75 / 75
第七章【裏切らないで】
第七章 その② 2018年 7月12日
しおりを挟む
【二〇一八年 七月十二日】
皆月がやってきたのは、三日後のことだった。
「ナナシさーん、きたよー」
いつもの調子で言った彼女だったが、その目には炭を擦りつけたかのような隈が浮いていた。
当然、僕は指摘する。
「お前、その隈、どうした?」
「ああ、別件で忙しくてね…。眠る暇が無かったの」
別件、ああ、他の人の過去を書き換えていたのか。
「…そうか」
まあ確かに、僕ばかりに付きっ切り…というわけにもいかないか。
「どうする? 休んでいくか? 寝て行っても良いけど」
寝不足の彼女を連れまわすのが憚れた僕は、何気にそう口にしていた。
それを聞いた皆月は、目をぱちくりとさせた後、我が身を抱く。
「えっち」
「変な意味じゃないんだよ」
いつもの皆月で安心した。
「どうする? きついなら、今日は休みってことにしても良いけど…。一週間近く休んだんだから、もう一日休んだところで変わらないだろ」
「そうかな?」
皆月は笑いながら首を傾げた。そして、顎に手をやると、考え込む。
「でも、どうしようかな。眠くてだるいのは事実だし、正直、今日ナナシさんの過去を復元する気じゃないのも事実…」
「だったら休めよ」
答えは決まった。僕はため息交じりに、背後の布団を指す。
皆月はニヤッと笑った。
「そして、ここで休むと、なんか変なことされそうだから嫌なのも事実」
「じゃあ帰れよ…」
親しき仲にも礼儀あり…だ。そんなことする気は毛頭なかった。
皆月は鞄を持ったまま考え込んだ後、「よし…」と言って、指を鳴らした。
「ナナシさん、映画行こう」
「映画?」
それはもちろんいいのだけど…。
「休むんじゃなかったのか?」
「映画館で休めばいいじゃん」
「ああ…」
確かに、皆月は映画を見ているとき、それがつまらないと判断すると、平気で眠っていたな。
とは言え、休むためにわざわざ音が鳴り響くシアターに行くってのは、理解しがたい。
「もう公開されていたでしょう?」
皆月はそう言って、首を傾けた。
「もう公開されていた?」
僕もまた首を傾けたのだが、すぐに思い出し、指を鳴らした。
「ああ、黒河麻衣の」
早世の作家黒河麻衣の漫画を原作とした映画、『僕と悪魔と三つの願い』。そう言えば、一週間くらい前に公開になっていたな。確か、祖母を訪ねた時に観に行こうと約束していたのだが、すっかり忘れていた。
「よし」
気分ではなかったが、僕は頬を叩いて気を引き締めると、言った。
「いくか!」
「うん!」
皆月は、力強く頷くのだった。
皆月がやってきたのは、三日後のことだった。
「ナナシさーん、きたよー」
いつもの調子で言った彼女だったが、その目には炭を擦りつけたかのような隈が浮いていた。
当然、僕は指摘する。
「お前、その隈、どうした?」
「ああ、別件で忙しくてね…。眠る暇が無かったの」
別件、ああ、他の人の過去を書き換えていたのか。
「…そうか」
まあ確かに、僕ばかりに付きっ切り…というわけにもいかないか。
「どうする? 休んでいくか? 寝て行っても良いけど」
寝不足の彼女を連れまわすのが憚れた僕は、何気にそう口にしていた。
それを聞いた皆月は、目をぱちくりとさせた後、我が身を抱く。
「えっち」
「変な意味じゃないんだよ」
いつもの皆月で安心した。
「どうする? きついなら、今日は休みってことにしても良いけど…。一週間近く休んだんだから、もう一日休んだところで変わらないだろ」
「そうかな?」
皆月は笑いながら首を傾げた。そして、顎に手をやると、考え込む。
「でも、どうしようかな。眠くてだるいのは事実だし、正直、今日ナナシさんの過去を復元する気じゃないのも事実…」
「だったら休めよ」
答えは決まった。僕はため息交じりに、背後の布団を指す。
皆月はニヤッと笑った。
「そして、ここで休むと、なんか変なことされそうだから嫌なのも事実」
「じゃあ帰れよ…」
親しき仲にも礼儀あり…だ。そんなことする気は毛頭なかった。
皆月は鞄を持ったまま考え込んだ後、「よし…」と言って、指を鳴らした。
「ナナシさん、映画行こう」
「映画?」
それはもちろんいいのだけど…。
「休むんじゃなかったのか?」
「映画館で休めばいいじゃん」
「ああ…」
確かに、皆月は映画を見ているとき、それがつまらないと判断すると、平気で眠っていたな。
とは言え、休むためにわざわざ音が鳴り響くシアターに行くってのは、理解しがたい。
「もう公開されていたでしょう?」
皆月はそう言って、首を傾けた。
「もう公開されていた?」
僕もまた首を傾けたのだが、すぐに思い出し、指を鳴らした。
「ああ、黒河麻衣の」
早世の作家黒河麻衣の漫画を原作とした映画、『僕と悪魔と三つの願い』。そう言えば、一週間くらい前に公開になっていたな。確か、祖母を訪ねた時に観に行こうと約束していたのだが、すっかり忘れていた。
「よし」
気分ではなかったが、僕は頬を叩いて気を引き締めると、言った。
「いくか!」
「うん!」
皆月は、力強く頷くのだった。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる