相馬さんは今日も竹刀を振る 

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お帰りにてございます

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さて、妹は帰る事になった。
明日からまた部活だからねだそうだ。
せっかくの春休みだと言うのに、あいつもあいつで忙しいな。

いきなり1人だけでやって来たのだから、1人で帰れるだろうけど(初めてのお使いじゃ無いし)、さすがに中学生を追い出すみたいでナンだし、途中まで送る事にした。
瑞穂くんとも、中途半端に仲良くなったみたいだし。

(3~4日前まで住んでいた)実家には、県庁所在地の駅まで行けば、乗り入れている私鉄1本で1時間程度で帰れる。
乗り換え乗り換えだった僕の子供の頃と比べると、楽になったものだね。

「ついでだから、昼飯でも食って帰るか?」
「あら、兄さんのご飯がまた食べれるの?」
「今さっき、天丼を食べただろう。」

朝稽古が終わって、瑞穂くんが道場の拭き掃除をして、僕は昨日の天ぷらの残りを、麺つゆで煮ただけの手抜き天丼を作り、何もする事がなくなった妹には墓参をさせました。

「オハカマイリッテリユウガツケバ、イツデモコレルモンネ。ヒカリオニイチャン、ヤサシイネ。」

って、瑞穂くんに褒められたけど、僕はそこまで(何にも)考えてないな。
この家の場所を教えられて来たって事は、父さんなり母さんなりの思惑があったのだろうけれど、菩提寺の場所も知ったんだから、たまには墓参に来るべきだ。
と、なんとなく思っただけだ。

形の上では、僕は相馬本家の長男として次々期当主として、独立した(させられた)んだから、そのくらい妹にも考えさせる機会が出来てもいいかなって思っただけだ。

僕も早苗も、そもそも菩提寺の場所を知らなかったんだから、(祖父や両親が僕らを法事に参加させなかった事に理由があったのかも知れないけれど)、僕は法的に成人したし、妹だって子供でいられる時間が少なくなって来ているし。

………

「ねぇ兄さん。」
「ん?」

なんか知らんけど、一晩で僕と妹で仲がかなり修復されているみたい。
こいつ、ほんの1週間前までは、こんなに話すことがなかったと思う。
それこそ、早苗が小学生だった頃まで遡らないと。

「兄さんは瑞穂姉ちゃんと結婚しないの?」
「まったくどいつもこいつも。瑞穂くんはまだ15歳だよ。」
「来年には結婚出来るじゃん。」
「法律が変わったろ?成人年齢は18歳になった時に、女性の結婚年齢も18歳以上になってるの。」

15歳の女の子を「結婚を前提に引き取れ」って爺ちゃんに散々言われたら、そりゃ色々調べましたがな。

「あら、そうなんだ。なんか残念。」
「そう言えば、お前の浮いた話も聞かないな。バレンタインでも何かしている雰囲気なかったけど。」
「小学校の頃、友チョコを作ろうと湯煎したら、焦げました。友達からはチョコゲって言われました。」
「妹は残念な女だった。」
「うるさいよ!」

なお、今、庭では瑞穂くんが洗濯物を干しています。
まぁ、うちの洗濯機は、洗濯・脱水・乾燥が1台で出来る最新万能洗濯機ですが、僕が乾燥機で乾燥した洗濯物をイマイチ信用していないので、天気の良い日は天日干しです。

瑞穂くんが言うには、スペインでは洗濯物の外干しが制限されているので、昨日僕が洗濯した「彼女の下着」が柔軟剤でふかふかだった上、お日様の匂い(よく言われるダニの死骸の匂いではなく、体臭や自然香が太陽の紫外線で変質したもので、良い匂いと感じる事は間違ってはいないそうだ)が気に入ったとかで。

で、さっき着ていた道着やパジャマを自ら洗濯をしていました。
家事をしたがっていたので、好きにさせました。
そしたら、僕が脱いだままベッドに乗せておいたトランクスを勝手に回収して洗濯機に入れていたよ。

だから、君は男女の下着を洗濯して、洗濯ハンガーに並べて干す事に抵抗は……
鼻歌唄っているから、そんなに抵抗ないのかね。
僕は昨日、結構気を遣ったぞ。

「例えば爺ちゃんが、早苗、お前の許嫁がカナダにいるから、来週カナダに引越しなさいって言われてどう思う?」
「………、そう考えると、瑞穂姉ちゃん凄い人だね。」
「爺ちゃんにも言ったけど、結婚するとかどうとかよりも、家族として迎え入れる事で精一杯なんだよ。瑞穂くんはiPhoneのスマホを使っているから、繋がっていてくれると助かる。女同士じゃないと言いにくい事もあるだろうし。」
「うん。わかった。」

★  ★  ★

話は色々前後するけれど、こんな朝を過ごして、僕らはとある県庁所在地駅にやって来た。

妹のSuicaの残高を見て、兄から妹にお小遣いをあげるって言うのはアレだけど、とりあえず目一杯入金してやった。
中学生の2万円はそれなりに使いごたえがあるだろうし、こいつも僕や両親に似て、あまり無駄遣いしない性格なので、そのくらいは良いだろう。

「昼飯は肉食うか、肉。夜朝と野菜だったし。」
「それは嬉しいけど、高そう。」
「ダネ」
「なんか爺ちゃんから、やたら生活費を貰っているか大丈夫。」
「だからって、無駄遣いをしちゃ駄目だよ。」
「ダネ」
「お隣さんから毎日大量の食材を貰っているんだよ。調味料だけ買い足しておけば良いから食費はほとんどかからない。」

さっき妹を墓に案内したら、奥さんに肉と魚がたっぷり詰まった発泡スチロールを押し付けられなし。

「娘はちゃんと嫁に行けるのかしらね。」
という言葉と共に。
要は、花嫁修行のお礼らしい。
あと檀家さんから、毎日毎回食べきれないほど貰えるから、僕という生贄が出来た事が助かるらしい。

税金や光熱費は親が払ってくれるし、ぶっちゃけうちの出費はほとんど瑞穂くんの私物だ。
妹に話を合わせているくせにさ。
今日も街まで出てきたのだから、(後でAmazonで買うにしても)、本屋で衝動買いする気マンマンだし。

大学入学を控えた高校3年生と、無職の15歳と、もうすぐ3年生になる中学2年生でも気軽に入れるチェーン店なので、大してお高くない、大して旨くもない、ただ肉だステーキだのランチを食べたって満足感満腹感だけはある。

まぁ良いか。

「早苗。さっきも言った様に、僕はまだ何も決めていない。ただ、僕は瑞穂くんは僕の出来る力で守ってあげる事だけは決めているんだ。」
「任せなさい!瑞穂姉ちゃん好きだから、家族として迎える事になんの異論ないよ。私に出来る事はするから。だから。」
「だから?」
「泣かせる様な真似をしたら、屋敷に火をつけるからねえ。」

待ちなさい。

「オネガイシマス」

いや、瑞穂くんは、何に対してお願いしたの?




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