D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第三十五章

大きかったり薄かったり

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「誰かいらっしゃるの? あら、お早うございます」
 そんな声が聞こえて俺は目を覚ました。見ると窓辺からは朝の光が、廊下側からは事務員服のムルトさんの、キリっとした姿と声が差し込んでいた。
「う~お早うございます。うぁ、もうこんな時間か……」
 俺は顔を擦りながら挨拶を返す。昨晩はドワーフの資料を読んでいる間に眠ってしまっていたようだ。
「もしかして帰ってすぐ徹夜ですの? あまり他人の事は言えませんが、仕事の抱え過ぎはよくありません」
 ムルトさんはそう言いながら監督室を突っ切り、窓を開けた。ドワーフの装置で作ったものではない、自然の風が吹き込みムルトさんが普段から使っている香水――なんか殺菌力が強そうな、こちらにおけるミント的なヤツだろう――の香りも漂ってくる。
「予想外の事件もありましたし、今週はセンシャもあるので日程的に厳しくて」
「事情は存じ上げていますわ。ですがそういう時こそ……」
 ムルトさんはそう言いながらこちらへ振り向き……
「ふ、不潔ですわー!」
 と絶叫し、一目散に部屋を出て行く。
「なっ何だ!? 徹夜で臭ったかな?」
 その背を見送りつつ、自分の体臭を嗅ぐ。こちらの異世界の住人はだいぶ臭いに無頓着な方だが俺は女性の集団と仕事をしている訳で……結構、気を使っているつもりだったんだけどなあ。
 それともアリスさんとのスキャンダルとかセンシャの話とかをしたからか? ムルトさん、潔癖だし。
「そんなに感じないけど……とりあえず、シャワーでも浴びてくるか」
 クラブハウスには24時間使えるシャワー室がある。火の精霊を使役して、いつでも暖かいお湯が使える設備だ。俺はそこへ向かおうと寝床にしていたソファから立ち上がり、いつの間にか脱いでいた靴を探すべく下を向いた。
「あっ……えっ!?」
 その視界の隅にズボンを布の下から押し上げる、朝の生理現象で元気になってしまっている俺の身体の一部が映る。
「まさか……ムルトさんに見られた!?」
 俺は脱ぎ捨てていた上着を腰に巻きつつ、青ざめる。この世界へ来て半年以上、様々なピンチにおいても逃れ続けてきたイベントが、このタイミングでムルトさん相手に起きるか!?
「なんてこった……。いや、今はとりあえず収めよう」
 この状態で説明というか言い訳を伝えに彼女の元へ走っても、事態を悪化させるだけだ。俺は鎮める方法を必死で思い出す。
 ツレたちは母親の顔を思い出せば、と言っていたが俺には難しい。あとは何か特定の数を数えれば良いんだっけ?
「何とか数だよな。奇数で良いか? 1、3、5、7、9……」
「簡単過ぎてたぶん効果ありませんわ! せめて素数に!」
「あ、はい!」
 廊下からムルトさんが顔を出しアドバイスをくれる。さすが会計士、数字にウルサい。
「えっと、1、2、3……」
「1は素数に含まれません! は、早く小さく!」
「ああ、すみません! 1.1、1.2、1.3……」
「小さくするのは数字ではなくてそれです!」
「ああ、そ、そうですよね!? って何でまた見ているんですか!」
 ムルトさんが『それ』を指さすのを見て、彼女が見ている事に気づく。いや自分でも何を言っているのか分からない!
「すみません、股を見るつもりはなくて!」
「そういう意味じゃなくて!」
 混乱は増す一方であり、しかも非常に情けない事に顔を赤らめて汗をかく眼鏡美女を見た際に男性に起こる一般的な現象は事態を更に悪化させていた。
「あーもう! そうだ、ムルトさん以外に誰か出勤していましたか?」
「え? いえ、まだ私だけですわ。なっ!? 監督、もしかして私で……!?」
 ムルトさんは俺への返事の途中で、急に黙り込んだ。何だか分からないが、状況が変わる前に動くしかない。
「ムルトさん、目を瞑ってください!」
「はい……。早くしてください……」
 俺はそう叫びつつ廊下へ飛び出した。そして廊下に座り込む会計士さんに目もくれず、シャワー室へ向かう。
「そうだ、誰もいないなら直行すれば良かったんだ……」
 幸いな事に、そう呟き走る道中では誰とも出会わなかった。そして俺はシャワー室へ飛び込み服を一気に脱ぎ捨てて、あえて冷水の方のボタンを押した……。

 せっかくシャワーを浴びたのに一日の活動と寝汗で汚れた服を再度、着て動くのは少し間抜けだった。しかし素っ裸や腰に布を巻いただけ、といった姿で出歩くとムルトさんとの出来事を再現してしまう可能性がある。 
 プレイの再現性ならともかくそんなものの繰り返しは不要だ。俺はなるべく肌が服に触れないように気を使いながらランドリー室へ向かった。
「そうそう、ベッドのシーツを出すのも忘れないようにしなきゃ」
 洗濯駕籠が並ぶ部屋に到着し、誰もいないのを確認しつつ服を脱いで投げ入れる。スワッグの下世話な想像通りアリスさんのご両親が俺のベッドでお楽しみされたとしてもそうでなくても、他人が自分の寝床を使った後は洗濯しておきたいものだ。
「参ったな……薄い服しかないぞ」
 棚を探りつつ俺はやや焦った声を漏らす。ランドリー室は洗濯物を受け入れると共に、常に清潔な着替え――トレーニングウェアからリラックスできる普段着まで――を準備して貰っている。様々な植物と魔法で水の精霊を使役できるエルフの洗濯レベルは意外なほど高いのだ。
 そしてゴルルグ族戦以降、衛生観念への気配りは更に高いモノを要求するようになっている。古来、戦闘よりも飢饉や不衛生で全滅した軍隊は思っているよりも多い。サッカードウのチームも軍隊に準ずる扱いをしても良いだろう。それになにより、集団食中毒なんて二度とごめんだからね! 
 が、それと服の品揃え? は別の話だ。
「今は遠征中だからか……仕方ない」
 昨晩はソファで上着を毛布代わりに寝て、起きた直後に冷水のシャワーを浴びている。正直、少し寒気を感じている状態だ。できればしっかりした服を着たかったが、衣服置き場には薄手のモノしかなかった。俺はサイズが違うものを重ね着して部屋を出た。
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