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アナグマ
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「じゃあね。またね。」
「ウン」
電車が構内に入って来たら、ハイタッチを始めた早苗と瑞穂くん。
男から見ると、(お隣さんを含めた)女子の交流交歓は理解し切れないものですね。
昨日の午後に生まれて初めて会って、まだ24時間も経っていないのに、早苗と瑞穂くんは何年も一緒に遊んで来た親友みたいになってるよ。
妹は瑞穂くんに、LINEのアプリをダウンロードさせてグループを作っているし(僕は招待されなかった。まぁ良いっちゃ良いけど、少し寂しい)、メール交換も済ませている。
あ、そう言えば、瑞穂くんの携帯番号知らないや。
今のところずっと側にいるから良いけど、大学が始まる前に交換は済ませておかないとね。
「兄さんに悪さされたら写真付きで連絡してね。家族総出でお説教に行くから。」
「ウン、ワカッタ」
「いつまでも悪さされなかったら、その時も言ってね、家族総出でお説教に行くから。」
「ウン、ワカッタ。」
待ちなさい、君達。
………
駅入場券なんか初めて買ったよ。
それだけ早苗も妹も別れがたくて、プラットフォームまで引き摺り込まれたんだ。
まぁ、歳(学年)で言うなら1個しか変わらない同年代だからね。
詳しい歳は知らないけど、お隣さんは歳がダブルスコアで差があるんだから、いくら近しくても限界はあるだろう。
瑞穂くんは、妹の乗る電車が見えなくなるまでホームで手を振っていた。
…口には出せないけど、ちょっと恥ずかしい。
さて、ここまで出て来たしと、本屋を覗いてみたら、瑞穂くんは割と大人しい。
「マダゼンブヨミオワッテナイカラ」
Amazonでどれだけ買ったんだよ。
僕も読書方面は、それほどお金をかけていない。
父さんと趣味がわりかし合ったらしく、父さんの書棚と学校の図書室で充分に間に合ったから。
一応引っ越すに当たって数冊の本を持って来たけど、無駄に忙しいので読んでいる暇がない。
大体、1人で居る時間が本当にない。
リビングにいても、ダイニングにいても、寝室にいても、必ず僕の向かいの席か隣の部屋に瑞穂くんがいるし。
お隣さんが来て、爺ちゃんが来て、早苗が来て。
僕は、サブカル系の古い映画史のムック本や、懐かしグッズ(お菓子やカップ麺やジュースの)グラビア的な本を掴んでレジに向かう。
確かKindleにはなかった筈だ。
リアル書店でこんな掘り出し物を見つけるのは楽しい。
瑞穂くんはと言えば、ば。ば?
某小学館の教育雑誌「幼稚園」を手に持っている。
なんで?
君は飛び級認定されるほど成績良いし、少なくとも日本語漫画を読んでるよね?
日常常識も問題無さそうだよ。
「フロクノペーパークラフトヲツクリタイ」
幼稚園児にペーパークラフト?
ってわぁ、表紙には緑色の公衆電話が写ってる。
これ、紙かぁ?紙で組み立てるのかぁ。
やばい、それは僕も作りたい。
あとで調べたら、幼稚園の付録は世の中に実際にあるもののミニチュアになっていて大人気らしい。
バスのブザーとかATMとかのミニチュアが紙で作れて触れるんだって。
そりゃ幼稚園児には堪らんだろうなぁ。
★ ★ ★
さてと。
トンカツだの生姜焼きだの天ぷらだのステーキだの。
これだけ揚げ物脂物が続くと、いくら若い僕らでもゲップの1つも出てくるわけで。
なので駅前スーパーで買った今晩のおかずは刺身!お刺身!舟盛り!
