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第三話: 女三人で姦しいなら、女5人では?

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 かちゃん、と。玄関の扉が閉まると同時に。


「──ふわぁああああ……」


 ため息にも似た歓声を上げたのは誰なのか……それは、流星にも分からなかった。

 だって、長女から末妹に至る5人全員(おぶさっていた桜も、さすがに途中で起きた)が、似たような反応を示したからであった。

 まあ、そんな反応を示すのも仕方ないのかもしれない。何故なら、流星の自宅であるマンション最上階は……フロア全部である。

 日が当たりやすいように段々の構造になっているが、元々がマンション三つ分。土魔法『クリエイト』で整地したおかげで、以前より生じていた無駄なスペースも減った。

 様々な設備を置いた事で、三つ分を合わせたそれよりも総面積は小さくなっているが……それでも今のマンションは、以前のマンション一棟分よりも二倍以上も大きくて豪華で広いわけだ。

 そして、そんなマンションの最上階……オーナーである流星の自宅ともなれば、それに見合う……いや、それ以上に金が掛けられていた。

 単純に、部屋の数が多い。そして、一つ一つの部屋が広い。もう、この時点で金が掛かっているのが透けて見える。

 そして、廊下もそうだが壁紙一つに至るまで、新品同然。置かれている家電も最新式なモノが多く、照明器具も真新しく、何もかもがピカピカだ。

 基本的に物欲が薄いので、物もそれ程多いわけではない。だからという言い方も変な話だが、だからこそ余計に……部屋の広さというか、質の良さが分かる状態であった。


「──ああ、ちょっと待て」


 若干の気後れが見られる姉妹たちの中で、真っ先に動いたのが末妹の桜で……今にも走り出そうとするその身体を、脇に挟むようにして抱えた。


「奥に行く前に、まずは風呂に入れ」
「お風呂?」


 元来人懐っこい性格をしているのか、それとも気を許しているのか……それは、流星には分からない。

 ただ、抱えられたまま見上げてくる桜の……明るい所で見ると、夏海をそのまま幼くしたような顔立ちの……向けられてくる視線に、流星は力強く頷いた。


「ああ、お前らけっこう汚れているからな。そのまま奥に行かれると後で掃除が大変なんだよ」


 顎でクイッと指し示せば、姉妹たちは一様に互いに視線を向けた後、己の足元へ向けて……ああ、と納得した。

 有り体にいえば、汚かった。あと、口には出していないが、臭いもする。

 特に汚いのが、両足……つまり、靴下だ。

 当人たちに責任を問うのは酷な話だが、姉妹たちが一歩動く度に、うっすらと足跡がその場に残されていた。

 ……途端、姉妹たちは居心地悪そうに縮こまってしまった。

 おそらく、自分たちがどのような姿だったのかをようやく自覚したのだろう。部屋の綺麗さのおかげで浮き彫りになったからなのか、目に見えて落ち着かない様子であった。

 なので……付いて来い、と案内する。

 幸いにも、この家の浴室はリビングに通じる廊下の途中にある。

 姉妹たちは壁を始めとして、余計に触らないように注意しながら流星の後に続き……そして、またもや溜め息にも似た歓声をあげた。


「わ~、すっごい……ひろ~い……」
「素直な感想、どうも」


 抱えられたまま、ポツリと零された桜の感想は、実に素直なモノであった。まあ、そうなるのも致し方ない。

 広さもそうだが、壁一面を使って描かれた富士山。大人が5人10人入っても余裕がある広々とした浴槽には、手すりや滑り止めが設置されている。

 その浴槽内……目を凝らせば、一部がスロープに……つまり、仰向けになったままゆったりと湯に浸かれるようにも設計されているのが分かる。

 更には、浴室の広さに見合う数の、シャワー装置一式。その数、3台。曰く、『一つだとバランスが取れない』という理由から設置したものだ。

 つまりは、ポツンと一つだけだと寂しいというか、味気ないというだけの理由である。

 正直、事前情報無しでこの場を見たならば、ここはどこぞの銭湯かと思うのも不思議ではないぐらいに……こう、流星の趣味が爆発していた。

 ちなみに、壁の一部に内蔵式のテレビが設置されており、姉妹たちの視線が明らかにそちらへ向けられているが……まあ、いちいち説明する程でもないので、何も言わず。


 ……で、だ。


 抱えた桜を下ろしつつ、手早く給湯のスイッチを入れる。

 浴槽と給湯設備の釣り合いが取れていないと、湯を張るまでに無駄に時間を要するばかりか、最悪の場合は湯が温まらない事もあるが、そこは魔法でカバー。

 給湯装置一式、全て最新式を揃えているのも相まって、凄まじい勢いで湯が流し込まれてゆく。その勢いは滝が如くであり、ぽけ~っと、姉妹たちは呆けるしかなかった。


「──お前ら、服はどうするんだ?」


 洗面所(この場合、脱衣所か?)に戻って直後のその言葉に、姉妹たちはハッと我に返る。「洗濯してもいいが、着替えはシャツぐらいしかないぞ」と告げれば、姉妹たちは……そう、長くは悩まなかった。


「──お風呂!」


 パパッ、と。

 一番年下である末妹の桜の反応が、一番早かった。

 年頃であるはずの少女は、御世辞にも綺麗とは言い難い皺だらけの寝間着──だけでなく、下着までも脱ぎ捨て、あっという間に素肌を晒した。

 ……そうして、眼前に姿を現した少女の身体は、やはり、見た目通りに少女であった。

 手足は細く、スラッと伸びている。僅かばかり膨らみを見せている乳房は、乳首の辺りがツンと前に背伸びをしている。

 性器に至っては、成長の気配が見られない。まっすぐ入ったワレメには産毛一つなく、軽く足を開いている状態でもクリスリスは見えなかった。

 あえて言葉を当てはめるのであれば、第二次成長期を迎える直前、といった感じだろうか。

 あれほどの環境に居るだけあって、少女の身体はやせ気味である。しかし、痩せ過ぎというわけではない。

 単純に、太れるほどの量を食べられていないのだろう。

 まあ、先ほど見た家の様子から、家計の問題、栄養バランス、その他諸々を考えられないのは、すぐに想像が付いた。


 ……いや、まあ、そんな事よりも、だ。


 あまりに素早い判断というか、早脱ぎ。普段からそうなのか、少しばかり気恥ずかしそうにしていたが、それだけだ。

 脱ぎ始めたと思った時にはもう脱ぎ終わっているという漫画のような勢いに、姉妹のみならず流星までもがポカンと呆ける他なかった。


「これに入れたらいいの?」


 とはいえ、脱ぎ捨てた衣服を見られるのは嫌なようで、パンツを隠すように衣服でぐるぐる巻いて、尋ねてきた。

 ちなみに、『これ』とは、浴室と隣接している洗面所に設置してある洗濯機である。もちろん、これも最新モデル。

 自身の洗濯は今日の昼間に全部済ませているので、中は空っぽ。頷いてやれば、桜は何も入っていないのを確認してから、ほいっと投げ入れ……ふむ。


「おい、入れるなら服を丸めて入れるな、それで汚れが残っても知らんぞ」
「あ、そうか……見ないでね」
「それ以前に、お前はその恰好で恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいと言えば恥ずかしいけど、みんなが居るから我慢出来る恥ずかしさ」


