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第六話: 予感はあるも、空回り

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 ──いちおう、近日中にまた来ることは考慮していた。



 春歌の件もあるが、姉妹たちは知ってしまった。広々とした風呂に入り、清潔で空調の効いた部屋で寝る、その心地良さを。

 少なくとも、あの不快度数常時80%越えみたいな環境に比べたら、流星の自宅は天国だろう。

 話を聞く限り、『影山家』におけるヒエラルキーは両親がトップで、その下に例の3兄弟が居て、その下に春歌たち……といった感じだ。

 両親の目が届いている内は何もされないだろうが、四六時中監視しているわけではない。言葉を濁してはいたが、何かしらの理不尽な仕打ちを受けた経験は、一度や二度ではないようだ。

 そうなると……必然的に、恋しくなるわけだ。天国のような世界が広がっている、流星の自宅が。

 他人の家とはいえ、だ。

 不潔で狭くてプライバシーの欠片も無いどころか、まともに寝られないぐらいの環境の中で毎日過ごすのと。

 清潔で広くて、異性が居るとはいえ、空調が行き届いていて快適な中で、ぐっすり安心して寝られる環境の中。

 果たして、どちらが恋しく思えて来るのか……その答えを、流星はインターホンに映し出された映像によって知った。



 ──時刻は、夕方の5時30分。あの日から、二日が経っていた。



 あの時とは違い、春歌たちの恰好は制服だったり余所行きだったりで、部屋着や寝間着といった感じではない。

 学校指定の鞄を持っていたり、遠足にでも行くかのようなリュックを背負っていたり、色あせた皺だらけの衣服だったり、ガムテープで補修されたランドセルだったり……まあ、そんな感じだ。

 やはりというか何というか……全体的に、貧乏くささが滲み出ている。その中で、代表する形で前に出たのは……先日、処女を貰った……春歌であった。


『あ、あの……流星さん、居ますか?』


 流星の自宅……つまりはマンションの最上階に入るには、手順を踏む必要がある。

 というのも、このマンションはある一定の階より上は、下層に設置してある防犯設備とはまた別の防犯が成されている。

 それは流星があらかじめ設置した物とは別に、借りているオーナーが個人的に設置した物もあるが……一番重要なのは、エレベーター前のフロアだろう。

 このマンションではエレベーター前にある程度のスペースが設けられている。いわゆる、エレベーターホールというやつだ。

 合わせて、上層階(最上階含めて)は下層階とは違い、各部屋へと通じる唯一の通路にオートロックの扉が設けられている。

 これは、不審者などが入らないようにする為だ。

 どうして上層階だけというのは、単純に住んでいる者たちが裕福である事と、上層階は部屋数が少ないので、扉を付けても今のところは問題になってはいない。

 そして、このエレベーター前のスペースは、監視カメラとセンサーによって24時間見張られている。

 これは、不審者がこのスペース内に潜んで待ち伏せする場合を想定しての処置だ。

 一定時間センサーに引っかかる&複数のセンサーに同時に引っかかるなど、センサー感知の状況が日常では考えにくい状態だと判断した場合、オーナーのスマホなどに連絡が行くようになっている。

 荷物に関しても、扉の傍にカメラとインターホンが設置されていて、該当の部屋の中から直接誰が来ているのかを確認出来るようになっている。

 扉横にガラス窓の受け渡しスペース(窓は銃弾でも貫通出来ない)が用意されており、よほどの大きな物でない限りは、ガラス窓越しに完結できるように設計されている。

 そして、先述した通り、それは最上階のエレベーターホールでも同様で……スマホに『不審人物有り』と連絡が来た時点で、流星は察していた。


 ……ある意味、最上階で良かったかもしれない。思わず、流星は思った。


 明確な理由が有って来ているとはいえ、上は高校生で下は小学生の女が計5名。パッと見ただけでは、怪しいというか、状況が全く理解出来ない。

 おまけに、彼女たちの恰好は……こう言っては何だが、このマンションの上層階に住まうような者たちの恰好ではない。

 最上階へと通じるエレベーター自体は直通なので、他の階の者と鉢合わせになる事はないが……まあまあ不審な目で見られてもおかしくはなかった……っと。


『……あ、あの、流星さん、居ますか?』
「──ああ、春歌ちゃんか? すまない、ちょっと手が離せなかった……今回も5人全員か?」


 考え事をしている内に、不安を感じさせてしまったようだ。見れば、春歌だけでなく、姉妹全員が不安そうな顔をしている。

 まあ……ここで流星が返事をしなかったら、春歌たちは家に戻るしかなくなる。

 世間一般的にはそれが普通なのだろうが、期待していた分、がっかりしてしまうのもまた普通な事で。

 素直に謝罪と共に返事をすれば、春歌たちの顔が目に見えて良くなった……本当に、期待していたようだ。

 ……ちなみに、手が離せなかったということ事態は嘘ではない。

 たまたま休憩中にインターホンが鳴ったから出られただけで、タイミングが悪ければ本当に居留守みたいな形になるところだった。


『はい、また5人で……あの、一晩いいですか?』
「構わないよ……鍵は開けたから、そのまま玄関まで来てくれ」
『──はい!』


 これまた本当に、嬉しそうに笑う。


 ペコリと頭を下げた春歌と姉妹たちは、小走りにカメラの範囲から外れる。きゃははと笑い合いながら、かたん、と扉が開閉した後……静かになった。


 ……姉妹たちはもちろんのこと、春歌も……ここを一晩で気に入ったようだが……ふと、思う。


 他の妹たちは知らないが、春歌は理解しているはずだ。ここに泊まるということは……一晩、その身体を明け渡すという事を。

 まあ、春歌はまだ成人していないが、馬鹿ではない。損得の天秤の傾いた方を選んだだけで、選んだ先がアレだっただけの事だ。

 ただ……春歌の見た目が見た目なので、傍からは売春紛いの事をしているようには見えない意外性はあるけれども……おっ。


 ぴんぽん、と。


 自宅のインターホンが鳴った。春歌たちが、玄関前に到着したようだ。

 まあ、距離にして数十メートルも無い。一番年下の子でも、小走りだと10秒と掛からずに到着する距離だ……よし。

 あまり待たせるのもなんだし、流星も小走りに玄関へ向かい、扉を開けて……その前に立っていた春歌たちと目が合うと。



 ──今日も、よろしくお願いします! 



 一斉に、その言葉と共に頭を下げられた。正直、ちょっと面食らった。思わず、動きを止めたぐらいには驚いた。

 いや、まあ……理屈としては理解出来る。

 事情を知らなければ、親切にも5人を泊めてくれる人だ。夕食も食べさせてくれるし、お風呂だって使わせてくれる。

 そりゃあ、挨拶の一つもした方が良いと思うだろう。全員が一斉にという辺りは、なんというか……若々しさが強くて、思わず流星は目を細める。

 おそらく、事前に申し合わせていたのだろう。

 姉妹たちの動きに引っかかりはなく、全員が動きと声を合わせている。練習をしたのか……まあ、姉妹だし、息を合わせるのは慣れているのかもしれない。

 流星としては対価を貰っているので頭を下げる必要はないと思っているのだが……それを春歌以外は知らないので、流星からその事には触れられない。

 チラリと春歌に視線を向ければ、当の春歌は視線の意味を理解していないのか、小首を傾げ……ふと、頬を染めて俯いてしまった。


 ……あ、これ想像したな。


 思わず、流星も春歌から視線を逸らす。

 思い出すというか、想像だけで覚悟を固めていただろうが、実物を前にして生々しさまでリアルに思い出してしまったのだろう。


 ……うむ、何だか気まずい。


 とりあえず、このまま突っ立ったままも変なので、扉を開いたまま入室を促す。

 我先に……という気持ちを隠しきれない様子で入ってくる姉妹たちの最後に、春歌が静々と入って来た……と。


「……どうした?」


 不意に立ち止まった春歌に、首を傾げる。

 けれども、春歌はそれには答えず……ほんのり赤くなった頬をそのままに、パッと流星の耳元へ背伸びをすると。



 ──あの、今夜も……よろしくお願いします。



 ポツリと、囁くようにそれだけを告げた。

 ハッと目を見開いている流星を尻目に、パッと離れた春歌は……実に意味深な笑みを浮かべながら、スリスリと……下腹部を摩り、そのまま姉妹たちの下へ……と、また。


「あの、今回も先にお風呂入って良いですか?」


 今度は、夏海だ。浴室へと続く洗面所(兼・脱衣所)の前にて立ち止まった夏海が、そう尋ねてきた。

 見やれば、他の姉妹たちも同様に立ち止まっている。

 入りたいなら好きに入っても良いのだが、影山家では帰ってすぐに風呂に入る習慣なのだろうか。


「入浴時間決まっているから、普段は落ち着いて入れないので……」


 気になって尋ねてみれば、そんな返事をされた。ああ、なるほどと流星は今更ながらに納得した。

 考えてみれば、だ。

 部屋そのものが小さいということは、浴室の風呂だって相応に小さい。夫婦2人、子供2人の4人家族ぐらいならともかく、10人以上ともなると、手狭にも程があるだろう。

 一人当たり15分の入浴で考えても、全員が入り終わるまで180分。つまり、最低でも3時間は掛かるわけだ。

 パパッとシャワーを浴びるだけなら15分で十分だろうが、入浴込で毎日15分となれば、年頃なら特に辛いだろう。

 まあ、そこらへんは一緒に入浴するとかで方法はあるだろうが……それでも、ゆっくり湯に浸かるなんて事は出来ないだろう。

 加えて、夏海曰く『時々、兄弟が覗きに来る』らしく、それがまた物凄く嫌なのだとか。

 さすがに露骨に触ってくるとかはしてこないが、偶然を装って洗面所に入って来ようとするなど、正直、浴室が狭いだけが理由ではない……とのこと。

 両親はあまり深く考えていないようで、ただ見てくるだけで家族でしょと一蹴されて、この問題は話半分にしか聞いてくれない。

 それを兄弟は理解しているからこそ、両親がアウト判定を下すラインを見定め、そのギリギリの事をしてくるのだと……実に嫌そうな顔で、夏海は話した。


「なので、入ってもいいですか?」
「いいよ、シャンプーとかはそのままあるし、タオルは……中に設置したカラーボックスに入れてあるから、それ使え」
「ありがとうございます……で、その……」
「……? 着替えなら、さすがにパンツは用意していないから、前と同じくシャツなら貸すぞ」
「いえ、あの、そうではなくて……いえ、それはお借りしたいのですが……その……」


 言いよどむ夏海の姿に、流星は首を傾げる。


 まさか、一緒に風呂に入りたい……いや、さすがにそんなわけがないだろう。


 初回はテンションが弾けていたのと、姉妹たちが一緒である事に加え、見るのも触るのも初めてなモノばかりで怖気づいていたからだし……ん? 

 しばし見つめていると、言いよどむ夏海の視線が……双子姉妹と、末妹の3人が手にしている袋とリュックに向けられている。

 中身は見えないが、袋とリュックは共にパンパンに詰まっているのが分かる。ていうか、よく見たら夏海も運動部の学生等が使うエナメルバッグ(これもパンパンだ)を肩に掛けている。

 つまり、秋絵と冬雪と桜の3人……小学生組と、中学生の夏海が、パンパンに膨らんだ袋やリュックやバッグを持って来ているわけだ。

 着替えにしてはあまりに……いや、シャツは借りたいと言っているし、だとしたら……んん、待てよ。

 ふと、流星の脳裏に過るのは……ここ二日間の天気だ。

 雨とは言い難いが、快晴とも言い難い。今日だって、雨こそ降ってはいないが何処となく空気が湿っていて、洗濯物は乾きにくいと予報では……あ~、なるほど。


「もしかして、そのリュックや袋の中にあるのは洗濯物か?」
「──っ、は、はい」


 尋ねてみれば、夏海は申し訳なさそうに頷いた……ああ、思った通りだ。

 時期が時期だし、昼間に干したって乾きにくい。それなのに、あの狭い部屋で10人以上の衣服を干せば……まず、乾かないだろう。

 ……そりゃあ、持ってくるよな。そう、流星は納得する。

 年頃に限らず、生乾きの衣服なんて誰だって着たくはないだろう。かといって、ベランダに干せる量なんて限られているし、だからといって廊下に干すわけにはいかないし……ふむ。


