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第五章【魔女の指輪】
第五章 その④
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「皆月のばあちゃんって、どんな人」
なんとなくそう聞く。
皆月も快く答えようと、息を吸い込んだ。
だが、その時、彼女は口を開けたまま固まり、視線を上に向けた。てっきり天井に何かあるのかと思い見たが、何もない。再び視線を戻すと、彼女は顎に手をやって、首を傾けていた。
「どうした?」
「いや、私のおばあちゃんって、どんな人だったっけ…って思って」
「はあ? 急に何を言ってるんだ?」
自分と血の繫がりのある人間のことを忘れるなんて普通ありえないだろう。突然変なことを言いだす皆月に、呆れを通り越して心配を抱いた。
「もしかして、物心つく前に死んだとか?」
何とか皆月をフォローすることを言うと、彼女は顎に手をやったまま、こくりと頷いた。
「うん、確か、小学生の時に…」
瞬間、彼女は苦虫を噛み潰したような顔をして、顎にやっていた指を滑らせて、頭を抱えた。「い、いてっ! いてててててて…」
などと、がらんとした喫茶店に、彼女の苦痛を堪えるような声が響く。
「どうした?」
「頭が痛い」
「はあ?」
さっきから皆月の言動がおかしくて、僕は心配を通り越して呆れていた。
「なんだよ、片頭痛持ちか? 雨だから」
「い、いや…」
皆月は首を横に振りかけたが、その振動が脳に響いたのだろう。一層苦痛に顔を歪ませて、今度は調子を落として、「痛い、いたたたたたた…」と洩らした。よく見ると、生え際の辺りに光るもの。汗がつうっと伝い、頬からテーブルに落ちた。
これには、呆れを通り越して心配になる。
「大丈夫か? 病院、行くか?」
「大丈夫。痛み止め持ってる。生理痛重いから」
「ああ…」
「あー、ヤバい、ちょっとヤバい」
皆月は消え入るような声でそう言うと、机に顔を伏してしまった。
仕方なく、僕は席から身を乗り出し、彼女の隣の席に置いてあった通学鞄を掴む。こちらに引っ張ってくると、横にあるポケットを開けた。何も入っていない。その隣にあるポケットを開けると、今度は入っていた。ピンク色のポーチ。
「ポーチ、開けるからな」
そう前置きしてから、ボタンを外して開けた。中には彼女が使っているナプキンと、そしてもう一つ、痛み止めが入っていた。合計六錠。
「何錠だっけ?」
「二錠」
「わかった」
丁度二錠、折って切り離すと、ぷちっと押して、手の中に出した。
「ほら、飲めよ」
ミネラルウォーターのグラスを皆月の前に置き、手の中に出した錠剤を、皆月に差し出そうとした…その時だった。
「あ…」
皆月が声をあげて、勢いよく頭を上げた。その拍子に、僕の手にぶつかる。当然、錠剤が零れ落ち、テーブルの上を転がると、床へと落下。乾いた音を立てながら跳ねて、ソファーの下へと見えなくなった。
「あ、ごめん」
すぐに立ち上がり、店員さんを呼ぼうとする。だが、床に落ちたものは飲めないだろうと思い直り、また腰を掛けた。
「新しいの買ってやるから」
そう言って、残りの新しく取り出そうとしたとき、皆月が言った。
「思い出した」
「あ?」
プチッと音を立てて、新しい錠剤が僕の手の中に落ちる。それと同時に、皆月がまた声をあげた。
「ああああっ! 何やってんの!」
「こっちのセリフだよ。何を思いだしたんだ?」
「ああん、もう。もう痛くないのに! 空気に触れたらダメじゃん! 黴菌が付くかもしれないのに!」
「だから、何を思いだしたんだよ」
「あと、さっきの錠剤拾ってよね! 三秒ルールだから!」
「だから…」
