615 / 692
第三十四章
降り注ぐ水と音
しおりを挟む
「へっへっへ。活躍はできねえしカードも貰うし、挙げ句にあの餓鬼のボールを頭に喰らって交代になるし。私もヤキが回ったかと思ってたけどよ、とんだご褒美が最後に待ってたって事だな!」
スポーツブラ姿になったティアさんはそう言ってカッカッカと笑った。下着にネックレスという言い方をすれば扇情的な姿だが、そこまであまりエッチさが無いのは何故だろう? もしかして俺もリーシャさんと同じく『スポーツブラだからエロくない』派に加入してしまったのか!?
「俺なんかがご褒美になりませんよ! てか頭部に衝撃を受けて下がったんだから、大人しくしていて下さい!」
そんな内心を吐露する訳にもいかないので、俺は常識を説いて暴走SBを止めに入る。
「そうか? はっきりとは見えないけど、良いケツをしてるぜ? 湯気で所々が隠れているのがまた絶妙にエロいと言うか……」
一方、ティアさんの方は何も気にする事なく、言いたい事を言う。臀部を褒められた事は光栄でトレーニングの成果が出ていると喜ぶべきだが、これ以上を見られては困る!
「み、見ないで下さい!」
俺はお湯の量が減って見通しが良くならないよう、念の為に壁のボタンを再び押した。スクリーンの音量調整は出来るのにシャワーはオンオフしか無いなんて不便な設備だ。
「見られたくないなら、お前が目を閉じてろよ。なーに、ささっと済ませてやるからよ!」
しかしティアさんは良く分からない理屈を述べて中へ入ってくる。頭上から降り注ぐお湯が彼女の全身を濡らし、スポーツブラが身体に張り付いた。
「何を済ませるんですか!?」
「心配すんな! 私はシャマーやツンカと違って彼女になりたいとかじゃないんだ。ただの女と男として、一度くらい味見を……」
『クローズユアアイしておいでよ~♪ 他の奴と違うから~♪』
『目を閉じて~♪』
と、頭上から言葉は分からなくても明らかにキーが外れているのが分かる歌声が聞こえてきた。
「なんだぁ? この音痴!」
ティアさんも思わず見上げる。その視線の先のスクリーン上ではテル&ビッドが気持ち良さそうに歌っていた。ハーピィ戦、と言うかバード天国からまあまあ経つが、こっちの方はあまり成長してないなあ。
「歌聴かせるってレベルじゃねーぞ!」
青髪のエルフはそう憤る。なるほど、ミュージシャンでもあるティアさんにからしたら到底、許せる下手さ加減ではないのだろう。あ、レベルと言えば!
『ほら、慣れた耳より~♪』
「ティアさんごめん!」
「は?」
『『『ここがどこか!! 分かるから!!』』』
謝りながら俺は操作盤の音量レベルを最大にした! 直後の歌のサビでテル&ビッドがシャウトし、シャワー室にとんでもない音量の声が響きわたる!
「痛てええええ!」
それを不意打ちで聴いてしまったティアさんが、思わず両耳を塞いでうずくまる。俺はその脇をすり抜け、服をひっ掴みながら部屋を飛び出る。
『目を閉じて~♪』
エルフとドワーフコンビの声は廊下でも余裕で聞こえた。それを聞いてやってきた誰かと遭遇すると色々と面倒だ。
「なんかこの手段で脱出するの、シャマーさんの時に続いて二度目だな。そろそろ防犯ブザーでも常備しようか……」
エルフは耳が良いが、時にそれが弱点になる。以前も大音量を浴びせてシャマーさんを怯ませ、危機を逃れた事があるのだ。俺はそんな事を呟きつつ、急いで服を着ながらその場を後にした……。
「ショーキチ殿、お帰りなさいであります!」
既に後半が始まったピッチを見ていたナリンさんがそう言って、ベンチ前へ帰ってきた俺を迎えた。
「すみません、結局ハーフタイムはノータッチになってしまって……」
俺はベースボールキャップを軽く持ち上げて頭を下げる。あの後、俺は監督室へ戻り別の予備の服――頭から酒や牛乳をかけられた経験があるので、かなりの枚数を用意している――を着てからロッカールームへ向かった。
もちろん、そんな風に時間をかけたので当然そこはもぬけの殻だった。ただ誰かが俺をからかう為に用意した帽子をゲットする事だけはできたのだ。そのお陰で、変な髪型になっている上にまだ濡れている頭部を隠すことは出来ているのである。
「いえ。士気もシステムの方も問題ないようであります。早速、レイが得点を上げましたので!」
そう明るく告げるナリンさんに促されピッチの方を見ると、件のナイトエルフを中心に歓喜の環が形成されていた。そのバックには項垂れるドワーフチームとサポーター達。もはやデジャブすら感じる風景だ。
「はやっ! 誰のアシストですか?」
「ポリンであります!」
そう応えるナリンさんの顔は非常に嬉しそうだ。その喜び方から単純に可愛い従姉妹の活躍というのではない、それ以上の何かがあるのを察する。
「このこの~。どんなマジックを使ったんですか?」
「いえ、マジックではなくロジックであります!」
こういう時は素直にノッてあげるのが良い上司だろう。俺はわざとらしく悪い顔をしてナリンさんを肘でつつき、彼女に解説を促した。
「ジノリコーチの差配でありますが……」
ナリンさんはそう言いながら作戦ボードを持ち上げ、さっそく説明を始めた……。
スポーツブラ姿になったティアさんはそう言ってカッカッカと笑った。下着にネックレスという言い方をすれば扇情的な姿だが、そこまであまりエッチさが無いのは何故だろう? もしかして俺もリーシャさんと同じく『スポーツブラだからエロくない』派に加入してしまったのか!?
「俺なんかがご褒美になりませんよ! てか頭部に衝撃を受けて下がったんだから、大人しくしていて下さい!」
そんな内心を吐露する訳にもいかないので、俺は常識を説いて暴走SBを止めに入る。
「そうか? はっきりとは見えないけど、良いケツをしてるぜ? 湯気で所々が隠れているのがまた絶妙にエロいと言うか……」
一方、ティアさんの方は何も気にする事なく、言いたい事を言う。臀部を褒められた事は光栄でトレーニングの成果が出ていると喜ぶべきだが、これ以上を見られては困る!
「み、見ないで下さい!」
俺はお湯の量が減って見通しが良くならないよう、念の為に壁のボタンを再び押した。スクリーンの音量調整は出来るのにシャワーはオンオフしか無いなんて不便な設備だ。
「見られたくないなら、お前が目を閉じてろよ。なーに、ささっと済ませてやるからよ!」
しかしティアさんは良く分からない理屈を述べて中へ入ってくる。頭上から降り注ぐお湯が彼女の全身を濡らし、スポーツブラが身体に張り付いた。
「何を済ませるんですか!?」
「心配すんな! 私はシャマーやツンカと違って彼女になりたいとかじゃないんだ。ただの女と男として、一度くらい味見を……」
『クローズユアアイしておいでよ~♪ 他の奴と違うから~♪』
『目を閉じて~♪』
と、頭上から言葉は分からなくても明らかにキーが外れているのが分かる歌声が聞こえてきた。
「なんだぁ? この音痴!」
ティアさんも思わず見上げる。その視線の先のスクリーン上ではテル&ビッドが気持ち良さそうに歌っていた。ハーピィ戦、と言うかバード天国からまあまあ経つが、こっちの方はあまり成長してないなあ。
「歌聴かせるってレベルじゃねーぞ!」
青髪のエルフはそう憤る。なるほど、ミュージシャンでもあるティアさんにからしたら到底、許せる下手さ加減ではないのだろう。あ、レベルと言えば!
『ほら、慣れた耳より~♪』
「ティアさんごめん!」
「は?」
『『『ここがどこか!! 分かるから!!』』』
謝りながら俺は操作盤の音量レベルを最大にした! 直後の歌のサビでテル&ビッドがシャウトし、シャワー室にとんでもない音量の声が響きわたる!
「痛てええええ!」
それを不意打ちで聴いてしまったティアさんが、思わず両耳を塞いでうずくまる。俺はその脇をすり抜け、服をひっ掴みながら部屋を飛び出る。
『目を閉じて~♪』
エルフとドワーフコンビの声は廊下でも余裕で聞こえた。それを聞いてやってきた誰かと遭遇すると色々と面倒だ。
「なんかこの手段で脱出するの、シャマーさんの時に続いて二度目だな。そろそろ防犯ブザーでも常備しようか……」
エルフは耳が良いが、時にそれが弱点になる。以前も大音量を浴びせてシャマーさんを怯ませ、危機を逃れた事があるのだ。俺はそんな事を呟きつつ、急いで服を着ながらその場を後にした……。
「ショーキチ殿、お帰りなさいであります!」
既に後半が始まったピッチを見ていたナリンさんがそう言って、ベンチ前へ帰ってきた俺を迎えた。
「すみません、結局ハーフタイムはノータッチになってしまって……」
俺はベースボールキャップを軽く持ち上げて頭を下げる。あの後、俺は監督室へ戻り別の予備の服――頭から酒や牛乳をかけられた経験があるので、かなりの枚数を用意している――を着てからロッカールームへ向かった。
もちろん、そんな風に時間をかけたので当然そこはもぬけの殻だった。ただ誰かが俺をからかう為に用意した帽子をゲットする事だけはできたのだ。そのお陰で、変な髪型になっている上にまだ濡れている頭部を隠すことは出来ているのである。
「いえ。士気もシステムの方も問題ないようであります。早速、レイが得点を上げましたので!」
そう明るく告げるナリンさんに促されピッチの方を見ると、件のナイトエルフを中心に歓喜の環が形成されていた。そのバックには項垂れるドワーフチームとサポーター達。もはやデジャブすら感じる風景だ。
「はやっ! 誰のアシストですか?」
「ポリンであります!」
そう応えるナリンさんの顔は非常に嬉しそうだ。その喜び方から単純に可愛い従姉妹の活躍というのではない、それ以上の何かがあるのを察する。
「このこの~。どんなマジックを使ったんですか?」
「いえ、マジックではなくロジックであります!」
こういう時は素直にノッてあげるのが良い上司だろう。俺はわざとらしく悪い顔をしてナリンさんを肘でつつき、彼女に解説を促した。
「ジノリコーチの差配でありますが……」
ナリンさんはそう言いながら作戦ボードを持ち上げ、さっそく説明を始めた……。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる