9 / 75
第一章【拝啓 忘れられた僕へ】
第一章 その⑦
しおりを挟む
「もう作り直すしかない」
「作り直す? どういうことだ?」
「そのままの通りよ。理解できないわけ?」
皆月舞子は語気を強めると、肩を竦める。
「いい? あんたの名前には、あんたの過去が保存されていた。それはバックアップを取っていない限り唯一無二だ。それが消えたの。あんたの過去はもうこの世には存在しない。どこにも、無い…」
そして、こう言い切った。
「つまりもう、似たものを作るしかない」
「似たものを…?」
彼女が言わんとしていることは理解できた。だが、ぴんと来ず、僕は言葉をなぞった。
皆月はさらに噛み砕いて説明をした。
「消えてしまった過去を、一から書き直すの。あんたが生まれた日、あんたが通っていた幼稚園とか、小学校とかの出来事…。クリスマスの日はどんなことをしただとか、親とはどんな関係を築いていたのか? だとか…。そうやって作った、元の情報に限りなく近い過去を、もう一度あんたの肉体に書き込むの。そうすれば、あんたは名前を取り戻せる」
なるほど…。
「そんなのでいいのか?」
すると皆月舞子は、頬を少し膨らませた。
「例えば、源氏物語の原本はもう存在しないでしょう? 今、世に伝わっているのは全部写本。でも、私たちは『源氏物語』というお話を知ることが出来る…。まあ、専門家に言わせたら、違うらしいけど…」
それから、皆月舞子はこうも続けた。
「大阪城だって、きっと昔の姿を忠実に再現しているんだろうけど、再建されたものでしょう? 実際の大阪城がどんなだったかは誰も知らない…。でも、今日もあそこに建っている城は、豊臣秀吉が建築した立派なお城だ。いやまあ、エレベーターがあるのはいかがなものかと思うけど」
とにかく! と言って、スカートの裾から覗く太ももを叩いた。
「私が今からやらなければならないのはそう言うことなの。あんたの過去を、一から書き直す」
「ああ、なるほど…」
僕は頷き、俯いた。
消えてしまった過去を、完全に復元することは不可能。だから、極力消えてしまう前の形に近づくようにしながら書き直す…。
「まあ、なんとなく理解できたよ」
要するに、写本を作るってわけだ。
「でも、どうやって? 原本は残っていないのに…」
胸に浮かんだ疑問を皆月舞子にぶつけると、彼女はまた顔を顰めた。
「あんた、ほんと鈍いね」
「いや、それは…、過去が消えているから…」
「脳がダメなのね」
僕の言い訳を一蹴した後、答えてくれる。
「確かに、『記録された過去』は消えたけど、『痕跡』は消えたわけじゃないからね」
「…なるほど」
わかっていないのに頷く。当然皆月舞子にはお見通しのようで、彼女は僕を睨んだ。
「このサービスは『過去改変』なんて謳っているけど、実際に改変されるのは、自分の認識だけ。例えば、『貧乏な家に生まれた』って過去を、『裕福な家に生まれた』ってものに書き換えたところで、その過去を認識できるのは本人のみ。周りから見れば、そいつは相変わらず貧乏性で、実際に金持ちになっているわけでもない…」
「ああ、『痕跡』ってそう言う…」
僕の横槍に嫌な顔をしつつ、皆月は頷いた。
「あんたは今、自分の名前と、過去を認識することが出来なくなっているだけ。でも、あんたがこの世界で生きた痕跡はちゃんとこの世に残ってるの」
そう言うと、彼女は、とんとん…と床を足で叩いた。
「このアパートだって、あんたが借りたんでしょう?」
「ああ、うん」
「これも、痕跡だ。あんたが生きた痕跡だよ。だからね、過去を復元するべく、私とあんたがやらなくちゃいけないのは、あんたに関連するものに片っ端から当たっていって、あんたがどんな人間なのか? どんな人生を送ってきたのか? と探ることだよ」
「うーん…」
お金持ちになったことになっているが、実際にお金持ちになっているわけじゃない。
存在が消滅したということになっているが、実際に消滅したわけじゃない。
わかるようでわからない、漠然とした話に、僕の脳は沸騰しつつあった。
黙りこくっていると、皆月が言った。
「そうやって駆けずり回っていたら、そのうち思い出すと思うよ」
「え…」
顔を上げると、彼女は僕の方を見ながら、己のこめかみをとんとん…と叩いた。
「再三言うけど、人が自己を認識するときは、己の名前に保存された過去を読み込んでいるの。でも、その過去が消えてしまったから、あんたは自己を認識することが出来ていない…」
皆月舞子は首を横に振った。
「でもね、これは記憶喪失とはまた違うよ。あくまで自己の認識ができないないだけ。記憶はちゃんと、あんたの脳に保存されている…。きっと、自分の過去について調べていたら、そのうち脳に保存された記憶の方で自己を認識できるようになるから…」
「…………」
やはり、何を言っているのかわからなかった。
「そ、そうか…」
だが、皆月舞子の機嫌を損ねるのが嫌で、わかった風を装う。
彼女は「嘘つくな」と言って、僕の脛を蹴った。
「要するに、今やるべきは、自分探し。その繰り返し。そうすれば、いつかは、あんたは自分の名前と過去を取り戻す」
「ああ、うん」
「わかった? 私の話」
皆月はそう言って首を傾げた。
僕はぎこちなく頷く。
「なんとなくはわかった。つまり、僕と関係のあるものを片っ端から探って、僕の過去を忠実に再現し、書き直すってことだろう」
皆月舞子は頷かなかった。構わず、僕は聞いた。
「それで、その復元作業を続けたとして、どのくらいで完成するんだ?」
「そうだね…」
皆月は顎に手をやると、天井を仰いで考えた。
ちらっと、黒い目が僕を見る。
「大体、三年くらいかな?」
「三年?」
茫漠とした時間に、僕の声が裏返る。
「嘘だろ? 三年もかかるのか?」
すると、彼女は首を横に振った。
「嘘、一年」
「嘘?」
血管が痙攣するように震えるのが分かった。
「お前、いい加減にしろよ。なんでそんなことを…」
人を舐め腐っている、女子高生のコスプレをした女に一喝しようと息を吸いこんだが、風船の空気が抜けるように、身体の力が抜けた。
「…い、一年? 一年もするのか?」
最初に言われた三年に比べれば大分少なかったが、それでも、一年もこの状態というのは気が遠くなった。
皆月舞子は椅子を揺らしながら頷いた。
「だってそりゃ、一から書き直すんだから、そのくらいの時間は必要でしょう? しかも、こういうことするの初めてだから、もっと時間がかかる可能性だってあるし。二年、三年、もしかしたら、四年…」
そして、椅子を止めると、背を丸め、上目遣いに僕を見た。何か企みを含んだ、艶っぽい目だった。
「そこでよ。提案」
「提案…」
思わず身構える。
皆月舞子は己の胸に手を当てた。
「いい? 私は今から約一年もの間、ナナシさんに付きっ切りで復元作業を行うの」
「…ああ、うん、確かに」
「確かに、私はあの店から大金を貰っているし、必要経費は申請すればもらえるけど、それをもってしても、一年も働き続けるのは割に合わない。現実的じゃない」
あんたも嫌でしょ? と言って、彼女は僕の胸を指した。
「私みたいな面倒な女と一緒にいたくないでしょ」
「いや、そんなことは…」
「あらそう? 私はあんたみたいな根暗と一緒にいるのは嫌よ」
相手を不快にさせまいと思って否定したのに、強烈なカウンターが返ってきて、僕の胸に突き刺さった。
この野郎…って思う。
「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ」
悪びれる様子も無く、皆月はへらっと笑い、己の眉間をトントン…と叩いた。
「だから、こうしない? 私があんたのために、新しい過去を書いてあげる。その作業なら、大体一か月で済むわ」
「え…」
一瞬は、こいつ何を言っているんだ…と思ったが、すぐに理解する。
「ああ、なるほどね。確かに、割れてしまった窓ガラスを一つ一つ繋ぎ合わせて修復するよりも、新しいガラスを買った方が早い」
僕の例え話に、皆月は満足そうに頷いた。
「その方が現実的でしょう?」
「まあ、そうだけど…」
黙って考える僕の顔を、前のめりになった皆月が覗き込む。
「もしかして嫌?」
「嫌と言うか、消えてしまった過去がどういうものだったのかをわからないのに、こうも簡単に新しい過去を上書きする気にはなれないというか…」
時計と同じだよ。きっと思い入れがあるんだ。だから、壊れたとて新しいのは買わず、修理に出したいものなのだ。
すると、皆月は鼻で笑った。
「あんたの人生なんて大したことないでしょ」
その言葉に、心臓が締め付けられるような気がした。
皆月舞子は、その黒髪を揺らす勢いで椅子の背もたれに体重を掛ける。
三日月のように細まった目の隙間から、黒い瞳が僕を嘲笑った。
「大丈夫だよ。心配するほど、ナナシさんの人生は良いものじゃないから。だから、安心して新しい過去を書けるよ」
次の瞬間、僕は二歩踏み出し、皆月舞子の目と鼻の先まで詰め寄っていた。
「お前…」
視界が一瞬、赤く染まる。関節の隙間で怒りが爆発し、腕が勝手に動き、皆月舞子の胸倉を掴む。そのまま押し倒そうとしたのだが、良心がそれを引き留めた。
結果的に僕は、皆月の胸倉を握るだけ…という、なんとも間抜けな格好のまま固まった。
皆月舞子の冷めた目が僕を見る。それから、こほん…と咳ばらい。
「えっち」
「あ、ごめん…」
謝る必要なんて無いのに、そう言って手を放す。
暴力に訴えられそうになったことを咎めるようなことはせず、皆月舞子は、乱れた襟を直しながら言った。
「個人的に、あんたの人生を修復するのはお勧めしないわけ。面倒くさいってのもあるけど、良心でもあるわ」
「良心?」
一体何の建前が出てくるのやら。
「作り直す? どういうことだ?」
「そのままの通りよ。理解できないわけ?」
皆月舞子は語気を強めると、肩を竦める。
「いい? あんたの名前には、あんたの過去が保存されていた。それはバックアップを取っていない限り唯一無二だ。それが消えたの。あんたの過去はもうこの世には存在しない。どこにも、無い…」
そして、こう言い切った。
「つまりもう、似たものを作るしかない」
「似たものを…?」
彼女が言わんとしていることは理解できた。だが、ぴんと来ず、僕は言葉をなぞった。
皆月はさらに噛み砕いて説明をした。
「消えてしまった過去を、一から書き直すの。あんたが生まれた日、あんたが通っていた幼稚園とか、小学校とかの出来事…。クリスマスの日はどんなことをしただとか、親とはどんな関係を築いていたのか? だとか…。そうやって作った、元の情報に限りなく近い過去を、もう一度あんたの肉体に書き込むの。そうすれば、あんたは名前を取り戻せる」
なるほど…。
「そんなのでいいのか?」
すると皆月舞子は、頬を少し膨らませた。
「例えば、源氏物語の原本はもう存在しないでしょう? 今、世に伝わっているのは全部写本。でも、私たちは『源氏物語』というお話を知ることが出来る…。まあ、専門家に言わせたら、違うらしいけど…」
それから、皆月舞子はこうも続けた。
「大阪城だって、きっと昔の姿を忠実に再現しているんだろうけど、再建されたものでしょう? 実際の大阪城がどんなだったかは誰も知らない…。でも、今日もあそこに建っている城は、豊臣秀吉が建築した立派なお城だ。いやまあ、エレベーターがあるのはいかがなものかと思うけど」
とにかく! と言って、スカートの裾から覗く太ももを叩いた。
「私が今からやらなければならないのはそう言うことなの。あんたの過去を、一から書き直す」
「ああ、なるほど…」
僕は頷き、俯いた。