 ──えっち。

 そう呟きながら、桜は両手で胸とワレメを隠した。言葉通り、恥ずかしくはあるけど姉妹が居るから我慢出来るらしい……と。


「あ~もう、だったら私もお風呂入る!」
「……私も!」


 桜の行動がキッカケになったのか、姉である双子の秋絵と冬雪もパパッと衣服を脱ぎ捨て、洗濯機に放り込み……何故か、流星の前に並び立った。

 ……桜よりも一学年上なだけあって、その分の成長が2人には見られ……そして、幾らか身体つきにも違いが生じていた。

 有り体にいえば、姉の秋絵が若干の柔らかさが出ている感じだろうか。どちらもスレンダーではあるが、どちらかといえば冬雪は筋肉質に見えた。

 ちなみに、2人とも陰毛は生えていない。女の子の身体つきに近付いてはいるが、まだまだ子供といった雰囲気が滲み出ていた。

 ……ここまでは、まだ流星も平静でいられた。

 姉妹たちは全員が美少女の範疇とはいえ、だ。

 溜まっていたなら少しばかり反応したかもしれないが、とりあえず、この時点ではまだ平気な顔でいられた。


「……じゃあ、私も」


 けれども、影山家の次女である夏海が脱いだ時点で……そのように平気な顔ではいられなくなった。

 強いて、その裸体を言葉にするならば……大人と少女の中間といった感じだろうか。

 幼さが全面的に出ている下の妹たちと違い、夏海は若干ながら大人の顔つきに近付いている。そして、身体のラインはほぼ女性だ。

 胸は流星の掌で包める程度のサイズではあるが、しっかり乳房の形をしている。乳首も明らかに下の3人に比べて大きく、しっかり女の輪郭が出来上がっている。

 特に目立つのが……腰から下、尻の形だろう。下の3人に比べて、明らかにサイズが異なっていた。

 とはいえ、太っているわけではない。

 そこへ繋がる腰の引き締まりが、そこから伸びる太ももの形が、まるで尻の形を際立たせる為にあるかのような、見事なバランスであった。

 そういう世界に興味のない流星ですら、(こいつ、『尻専属モデル』があったらそれで一稼ぎ出来たのでは?)と率直に思ってしまったぐらいに、魅力的であった。

 ……ちなみに、陰毛は生え揃っている。

 毛深いわけではない、むしろ薄めだろうか。これまでの3人とは違う『女性』の証に、自然と流星の視線は夏海の下腹部に向けられ……っ!? 


