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帰って来た爺ちゃん
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「師匠と瑞穂さんって、どんな関係なんですか?」
「イイナズケだよ。」
「名字同じだよね。偶然なの?」
「オナジ一族ダヨ。でも、血ハ、ハナレテルから、ダイジョーブ。結婚デキルシ子供モツクレル」
どうも少し話すうちに、「剣道について、僕に質問してもレベルが違いすぎて無駄」と判断したらしく、女子大生2人はプライベートな事を聞き始めちゃったので、僕はそっと逃げる事にした。
立候補してくれた洗い物を終えて、残りの天ぷらをタッパーに入れ終えたお隣さんが帰って行く合図を見せているし。
「天ぷらはしばらくはサクサクのままですし、天汁で煮れば夜のおかずになりますよ。」
「お母さんが楽しみに待っているから、すぐ頂くわ。」
「それじゃ、温め直す時は、オーブントースターか、魚焼きグリルで温め直してください。サクサク感が維持されますから。」
「うん、わかった。ありがとうね、…。」
「なんですか?」
「光さんてさ、スキルがお母さんよね。」
「えあ?」
「これじゃお母さんにならなきゃならない瑞穂ちゃんも大変だ。」
知らんがな。
あと、どうやら和尚さんは留守らしい。
なるほど。
おばさんは娘が隣で作っている料理でお昼にするつもりだったか。
……お隣と我が家の関係って、なんなの?
「瑞穂ちゃん、一緒に暮らしていて光くんに襲われたりしないの?」
「トナリのヘヤで、フスマアケッバナシにしてるノニ、マッタクキヤシナイノ。」
待ちなさい。貴女たち。
あと何故、水野さんまで加わってるの?
………
女子には年齢差なんてものは関係ないみたい。
15歳と18歳と18歳と2ウン歳がきゃあきゃあ賑やかになったので、僕は1人で庭に出た。
蜜柑でお腹いっぱいになった穴熊くんは、小屋の中で毛布に塗れながら腹這いになって寝ている。
僕が近づいても起きやしない。
それどころか、軽いイビキまで聞こえるぞ。
君の野生はどこ行った?
実家の馬鹿犬でも、近寄ったらすぐ起きたぞ。
池に手を入れてみる。
だいぶ温んで来たな。
そろそろ錦鯉とガーの稚魚をコッチに移そうかな。
ガーなんか、僕が水槽に指を入れると、身体を擦り付けて来て可愛いんだ。
「ソンナニスグ懐くサカナはイナイ」
瑞穂くんには呆れられたけど、そこの穴熊くんに懐かれている貴女には言われたくないです。
ガーデンベンチに腰掛けて、大きく伸びをする。ぐでぇん。
おやおや、お隣さんがご帰宅したら、新しいお客さんだよ。
まぁほっといて良いか。
「ふむ。白砂利をそろそろ買って来て敷こうかなぁ。神棚を買いに行くついでに買い足しとくかなぁ。」
「ほう。ちょっと来んうちに随分と様変わりしたな。」
「穴熊がうちに引越して来ちゃったから。ウチの庭を穴ぼこだらけにされたら困るでしょ。」
穴熊くんは、日がな一日寝てばかりで、穴なんか掘りゃしないけど。
「お帰り、爺ちゃん。と後藤さん?」
「おう、ただいま。後藤には空港から送ってもらった。」
「また公私混同…。」
「あぁ相馬、今日は違う。麗香達が来ているだろう。空港業務の当務明けだから迎えに来ただけだ。」
「当務明けって、徹夜明けって事ではありませんか?車で来たの?」
危ないなぁ。
「安心しろ。一晩寝ないくらいでどうかなる様な鍛え方はしていない。じゃないと機動隊なんて仕事は務まらんよ。浅間山荘みたいな現場(げんじょう)に派遣されたら24時間立ちっぱなしって事も考えうるからな。鍛え方が違う。」
「寝ないで活動できる鍛え方って何ですか?化け物ですか?」
「化け物に化け物扱いされるとは、光栄だね。」
何この、半端なハードボイルドな遣り取り?
「後藤は捜査課志望だったんだがな。何しろガタイとツラが良過ぎた。タッパも180オーバーで剣道の腕はお前も知っての通り。大学時代には柔道で後のメダリストに勝ってる。そりゃ機動捜査隊に目をつけられるわなぁ。」
「やっぱり化け物じゃないですか。何で水野さんをお嫁さんに出来たんですか?」
「警視監助けてくれ。コイツは俺の弱点を的確についてくる。」
「そりゃ、俺の孫だからな。」
「あんたの仕業かい!」
おや、後藤さんと声が被った。
まぁ、僕がこんな事になった事も。
後藤さんが水野さん共々僕らに関わらざる羽目になった事も。
みんな祖父(と祖母)の仕業には違いない。
その点に於いては、僕は後藤さんと意見を同じに出来そうだ。
「じゃあな。俺はあの笑い声の連中を引き取って帰るから。」
「あれ?水野さん車でいらしてますよ。」
「大丈夫。昨日から警視監の車を借りてた。隣に止まっているのは警視監の車と麗香の車だ。」
つまり、今日最初からココに来る事は、あらかじめ決定済みかい!
