僕の名は。~my name~

バーニー

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第七章【裏切らないで】

第七章 その② 2018年 7月12日

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【二〇一八年 七月十二日】
 皆月がやってきたのは、三日後のことだった。
「ナナシさーん、きたよー」
 いつもの調子で言った彼女だったが、その目には炭を擦りつけたかのような隈が浮いていた。
 当然、僕は指摘する。
「お前、その隈、どうした?」
「ああ、別件で忙しくてね…。眠る暇が無かったの」
 別件、ああ、他の人の過去を書き換えていたのか。
「…そうか」
 まあ確かに、僕ばかりに付きっ切り…というわけにもいかないか。
「どうする? 休んでいくか? 寝て行っても良いけど」
 寝不足の彼女を連れまわすのが憚れた僕は、何気にそう口にしていた。
 それを聞いた皆月は、目をぱちくりとさせた後、我が身を抱く。
「えっち」
「変な意味じゃないんだよ」
 いつもの皆月で安心した。
「どうする? きついなら、今日は休みってことにしても良いけど…。一週間近く休んだんだから、もう一日休んだところで変わらないだろ」
「そうかな?」
 皆月は笑いながら首を傾げた。そして、顎に手をやると、考え込む。
「でも、どうしようかな。眠くてだるいのは事実だし、正直、今日ナナシさんの過去を復元する気じゃないのも事実…」
「だったら休めよ」
 答えは決まった。僕はため息交じりに、背後の布団を指す。
 皆月はニヤッと笑った。
「そして、ここで休むと、なんか変なことされそうだから嫌なのも事実」
「じゃあ帰れよ…」
 親しき仲にも礼儀あり…だ。そんなことする気は毛頭なかった。
 皆月は鞄を持ったまま考え込んだ後、「よし…」と言って、指を鳴らした。
「ナナシさん、映画行こう」
「映画?」
 それはもちろんいいのだけど…。
「休むんじゃなかったのか?」
「映画館で休めばいいじゃん」
「ああ…」
 確かに、皆月は映画を見ているとき、それがつまらないと判断すると、平気で眠っていたな。
 とは言え、休むためにわざわざ音が鳴り響くシアターに行くってのは、理解しがたい。
「もう公開されていたでしょう?」
 皆月はそう言って、首を傾けた。
「もう公開されていた?」
 僕もまた首を傾けたのだが、すぐに思い出し、指を鳴らした。
「ああ、黒河麻衣の」
 早世の作家黒河麻衣の漫画を原作とした映画、『僕と悪魔と三つの願い』。そう言えば、一週間くらい前に公開になっていたな。確か、祖母を訪ねた時に観に行こうと約束していたのだが、すっかり忘れていた。
「よし」
 気分ではなかったが、僕は頬を叩いて気を引き締めると、言った。
「いくか!」
「うん!」
 皆月は、力強く頷くのだった。
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