社会へ行く前のモラトリアムだとか言った奴は。
高校時代より、よっぽど忙しいぞ。

「コイツは不精者だから、わざわざこんなとこまで来んよ。俺に連絡してくれればコイツんちまで連れて行ってやるよ。コイツんちには、小さいながらも道場が開いているから、今日こうやって鏡と掛け軸を貰いに来たんだからよ。」
「わかりました。いずれ。鹿島神流の人間も連れて行きましょう。」
「おう!待ってるぜ。」

あの。僕の意志は?

「そんなもんは知らん。」

ひでぇ。
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