あと、帆立貝柱とミル貝を別パックで買って。
わさびはS&Bの定番チューブ。
で済まそうとしたら、鮫肌のわさびおろしと生わさびが並んでいたんだよ。
しかも大して高くない。
生わさびなんか、家族で旅行に行った時の旅館飯でしか知らない。
並んでショーケースにアオサが売っていたから、これでお味噌汁を作ろうっと。
昨日灰汁抜きしていた筍は明日だな、明日。(せっかく灰汁抜きしてくれた早苗に食わせりゃ良かったな)
というわけで、背中のリュックには衝動買いきた書籍類、両手に食品類の入った袋を下げて、えっちらおっちら階段を登っていくと、ちっさなお迎えが来た。
階段の上で、穴熊くんがお座りをして待っていてくれてる。
「ア!」
「人慣れしている個体みたいだけど、野生動物だから脅かしちゃ駄目だよ。」
狐みたいに、菌を持ってるかもしれないし。
「ウン」
脅かすなよって警告したら、その対応はよそ見しながら口笛を吹くでした。
昭和の漫画か?瑞穂くん。
そうしたら、なんなんだろうね。
穴熊は逃げなかったよ。
階段を登り切った僕や瑞穂くんの足元に絡み付きながら、僕らについて来た。
セコムを切って敷地に入ると、一緒に入って来た。
「どうしようか、この仔。」
「カワイイハセイギ!」
「そうですか。」
そんな言葉、どこで覚えてくるんだろう。
どうやら朝と違って瑞穂くんにも懐いている様なので、彼女の分の荷物も奪って僕は玄関を開けた。
せっかく買った刺身が傷んじゃう。
買い物を仕舞うべき場所に仕舞い終わり、換気の為に締めっぱなしのガラス戸を開けると。
瑞穂くんの歓声と一緒に、あとをついて回る少女とムジナの行進が庭で行われていました。
本当にあの仔どうしよう。
穴熊は言葉の通り、地面に穴を掘るんだよなぁ。
池と築山以外は別に芝生も敷いていない庭を穴だらけにされても困るな。
大体あいつ、どこから来たんだよ。
………
「普段はうちの縁の下に住んでるわよ。」
うちが帰って来た事に気がついて(そりゃ瑞穂くんがキャーキャー笑ってるし)、お隣さんが顔を出してくれました。
まぁ、こういうのの犯人は、大体お隣(良玄寺)さんなわけで。
「狸や穴熊は、この近辺だと野生のがいるからね。ほら、うちはそれなりに古い寺だから建物にコンクリ基礎なんか打ってないから、縁の下に入りたい放題でしょ。縁の下は乾いた土だけど、どうも昔から色んな動物が出入りしてるみたいで、たまに割れた瀬戸物とかを捨てにお父さんが潜ると、新しい穴が出来ているんだって。」
「なんであんなに人慣れしてんですかね。」
「うちのお父さんが餌付けしたから。」
「は?」
実は今、穴熊は瑞穂くんの手からバナナを食べている。
穴熊は雑食で、辛いものしょっぱいもの以外はなんでも食べる。
虫やミミズが大好物だ。
ミミズを蕎麦みたいにチュルチュル吸っている動画は、瑞穂くんには見せられない。
因みにバナナはお隣さんの差入れ。
たしかに果物って買って無かったから、助かる。
というか、一人暮らしを始めたのは良いけれど、果物を買うという事に頭が回らなかった。
早速ネットスーパーで注文しないと。
「でもね。お父さんにだって近寄ろうとはしなかったのよ。なんで瑞穂ちゃんには、あんなに懐いているのかしら。」
「あの仔、僕に抱っこされたがりますが?」
「ええと………、貴方達何者なのかしら。」
知らんがな。
「ウン」
電車が構内に入って来たら、ハイタッチを始めた早苗と瑞穂くん。
男から見ると、(お隣さんを含めた)女子の交流交歓は理解し切れないものですね。
昨日の午後に生まれて初めて会って、まだ24時間も経っていないのに、早苗と瑞穂くんは何年も一緒に遊んで来た親友みたいになってるよ。
妹は瑞穂くんに、LINEのアプリをダウンロードさせてグループを作っているし(僕は招待されなかった。まぁ良いっちゃ良いけど、少し寂しい)、メール交換も済ませている。
あ、そう言えば、瑞穂くんの携帯番号知らないや。
今のところずっと側にいるから良いけど、大学が始まる前に交換は済ませておかないとね。
「兄さんに悪さされたら写真付きで連絡してね。家族総出でお説教に行くから。」
「ウン、ワカッタ」
「いつまでも悪さされなかったら、その時も言ってね、家族総出でお説教に行くから。」
「ウン、ワカッタ。」
待ちなさい、君達。
………
駅入場券なんか初めて買ったよ。
それだけ早苗も妹も別れがたくて、プラットフォームまで引き摺り込まれたんだ。
まぁ、歳(学年)で言うなら1個しか変わらない同年代だからね。
詳しい歳は知らないけど、お隣さんは歳がダブルスコアで差があるんだから、いくら近しくても限界はあるだろう。
瑞穂くんは、妹の乗る電車が見えなくなるまでホームで手を振っていた。
…口には出せないけど、ちょっと恥ずかしい。
さて、ここまで出て来たしと、本屋を覗いてみたら、瑞穂くんは割と大人しい。
「マダゼンブヨミオワッテナイカラ」
Amazonでどれだけ買ったんだよ。
僕も読書方面は、それほどお金をかけていない。
父さんと趣味がわりかし合ったらしく、父さんの書棚と学校の図書室で充分に間に合ったから。
一応引っ越すに当たって数冊の本を持って来たけど、無駄に忙しいので読んでいる暇がない。
大体、1人で居る時間が本当にない。
リビングにいても、ダイニングにいても、寝室にいても、必ず僕の向かいの席か隣の部屋に瑞穂くんがいるし。
お隣さんが来て、爺ちゃんが来て、早苗が来て。
僕は、サブカル系の古い映画史のムック本や、懐かしグッズ(お菓子やカップ麺やジュースの)グラビア的な本を掴んでレジに向かう。
確かKindleにはなかった筈だ。
リアル書店でこんな掘り出し物を見つけるのは楽しい。
瑞穂くんはと言えば、ば。ば?
