久遠の魔法使いの弟子

つるしぎ

文字の大きさ
上 下
6 / 28
魔法使いとの出会い

   悪夢との再会

しおりを挟む
 その場に一人残されたロボは、大きく溜息をついてぼんやりと人混みを見ていた。
 重く暗い感情が頭の中を支配していて、何かを考える気力が湧かない。
 だが、ここにずっといても仕方がないので、頭を一度まっさらにする為に頭を強く振った。

 この街に留まっていれば、治安維持部隊の3人に捕まるのは時間の問題だろう。
 一刻も早く街を出て身を隠すのが一番なのだが、恐らくこの考えは読まれ、街の出入口は監視されている可能性が高い。
 街の外周を囲うように建てられている高い塀をよじ登るのはとても難しく、今のロボの足では元より不可能だった。

 一瞬、ダスティの足があれば塀を登るなんてことは容易だったのに…、との考えが頭に浮かんだが、それを舌打ちをして消した。

 賭けるとしたら、この街から仕入れ、卸に出る馬車に忍び込むことだろうか。
 人を乗せて出る馬車もあるが、獣人が乗っていれば警戒される。
 それに、正規に街を出るにはそれなりの許可証が必要だ。

 今のロボに、そんなもの持っている筈がなかった。
 取り敢えず、馬車の様子でも見に行くか。
 ロボはその場を移動しようと腰を浮かせたとき、頭上から声が降ってきた。

「友達は大事にしないとダメだよ」

 聞き覚えのある声にロボは驚き、瞬時に顔を上げた。
 先程見かけた顔、下っ端の男や被り物をした女に指示を出していた、ガタイのいい男だった。

 周囲に溶け込めるように紋章の付いたジャケットは脱いで、裏返しにして右手に持ち、シャツだけの姿で男は立っていた。

 ロボは浮かせていた腰を降ろした。
 もう逃げ場はない。
 既に一度反撃の手を使ってしまったのだ、同じ手は通用しないだろう。

 それに先程のダスティとのやり取りを見られていたのなら、逆に丁度いい。

「あいつはもう関係ない」

 ロボの言葉に男は頭にはてなを浮かべながら暫く考え、

「そういうことか」

 となにか納得したように言った。

「別にそこまでするほどの給料貰ってないしな。安心していい」

 男は何かを探すように自身の懐の辺りを触り、右手にぶら下がっている上着を見て、残念そうな顔をした。

「他の2人は?」

 相手の情報を少しでも探る為に、返事が返ってくることをあまり期待せずに問いかけた。
 男は仕事がひと段落着いたと思って気が抜けているのか、すんなりと返答した。

「喧嘩してうるさかったから、その辺で待機させてる。最近の若い子はなに考えてるか分かんないから苦労するよ」

 男は大袈裟に溜息をついた。

「なんのために俺は連れていかれるんだ」

「さあな。この仕事長いけど、国がなんであんたらみたいな特定の獣人を回収しているのかは知らない。というか考えないようにしてる」

「それなら」

 尚も会話を続けようとするロボを遮り、男はロボの腕を掴んだ。

「さ、もういいだろ? あんまり会話はしたくないんだ。情が移るから」

 腕を引っ張られ無理矢理立ち上がった時、足の痛みで態勢を崩した。
 その肩を男に捕まれ、肩を借りるような姿勢で歩いていた時、ロボの目の前に、誰かが立ち塞がった。

 下を見ながら歩いていたロボはそれに気付かず、その目の前の人物にぶつかってしまった。
 顔を上げると、フードで顔を隠した見覚えのある姿が立っていた。

「ねえ、君あの時の子だよね?」

 数日前に会ったその忌々しい姿に、ロボは眉間に皺を寄せる。

「やっぱりそうだ! 良かった、会って謝りたくてあの日からずっと探していたんだ」

 フードの男は嬉しそうなに口元を緩ませて、ロボの肩を掴んだ。
 衝撃で身体が揺すられ、足の痛みで顔を歪ませる。
 それにフードの男は気が付いたようで、心配するような声を掛けてきた。

「どうしたの? あの時の傷、まだ痛むの?」

 ロボの身体を上から下まで見て、原因が足だと分かると、顔を上げてロボの顔を覗き込むように見てきた。

「足を怪我しているんだね。僕は医者ではないけど、多少知識はあるから応急処置程度は出来ると思うよ。その辺で座って怪我の具合を見させてくれないかな」

 どれほどロボの事を探していたのか、前に会った時よりも大分興奮気味に話すフードの男に圧され、それまで呆気に取られていたガタイのいい男が、ようやく口を開いた。

「あー、俺等が治療する所だったんで、大丈夫ですよ」

「え? あー、そうだったんですか。それは余計な事をしちゃったかな。貴方はこの子の保護者の方ですか?」

「え、あーいや…、まあ、そんなもんです」

 ガタイのいい男はどうしたもんかと頭を掻いた。
「じゃあ、俺等はこの辺で」

 腕を引かれてその場を去ろうとする二人に、フードの男は再度声を掛けた。

「せめて二人の自宅まで、送らせてもらえませんか?」

「あー…、分かりました」

 上手い断り方が思い浮かばなかったのか、ガタイのいい男は了承した。
 フードの男は足の悪い俺をおんぶすると言い張って聞かず、ガタイのいい男も圧される形で渋々従っていた。

 この男に助けを求めようかと思案したが、ここで安易に行動すればこの男にも危害が加わる可能性があるかもしれないと思い、ロボは口を噤んだ。
 大通りを抜けて路地に差し掛かったところで、ガタイのいい男は

「もうこの辺りで」

 と歩みを止めた。

 フードの男は軽く周囲を確認すると、

「そうですね。あれ、なにか落としてますよ」

 と答えてフードの男はしゃがみ込み、拾ったなにかをガタイの良い男に見せた。
 その瞬間ローブの男は何かを呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...