相馬さんは今日も竹刀を振る 

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庭の整備中に来た人

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翌日。

瑞穂くんは、1人道場に篭って稽古中。
ほぼ互角だった水野さんや、水野さんと相対的に実力差を考えると、自分より強いと判断出来る石井さんの存在が刺激になったみたい。
さっき覗いたら、汗まみれになって竹刀を振っていた。
頑張れ。頑張れ。

僕は朝からやって来た、昨日のホームセンターからの配送品の整理に忙しい。
午前中指定を指名したさ。たしかに。
まさか9時丁度に呼び鈴が鳴るとは思わなんだ。
庭で昼寝をしていた穴熊くんが、びっくりして(うちの)縁の下に逃げて行ったよ。

まぁ、僕の買い物分だけで、人工芝のロールやら軽トラに乗りきらない量だし、瑞穂くんの方の買い物も、何やら電化製品が入りそうな、大きな段ボール箱が4つもある。

おかげで、実家の2倍以上の広さがある玄関の土間が埋もれてしまった。
瑞穂くんが片付けない限り、我が家の玄関は使用不能だ。

「お世話になりました。」
「これ、お客さん1人で敷くんですか?」
「まぁ、暇に任せてコツコツやっていきますよ。」
「あと、アレ。狸ですかアライグマですか?」
「近くに住み着いている穴熊です。」
「はぁ。」

3人も来た配達員さん。
縁の下から顔を出している穴熊くんに驚いています。
無理もない。


さて、人工芝を敷く手順。
ホームセンターに置いてあったパンフレットをそのまま真似することにした。
業者入れる必要もないしね。

先ずは鍬で耕して雑草を刈る。
鍬なんか何処にあったかって?
この家の隅にある倉庫を探したら、農耕道具一式入っていたのさ。
しかも新品だよ。
ヘクタール単位である(謄本だけ見て、何か考える事諦めた)広い裏の畑を鍬1本で耕せってか?爺ちゃん。
早く農地転用手続きをしてください。
売るなら早く売ってください。

本当ならばこの地面を水平に均して固める作業が必要なんだけど、別に僕んちだし。ローラーとか無いし。
この上に防草シートを敷いて、人工芝はテストに1畳くらいロールから引き剥がしてピンで留めてっと。
大体こんなものかな。
ほんの少しだけど、人工芝が敷けた。
ふむふむ。
悪くはない。

「クゥー」
「おや、お帰り。」

逃げていた穴熊くんが、縁の下から戻って来た。
あ、そうか。
この仔の小屋も作ってあげないと。

★  ★  ★

「ワァ!ナニコレ」 

稽古を終わらせた瑞穂くんが、道着のまま駆けつけて来た。
素振りしかしてないのに、道着がずぶ濡れになっている。
道場は狭い分、家庭用エアコンで間に合うんだよね。
クーラーを付けていながら汗だくって、どれだけ竹刀を振ってたのよ。
短期集中型の僕とは違うなぁ。

彼女が出てくる前に僕は、犬小屋とガーデンベンチを組み立て終えて、人工芝の敷き詰めに入っていたのさ。
いたのさって言っても、基本は単純作業の力仕事だ。
耕して敷いて敷いて打つ。
耕して敷いて敷いて打つ。

先に完成させたユニット式犬小屋の中では既に穴熊くんが寝ている。
毛布も何も無かったから、犬小屋を入れていた段ボールを敷いたら、そのまま中に入り込んでマーキングをし始めた。
いや、おしっこじゃなく、身体中を擦り付けてね。

「玄関に君の荷物も来ているよ。お風呂も沸かしてあるから、庭から中に上がりなさい。」
「ハーイ」

丸くなって寝ている穴熊くんの姿をニコニコしながら見ているのは良いけど、まだ春先だぞ。
濡れたままだと風邪ひくぞ。

というか、我が家では、朝晩(来客者を含めて)入浴するのが当たり前になってしまった。
なんだかなぁ。

………


「ヨイショ、ヨイショ」

瑞穂くんが、お風呂を後回しにして玄関から縁側に荷物を運び出した。
一応、邪魔な事を気にしてるみたい。
出入り口なんかそこら中にある家だから後回しにしてもいいのに。
とかなんとか思いながら、僕が腰をタントン叩いちゃあ人工芝を敷いていると、呼び鈴が鳴った。


「誰だろう?」

お隣さんはさっき来て、新キャベツとグリーンアスパラの差し入れをしてくれたあと、

「今日はお彼岸なの。」

なので今日は、料理を習いに来れませんって残念そうに帰って行ったから違うよな。

「もう、お彼岸過ぎてません?」
「ご遺族の予定は暦だけで揃えられないでしょ。」

なるほど、法事だって全員集まれるわけじゃないしな。
遺族が揃う日に、坊さんが合わせないとならないのか。

んじゃ、誰だろう?

濡れた道着のまんま、縁側で段ボールを開け出した瑞穂くんはおいといて。
彼女への客ではないだろう。

★  ★  ★

…瑞穂くんへの客だった。

金髪碧眼、身長ごじゅうな(←定番ネタだね)、ゴホン、180近くあるな。
僕より背が高い。
おっぱいも(お隣さんより)デカい女性だ。

「te entendí!te entendí!」
「ゲゲ」
「no te dejare escapar!Mizuho!」
「ゲゲゲゲ」

冠木門からは30メートルくらい離れているのに、金髪さんは縁側にいる瑞穂くんを見つけると、僕を押し退けて侵入しようとした。

なので。

僕は彼女を投げ飛ばした。

勿論、彼女の袖口を握っていたままだし、地面に接する前に袖を引いて、身体を宙に浮かせたままだ。
相手の手首を掴んで投げる。
小手投げですよ。
僕の周りには、剣道とか柔道とかの有段者がゴロゴロしてます。
全員、警察関係者ですが。
僕ら兄妹は、祖父から護身術として合気道を教えてもらってまして、基本的な技は一通り出来る(様にさせられた)のです。

「???」
「瑞穂くん、この人なに?」

やれやれって顔をして、瑞穂くんが近寄ってくる。

「Martina。Para qué viniste?」
「que eso、ayúdame!」
「捨てて来て良い?」
「ソウダネ」
「Aférrate!Aférrate!ayúdame!」

けたたましい客だなぁ。もう。
瑞穂くんがせっかく日本語で話してくれるから、翻訳アプリの出番がなくなったのに。
もうアンインストールしちゃったよ。

………

『はじめまして、マルティニと申します。』

一応、客として迎えますよ、はい。
瑞穂くんが許可したから。
一応、法律上この家の家主は僕の筈ですが。
一応、瑞穂くんに聞かないとならないのです。
一応。

瑞穂くんは、

「サットアセヲナガシテクル」

ってお風呂場に行っちゃったので、お互いスマホの翻訳アプリで挨拶します。

『瑞穂の親友で、瑞穂の婚約者です』

…このアプリ、壊れて無いよな?
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