「……あ、あんまり見ないでね」


 ぽつり、と。

 その呟きと共に、夏海の隣で脱ぎ始めたのは、影山家の長女である春歌……だが、その瞬間──流星は、反射的に片手で己の下腹部を隠した。

 いったいどうして……それは単に、露わになった春歌の裸体が、想定以上であったからだ。

 有り体に言えば、グラビアアイドルだ。

 それも、胸は大きく腰はくびれて尻も形良しな、正統派というか王道なグラビア体型というやつだろうか。

 水着を着て浜辺を歩けば、男たちの視線を集める事が必至なスタイルだ。これで、本職にも引けを取らない美形ともなれば……流星でなくても、動揺して当然である。

 ちなみに、陰毛はちゃんと生えている。というか、もう完全に女で、乳房一つとっても大人の形になっている。

『尻』という一点に絞れば次女に軍配が上がるけれども、総合的に見れば圧倒的に長女に軍配が……いくら何でもコレは無理……と、流星はそっと視線を逸らした。


「……ふ、風呂の、使い方は分かるか?」
「え? あっ……」


 尋ねてみれば、気恥ずかしそうに視線をさ迷わせていた姉妹たちが一斉に浴室内へとなだれ込み……困った様子で、互いを見合わせた。

 まあ……分からんでもないなと流星は思ったし、客観的に見れば、ちょっと戸惑うのも当然である。

 というのも、流星の家の入浴設備……この場合はシャワー設備もそうだが、下層フロアの住宅に取り付けられているソレとは、少しばかり形が異なる。


 なので、初見ではちょっと戸惑うだろう。


 まあ、適当に触れば、すぐにでも分かる程度の違いだが……しかし、ここで問題となるのは、それが他人の家であるからだろう。

 つまり、下手に触って万が一にでも壊してしまったら、取り返しが付かないから怖くて触れない……といった感じである。

 そして、そんな姉妹たちの不安を後押しするのが、もう一つ。

 それは、浴室のコントロールパネルだ。しかも、様々なオプションが組み込まれている浴室のコントロールパネルは、二つある。

 いちおう、小さな文字とはいえ、各ボタンの上には機能の名称が付いているので一目で分かる作りにはなっているが……明らかに、一般家庭のあるそれよりもボタンの数が多い。

 だったら触らなければ良いだろうという話だが、問題はそこではない。

 二つもあるという、ただそれだけで、形が違うだけのシャワー設備一つが、姉妹たちには高級品に見えてしまっている……というわけなのだ。


 ……少しばかり想像してみれば、姉妹たちの気持ちも薄らと理解は出来る。


 たとえるなら、数十万、数百万の値札が張られた高級品を触って動かし、それらに囲まれた中でシャワーを浴びたり入浴したりしろと言っているようなものだ。

 そんな簡単に壊れるものじゃないと言われたところで、だ。

 万が一傷でもつけてしまったら修理費、場合によっては全額弁償になる可能性を想像してしまえば……そうならないと分かってはいても、腰が引けてしまうのも仕方がない話である。

 実際、今にでも飛び込みそうなぐらいに先走っていた桜も、いざ入浴という段階になった辺りで、少しばかり不安そうに視線をさ迷わせている。

 この中では一番年下の桜ですらそうなのだから、金銭の重みを十二分に理解している長女の春歌と次女の夏海に至っては……傍目にも、表情が強張っていた。


(……これ、説明しただけで大丈夫なのだろうか?)


 一抹の不安を覚えながらも、とりあえずはコントロールパネルの使い方を説明する。

 強張っているだけで頭は動いている姉妹たちは、流星の説明をしっかり聞いて、理解した。これで、いちおうは大丈夫なはず……と、思うけど。

 そうして、ふと……流星の視線が、シャワーと一緒に設置されている台……台とはいっても、ボトルを置ける程度のスペース……に置かれた、ボトルに留まる。


(……この人数でアレでは足らんな。ていうか、アレはメンズ用……あ~、レディース用なんて有ったか?)


 メンズ用とレディース用にどれ程の違いがあるかは知らないが、わざわざメンズ用とアピールしてあるシャンプーで髪を洗わせるのは可哀想な気がする。

 加えて、風呂桶なんかは別としても、足りないのはシャンプーだけではない。

 トリートメントもそうだし、身体を洗う垢すり(タオルもそうだ)も足りない。

 まあ、さすがに全員分の垢すりなんてないので、タオルで代用させるが、そうすると入浴後に身体を拭くタオルが足りなくなる……仕方がない、未使用の新品を開ける他ない。

 幸いにも、去年ぐらいにまとめ買いしたタオル類(40%引き)がある。擦れば落ちる、汚れとはそういうものだし、ソープ類も確か傍の箱に……ヨシ。

 そんな事を考えながら、とりあえずシャワーで身体を洗うようにと指示を出してから、物置部屋として使っている部屋へ。 

 部屋が沢山あると、一つの部屋を丸ごと物置として使えるから便利である。

 ダンボールのまま保管(もちろん、中身は書いてある)していたので、特に時間も掛からず目当ての物を持って……戻ってきた、わけなのだが。


「……お前ら、まだ入っていなかったのか?」


 予感はしていたが、誰一人シャワーを浴びないまま突っ立っている事に、流星はため息を零した。

 いくら夏が近づいている時期とはいえ、裸のまま突っ立っていれば身体も冷える。特に、流星の家は空調を利かせている。

 服を着ているならば丁度良いが、裸では肌寒い程度だ。その証拠に、姉妹たちの若々しい身体に鳥肌が立っているのが見えた。


「そんな簡単に壊れるものじゃないし、壊れても弁償しろだなんて言うつもりはないぞ」
「……だって」


 居心地悪そうに肩を寄せ合う姉妹たちを前に、流星は頭を掻いた。


「まあ、いくら口で気前の良い事言ったって、いざとなれば掌返しするやつ多いからな……不安に思う気持ちは分かる」
「…………」
「でもな、さすがにそのままでリビングの方に来られるのはマズイ。せめてシャワーで最低限の汚れを落としてもらわんと……」
「……じゃ、じゃあ、一緒に入ってください」


 思わず、といった様子で口走ったのは……長女の春歌であった。


「──はぁ?」


 これには、流星のみならず、他の姉妹たちも同様に目を見開いた。

 だが、驚き硬直する流星とは違い、姉妹たちの復帰は早く……むしろ、良い考えだと言わんばかりに、目に見えて表情が明るくなった。


「そうだよ、お兄ちゃんも一緒に入ればいいじゃん!」
「恥ずかしいけど、触って壊したら怖いから、動かしてほしいし」
「触っちゃ駄目なところも教えて貰えるし、そっちの方がいい!」


 というか、滅茶苦茶乗り気である。誰もが、これで決まりだと言わんばかりにテンションが上がっている。

 それどころか、不安から解放された反動からなのか、今しがたまで秘所を隠していた両手で流星の腕を取ると、ぐいぐいと引っ張り始める始末。

 流星からすれば、お前ら年頃の娘だろ恥ずかしくないのかと思うような事だが、何故か彼女たちはそこまで気に留めていない。



 ……これは、さすがにおかしい。



 当初より感じていた違和感が、強まる。

 ほとんど裸に近い状態で過ごす、未開の地ではないのだ。

 いくら何でも貞操観念というか、思春期の娘が持つ羞恥心、異性に対する警戒心が無さ過ぎる。

 いや、でも、次女の夏海は当初、流星に対して警戒心を見せていた。まあ、すぐに引っ込めてしまったが……気になった流星は、率直に色々な意味で『男が怖くないのか?』と尋ねてみた。


「……怖いと言えば怖いけど……お兄さん、変に取り繕ったりしていないから、逆に信用出来ている感じかも」


 すると、姉妹たちの中で代表する形で答えたのは、次女の夏海であった。ていうか、お兄さんって……。


「……と、言いますと?」
「こう言っては何だけど、お兄さんは最初から全然下心とか無くて、ずーっと面倒臭そうにしてたのが良かった。あと、何だかんだ言いつつも優しくしようとしてくれているから」
「……何で、それで良いって事になるの?」 


 マジで意味が分からんのだけれども……そう言葉を続ければ、「だって、裏表が無いから」夏海はそのように答えた。


「そういう事をしたいなら、そうしたいって聞けばいいなって思う。それを隠して良い人のフリで近づいてくるより、私はずっと好ましい」
「……分かったような、分からないような」
「分からなくていい。ただ、私たちは、お兄さん相手ならいいかな……って、思っただけだから」
「いや、ほぼ初対面だぞ」
「初対面で浮気する人だってゴロゴロいる。それに、うちは大家族で……お父さんとか、風呂上りは裸でウロウロしているから見慣れているし」
「……お前が良くても他のやつらは分からんだろ」
「分かるよ、だって私たち、何だかんだ言いつつも似たもの姉妹だし……ねえ?」


