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第三十四章

ゴはゴシップのゴ

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 試合当日の朝。俺たちは食事用のゲルに集まって朝食をとっていた。
「おお、なかなかの盛り上がりなのだ!」
「きっとたくさんのお客さんが観にくるのだにゃん!」
 マイラ、アイラの祖母と孫……姉妹が魔法の大鏡を見上げながら話す。例によって食事会場ではフェリダエチームの失点シーンの映像を流しているのだが、いい加減見飽きただろうと別のモニターも設置し、そちらでは普通にフェリダエ国内のニュースを流しているのだ。
 その番組の話題はもちろん、本日昼過ぎに行われるフェリダエvsアローズの試合であった。
「きっとエオンやマイラが可愛いから注目されているんだよっ!」
「やだ、照れるにゃん! マイラやエオンのファンが増えるにゃん!」
 同じテーブルのエオンさんが極めてポジティブな見解を示すと、親友のマイラさんもそれに同意する。だた、同意した様に聞こえて名前の順番は入れ替えている。
 孫みたいなアイドルと同じノリになれるだけでなく張り合うとは、老いてますます盛んと言うか何と言うか……。
「監督にゃん? 何か言いたいかにゃぁ?」
 と、視線に気づいた老ドーンエルフがこちらを睨みつけてきた。
「いえ、なんでもありません!」
 やべえ! 考えが読めるのだった! 俺は慌てて目を逸らしニュース番組に集中する。画面の方は街中で盛り上がるサポーターの映像からスタジオへ代わるところだった。
「えーたいへん見所が多い試合になりそうですが、ここで特別ゲストをお迎えしております」
 番組セットの中央には横長のテーブルが鎮座しており、その真ん中に居座るキャスターらしきフェリダエ男性がそう言って横を向く。
「芸能報道のベテランにしてサッカードウに詳しい、イノウエゴブゾウさんです」
「どーも! ゴブゾウです!」
「はぁ!?」
 司会さんの紹介に従いカメラが向いた先には、なんと先日不思議な出会いをしたばかりのゴブリンの姿があった! 俺は思わず間抜けな声を漏らす。
「あーゴブゾウさんだー! わたし、このゴブリンが語る裏情報、大好きなんだよねー。ボリューム、あげてー!」
 固まる俺の横で――今更だがここでも同じテーブルでナリンさん、リーシャさん、ユイノさんが食事をとっている。同席問題は現在、沈静化している様だ――ユイノさんが身をのり出し、大鏡の近くのエルフへ声をかける。
「はーい」
 それに最初に反応したのはシャマーさんだ。彼女がさっと腕を振ると、例の透明な魔法の手の小さいバージョンが現れ、モニターに吸い込まれていった。途端に、画面の音が大きくなる。
「ありがとうございまーす!」
 ユイノさんは軽く礼を言うと座って番組へ注意を戻した。キャプテンを顎で使うとは肝の据わった女だ……って言ってる場合か!
「悪い予感がする! ごめん、シャマーさん! やっぱりモニター消し……」
「なんと! アローズのショーキチ監督におつき合いしている女性がいることが判明したんですねー!」
「「ええーっ!」」
 俺は慌てて天才魔術師に声をかけたが間に合わなかった。スタジオのゴブゾウさんがそう断言したのを聞いて、ここにいる全員の目がこちらへ集中する。
「いや、ちが……」
「ででん! 『エルフ代表監督、王都の路上で夜のハットトリック達成!』」
 俺が弁明を語り出すより先に、キャスターさんが大きな魔法のフリップを取り出し机の上に立てかけた。そこには運河脇でアリスさんの胸に右の拳を当てる俺のショットが、店内で頭を撫でられている姿が、そして暗くなった路上でキスをしている二人のシルエットが表示されていた。
「「おおーう!」」
 選手達はそう言いながら各々、大鏡へ近づいたり見易い位置に移動したり、ユイノさんの膝に座ってこちらの顔を覗き込んできたりする。
「この日の夜遅く、目的地近くで出会ったお二方は店まで待ち切れないのかその場で激しいボディタッチ、居酒屋『D』の個室へ入ってからも互いの身体をまさぐる手を止めず、最後は路上で熱い接吻を何度も繰り返していたんですねー」
 ゴブゾウさんが手元のメモを読みながらそう言い放つと、同じテーブルのリーシャさんが軽蔑したようにこちらを見た。
「うわ、すけべ……」
「出鱈目だ!!」
 俺は大声で抗議する。ちらっとしか見ていないがあの魔法の静止画、一つひとつは恐らく嘘ではない。ああいう動きになった瞬間は確かにあった。しかしそれをいやらしい目的で行ったとか、繰り返したとかの事実はないのだ!
「どー思う、ダリオ~?」
「乳、頭、口……三カ所とも違う部位で決めたハットトリックですからね。ショウキチさん、なかなかのテクニシャンです」
 シャマーさんが親友に問いかけると、ダリオさんは腕を組みながら真剣な顔で言った。いやお姫様が『チチ』とか言うなや! でも頭、右足、左足とかでハットトリックをすると確かにそういう報道されるよね!
 ……じゃなくて!
「キャプテンもダリオさんも悪ノリしないでください! アレはあくまでも勉強会の光景です。ね? ツンカさん?」
 俺は助けを求める様にあの店の紹介者の方を見た。すると彼女は……青い顔をして、中央のショットを見つめていた。
「隠し撮り……。ソーリー、ショー! まさかそんなモラルの無い店員がディノの店にいるなんて!」
「あ、ホントだ……」
 ツンカさんの指摘で気づいたが、二枚目は店の中の様子だった。というかこういう事が無い様に個室にしたのにな!
「でも、角度的には反対側の個室から撮った様に見えますので、店員さんが手を貸したのではないと思います!」
 俺は慌てて彼女のフォローに回る。というかそもそも、この件にツンカさんを巻き込むのではなかった。
「え? ツンカの知り合いの店?」
 案の定、ユイノさんの膝に載ったヨンさんが質問する。
「イエス。ほら、ヒサー達と飲みに行った……」
「ああ!」
 夜遊び仲間同士が自分たちだけが分かる言い方で通じ合う。一方、他のエルフたちは他の情報が無いかと番組に釘付けであった。
「お相手は学院で教師をしているAさん。非常に明るく元気で、生徒にも人気だそうです。でもね……。あーこれ、言うと炎上しちゃうかなー!」
「さっさと言えー!」
 ゴブゾウさんが例の調子でメモを読みながら溜めると、気の短いティアさんが画面に向かって怒鳴った。あんた、TVに話しかける老人か!?
「穏やかではないですねー。何でしょう?」
「実はそのAさん、アローズサポーターから『勝利の女神さま』と人気の女性なんですが……」
 司会のフェリダエが良い感じに振るとゴブリンは一語一句、丁寧に語り出す。てか勝利じゃなくてパンチラの女神やろ!
「がー?」
「なんですがー。その女性、なんと監督より先に、おつき合いしている男性がいるらしいんですねー!」
「「なんと!?」」
 番組の司会さんと食事会場のエルフ達が一斉にハモった。
「すると監督は、お相手がいる女性に手を出し……」
 
 ぷつん!

 と昭和のTVの様な音がして、画面が真っ暗になった。いつの間にかモニターの横に立っていたニャイアーコーチが、それの動力を切った……のだろう。
「さあ、馬鹿騒ぎはこれくらいにしようか? それともお嬢さんたちは何か? そんな浮ついた気分でフェリダエチームに勝てるほど強くなったのかい?」
 有無を言わせぬ口調でそう言ってから、狩猟生物の鋭い目で周囲を見渡す。
「そうね! みんな食事が終わったら移動の準備をして!」
 彼女にそう言われて反論できるサッカードウ選手はいない。その沈黙に乗じてナリンさんが声を張り上げ、選手達の尻を叩いた。
 やがてポツリポツリと選手達が食事会場を出て行く。俺は目で猫人とエルフに感謝を伝えると、両手で頭を抱えた……。
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