話が噛み合わないことに、僕のこめかみの血管が痙攣した。その腹いせに、僕は四錠目を指で押し出したのだった。
なんとなくそう聞く。
皆月も快く答えようと、息を吸い込んだ。
だが、その時、彼女は口を開けたまま固まり、視線を上に向けた。てっきり天井に何かあるのかと思い見たが、何もない。再び視線を戻すと、彼女は顎に手をやって、首を傾けていた。
「どうした?」
「いや、私のおばあちゃんって、どんな人だったっけ…って思って」
「はあ? 急に何を言ってるんだ?」
自分と血の繫がりのある人間のことを忘れるなんて普通ありえないだろう。突然変なことを言いだす皆月に、呆れを通り越して心配を抱いた。
「もしかして、物心つく前に死んだとか?」
何とか皆月をフォローすることを言うと、彼女は顎に手をやったまま、こくりと頷いた。
「うん、確か、小学生の時に…」
瞬間、彼女は苦虫を噛み潰したような顔をして、顎にやっていた指を滑らせて、頭を抱えた。「い、いてっ! いてててててて…」
などと、がらんとした喫茶店に、彼女の苦痛を堪えるような声が響く。
「どうした?」
「頭が痛い」
「はあ?」
さっきから皆月の言動がおかしくて、僕は心配を通り越して呆れていた。
「なんだよ、片頭痛持ちか? 雨だから」
「い、いや…」
皆月は首を横に振りかけたが、その振動が脳に響いたのだろう。一層苦痛に顔を歪ませて、今度は調子を落として、「痛い、いたたたたたた…」と洩らした。よく見ると、生え際の辺りに光るもの。汗がつうっと伝い、頬からテーブルに落ちた。
これには、呆れを通り越して心配になる。
「大丈夫か? 病院、行くか?」
「大丈夫。痛み止め持ってる。生理痛重いから」
「ああ…」
「あー、ヤバい、ちょっとヤバい」
皆月は消え入るような声でそう言うと、机に顔を伏してしまった。
仕方なく、僕は席から身を乗り出し、彼女の隣の席に置いてあった通学鞄を掴む。こちらに引っ張ってくると、横にあるポケットを開けた。何も入っていない。その隣にあるポケットを開けると、今度は入っていた。ピンク色のポーチ。
「ポーチ、開けるからな」
そう前置きしてから、ボタンを外して開けた。中には彼女が使っているナプキンと、そしてもう一つ、痛み止めが入っていた。合計六錠。
「何錠だっけ?」
「二錠」
「わかった」
丁度二錠、折って切り離すと、ぷちっと押して、手の中に出した。
「ほら、飲めよ」
ミネラルウォーターのグラスを皆月の前に置き、手の中に出した錠剤を、皆月に差し出そうとした…その時だった。
「あ…」
皆月が声をあげて、勢いよく頭を上げた。その拍子に、僕の手にぶつかる。当然、錠剤が零れ落ち、テーブルの上を転がると、床へと落下。乾いた音を立てながら跳ねて、ソファーの下へと見えなくなった。
「あ、ごめん」
すぐに立ち上がり、店員さんを呼ぼうとする。だが、床に落ちたものは飲めないだろうと思い直り、また腰を掛けた。
「新しいの買ってやるから」
そう言って、残りの新しく取り出そうとしたとき、皆月が言った。
「思い出した」
「あ?」
プチッと音を立てて、新しい錠剤が僕の手の中に落ちる。それと同時に、皆月がまた声をあげた。
「ああああっ! 何やってんの!」
「こっちのセリフだよ。何を思いだしたんだ?」
「ああん、もう。もう痛くないのに! 空気に触れたらダメじゃん! 黴菌が付くかもしれないのに!」
「だから、何を思いだしたんだよ」
「あと、さっきの錠剤拾ってよね! 三秒ルールだから!」
「だから…」
話が噛み合わないことに、僕のこめかみの血管が痙攣した。その腹いせに、僕は四錠目を指で押し出したのだった。
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