 意味深に笑う夏海に対し、春歌たち姉妹は一様に頷き……あっけらかんとした様子で、笑った。


 ……。

 ……。

 …………そこまで懇願されてしまえばもう、流星が言える事は何もない。


 というか、いちいち反論する事も、抵抗する事も面倒になった。はっきり言えば、色々な事に葛藤するのが面倒になった。

 何と言えばいいのか……アレだ、姉妹たちは、ある種の興奮状態にあるのだろうと流星は結論を出した。

 言うなれば、旅行先でテンションが上がりまくっているようなものだ。

 これが1人ならともかく、姉妹たち全員が集まってしまっているからこそ、普段では考えつかない大胆な思考になっているのかもしれない。

 いわゆる、みんなで渡れば赤信号も怖くない、というやつだ。

 兎にも角にも、このままあ~だこ~だと言い合ったところで何一つ状況が動かないだろうという事も分かった。

 まあ、いざとなれば、魔法でどうにかするしかない……か。

 最終的に、ため息と共に観念した流星は……そのままの格好で入ろうとして。


「服濡れちゃうよ? 私たちは気にしないから」


 駄目押しに袖を引っ張られた……はあ、そう言うのであれば……と、一息にシャツとズボンをパッと脱ぎ捨てた。


 途端──姉妹たちからきゃあっと淡い悲鳴が飛び出した。


 まあ、予測していたとはいえ、アラサー後半に差しかかろうとしている男の全裸が、改めて眼前に晒されれば……二十歳にもなっていない娘たちが声の一つや二つ、当然である。

 おまけに、流星の身体は一般的な男性のそれではない。

 腕の盛り上がりも、胸板の厚さも、太ももの太さも、アスリートのようで。腹筋のシックスパックは、弾丸すら受け止めそうな程にパンパンだ。

 レスラー体型よりも痩せている、いわゆる細マッチョというやつだ。

 異世界でのトラウマより鍛えに鍛え、今でも万が一を考えて、魔法も用いて出来うる限りの維持を続けている……その結果であった。


「……大きくなってないのね」
「やっぱり、おっぱい無いと駄目か?」


 とはいえ、うら若き少女たちの裸体がずらっと並んでいるとはいえ、それだけでいきり立つ程に流星は精力的ではないし、そこまで性欲も溜まってはいない。

 先ほどは不意打ち的なアレで反応しかけた(というか、アレは反則だ)が、極力見ないように意識すれば、何とか垂れ下がったままを保つ事が──って。


「ちょ、おいこらっ」
「わぁ、けっこう柔らかいのね」
「お~、ぶらんぶらんしてる」


 何やらブツブツ呟いていた双子の秋絵と冬雪が、いきなり流星のブツを掴んだ。あまりに突然の事で、身構える事すら出来なかった。

 小学生とはいえ、2人掛かりで手を伸ばされればブツも収まる。実物を触るのは初めて(まあ、そうだろう)なのか、その手付きは恐る恐るといった感じだ。

 けれども、それは嫌悪から来る怖がりではない。

 痛くはないのかなという、こちらに怪我を負わせない意味での怖がりで。自分には無い異性の生殖器に対する、思春期が生み出す無鉄砲な好奇心による行動であった。

 もみもみ、もみもみ、と。

 恐る恐るだった指先の動きは、瞬く間に大胆に。

 正確な加減は分からなくとも、これぐらいは大丈夫なようだと理解した途端、目に見えて二人の……息の合った双子の指先の動きが増した。

 感触が気に入ったのか、まるで触手のようにブツに……陰茎にからみつく。弾力を確かめるかのように二つの玉はぽんぽんと掌で弾かれる。

 正直言って、だ。

 愛撫どころか子供の弄りでしかないそれは、雑も雑な触り方である。風俗嬢のソレに比べて、明らかに快感を与えるソレではなかった。


 ……しかし、状況がそうさせなかった。


 その気が無いとはいえ、刺激をされれば相応に反応する。

 子供とはいえ……いや、子供という異様な状況が、逆に腰の奥より不思議な熱を誘発させ……有り体にいえば、ちょっと反応した。


 じわっ……と。


 半立ちとまではいかなくとも、少しばかり芯が入った。血流が、とくりと流れて行くのを感じ取る。

 合わせて、むくむくむくっと硬さと太さと長さが増し始めたのを感じ取った双子は、おおっと目を見開き──。


「──っ。はい、そこまでっ!」


 ──その瞬間、流星は無理やり二人から一歩身を引いた。

 ぶるん、と鎌首をもたげたブツが、ぴくんぴくん、と強張りに合わせて震える。「ほぉぉぉ……!」誰のため息か、何とも言えない空気が広がった。


「弟のやつよりも相当にデカい……!」
「いや、お前の弟ってことは、年子でも中二だろ? 俺も自慢できるサイズじゃないけど、さすがに中二と比べられるのは嫌だぞ」


 けれども、直後に思わずといった様子で零した夏海の感想によって、そんな空気もさらりと流れてしまった。

 ……。

 ……。

 …………と、とりあえずは、だ。


「……何時までも突っ立っているわけにもいかんし、さっさと風呂に入るぞ。浴槽に入るのは、汚れを落としてからだ」
「そのシャンプー、使っていいの?」
「好きに使ってかまわん。とにかく、時間も時間だからさっさと済ませるぞ」
「は~い」