消えてしまった過去を、完全に復元することは不可能。だから、極力消えてしまう前の形に近づくようにしながら書き直す…。
「まあ、なんとなく理解できたよ」
要するに、写本を作るってわけだ。
「でも、どうやって? 原本は残っていないのに…」
胸に浮かんだ疑問を皆月舞子にぶつけると、彼女はまた顔を顰めた。
「あんた、ほんと鈍いね」
「いや、それは…、過去が消えているから…」
「脳がダメなのね」
僕の言い訳を一蹴した後、答えてくれる。
「確かに、『記録された過去』は消えたけど、『痕跡』は消えたわけじゃないからね」
「…なるほど」
わかっていないのに頷く。当然皆月舞子にはお見通しのようで、彼女は僕を睨んだ。
「このサービスは『過去改変』なんて謳っているけど、実際に改変されるのは、自分の認識だけ。例えば、『貧乏な家に生まれた』って過去を、『裕福な家に生まれた』ってものに書き換えたところで、その過去を認識できるのは本人のみ。周りから見れば、そいつは相変わらず貧乏性で、実際に金持ちになっているわけでもない…」
「ああ、『痕跡』ってそう言う…」
僕の横槍に嫌な顔をしつつ、皆月は頷いた。
「あんたは今、自分の名前と、過去を認識することが出来なくなっているだけ。でも、あんたがこの世界で生きた痕跡はちゃんとこの世に残ってるの」
そう言うと、彼女は、とんとん…と床を足で叩いた。
「このアパートだって、あんたが借りたんでしょう?」
「ああ、うん」
「これも、痕跡だ。あんたが生きた痕跡だよ。だからね、過去を復元するべく、私とあんたがやらなくちゃいけないのは、あんたに関連するものに片っ端から当たっていって、あんたがどんな人間なのか? どんな人生を送ってきたのか? と探ることだよ」
「うーん…」
お金持ちになったことになっているが、実際にお金持ちになっているわけじゃない。
存在が消滅したということになっているが、実際に消滅したわけじゃない。
わかるようでわからない、漠然とした話に、僕の脳は沸騰しつつあった。
黙りこくっていると、皆月が言った。
「そうやって駆けずり回っていたら、そのうち思い出すと思うよ」
「え…」
顔を上げると、彼女は僕の方を見ながら、己のこめかみをとんとん…と叩いた。
「再三言うけど、人が自己を認識するときは、己の名前に保存された過去を読み込んでいるの。でも、その過去が消えてしまったから、あんたは自己を認識することが出来ていない…」
皆月舞子は首を横に振った。
「でもね、これは記憶喪失とはまた違うよ。あくまで自己の認識ができないないだけ。記憶はちゃんと、あんたの脳に保存されている…。きっと、自分の過去について調べていたら、そのうち脳に保存された記憶の方で自己を認識できるようになるから…」
「…………」
やはり、何を言っているのかわからなかった。
「そ、そうか…」
だが、皆月舞子の機嫌を損ねるのが嫌で、わかった風を装う。
彼女は「嘘つくな」と言って、僕の脛を蹴った。
「要するに、今やるべきは、自分探し。その繰り返し。そうすれば、いつかは、あんたは自分の名前と過去を取り戻す」
「ああ、うん」
「わかった? 私の話」
皆月はそう言って首を傾げた。
僕はぎこちなく頷く。
「なんとなくはわかった。つまり、僕と関係のあるものを片っ端から探って、僕の過去を忠実に再現し、書き直すってことだろう」
皆月舞子は頷かなかった。構わず、僕は聞いた。
「それで、その復元作業を続けたとして、どのくらいで完成するんだ?」
「そうだね…」
皆月は顎に手をやると、天井を仰いで考えた。
ちらっと、黒い目が僕を見る。
「大体、三年くらいかな?」
「三年?」
茫漠とした時間に、僕の声が裏返る。
「嘘だろ? 三年もかかるのか?」
すると、彼女は首を横に振った。
「嘘、一年」
「嘘?」
血管が痙攣するように震えるのが分かった。
「お前、いい加減にしろよ。なんでそんなことを…」
