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第三十五章
並べ、体
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元選手たちによるトークショーの肝になるのは、試合と同じくフォーメーションだった。引退したとは言え元はライバルチームの選手同士である。相性というものがあれば因縁を持っている同士もいる。
しかもエルフとドワーフというご長寿種族同士だ。未だ肉体精神共に衰えておらず歳をとって丸くなったりはしていない。下手をすればその場で弓と斧を手に場外乱闘を始めるかもしれない。
その危険を予防する為の一つとして、座席の位置決めが非常に重要だった。つまりそれがフォーメーションという訳である。
「ティミー選手とシャキル選手は実は大丈夫?」
「うん。シャキルは口が悪いから誰とでも仲悪そうに見えるけど、あれは演技だから。むしろロビンの方が真に受けそうかな」
「となるとロビン選手を端に……は置けませんよね? シャキル選手をアローズの後ろエリアに逃がすかなー」
俺はそう言いながら、それぞれの名前を書いた駒を並び替える。全員、既に引退の身で正確に言えば元選手なのだが、毎回付けて言うのが面倒になって今はもう外している。
「シャキル選手は背も高いし、席に段差があるからこれで顔が見えなくなるって事はないよなー。後ろからですけど全体を見渡すのもそれはそれでポストプレイヤーっぽいか」
「監督、何だが楽しそうだね?」
俺の背中に圧をかけながらノゾノゾさんが訊ねる。実は彼女、トークショーの乱闘予防策その2である。今でこそ人型サイズで大きい――身長であって胸の話ではない――程度だが、本来は巨人だ。ちょっとした重機並の大きさだ。そんな彼女が真ん中で司会をしていて、喧嘩騒ぎを起こす気になる奴がいるだろうか? いや、たぶんいないだろう。
「そうです見えますか? これで結構、大変なんですけど」
言いながら身体をそっと離すが、自分でも頬が緩んでいるのが分かり言葉を続ける。
「でもまあ駒を並べて相性やシナジーを考えるのが好きじゃなかったら、監督なんてやってませんよね」
そして俺はハッキリと自虐的に笑った。一般的に玩具の兵隊を並べて遊ぶのが好きな子供だった野郎なら、戦略SLGの武将でもスポーツの選手でも縦横に配置してアレコレ考えるのは好きなモノだ。トークショーの座席位置はそれらほど血沸き肉踊る性質のものではないが、やはり考え出すと楽しい。
つまり俺がニヤニヤしていたのは、身体縮小のマジックアイテムを使用してもなお大きいノゾノゾさんのノゾノゾさんが背中に当たっていたからではないのだ!
「そう言って貰えると助かるけど、ショーキチさんを悩ませてしまって申し訳ないよ。あ、考えすぎて肩、凝ってない? 変なのも乗って重かったでしょ? 揉んであげるよ!」
ノゾノゾさんと入れ替わるように、今度はバートさんが俺の背中に身体を密着させ両手を肩に置いた。
「え!? いや、まだそれほどでは……」
「変なのって何だよ! 僕は重く感じないよう、絶妙な角度で当てていたんだぞ! ……無いエルフには分からないだろうけど!」
「なにぃ!?」
「待ってまって!」
売り言葉に買い言葉。バートさんとノゾノゾさんは俺の左右に分かれて睨み合いを始めた。さっき俺は
「野郎は駒を縦横に並べるのが好き」
と言ったが女性は左右限定なのだろうか? それともそういうのはリストさんみたいな腐った感じの女性だけ?
「俺はお二人にエルフとドワーフの衝突を防ぐ役割をお願いしていますよね!? そのバートさんとノゾノゾさんがぶつかってどうするんですか!」
俺の思考の一部は無意味な事に悩んでいたが、口はまともに働いて両者の仲介に動いていた。
「バートさん、ドワーフの挑発はたぶんこんなモノじゃありません。もっと辛辣な事を言ってくるかもですよ? ノゾノゾさん、貴女のファンは大きなお友達だけじゃないんです。小さなお子さんたちにそんな姿を見せられますか?」
「あっ」
「うっ」
ピンチの時こそスラスラと動くように訓練された自慢の舌は、的確に彼女たちの急所を突いたようだった。エルフもジャイアントも一気に目の中から剣呑な光が消えていく。
バートさんはアローズ全盛期の主要メーンバーであり、デニス老公会の頭領でもある。普段から多くのデイエルフ達から尊敬され愛されているが、そのぶん誰かから侮蔑されるのに慣れていないのだ。
またノゾノゾさんはそのスタイルと可愛らしさでサッカードウに興味のない年輩のエルフ男性――多くの場合、子供の引率で来ている――の人気を集めているが、同時に連れて来て貰った側のお子さん、特に娘さん達にも評判だ。明るくて気さくでお喋りやラップが上手なお姉さん! 私もあんな風になりたい! みたいな?
