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第三十四章
猫の尾を追う
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その方向にはニャンガ監督と交代出場するであろう選手が立っていた。
「マルキーニャス選手っすね。服はダサいのにあの雌猫、センスある」
「アカリさん?」
ゴルルグ族のスカウトが相手を侮蔑するような言葉を使ったので、俺はそっと注意した。彼女も失言でした、とばかりに手を上げ自分の方の頭を下げる。今のやりとりが日本語で行われナリンさん以外には伝わらなかったのは幸いだった。
「中盤でありますか?」
「いやCBでしょう」
「どっちもあるっすよ」
第4審判さんがまだボード――交代で下がる選手と入る選手の背番号が表示されるモノだ。この世界にはLEDが無くフィールドでは魔法も無力化されるので数字は手書きである――を用意できていないので俺達は好き勝手に予測を言う。本来、あと数秒で答えが分かる事を議論するのは俺の好みではないのだが、今回は分かり切っていたので口を出してしまった。
「4番……ニャビト選手であります!」
角度と視力の面でエルフに分があった様で、ナリンさんが最初に数字を読みとり叫んだ。やるじゃん? という目でサオリさんが――爬虫類の感情表現というのも普通は難しいが、サオリさんは分かり易い方だ――こちらを見たが、俺はドヤ顔も出来ずむしろ苦々しい表情になってしまった。
「チョウバツ交代っすかねー」
「どちらかと言うとリスク管理でしょう」
アカリさんのギャルっぽさで『超×こうたーい』と脳裏に浮かんだ事を隠しつつ、俺は真面目に答える。
「ナリンさん、ジノリコーチを呼んで下さい」
「了解であります!」
後手を踏んでしまったがまだやれる事はある。俺はニャンガ監督の方を睨みながら頭の中で作戦を組み立て始めた。
そこからは選手を駒にして将棋をやっている様な展開が続いた。……という表現を使うのはゴルルグ族戦以来だろうか? もっとも見栄を取っ払って正直に言えば、全く上手くいかないモグラ叩きをしていると言う方が正しい状態だった。
流れはこうだ。まずマルキーニャス選手は見ていた通りニャビト選手と交代し、ニャアゴ選手とコンビを組む事となった。彼女はCBとしてはやや小柄だがスピードとテクニックがあり、MFをこなせる戦術眼も備えている。いや『備えている』どころではなく、他の種族なら10番を背負って司令塔として活躍できるくらいだ。実際に彼女は通常、CBが位置する場所よりもやや前目にポジションをとった。
そんな彼女の存在によってフェリダチームは後方にパスの起点が出来た。追いかける時はパスの受け手ではなく出し手を増やす、というのが俺たちのやり方だが、それを勝っている方の猫人にやられた訳だ。
ここでリーシャさんはジレンマに陥る事となる。このまま前線に残ればマルキーニャス選手に自由を与える。かと言って彼女を追っていけば自分をマークしているニャアゴ選手も中盤に上がる。そうなると相手は中盤の密度が増えこちらは前線にターゲットがいなくなる。
残念ながらデイエルフのエースはそういう状態で賢く立ち回れるタイプではない。俺とジノリコーチは相談の上、ダリオさんとリーシャさんのポジションを入れ替えた。姫様ならもっと判断良くマルキーニャス選手のケアとパスの出口、両方をこなせると踏んだのである。
すると今度はマルキーニャス選手が後ろへ下がった。もう極端に、GKジーニャ選手の隣に位置するくらいに。そして相棒のニャアゴ選手が先ほどまでのニャビト選手の様に、第3のFW然として前へ行った。
さしものダリオさんも、そこまでマルキーニャス選手を追ってはいけない。既に運動量の面でかなり疲労しているし、仮に行ってもGKジーニャ選手にボールを大きく蹴られて終わるだけだ。
一方、こちらはニャアゴ選手の対応も必要だ。CBの攻め上がりと言うか攻め残りはニャビト選手で見慣れているが、彼女は相棒よりもよりスピードも攻撃センスもある。こちらの本職DF陣ならともかく、MFが対応に回った時はかなり不安なマッチアップとなっていた。
そこで俺たちは配置変換ではなく選手交代で現状の打開を試みた。ダリオさんとツンカさんを下げ、代わりにヨンさんとパリスさんを投入したのである。ヨンさんは前線からの守備とターゲット……というかクリアボールの回収、パリスさんは左SBに入りルーナさんがニャアゴ選手のマークという形へ。
すると今度はフェリダエチームがあっさりと元の姿へ戻った。つまりごく普通の1442の形へ戻し、そのテクニックでもってボールを握り圧倒的に攻めに攻めまくったのである。
困ったのはヨンさんとルーナさんである。ヨンさんは自分の長身を生かそうにもそんなパスは全く来ず、マーク相手を失ったルーナさんはDFラインと中盤で行き場を失った。居るのに誰も何も守っていないような状態に陥ったのだ。
そしてその間、ずっと頑張り続けていた中盤の2名シノメさんマイラさんが限界を迎えていた。フェリダエのテクニック溢れるMFに翻弄され走らされ足腰の踏ん張りが効かなくなっていたのだ。
そこで俺達はシャマーさんとアイラさんを投入。同時にグチャグチャになっているシステムを整える為の指示を頭脳派DFに託した。それでようやく見栄えだけはまともになった。
まともでなかったのはスコアの方だ。しばらく選手交代とポジションだけ語っていたが実はこの間、得点をいれまくられていたのである。
これも叙述トリックになるのかな? いや、どうでも良いか。どちらにせよ、俺達がボコボコにやられたのには違いが無いのだから。
90分終わって6-1。それが最終スコアだ。後半、まとめて4ゴール上げられて、俺達は完膚無きまでに叩きのめされた……。
「マルキーニャス選手っすね。服はダサいのにあの雌猫、センスある」
「アカリさん?」
ゴルルグ族のスカウトが相手を侮蔑するような言葉を使ったので、俺はそっと注意した。彼女も失言でした、とばかりに手を上げ自分の方の頭を下げる。今のやりとりが日本語で行われナリンさん以外には伝わらなかったのは幸いだった。
「中盤でありますか?」
「いやCBでしょう」
「どっちもあるっすよ」
第4審判さんがまだボード――交代で下がる選手と入る選手の背番号が表示されるモノだ。この世界にはLEDが無くフィールドでは魔法も無力化されるので数字は手書きである――を用意できていないので俺達は好き勝手に予測を言う。本来、あと数秒で答えが分かる事を議論するのは俺の好みではないのだが、今回は分かり切っていたので口を出してしまった。
「4番……ニャビト選手であります!」
角度と視力の面でエルフに分があった様で、ナリンさんが最初に数字を読みとり叫んだ。やるじゃん? という目でサオリさんが――爬虫類の感情表現というのも普通は難しいが、サオリさんは分かり易い方だ――こちらを見たが、俺はドヤ顔も出来ずむしろ苦々しい表情になってしまった。
「チョウバツ交代っすかねー」
「どちらかと言うとリスク管理でしょう」
アカリさんのギャルっぽさで『超×こうたーい』と脳裏に浮かんだ事を隠しつつ、俺は真面目に答える。
「ナリンさん、ジノリコーチを呼んで下さい」
「了解であります!」
後手を踏んでしまったがまだやれる事はある。俺はニャンガ監督の方を睨みながら頭の中で作戦を組み立て始めた。
そこからは選手を駒にして将棋をやっている様な展開が続いた。……という表現を使うのはゴルルグ族戦以来だろうか? もっとも見栄を取っ払って正直に言えば、全く上手くいかないモグラ叩きをしていると言う方が正しい状態だった。
流れはこうだ。まずマルキーニャス選手は見ていた通りニャビト選手と交代し、ニャアゴ選手とコンビを組む事となった。彼女はCBとしてはやや小柄だがスピードとテクニックがあり、MFをこなせる戦術眼も備えている。いや『備えている』どころではなく、他の種族なら10番を背負って司令塔として活躍できるくらいだ。実際に彼女は通常、CBが位置する場所よりもやや前目にポジションをとった。
そんな彼女の存在によってフェリダチームは後方にパスの起点が出来た。追いかける時はパスの受け手ではなく出し手を増やす、というのが俺たちのやり方だが、それを勝っている方の猫人にやられた訳だ。
ここでリーシャさんはジレンマに陥る事となる。このまま前線に残ればマルキーニャス選手に自由を与える。かと言って彼女を追っていけば自分をマークしているニャアゴ選手も中盤に上がる。そうなると相手は中盤の密度が増えこちらは前線にターゲットがいなくなる。
残念ながらデイエルフのエースはそういう状態で賢く立ち回れるタイプではない。俺とジノリコーチは相談の上、ダリオさんとリーシャさんのポジションを入れ替えた。姫様ならもっと判断良くマルキーニャス選手のケアとパスの出口、両方をこなせると踏んだのである。
すると今度はマルキーニャス選手が後ろへ下がった。もう極端に、GKジーニャ選手の隣に位置するくらいに。そして相棒のニャアゴ選手が先ほどまでのニャビト選手の様に、第3のFW然として前へ行った。
さしものダリオさんも、そこまでマルキーニャス選手を追ってはいけない。既に運動量の面でかなり疲労しているし、仮に行ってもGKジーニャ選手にボールを大きく蹴られて終わるだけだ。
一方、こちらはニャアゴ選手の対応も必要だ。CBの攻め上がりと言うか攻め残りはニャビト選手で見慣れているが、彼女は相棒よりもよりスピードも攻撃センスもある。こちらの本職DF陣ならともかく、MFが対応に回った時はかなり不安なマッチアップとなっていた。
そこで俺たちは配置変換ではなく選手交代で現状の打開を試みた。ダリオさんとツンカさんを下げ、代わりにヨンさんとパリスさんを投入したのである。ヨンさんは前線からの守備とターゲット……というかクリアボールの回収、パリスさんは左SBに入りルーナさんがニャアゴ選手のマークという形へ。
すると今度はフェリダエチームがあっさりと元の姿へ戻った。つまりごく普通の1442の形へ戻し、そのテクニックでもってボールを握り圧倒的に攻めに攻めまくったのである。
困ったのはヨンさんとルーナさんである。ヨンさんは自分の長身を生かそうにもそんなパスは全く来ず、マーク相手を失ったルーナさんはDFラインと中盤で行き場を失った。居るのに誰も何も守っていないような状態に陥ったのだ。
そしてその間、ずっと頑張り続けていた中盤の2名シノメさんマイラさんが限界を迎えていた。フェリダエのテクニック溢れるMFに翻弄され走らされ足腰の踏ん張りが効かなくなっていたのだ。
そこで俺達はシャマーさんとアイラさんを投入。同時にグチャグチャになっているシステムを整える為の指示を頭脳派DFに託した。それでようやく見栄えだけはまともになった。
まともでなかったのはスコアの方だ。しばらく選手交代とポジションだけ語っていたが実はこの間、得点をいれまくられていたのである。
これも叙述トリックになるのかな? いや、どうでも良いか。どちらにせよ、俺達がボコボコにやられたのには違いが無いのだから。
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