僕の名は。~my name~

バーニー

文字の大きさ
上 下
70 / 75
第六章【テルミーグランマ】

第六章 その⑤

しおりを挟む
『勘違いするなよ。私はお前の親じゃない』
 これは、祖母と暮らすようになってから、初めて言われたセリフだ。
 言われたのは確か、祖母の家の前だった。軒下にあった月下美人の植木鉢が印象的だった。
 それから祖母は、こう続けた。
『そして、私はお前のことが嫌いだ。バカ娘が産んだ、バカ息子だからね。一緒に過ごしているからって、情が芽生えることは無いだろうし、きつく当たられることは当たり前のことだと思え』
 別に期待はしていなかった。どんな環境だろうと受け入れる覚悟はできていた。だけど、あまりにも手心の無い態度に、僕は戦々恐々とするしかなかった。
 祖母との日々は、本当に息苦しいものだった。
 祖母は僕の姿を見ることも嫌っていて、廊下ですれ違うだけで、「私の前に姿を見せるな!」と怒鳴った。学校の書類で印鑑が必要な時や、どうしても金が必要なときは、やむなく顔を合わせることとなるのだが、その度に、小言を言われた。「バカ息子」「能無し」「ぼんくら」。祖母に言われた悪口は、大体思い出した。
 祖母は、僕に飯を作ることは一度も無かった。「お前に温かい飯なんて食わしてたまるか」ということらしい。毎日、スーパーで買った半額の総菜パンや、カップラーメン、エネルギーゼリー、酷いときは未調理のモヤシを、僕の部屋の前に置いていた。
 ならば自分で作ってやろうと思い、台所に立ったのだが、祖母は「私の家のものを勝手に触るな」と言って、僕を突き飛ばした。確かあの時、反論したんじゃないだろうか? 「このくらいいいだろう?」って。でも、祖母は台所にあった包丁を掴んで振り回してまで、僕を部屋へと追い返したのだった。
 そうだ…。僕の部屋は、屋根裏部屋だった。一応、死んだ祖父の部屋が空いていたのだが、祖母はそれらを使うことを許してはくれなかった。曰く、「お前は私の家に寄生しているネズミなんだから、ネズミはネズミらしく、屋根裏部屋がお似合いだ」と言うことらしい。
 屋根裏部屋で息を殺して生きることは、本当にきつかった。ネズミやゴキブリが出てくるのは言うまでも無く、夏場は蒸されるように熱く、冬になると凍り付くように寒かった。「死にかけた」と言っても、過言ではない。
 そんな環境で僕は学校に通っていたわけだが、祖母は心底、僕の成績に興味が無かった。学校の行事にも興味が無かったから、懇談会には参加しなかったし、家庭訪問の時には、冷然たる態度で教師と接していた。
「成績が良ければ、お前は自立して何処かに行くんだ。悪くたって、高校を卒業したら否応なく追い出すからね。野垂れ死ぬなりなんなりしておくれ」
 そう言われたような気がする。
 僕だって、祖母と暮らすのは願い下げだった。だからと言って、「上等だよ」とはならなかった。屋根があるところで眠れることに感謝をし、例え愛情が籠っていなくとも、腹に食べ物が溜まる感覚に歓喜した。そして、高校を卒業し、「約束通り出ていけ」と言われ、絶縁状を突き付けられるその日まで、じっと耐えたんだ。
 もう僕は、二度と祖母に会うまい…。そう思っていた。
 本当に、気分の悪い話だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...