 これ以上このままだと、また妙な空気というか、妙な流れになりかねない。

 それを危惧した流星は、強引に話を打ち切り、姉妹たちを無理やり浴室へと連れていくのであった。


「あ~、それと、春歌……で、いいんだよな?」
「はい、そうですけど……?」
「ぶっちゃけた話、お前を見てチンコが立つのは仕方ないと思ってくれ」
「あ、はい……あ、あの、それはもう仕方ないと思っていますので……」


 その際、当然……というわけでもないが、言わなければならん事だけはしっかり告げておくことは、忘れなかった。


 ……。

 ……。

 …………が、しかし。


 そんな流星の気遣いは……実の所、そこまで意味は無かった。

 何故かと言えば……答えはまあ、アレだ。


「……シャンプーの泡が立たない、だと? お前ら、身体赤くなるまでタオルで擦りまくれ」
「腕が疲れた~お兄ちゃん、洗って~」
「はいはい分かりました、とりあえず俺が開けて良いって言うまで目を瞑ってろ」
「あ、それいいかも。お兄ちゃん、背中擦って」
「わたしも、前は洗うから」
「それは構わんが、俺は1人だ。順番にやるから、おとなしくしろ。ていうか、お前ら二人で洗いっこしろよ」
「あの、流星さん、御背中流しますね」
「ああ、いや、俺の事は良いからお前も身体を──って、おい止めろ、横から洗おうとするな、視界に入ると駄目だって言っただろ」
「お兄さん、テレビ点けていいですか? 前から見たいと思っていた番組があったのです」
「構わんが、見る時は縁にでも座れよ。熱中すると、すぐにのぼせるから注意だぞ」


 入る前は、どうなってしまうのかと幾らかドキドキしていたが……いざ、事が始まれば、そんな事を気にする余裕などなかった。

 おそらく、大家族ゆえに……それも、色々と問題を抱えているがゆえに、頼れる相手(あるいは、甘えられる相手)が居なかった影響なのか、それは分からない。

 ただ、あっという間に順応した姉妹たちが思い思いにくつろぎ、甘え、遊び始めれば、まとめ役になっている流星が……その後始末に回るのは、必然の結果だったのかもしれない。


 ──女三人寄れば姦しいって、この事か。


 まだ子供だからというだけの理由なのだろうが、それでも、流星はそう思わずにはいられなかった。

 ぶっちゃけ、お風呂を出る時には、流星は精神的に疲れ果てていた。

 次から次にコレしてアレしてと迫ってくるのを相手するばかりで、そういった空気になる以前の話であった。


 なにせ……彼女たちはみな、相当に身体が汚れていた。


 子供とはいえ異性の頭を洗うという行為に最初は少しばかり緊張したが、泡が立たないという事実に、思わず真顔になった時点でもう、戸惑ってはいられなかった。

 結局、一度の洗髪では汚れが落ち切らず、各自2回。腕が疲れたとかで、頭を洗ってやること数回。

 その後に、トリートメントを付けるのに何故かお願いされ、全員の髪に万遍なく刷り込み……その後、次から次に姉妹たちの身体をタオルで擦りまくる。

 その時にはもう、興奮するしない以前に、ただの流れ作業であった。グラマラスな春歌の裸体すら、この時ばかりはピクリとも反応しなくなっていた。

 時刻は、既に深夜だ……流星自身、もう寝たい気持ちもあって、出来うる限り手早く入浴を終わらせた……のだが。

 ……テンションが上がっている姉妹たちの……いや、活力に満ち溢れている成長期の体力を甘く見ていた事を悟ったのは、風呂を出てからであった。



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