「ごめんなさい、ショーキチさんノゾノゾさん。そうだったね。常に冷静でいなきゃ」
「こめんよ、監督。そうだよ、子供達の夢を壊しちゃいけない」
バートさんとノゾノゾさんはそう言うと俺の目の前で握手し互いに頭を下げた。良かった、どちらも自分の急所や気を付けるべきポイントを自覚している。ただ一瞬、忘れてしまっていただけだ。俺はそれを思い出させただけに過ぎないのさ……なんてね!
「仲直りの証にさ。今日は一緒のベッドで寝ない?」
「いいね! 夜通しお喋りしよう! 監督、今日はここに泊めてくれる?」
「うんうん、良いですね」
「「やったあ!」」
俺がノリで頷くとエルフと巨人は嬉しそうに抱き合った。あれ? いつの間にか泊める事になっちゃってる?
「あの、当然ですけどお二方が客室のベッドですよね? 大丈夫かな」
「大丈夫だよ!」
「こうなると思って多目に寝具を預かってきたもん」
俺が念の為に訊ねるとバートさんとノゾノゾさんが親指を立てて返事をした。なんか随分、手際とコンビネーションが良いな? もしかして俺、ハメられた?
「じゃあさっそく、支度をしようか!」
「こっちだっけ?」
引き続きテンポよくエルフジャイアントズが話を続け廊下へ出る。
「あの、もしかしたら……わっ!」
「えっ!?」
「きゃあっ!」
いやこれは確実にやられとるぞ? と思いつつ俺も廊下へ出た瞬間。
「ちゅどーーん!」
という轟音と共に激しい光が俺たちの視界を染め上げた!
しかもエルフとドワーフというご長寿種族同士だ。未だ肉体精神共に衰えておらず歳をとって丸くなったりはしていない。下手をすればその場で弓と斧を手に場外乱闘を始めるかもしれない。
その危険を予防する為の一つとして、座席の位置決めが非常に重要だった。つまりそれがフォーメーションという訳である。
「ティミー選手とシャキル選手は実は大丈夫?」
「うん。シャキルは口が悪いから誰とでも仲悪そうに見えるけど、あれは演技だから。むしろロビンの方が真に受けそうかな」
「となるとロビン選手を端に……は置けませんよね? シャキル選手をアローズの後ろエリアに逃がすかなー」
俺はそう言いながら、それぞれの名前を書いた駒を並び替える。全員、既に引退の身で正確に言えば元選手なのだが、毎回付けて言うのが面倒になって今はもう外している。
「シャキル選手は背も高いし、席に段差があるからこれで顔が見えなくなるって事はないよなー。後ろからですけど全体を見渡すのもそれはそれでポストプレイヤーっぽいか」
「監督、何だが楽しそうだね?」
俺の背中に圧をかけながらノゾノゾさんが訊ねる。実は彼女、トークショーの乱闘予防策その2である。今でこそ人型サイズで大きい――身長であって胸の話ではない――程度だが、本来は巨人だ。ちょっとした重機並の大きさだ。そんな彼女が真ん中で司会をしていて、喧嘩騒ぎを起こす気になる奴がいるだろうか? いや、たぶんいないだろう。
「そうです見えますか? これで結構、大変なんですけど」
言いながら身体をそっと離すが、自分でも頬が緩んでいるのが分かり言葉を続ける。
「でもまあ駒を並べて相性やシナジーを考えるのが好きじゃなかったら、監督なんてやってませんよね」
そして俺はハッキリと自虐的に笑った。一般的に玩具の兵隊を並べて遊ぶのが好きな子供だった野郎なら、戦略SLGの武将でもスポーツの選手でも縦横に配置してアレコレ考えるのは好きなモノだ。トークショーの座席位置はそれらほど血沸き肉踊る性質のものではないが、やはり考え出すと楽しい。
つまり俺がニヤニヤしていたのは、身体縮小のマジックアイテムを使用してもなお大きいノゾノゾさんのノゾノゾさんが背中に当たっていたからではないのだ!