というわけで、文字通り姦しい女子陣を化け物ゴリラが引き取って行った。
続きは県警道場で行うらしい。
ウチの後は、婦警さんのしごきですか。
あの2人、生きて帰れるかなぁ。
あ、因みに。
穴熊くんは、ずっとイビキをかきっぱなしでした。
だから君の野生はどこ行った?
★ ★ ★
「オジイ!」
「というわけで、1つドライブに行こう。」
「どういうわけですか?」
瑞穂くんが歓迎のハグをしている頭の上で、顔だけこちらを向けて祖父が僕に提案して来た。
何でドライブ?
「なんか買うもんあるんだろう。さっきぶつぶつ言ってたじゃないか。」
「言ってましたけどね。」
厄介そうな来客に気が付かないふりをしていただけなのに。
「道場に神棚が無いじゃないですか。だから試合前に''神前に礼!''の一手間が無くて、リズムが取れないなぁと思っていたんですよ。」
「何じゃそんな事かよ。そんなもん、近所の神社行ってお札買って来て、酒と榊と一緒に棚に飾っときゃ良い。」
「あの道場、棚が無いじゃないですか。」
「まぁ、使わなくなった町内の集会所を買って移築しただけだしなぁ。」
移築して来たんかい?
まぁ、道場には変な大きさだし、元農家にしては、こんな別棟の建物もなんだろうと思っていたけど。
「庭もだいぶいじっているようだしの。」
「僕と瑞穂くんの2人しか住んでいない建物ですよ。手が掛からない様にあらかじめ考えないとならないでしょ。」
今後、夏から秋にかけて、虫だの落ち葉だの大変な事になりそうだし。
「儂等を呼べ。婆さんも庭いじりが好きだからの。」
ウチの母も時々電車に乗ってやって来て、庭の隅に家庭菜園作ってますよ。
「まぁ、わざわざ家にも帰らずここに来たには話がある。今日はむしろ、後藤が儂に相乗りして来たんだ。」
話ですか。
嫌な予感しかしませんが。
「イイナズケだよ。」
「名字同じだよね。偶然なの?」
「オナジ一族ダヨ。でも、血ハ、ハナレテルから、ダイジョーブ。結婚デキルシ子供モツクレル」
どうも少し話すうちに、「剣道について、僕に質問してもレベルが違いすぎて無駄」と判断したらしく、女子大生2人はプライベートな事を聞き始めちゃったので、僕はそっと逃げる事にした。
立候補してくれた洗い物を終えて、残りの天ぷらをタッパーに入れ終えたお隣さんが帰って行く合図を見せているし。
「天ぷらはしばらくはサクサクのままですし、天汁で煮れば夜のおかずになりますよ。」
「お母さんが楽しみに待っているから、すぐ頂くわ。」
「それじゃ、温め直す時は、オーブントースターか、魚焼きグリルで温め直してください。サクサク感が維持されますから。」
「うん、わかった。ありがとうね、…。」
「なんですか?」
「光さんてさ、スキルがお母さんよね。」
「えあ?」
「これじゃお母さんにならなきゃならない瑞穂ちゃんも大変だ。」
知らんがな。
あと、どうやら和尚さんは留守らしい。
なるほど。
おばさんは娘が隣で作っている料理でお昼にするつもりだったか。
……お隣と我が家の関係って、なんなの?
「瑞穂ちゃん、一緒に暮らしていて光くんに襲われたりしないの?」
「トナリのヘヤで、フスマアケッバナシにしてるノニ、マッタクキヤシナイノ。」
待ちなさい。貴女たち。
あと何故、水野さんまで加わってるの?
………
女子には年齢差なんてものは関係ないみたい。
15歳と18歳と18歳と2ウン歳がきゃあきゃあ賑やかになったので、僕は1人で庭に出た。
蜜柑でお腹いっぱいになった穴熊くんは、小屋の中で毛布に塗れながら腹這いになって寝ている。
僕が近づいても起きやしない。
それどころか、軽いイビキまで聞こえるぞ。
君の野生はどこ行った?
