D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第三十四章

偽装された生まれと言葉

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 俺達が話を終えるのと、試合前のピッチ上ウォーミングアップが終わるのはほぼ同時だった様だ。引き上げてきた選手達と俺とシャマーさんは経路の真ん中くらいで対面し、ドーンエルフはそのまま合流してロッカールームの中へ、俺はそのドアの脇へと向かった。そこには既にザックコーチがいて、男二人で待たされるいつもの時間が訪れようとしていた。
「ふぅ~」
「色々お疲れさま、だな」
 俺が大きなため息を吐くのを聞いて、ザックコーチが苦笑混じりに労いの言葉をかけてくれる。
「あはは。いや、こちらこそ色々とご迷惑をかけてすみません」
 ここまでフィジコとしてだったり監督代行としてだったり様々な苦労をさせてきたが、まさかそれに『監督のスキャンダル』が加わるとは思いもしなかった。きっとザックコーチもこんな経験初めてだろう。
「ははは。しかしまあ、代表チームにゴシップはつきものだ。むしろここまで無かった事を感謝すべきかもな」
 豪気なミノタウロスは普段の彼がする通り、それを笑い飛ばしてくれた。ありがたい……が、ちょっとひっかかる事があるな。
「あの、こういう事を聞いて良いのか分かりませんが……ミノタウロス代表にもこんな騒動があったのですか?」
「ああ、何度かな。ショーキチ監督もご存じの通り、我々ミノタウロスは出身地でかなり扱いが変わってくるのだが、産まれを偽装している選手がいた事が明るみに出た件などな」
 いやご存じちゃうわ! 
「へーそんな事が」
 なんとなく牛肉の産地偽装問題が脳裏に浮かぶがそれは口にせず、俺は無難な返答を返した。とは言え大学が強いスポーツだと学閥が関係するとか、同じレベルの実力だとやはり視察がし易い首都圏の選手の方が有利とか、地球の人間でもそういう事が無くもない。
「あと最大の事件はホープ選手の片親が実はオークだったという……」
 おっと地球では絶対にない事件がきたぞ!?
「ちょっとそれを詳しく」
「ショーキチ殿! どうぞ!」
 しかし、前のめりに訊ねようとする俺の機先を、ナリンさんの声が制した。着替えが終わった様だ。
「うむ。監督、行こうか」
「う、はい、そうですね」
 行きたくない。ちょっとそのホープ事件の詳細を聞きたい。しかし今回の俺はしばしばチームから離れてしまっているし、アリスさんとの件で混乱も生じさせている。
「ちょっとナリンさん代わりにやっといて!」
とは言えない状況だ。
 俺はしぶしぶザックコーチに続いてロッカールームへ入った。

「えーと、どんな奴でも油断する瞬間がある。そしてその瞬間を突かれると大変だ! と言うことを俺は身を以て証明した訳ですが」
 俺は円陣の中央でまず、そう口火を切った。
「おめーは油断してる瞬間が多いぞ!」
「脇が甘いのよね」
 どっと沸く笑い声に混ざってティアさんとリーシャさんの容赦ないツッコミが入る。
「と、とりあえず今日はその逆側。俺達は相手の隙を突く側になります。大事なのは頭の中! 身体能力やテクニックで圧倒されて後手に回っても、頭の中は負けずに研ぎ澄ませ続けて隙を狙おう。そうすれば勝つチャンスはあります! じゃあキャプテン」
 俺はそう言って中央をダリオさんへ譲った。今日はシャマーさんが控えに回っているので姫様がキャプテンに復帰だ。
「相手を罠にかけるには餌が必要です。ショウキチ監督にはセクシーな女性。ではフェリダエ族には何でしょう?」
 キリっとした顔のダリオさんは真面目な声でいきなりとんでもない事から語り出した。
「お、俺はそんな餌に……」
「正解は攻撃のチャンスです。監督の仰る通り、今日はフェリダエ族の攻撃に押し込まれる時間が多いと思います。それでも気持ちは受け身に回らず、『自分たちは今、罠にかけている最中だ』という気持ちでいましょう! 3、2、1、『ハニートラップ』で行きましょう!」
「ちょ! ハニトラだと俺限定じゃないですか!」
「3、2、1……」
「「ハニートラップ!!」」
 俺の抗議には誰も耳をかさず、皆が大きな声でそれを唱和してロッカーを出て行く。
「泥臭くなり過ぎず! クールでセクシーに戦うのよ!」
 ナリンさんも悪ノリしてそう言いながら選手の背中を叩き、列の最後に加わった。
「くっ! シャマーさんじゃないから油断してたらこれだ」
 俺は悔しそうに呟きつつ、ジノリ台を担いで彼女らの後を追った……。


「宜しくお願いします。今日も素敵なお洋服ですね」
『宜しくショーキチ監督! 大変そうだけどゲーム中は楽しくやろう!』 
 コンコースを出た俺は、まずナリンさんを連れてニャンガ監督と握手を交わしに行った。
「彼女は何て?」
「はい。『外野は無視して良いゲームをしよう』と」
 ナリンさんは俺の質問にそう答えると、今度は先ほどの俺の言葉をフェリダエ族の監督に向けて通訳を始めた。因みにニャンガ監督もエルフ語で会話している様だ。
『はは、ありがとう! ショーキチ監督のモテの秘密を教えてくれたら、一着差し上げるよ?』
「ありがとう、と。あとショーキチ殿は何故そんなに素敵なのか? その秘訣を教えてくれたら服をプレゼントする、と仰っているであります」
 本当にそんな事を言っているのか!? まあ仮にそれが真だとして、そこそこイケてる風に見えてる理由はたぶん服のお陰なので、今のニャンガ監督みたいな服装をしない事が一番、大事かな……。
「美しいモノに囲まれていると、自然と自分も磨かれるものでして」
 とはいえ本心は言えない。俺は彼女の黄色と黒のストライプ柄のシャツを見ながら無難な答えを返した。
『おおう! 伊達男め!  選手達にも直接言うんだぞ?』
 ナリンさんの通訳を聞いたニャンガ監督は顔を崩して笑い、最後に俺の肩をポンポンと叩いてベンチの方へ戻った。
「えっと?」
「やはりショーキチ殿は男前だ、と。あと皆にもそう言うべきだ、と」
 俺が聞くとナリンさんは少し詰まりながらフェリダエ最後の言葉を教えてくれた。よく見ると顔も少し赤い。ニャンガ監督がちょっと気障で恥ずかしい言葉でも使ってきたのかな?
「なるほどね! あーあ! それで強くなってくれるなら、ナンボでも言いますよ」
「強くなるであります!」
 そんな呟きに、ナリンさんの言葉は即答だった。その早さが愉快で、俺は彼女の顔を見て思わず吹き出す。
「なんでありますか!?」
「いえいえ。そうですね、ウチはもっと強くなりますよ」
 ナリンさんは強いな。チームや選手の事を強く信頼している。俺もそれを見習わないと。
「できれば試合中に、フェリダエに勝くらい強くなってくれるとありがたいですね」
 俺はそう言いながら、自チームベンチの方へ向かって歩き出した。いよいよ、王者との対戦だ!
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