某小学館の教育雑誌「幼稚園」を手に持っている。
なんで?
君は飛び級認定されるほど成績良いし、少なくとも日本語漫画を読んでるよね?
日常常識も問題無さそうだよ。
「フロクノペーパークラフトヲツクリタイ」
幼稚園児にペーパークラフト?
ってわぁ、表紙には緑色の公衆電話が写ってる。
これ、紙かぁ?紙で組み立てるのかぁ。
やばい、それは僕も作りたい。
あとで調べたら、幼稚園の付録は世の中に実際にあるもののミニチュアになっていて大人気らしい。
バスのブザーとかATMとかのミニチュアが紙で作れて触れるんだって。
そりゃ幼稚園児には堪らんだろうなぁ。
★ ★ ★
さてと。
トンカツだの生姜焼きだの天ぷらだのステーキだの。
これだけ揚げ物脂物が続くと、いくら若い僕らでもゲップの1つも出てくるわけで。
なので駅前スーパーで買った今晩のおかずは刺身!お刺身!舟盛り!
あと、帆立貝柱とミル貝を別パックで買って。
わさびはS&Bの定番チューブ。
で済まそうとしたら、鮫肌のわさびおろしと生わさびが並んでいたんだよ。
しかも大して高くない。
生わさびなんか、家族で旅行に行った時の旅館飯でしか知らない。
並んでショーケースにアオサが売っていたから、これでお味噌汁を作ろうっと。
昨日灰汁抜きしていた筍は明日だな、明日。(せっかく灰汁抜きしてくれた早苗に食わせりゃ良かったな)
というわけで、背中のリュックには衝動買いきた書籍類、両手に食品類の入った袋を下げて、えっちらおっちら階段を登っていくと、ちっさなお迎えが来た。
階段の上で、穴熊くんがお座りをして待っていてくれてる。
「ア!」
「人慣れしている個体みたいだけど、野生動物だから脅かしちゃ駄目だよ。」
狐みたいに、菌を持ってるかもしれないし。
「ウン」
脅かすなよって警告したら、その対応はよそ見しながら口笛を吹くでした。
昭和の漫画か?瑞穂くん。
そうしたら、なんなんだろうね。
穴熊は逃げなかったよ。
階段を登り切った僕や瑞穂くんの足元に絡み付きながら、僕らについて来た。
セコムを切って敷地に入ると、一緒に入って来た。
「どうしようか、この仔。」
「カワイイハセイギ!」
「そうですか。」
そんな言葉、どこで覚えてくるんだろう。
どうやら朝と違って瑞穂くんにも懐いている様なので、彼女の分の荷物も奪って僕は玄関を開けた。
せっかく買った刺身が傷んじゃう。
買い物を仕舞うべき場所に仕舞い終わり、換気の為に締めっぱなしのガラス戸を開けると。
瑞穂くんの歓声と一緒に、あとをついて回る少女とムジナの行進が庭で行われていました。
本当にあの仔どうしよう。
穴熊は言葉の通り、地面に穴を掘るんだよなぁ。
池と築山以外は別に芝生も敷いていない庭を穴だらけにされても困るな。
大体あいつ、どこから来たんだよ。
………
「普段はうちの縁の下に住んでるわよ。」
うちが帰って来た事に気がついて(そりゃ瑞穂くんがキャーキャー笑ってるし)、お隣さんが顔を出してくれました。
まぁ、こういうのの犯人は、大体お隣(良玄寺)さんなわけで。
「狸や穴熊は、この近辺だと野生のがいるからね。ほら、うちはそれなりに古い寺だから建物にコンクリ基礎なんか打ってないから、縁の下に入りたい放題でしょ。縁の下は乾いた土だけど、どうも昔から色んな動物が出入りしてるみたいで、たまに割れた瀬戸物とかを捨てにお父さんが潜ると、新しい穴が出来ているんだって。」
「なんであんなに人慣れしてんですかね。」
「うちのお父さんが餌付けしたから。」
「は?」
実は今、穴熊は瑞穂くんの手からバナナを食べている。
穴熊は雑食で、辛いものしょっぱいもの以外はなんでも食べる。
虫やミミズが大好物だ。
ミミズを蕎麦みたいにチュルチュル吸っている動画は、瑞穂くんには見せられない。
因みにバナナはお隣さんの差入れ。
たしかに果物って買って無かったから、助かる。
というか、一人暮らしを始めたのは良いけれど、果物を買うという事に頭が回らなかった。
早速ネットスーパーで注文しないと。
「でもね。お父さんにだって近寄ろうとはしなかったのよ。なんで瑞穂ちゃんには、あんなに懐いているのかしら。」
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