実家の馬鹿犬でも、近寄ったらすぐ起きたぞ。
池に手を入れてみる。
だいぶ温んで来たな。
そろそろ錦鯉とガーの稚魚をコッチに移そうかな。
ガーなんか、僕が水槽に指を入れると、身体を擦り付けて来て可愛いんだ。
「ソンナニスグ懐くサカナはイナイ」
瑞穂くんには呆れられたけど、そこの穴熊くんに懐かれている貴女には言われたくないです。
ガーデンベンチに腰掛けて、大きく伸びをする。ぐでぇん。
おやおや、お隣さんがご帰宅したら、新しいお客さんだよ。
まぁほっといて良いか。
「ふむ。白砂利をそろそろ買って来て敷こうかなぁ。神棚を買いに行くついでに買い足しとくかなぁ。」
「ほう。ちょっと来んうちに随分と様変わりしたな。」
「穴熊がうちに引越して来ちゃったから。ウチの庭を穴ぼこだらけにされたら困るでしょ。」
穴熊くんは、日がな一日寝てばかりで、穴なんか掘りゃしないけど。
「お帰り、爺ちゃん。と後藤さん?」
「おう、ただいま。後藤には空港から送ってもらった。」
「また公私混同…。」
「あぁ相馬、今日は違う。麗香達が来ているだろう。空港業務の当務明けだから迎えに来ただけだ。」
「当務明けって、徹夜明けって事ではありませんか?車で来たの?」
危ないなぁ。
「安心しろ。一晩寝ないくらいでどうかなる様な鍛え方はしていない。じゃないと機動隊なんて仕事は務まらんよ。浅間山荘みたいな現場(げんじょう)に派遣されたら24時間立ちっぱなしって事も考えうるからな。鍛え方が違う。」
「寝ないで活動できる鍛え方って何ですか?化け物ですか?」
「化け物に化け物扱いされるとは、光栄だね。」
何この、半端なハードボイルドな遣り取り?
「後藤は捜査課志望だったんだがな。何しろガタイとツラが良過ぎた。タッパも180オーバーで剣道の腕はお前も知っての通り。大学時代には柔道で後のメダリストに勝ってる。そりゃ機動捜査隊に目をつけられるわなぁ。」
「やっぱり化け物じゃないですか。何で水野さんをお嫁さんに出来たんですか?」
「警視監助けてくれ。コイツは俺の弱点を的確についてくる。」
「そりゃ、俺の孫だからな。」
「あんたの仕業かい!」
おや、後藤さんと声が被った。
まぁ、僕がこんな事になった事も。
後藤さんが水野さん共々僕らに関わらざる羽目になった事も。
みんな祖父(と祖母)の仕業には違いない。
その点に於いては、僕は後藤さんと意見を同じに出来そうだ。
「じゃあな。俺はあの笑い声の連中を引き取って帰るから。」
「あれ?水野さん車でいらしてますよ。」
「大丈夫。昨日から警視監の車を借りてた。隣に止まっているのは警視監の車と麗香の車だ。」
つまり、今日最初からココに来る事は、あらかじめ決定済みかい!
というわけで、文字通り姦しい女子陣を化け物ゴリラが引き取って行った。
続きは県警道場で行うらしい。
ウチの後は、婦警さんのしごきですか。
あの2人、生きて帰れるかなぁ。
あ、因みに。
穴熊くんは、ずっとイビキをかきっぱなしでした。
だから君の野生はどこ行った?
★ ★ ★
「オジイ!」
「というわけで、1つドライブに行こう。」
「どういうわけですか?」
瑞穂くんが歓迎のハグをしている頭の上で、顔だけこちらを向けて祖父が僕に提案して来た。
何でドライブ?
「なんか買うもんあるんだろう。さっきぶつぶつ言ってたじゃないか。」
「言ってましたけどね。」
厄介そうな来客に気が付かないふりをしていただけなのに。
「道場に神棚が無いじゃないですか。だから試合前に''神前に礼!''の一手間が無くて、リズムが取れないなぁと思っていたんですよ。」
「何じゃそんな事かよ。そんなもん、近所の神社行ってお札買って来て、酒と榊と一緒に棚に飾っときゃ良い。」
「あの道場、棚が無いじゃないですか。」
「まぁ、使わなくなった町内の集会所を買って移築しただけだしなぁ。」
移築して来たんかい?
まぁ、道場には変な大きさだし、元農家にしては、こんな別棟の建物もなんだろうと思っていたけど。
「庭もだいぶいじっているようだしの。」
「僕と瑞穂くんの2人しか住んでいない建物ですよ。手が掛からない様にあらかじめ考えないとならないでしょ。」
今後、夏から秋にかけて、虫だの落ち葉だの大変な事になりそうだし。
「儂等を呼べ。婆さんも庭いじりが好きだからの。」
ウチの母も時々電車に乗ってやって来て、庭の隅に家庭菜園作ってますよ。
「まぁ、わざわざ家にも帰らずここに来たには話がある。今日はむしろ、後藤が儂に相乗りして来たんだ。」
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