「そう言って貰えると助かるけど、ショーキチさんを悩ませてしまって申し訳ないよ。あ、考えすぎて肩、凝ってない? 変なのも乗って重かったでしょ? 揉んであげるよ!」
ノゾノゾさんと入れ替わるように、今度はバートさんが俺の背中に身体を密着させ両手を肩に置いた。
「え!? いや、まだそれほどでは……」
「変なのって何だよ! 僕は重く感じないよう、絶妙な角度で当てていたんだぞ! ……無いエルフには分からないだろうけど!」
「なにぃ!?」
「待ってまって!」
売り言葉に買い言葉。バートさんとノゾノゾさんは俺の左右に分かれて睨み合いを始めた。さっき俺は
「野郎は駒を縦横に並べるのが好き」
と言ったが女性は左右限定なのだろうか? それともそういうのはリストさんみたいな腐った感じの女性だけ?
「俺はお二人にエルフとドワーフの衝突を防ぐ役割をお願いしていますよね!? そのバートさんとノゾノゾさんがぶつかってどうするんですか!」
俺の思考の一部は無意味な事に悩んでいたが、口はまともに働いて両者の仲介に動いていた。
「バートさん、ドワーフの挑発はたぶんこんなモノじゃありません。もっと辛辣な事を言ってくるかもですよ? ノゾノゾさん、貴女のファンは大きなお友達だけじゃないんです。小さなお子さんたちにそんな姿を見せられますか?」
「あっ」
「うっ」
ピンチの時こそスラスラと動くように訓練された自慢の舌は、的確に彼女たちの急所を突いたようだった。エルフもジャイアントも一気に目の中から剣呑な光が消えていく。
バートさんはアローズ全盛期の主要メーンバーであり、デニス老公会の頭領でもある。普段から多くのデイエルフ達から尊敬され愛されているが、そのぶん誰かから侮蔑されるのに慣れていないのだ。
またノゾノゾさんはそのスタイルと可愛らしさでサッカードウに興味のない年輩のエルフ男性――多くの場合、子供の引率で来ている――の人気を集めているが、同時に連れて来て貰った側のお子さん、特に娘さん達にも評判だ。明るくて気さくでお喋りやラップが上手なお姉さん! 私もあんな風になりたい! みたいな?
「ごめんなさい、ショーキチさんノゾノゾさん。そうだったね。常に冷静でいなきゃ」
「こめんよ、監督。そうだよ、子供達の夢を壊しちゃいけない」
バートさんとノゾノゾさんはそう言うと俺の目の前で握手し互いに頭を下げた。良かった、どちらも自分の急所や気を付けるべきポイントを自覚している。ただ一瞬、忘れてしまっていただけだ。俺はそれを思い出させただけに過ぎないのさ……なんてね!
「仲直りの証にさ。今日は一緒のベッドで寝ない?」
「いいね! 夜通しお喋りしよう! 監督、今日はここに泊めてくれる?」
「うんうん、良いですね」
「「やったあ!」」
俺がノリで頷くとエルフと巨人は嬉しそうに抱き合った。あれ? いつの間にか泊める事になっちゃってる?
「あの、当然ですけどお二方が客室のベッドですよね? 大丈夫かな」
「大丈夫だよ!」
「こうなると思って多目に寝具を預かってきたもん」
俺が念の為に訊ねるとバートさんとノゾノゾさんが親指を立てて返事をした。なんか随分、手際とコンビネーションが良いな? もしかして俺、ハメられた?
「じゃあさっそく、支度をしようか!」
「こっちだっけ?」
引き続きテンポよくエルフジャイアントズが話を続け廊下へ出る。
「あの、もしかしたら……わっ!」
「えっ!?」
「きゃあっ!」
いやこれは確実にやられとるぞ? と思いつつ俺も廊下へ出た瞬間。
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