人を舐め腐っている、女子高生のコスプレをした女に一喝しようと息を吸いこんだが、風船の空気が抜けるように、身体の力が抜けた。
「…い、一年? 一年もするのか?」
最初に言われた三年に比べれば大分少なかったが、それでも、一年もこの状態というのは気が遠くなった。
皆月舞子は椅子を揺らしながら頷いた。
「だってそりゃ、一から書き直すんだから、そのくらいの時間は必要でしょう? しかも、こういうことするの初めてだから、もっと時間がかかる可能性だってあるし。二年、三年、もしかしたら、四年…」
そして、椅子を止めると、背を丸め、上目遣いに僕を見た。何か企みを含んだ、艶っぽい目だった。
「そこでよ。提案」
「提案…」
思わず身構える。
皆月舞子は己の胸に手を当てた。
「いい? 私は今から約一年もの間、ナナシさんに付きっ切りで復元作業を行うの」
「…ああ、うん、確かに」
「確かに、私はあの店から大金を貰っているし、必要経費は申請すればもらえるけど、それをもってしても、一年も働き続けるのは割に合わない。現実的じゃない」
あんたも嫌でしょ? と言って、彼女は僕の胸を指した。
「私みたいな面倒な女と一緒にいたくないでしょ」
「いや、そんなことは…」
「あらそう? 私はあんたみたいな根暗と一緒にいるのは嫌よ」
相手を不快にさせまいと思って否定したのに、強烈なカウンターが返ってきて、僕の胸に突き刺さった。
この野郎…って思う。
「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ」
悪びれる様子も無く、皆月はへらっと笑い、己の眉間をトントン…と叩いた。
「だから、こうしない? 私があんたのために、新しい過去を書いてあげる。その作業なら、大体一か月で済むわ」
「え…」
一瞬は、こいつ何を言っているんだ…と思ったが、すぐに理解する。
「ああ、なるほどね。確かに、割れてしまった窓ガラスを一つ一つ繋ぎ合わせて修復するよりも、新しいガラスを買った方が早い」
僕の例え話に、皆月は満足そうに頷いた。
「その方が現実的でしょう?」
「まあ、そうだけど…」
黙って考える僕の顔を、前のめりになった皆月が覗き込む。
「もしかして嫌?」
「嫌と言うか、消えてしまった過去がどういうものだったのかをわからないのに、こうも簡単に新しい過去を上書きする気にはなれないというか…」
時計と同じだよ。きっと思い入れがあるんだ。だから、壊れたとて新しいのは買わず、修理に出したいものなのだ。
すると、皆月は鼻で笑った。
「あんたの人生なんて大したことないでしょ」
その言葉に、心臓が締め付けられるような気がした。
皆月舞子は、その黒髪を揺らす勢いで椅子の背もたれに体重を掛ける。
三日月のように細まった目の隙間から、黒い瞳が僕を嘲笑った。
「大丈夫だよ。心配するほど、ナナシさんの人生は良いものじゃないから。だから、安心して新しい過去を書けるよ」
次の瞬間、僕は二歩踏み出し、皆月舞子の目と鼻の先まで詰め寄っていた。
「お前…」
視界が一瞬、赤く染まる。関節の隙間で怒りが爆発し、腕が勝手に動き、皆月舞子の胸倉を掴む。そのまま押し倒そうとしたのだが、良心がそれを引き留めた。
結果的に僕は、皆月の胸倉を握るだけ…という、なんとも間抜けな格好のまま固まった。
皆月舞子の冷めた目が僕を見る。それから、こほん…と咳ばらい。
「えっち」
「あ、ごめん…」
謝る必要なんて無いのに、そう言って手を放す。
暴力に訴えられそうになったことを咎めるようなことはせず、皆月舞子は、乱れた襟を直しながら言った。
「個人的に、あんたの人生を修復するのはお勧めしないわけ。面倒くさいってのもあるけど、良心でもあるわ」
「良心?」
一体何の建前が出てくるのやら。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる