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第三十五章
オヤジと地震の後
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地震雷火事親父。怖いモノの羅列として有名な語句だ。地震モドキと怒り狂った親父はノゾノゾさんとターカオさんで済んでいるし、次は雷か火事か?
「危ないよ監督!」
「ショーキチさん、私の下に!」
でもたぶん誤解なんだろうな、と立ち惚けていた俺をノゾノゾさんが引き寄せ胸の間に抱え込み、背中からバートさんが挟み込む。柔らかい巨人族、普通の人間、引き締まったエルフのサンドイッチだ。
ちなみにクラブハウスサンドには具材を挟む順番に意味があり、軽いモノを下、重いモノを上にして切る時にズレ難くするとか、味の濃さを交互にするとかの工夫がある。もっとも今の俺達について誰が重いとか濃いとかのコメントはしないでおく。
「ショーちゃん? 『鎖は客室のベッドの上に置いてる』って言ってなかったっけ?」
そんな事を考えていた俺の方へ、光の中から静かな怒りを湛えた声が呼びかけてきた。
「誰? 何の声?」
「分かんないけど風がすっごい怯えている!」
より光源に近かったバートさんとノゾノゾさんはまだ眩しさが残って目が開けられないようだ。ただ声とその主が放つ魔力だけを感じ取った様子の言葉を発している。
俺はその隙に両者の間からそっと抜け出し声の主に話しかけた。
「昨晩までは、そうですよ。でも俺の家で色々ありまして、来客用寝具を洗濯に出したんですよ。その時に……どうしたっけ?」
いま俺達が思い出そうとしているのは瞬間移動に用いられるマジックアイテムの事だ。見た目は普通の鎖だが、適切な形で地面や床に広げて呪文を唱えるとテレポートの出発点にする事が出来る。その到着点はなんと王城の魔法陣。俺に何かあった時、素早く逃亡する為の道具なのだ。
使った事はないけねど。怖いし。そんな緊急事態は今まで無かったし。
「えっと、邪魔だったから、隣の食料備蓄庫に」
「それであんな所に着いちゃったのね……」
彼女はそう言いながら怒りを鎮め、自分の頭に乗った野菜の屑やら干物やら――食料備蓄庫と言ったが大したモノはない。野菜のピクルス的なものが入った瓶が並べられたり漁師さんに貰った魚が吊してあったりするだけだ――を身を震わせて床へ落とした。
「そもそもアレは誰かがここへ来る為のモノではないんですよ、シャマーさん」
俺はせっかく綺麗にした我が家をまた掃除しなければならないのか、とため息を吐きながら言った。
「シャマー!?」
「え? キャプテンがなんで?」
俺の言葉と、ようやく見えてきた視界で理解したのだろう。エルフの大先輩とスタジアムDJはそれぞれの反応を見せる。まあその困惑も当然だろう。こんな夜更けにチームの大黒柱が突然、現れたのだから。
「瞬間移動の魔法でね~。ここの鎖とは常にリンクを張っているから、よゆー」
シャマーさんは右手と左手で魚の頭をキャッチボールしながら答えた。そう、もともと俺が貰った鎖はこちらから王城へ飛ぶ為のモノで、それ用にチューニング――そこまで複雑な手順も魔力も必要とせず使える様になっている――されたマジックアイテムだ。
ただ問題? が一つ。これを作り調整したのはシャマーさんで、彼女は召喚魔法のスペシャリストだということ。この天才魔術師は、本来であればきちんと広げた上で出発地としてのみ働く筈の鎖を、適当に置いていても目的地として使用できる。
どういう理屈か分からないけど。ただ地球でパソコンの大先生をしていは俺は、シャマーさんがこれにバックドア的な何かを仕込んでいると見ている。
「あのさ、僕が聞きたかったのは『何の為に?』って方で」
「あとその服装の理由もね」
シャマーさんの説明に納得いかなかったノゾノゾさんとバートさんが険しい顔で質問を繰り返し、追加もする。そりゃそうですよね!
「ショーちゃんには貸しがあるからねー。それを取り立てに~」
一方のドーンエルフは妖しく微笑みながら、はぐらかす様に言う。ここで初めて彼女の衣服に言及するが、今のシャマーさんは下着姿だった。しかも猫の毛皮っぽいファーの付いた、虎柄ビキニっぽいやつの。
「で~。これを選んだのはニャンダフルから帰った直後だからー! ショーちゃん、こういうのにも興奮するかな~? って」
シャマーさんはそう言いながら両手を握り、くぃっと手首を曲げてポーズを取る。いわゆる猫っぽいヤツだ。たぶん普段なら興奮したかもしれない。しかし今は全身に野菜や魚がコーディネートされているし、状況も状況だしで俺には頭痛のタネでしかない。
「そうだ、シャマーはこういう子だった……」
「こっ、興奮させてどうする気だよ!」
一連の回答を聞いてバートさんは諦めた様に呟くが、ノゾノゾさんはまだ喰ってかかる。この辺りは経験の差だな。
「んふふ~! 興奮したらどうするのかなー! ショーちゃん、興奮したら私に何をしたいか教えて~」
シャマーさんは好機とばかりにこちらの方へ歩み寄る。しかし俺は腕を突き出し指を一本、向こうへ向けた。
「入れたいです」
「「ええっ!? 何を!?」」
これには三者とも驚きの声を出す。
「お風呂に入れたいです! 廊下を汚さないように、なるべくシーツの上を歩いて!」
俺はそう言いながら客室に入り、ノゾノゾさんが貰ってきたという余分な寝具を取ってきて廊下に広げた。
「ええ~」
「バートさんとノゾノゾさん、申し訳ありませんが入浴の補助をしてくれませんか? 俺の残り湯だと悪いので、入れ直しからになりますが」
不平を漏らすシャマーさんの肩を押しつつ、俺はデイエルフとジャイアントへお願いをする。
「ノ……!」
しかし俺に押されたシャマーさんは、目を光らせながらこちらを見た。『ノー』? 『ノーサンキュー』か?
「残り湯! じゃあ私、ショーちゃんの残り湯を頂くねー!」
そう言うとDFリーダーは、カバーリングへ走る時の様に滑らかに走り出した!
「ちょっと待ちなさいシャマー!」
「ふ、不潔だよ!」
かつての名WGと縮小しても長身な巨人族の娘が慌てて後を追う。この駆けっこはなかなか名勝負になるだろう。だが残念ながらそれを見届けるつもりは無かった。
「今のうちに逃げよ……」
俺はランタンと寝具セットの中から枕を手にし、足音を消してそっと我が家を後にした。まーたクラブハウスで寝る事になるのか……。
「危ないよ監督!」
「ショーキチさん、私の下に!」
でもたぶん誤解なんだろうな、と立ち惚けていた俺をノゾノゾさんが引き寄せ胸の間に抱え込み、背中からバートさんが挟み込む。柔らかい巨人族、普通の人間、引き締まったエルフのサンドイッチだ。
ちなみにクラブハウスサンドには具材を挟む順番に意味があり、軽いモノを下、重いモノを上にして切る時にズレ難くするとか、味の濃さを交互にするとかの工夫がある。もっとも今の俺達について誰が重いとか濃いとかのコメントはしないでおく。
「ショーちゃん? 『鎖は客室のベッドの上に置いてる』って言ってなかったっけ?」
そんな事を考えていた俺の方へ、光の中から静かな怒りを湛えた声が呼びかけてきた。
「誰? 何の声?」
「分かんないけど風がすっごい怯えている!」
より光源に近かったバートさんとノゾノゾさんはまだ眩しさが残って目が開けられないようだ。ただ声とその主が放つ魔力だけを感じ取った様子の言葉を発している。
俺はその隙に両者の間からそっと抜け出し声の主に話しかけた。
「昨晩までは、そうですよ。でも俺の家で色々ありまして、来客用寝具を洗濯に出したんですよ。その時に……どうしたっけ?」
いま俺達が思い出そうとしているのは瞬間移動に用いられるマジックアイテムの事だ。見た目は普通の鎖だが、適切な形で地面や床に広げて呪文を唱えるとテレポートの出発点にする事が出来る。その到着点はなんと王城の魔法陣。俺に何かあった時、素早く逃亡する為の道具なのだ。
使った事はないけねど。怖いし。そんな緊急事態は今まで無かったし。
「えっと、邪魔だったから、隣の食料備蓄庫に」
「それであんな所に着いちゃったのね……」
彼女はそう言いながら怒りを鎮め、自分の頭に乗った野菜の屑やら干物やら――食料備蓄庫と言ったが大したモノはない。野菜のピクルス的なものが入った瓶が並べられたり漁師さんに貰った魚が吊してあったりするだけだ――を身を震わせて床へ落とした。
「そもそもアレは誰かがここへ来る為のモノではないんですよ、シャマーさん」
俺はせっかく綺麗にした我が家をまた掃除しなければならないのか、とため息を吐きながら言った。
「シャマー!?」
「え? キャプテンがなんで?」
俺の言葉と、ようやく見えてきた視界で理解したのだろう。エルフの大先輩とスタジアムDJはそれぞれの反応を見せる。まあその困惑も当然だろう。こんな夜更けにチームの大黒柱が突然、現れたのだから。
「瞬間移動の魔法でね~。ここの鎖とは常にリンクを張っているから、よゆー」
シャマーさんは右手と左手で魚の頭をキャッチボールしながら答えた。そう、もともと俺が貰った鎖はこちらから王城へ飛ぶ為のモノで、それ用にチューニング――そこまで複雑な手順も魔力も必要とせず使える様になっている――されたマジックアイテムだ。
ただ問題? が一つ。これを作り調整したのはシャマーさんで、彼女は召喚魔法のスペシャリストだということ。この天才魔術師は、本来であればきちんと広げた上で出発地としてのみ働く筈の鎖を、適当に置いていても目的地として使用できる。
どういう理屈か分からないけど。ただ地球でパソコンの大先生をしていは俺は、シャマーさんがこれにバックドア的な何かを仕込んでいると見ている。
「あのさ、僕が聞きたかったのは『何の為に?』って方で」
「あとその服装の理由もね」
シャマーさんの説明に納得いかなかったノゾノゾさんとバートさんが険しい顔で質問を繰り返し、追加もする。そりゃそうですよね!
「ショーちゃんには貸しがあるからねー。それを取り立てに~」
一方のドーンエルフは妖しく微笑みながら、はぐらかす様に言う。ここで初めて彼女の衣服に言及するが、今のシャマーさんは下着姿だった。しかも猫の毛皮っぽいファーの付いた、虎柄ビキニっぽいやつの。
「で~。これを選んだのはニャンダフルから帰った直後だからー! ショーちゃん、こういうのにも興奮するかな~? って」
シャマーさんはそう言いながら両手を握り、くぃっと手首を曲げてポーズを取る。いわゆる猫っぽいヤツだ。たぶん普段なら興奮したかもしれない。しかし今は全身に野菜や魚がコーディネートされているし、状況も状況だしで俺には頭痛のタネでしかない。
「そうだ、シャマーはこういう子だった……」
「こっ、興奮させてどうする気だよ!」
一連の回答を聞いてバートさんは諦めた様に呟くが、ノゾノゾさんはまだ喰ってかかる。この辺りは経験の差だな。
「んふふ~! 興奮したらどうするのかなー! ショーちゃん、興奮したら私に何をしたいか教えて~」
シャマーさんは好機とばかりにこちらの方へ歩み寄る。しかし俺は腕を突き出し指を一本、向こうへ向けた。
「入れたいです」
「「ええっ!? 何を!?」」
これには三者とも驚きの声を出す。
「お風呂に入れたいです! 廊下を汚さないように、なるべくシーツの上を歩いて!」
俺はそう言いながら客室に入り、ノゾノゾさんが貰ってきたという余分な寝具を取ってきて廊下に広げた。
「ええ~」
「バートさんとノゾノゾさん、申し訳ありませんが入浴の補助をしてくれませんか? 俺の残り湯だと悪いので、入れ直しからになりますが」
不平を漏らすシャマーさんの肩を押しつつ、俺はデイエルフとジャイアントへお願いをする。
「ノ……!」
しかし俺に押されたシャマーさんは、目を光らせながらこちらを見た。『ノー』? 『ノーサンキュー』か?
「残り湯! じゃあ私、ショーちゃんの残り湯を頂くねー!」
そう言うとDFリーダーは、カバーリングへ走る時の様に滑らかに走り出した!
「ちょっと待ちなさいシャマー!」
「ふ、不潔だよ!」
かつての名WGと縮小しても長身な巨人族の娘が慌てて後を追う。この駆けっこはなかなか名勝負になるだろう。だが残念ながらそれを見届けるつもりは無かった。
「今のうちに逃げよ……」
俺はランタンと寝具セットの中から枕を手にし、足音を消してそっと我が家を後にした。まーたクラブハウスで寝る事になるのか……。
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