「……服が破けたり色落ちしたりしても責任は取らんが、それでもいいならかん使っていいぞ。何なら、乾燥機も使うか?」
「ほ、本当ですか!?」
「そのための道具だからな……あ~、だが、泥とかそういう汚れなら、風呂場である程度落としてから洗濯機に入れろ。最新型とはいえ、さすがに多量の泥を入れると壊れるからな」
「──ありがとう、ございます!」


 夏海は深々と頭を下げると、急いで洗濯機へと向かう。その後を、小学生組が追いかける。その後を、流星に向かって軽く頭を下げた春歌が追いかける。


 ……あ、そういえば洗剤が空になりかけていたような。


 後ろ手に鍵を閉めた後。少しばかり遅れて、その事を思い出した流星は、彼女たちが服を脱ぎ始める前に洗剤の場所を教えようと追いかけた。


 ……。

 ……。

 …………が、しかし。


「……あ~、すまん、そんなつもりはなかった」


 そんな流星の行動も、あと一歩遅かった。

 普段から少しでも風呂に長く入れるように、素早く衣服を脱ぐ習慣があった……のかは、流星には分からない。

 何にせよ、流星が洗面所へと入った時にはもう……全員が、衣服を全て脱ぎ終えて、生まれたままの姿になっていた。

 そして……これまた意外な事に、女の園と化したそこへ流星が入って来ても、彼女たちの反応は流星が想定していたよりも悪くはなかった。


 もちろん、良いわけではない。


 目が合った瞬間、女子連中は例外なく反射的に手で身体を隠し、身体を捻って秘所を見られないよう防御した。女子に限らない、反射的な動きだ。

 けれども、それだけだ。誰もが気恥ずかしそうに頬を染めているが、嫌悪感を見せていない。

 それどころか、「お兄ちゃんも一緒にお風呂に入るの?」末妹の桜は羞恥心を見せながらも、とっとっと……と駆け寄ってきた。

 ……正直、この子たちの自分に対する評価がどのようなモノなのかが気になる反応だ。

 反射的に隠した辺り、男性として見られているのは間違いない。かといって、恋愛的なソレというわけでは……まあいい。


「いや、そういうつもりじゃない」


 とりあえず、誤解を生みそうなので、流星はさっさと否定する事にした。


「……じゃあ、見たかったの?」
「違うって……衣類用の洗剤、もうほとんど空だからな。新しいやつが台の下に入っているから、それを教えておこうと……思って、こうなった」
「台の下……ここ?」
「そこの、奥だ。ボトルが一つあるだろう?」
「ん~……?」


 洗面台下の棚は両扉になっている。また、洗面台そのものが奥行きのある造りになっているため、中もまた相応に奥行きがある。

 屈んだ姿勢(あるいは、しゃがんだ姿勢)では取り辛いと思ったのか、桜は四つん這いになって奥を探り始める。


 ……さて、そうなると、どうなるか。


 答えは、丸見えである。何せ、桜は裸だ。しかも、探し物に意識が削がれているせいで、無造作に足を肩幅に開かれている。

 おかげで、女のワレメが丸見えである。加えて、その上にある窄まり……肛門のシワすらも、少しばかり露わになっていた。

 ……明るい所でこうして改めて見ると、本当に小さい。

 形が良いのかどうかは分からないが、僅かに見え隠れしている粘膜は唇よりも色が鮮やかだ。そして、肛門の色づきもほとんど見られず、色合いが地続きに……と。


「ねえ、二つあるよ──いだっ!?」


 目的のモノを見つけたが、ゴツンと頭をぶつけた。

 そそっかしいというか、注意力散漫というか。まあ、年齢故に致し方なし……か。

 頭に傷が出来ていないのを軽く見てから、流星は「ああ、こっちは景品だ」桜が手にしているボトルの一つを取り上げた。

 それは、半年ぐらい前にたまたま目にした懸賞にて手に入った海外の洗剤である。ちなみに、ハズレた者への救済品みたいな扱いであった。

 洗浄力の強い洗剤らしいが、流星の狙いは洗剤ではなく、こっちの水にも合わないのではと思って放置しておいたが……そうか、ここに入れてあったか。


「ふ~ん、じゃあコレ使うね」
「それと、洗剤はココに入れろよ。今の洗濯機は、洗剤の投入口が決まっているからな」
「え? あ、ほんとだ、何か凄いね」


 使い方は……流星自身詳しくない(基本、電源→自動→スタートなので)ので、最低限の使い方だけを教える。

 それで十分なのか、桜は理解と共に、自分が持って来た袋やリュックの中身をドカドカと洗濯機の中へ……って、おいおい。


「……お前、今更だけど恥ずかしくないの?」
「ん? 何が? 裸のこと?」
「いや、裸もそうだけど……使用済みのパンツを、こうも豪快に放り込まれると、逆にこっちが気まずいのだが……」
「そんなの、今更じゃん。それに、一度じゃ洗い切れないから一々小分けにしてられないよ」


 ──思春期って、よう分からん。


 反射的に、流星はそう思った。

 年齢的に、もう思春期に入っているはずなのだが、考え方が妙に論理的というか、効率的というか……いや、まあ、そっちの方が流星としては気が楽なのだけれども。

 とりあえず、隣の乾燥機も使い方を教えた後で、自由に使って良いとだけ伝言を残し……流星は、着替えのシャツを持ってくる為に、その場を後にした。






 ──晩御飯は、カレーライスである。



 実は、先ほど手が離せなかった理由がコレ。

 急にカレーが食いたくなった(残念ながら、在庫の材料が足りなかった)事に加え、色々と必要になるだろうと昼過ぎに買い物に出て、戻って来たのは3時頃。

 休憩を挟んだ後、何時ものように数日分を作る為に大量に具材を切っていたわけだが……ちょうど、玉ねぎを切り始める前に影山姉妹が来訪という流れである。

 ジャガイモや肉ぐらいならともかく、玉ねぎを切っている最中に中断されるのは嫌。なので、その時に来訪されていたら無視していただろう。

 まあ、この場合はどちらが幸運かどうかは判断に迷うところだが……少なくとも、流星としてはタイミングが良かったなと思った。

 ……で、だ。

 何だかんだ言いつつ、影山姉妹が風呂より出てきたのは1時間ぐらい後。おそらく、洗濯以外にトリートメントを念入りに行ったせいだろう。

 乾燥機が稼働している中、二回目の洗濯を行う。前回と同じく洗えるやつは全部洗うつもりなのか、姉妹たちはまたもやシャツ一枚だけとなった。

 そうなれば……まあ、色々と見える。

 分厚めのシャツとはいえ、小学生ならともかく、春歌ぐらいにもなると……乳首が透けている。張り出した乳房に引っ張られているせいで、少し仰け反るだけで秘所が丸見えだ。

 まあ、春歌だけでなく、少し捲るだけで全員が丸出しになってしまうのは前と変わらないけれども。

 さすがに、裸になってもおかしくは無い場所から離れれば羞恥心を刺激されるのか、リビングへと出て来た時には、誰も彼もがちょっと気恥ずかしそうに太ももを合わせていた。

 ……とはいえ、だ。

 トリートメントの甘い匂いを漂わせているシャツ一枚の姉妹たちの前に並べた、カレーライス。もちろん、サラダと福神漬けもセットだ。

 もう、皆まで言う必要はない。さすがに初日のアレほどではないが、姉妹たちの反応は凄まじかった。

 一番上の春歌はともかく、中学生と小学生なんて、大人並みに量を食べる子なんてそう珍しくはない。

 体質を除いて、ダイエット等で意図的に減らそうとしていない限り、男女の区別なく相応に量を食らうのは当たり前である。


(念のために、炊飯器を新たに購入しておいて良かった……)


 次から次におかわりに席を立つ姉妹たちを見やりながら、流星の視線は……つい数時間前に購入した、炊飯器に向けられる。

 良い意味でも悪い意味でもタレが浸み込んで味や食感が変わってくるオカズとは違い、炊いた米は放置すると例外なく固く風味も悪くなる。

 普段は小分けにして冷凍しているが……さすがに、女子とはいえ育ち盛りが5人も増えれば、元々ある炊飯器では要求される物量をカバー出来ない。

 ていうか、そもそも元々あるサイズがそれほど……なので、この日活躍したのが、新入り炊飯器の登場だ。

 流星宅のキッチンは家の広さに見合うスペースが用意されているので、炊飯器を二つ置いても何の問題もない。ていうか、それでもスペースが余っていたりする。

 で、各自が食べたい分だけ自分で取るようにという号令の下、マイペースに食事を進める流星と、一心不乱にスプーンと箸を動かす姉妹たちという、ちぐはぐな構図が生まれた後。

 8時を過ぎた頃には……全員の腹は満たされ、食器の片付けは終わり……自由時間(フリータイム)が到来した。

 初回とは違い、彼女たちは宿題を始めとして勉強道具を持ち込んだり、私物を持ち込んだりしていたので、特に時間を持て余すような事にはならなかった。

 まあ、流星としても変に退屈しないように声を掛けたり、書斎の本は好きに呼んでいいからと、色々と気を使ったりはした。


「パソコンがあるからネットは出来るが……やるか?」
「ん~、いいかな。漫画読んでいる方がいい」

「テレビあるけど、見たければ好きなやつ見たらいいぞ」
「今日は番組やってないから、書斎の小説を読ませて貰っていいですか?」

「ゲームは……あ~、1人用ばっかりだな」
「私たちも、漫画読ませてもらうね」


 その結果、意外な事に姉妹たちが最も反応したのはゲームやテレビやネットではなく、漫画や小説をまとめて置いてある書斎であった。

 書斎といっても、流星宅の書斎は一般家庭のソレよりもはるかに広く、ぎっしり詰まっている。有名どころもあるが、けっこうマイナーな作品も置いてある。

 下手な漫画喫茶よりも、よほど品ぞろえが良い。何せ、漫画に比べたら棚の数は少ないが、蔵書が収まった棚も8台あるのだから、その量が想像出来よう。

 おまけに、空調のみならず魔法による裏ワザで状態を保っているので、どれもが新品並みに綺麗なままである。漫画喫茶どころか、個人書店よりも質が良いぐらいだ。

 これは、他の家電とは違って、単純に流星の趣味である。なので、書店とは違い、週刊月刊問わず雑誌は置いていない。

 いちおう、電子書籍も幾つか購入しているが、どうにもスマホで読むには画面が小さすぎてイラつくし、解消のためにタブレットを買うのも面倒臭かったので、もっぱら現物である。


 ……で、そんな書斎に……姉妹たちの興味が、バチッと引き寄せられてしまったわけである。


 血の繋がりゆえに好みが似通っているのか、テレビやゲームやネットにはほとんど目をくれず、漫画や小説を手に取っていた。

 それは長女の春歌とて例外ではなく、「あの、立ち読みしかしたことなくて……」と、とても恥ずかしそうにしていた。


 ……そう言われて、なるほど……と、流星は思った。


 確かに、あの家の状況では漫画や小説などあるはずもない。

 有ったとしても全巻そろっている可能性は限りなく低そうだし、有っても……おそらく、父親か母親の好みの漫画だろう。

 古本屋で立ち読みするにしても、昨今は比較的新しい漫画はビニールで閉じられているし、そもそもこのマンションの近所には店が……うん。



 ──夢中になっているなら、そのまま眠くなるまで夢中になればいい。



 あのような煽り方をされて放置されるのは正直辛いが、今まで我慢し続けたのだ……少しぐらい自分勝手になるのも、悪くはない。

 それに……軽く伸びをした流星の肩は、こきんと音が鳴った。

 遠出して色々と買い込んだ事に加えて、もう一つ。十代の少女の華やかさには元気を貰えるが、やはり……その活力に体力が削られてしまう。


(これは……結局、疲れているから今日は無しってことにしそうだな、俺の方から……)


 そう判断した流星は、「喉が乾いたら冷蔵庫のやつは好きに飲めよ」とだけ姉妹たちに告げると、リビングに向かい……映画を見る事にした。

 酒は……どうにも、飲む気にはなれない。

 未成年が傍に居るだけでなく、単純に気分ではない。なので、コーラで唇を湿らせつつ、つい先日上映が決まった作品の過去作を見やり……その、最中。


「……、……、……」


 気付けば、流星は……腹が膨れた満足感と、昼間の疲れも相まって……映画を点けっぱなしにしたまま、ソファーにて寝入ってしまった。



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